ヒーローのドーピング問題
 ニューヨークヤンキースのイチロー選手の4000本安打達成の日が近づいている。ニューヨークヤンキースでは3000本安打をめざしているアレックス・ロドリゲス選手もいる。

 このアレックス・ロドリゲス選手、禁止薬物を使用した疑いで211試合の出場停止処分を受けた。ところが、ロドリゲス選手は、この処分に対して異議申し立てをしているため出場が可能だという。ややこしいルールがあるものだ。

 まだ、ルール違反と決まったわけではないが、米大リーグだけでなくアスリートには、ドーピングの問題がよくつきまとう。やはりルール違反はいけない。

 最近ではアンフェタミンやEPO、ステロイドなどの薬物だけでなく、さまざまなドーピング技術によって検査の目をくぐり抜ける方法がある。


 例えば、輸血という方法がある。赤血球が多い血液と自分の血液を入れ替えるという単純な方法で、持久力を高めることができる。赤血球の数が通常より多くても、化学物質を探す検査では見破られない。

 また、新しい遺伝子を組み込んだ幹細胞を注射することで、筋肉を増強する遺伝子ドーピングという方法もある。もはやドーピングを止める方法はないのだろうか?

 以下はNational Geographic news記事「後手に回るドーピング対策」から引用する。


 ドーピングの歴史
 多くのスポーツでドーピング検査は問題を抱えている。禁止薬物の検査の歴史は1960年、デンマークのヌット・エネマルク・イェンセンが自転車競技のレース中に落車、死亡した事件から始まった。調査の結果、同選手は大量のアンフェタミン(覚醒剤の一種)を使用していたことが判明。休養期間を練習に当てていたという。

 以降、スポーツ選手たちは薬物の力を借りて優位に立つため、工夫を凝らし続けてきた。そして、検査機関や規制当局が打つ手は、たいてい後手に回っている。

 1972年のミュンヘン五輪では、エフェドリンやアンフェタミンといった興奮剤の検査体制が整った。ところが、選手たちは既にアナボリックステロイドを使い始めていた。男性ホルモンの代替物質で、代謝や細胞増殖を促進し、筋肉がより大きな負荷に耐えられるようになる。

 4年後の五輪ではステロイドも検査できるようになったが、選手たちは体内で分泌されるテストステロンなどのホルモンに切り替えていた。こうしたホルモンが示す異常値は、当時の検査をすり抜けてしまっていた。テストステロンの人為的な急上昇を突き止める検査が開発されたころには、一部の選手は輸血やエリスロポエチン(EPO)の注射を既に試していた。EPOは貧血治療に用いられていたホルモンで、赤血球の生成を促す。


 ドーピングの効果
 スポーツ選手は皆、もっと速く走りたい、もっと重いバーベルを持ち上げたい、もっとホームランを打ちたい、ライバルより速くペダルを踏んで進みたい、などと願う。そうした多様な欲望が、さまざまなドーピング技術によってかなえられる。EPOのような物質は血液が酸素を運ぶ能力を向上させるため、より長く走ることができるようになる。また、ステロイドを含む副腎皮質ホルモンを練習中に使用すると、体の回復力が高まり、厳しい練習に耐えられるようになる。

 選手たちは、検査をすり抜けるあの手この手を考え出してきた。その代表がツール・ド・フランスで7度優勝したランス・アームストロングだろう。2013年1月、アームストロングは競技生活の大部分にわたって、禁止薬物の検査で陽性反応が出ないよう戦略的にドーピングしていたことを認めた。

 アームストロングのチームメイトだったタイラー・ハミルトンは、検査をごまかす新手のドーピング、輸血を積極的に取り入れていた。赤血球が多い血液と自分の血液を入れ替えるという単純な方法で、持久力を高めることができる。赤血球の数が通常より多くても、化学物質を探す検査では見破られない。

 アームストロングは1月、オプラ・ウィンフリー氏のトーク番組で自身の過ちを告白した際にハミルトンと同じ行為を認め、さらに、自分の血を抜いて凍結し、体内に戻す自己血輸血も試したと打ち明けた。血液ドーピングをレース前に行えば、口を開ける必要がないほど酸素運搬能力が向上する。


 効果的とは言えない検査
 世界の規制当局は検査に何百万ドルも投じているが、陽性と判断される選手はごくわずか。アメリカに数十万人いるスポーツ選手のうち、全米反ドーピング機関(USADA)が2010年以降に制裁を科した選手は116人しかいない。

 表面化するドーピングのうち、検査で発覚する事例は3分の1程度だと伝えられている。

 USADAなどの規制当局は1990年代後半から、血液ドーピングやEPOの使用を取り締まる対策を講じている。1999年、スイスの研究者2人がいわゆる“生体パスポート”の作成を提唱し、大きな飛躍を遂げた。生体パスポートは、スポーツ選手の体内データをコンピューターに記録・照合するという手法で、従来の検査より微妙な評価が可能になる。

 禁止薬物を検出する従来検査と異なり、生体パスポートは選手の生物学的マーカーを継続的に記録。赤血球やテストステロンの値が急上昇した場合、不正行為として検知する。

 2004年ごろから検査体制も強化された。USADAをはじめとする監視機関がオフシーズンの検査や、自宅、練習場所への抜き打ち訪問を開始する。


 ドーピング検査の未来
 規制当局は次世代のドーピングを予測するため、製薬会社との連携も進めている。2007年にスイスの製薬会社が第3世代のEPOを開発したとき、2008年の北京五輪に間に合うよう検査体制が整えられた。その結果、数人の選手が検査で陽性となり、メダルを剥奪された。

 過ちを自ら告白した選手や公になった選手は多くの場合、同じ土俵で戦うにはドーピングするしかなかったと主張する。アームストロングもインタビューで、自身の不正を次のように正当化している。「タイヤには空気、ボトルには水が必要なように、私にとって(ドーピングも)仕事の一部だった」。

 ドーピング検査はこれからも進歩を続けるだろう。生体パスポートもより正確な測定基準が開発され、不正の微妙なパターンを浮かび上がらせるはずだ。しかし、検査には常に限界があることを過去の歴史が示している。(National Geographic news)


 「遺伝子組換えドーピング」も可能
 将来は遺伝子を組換えて、筋力を強化する選手も出場する可能性がある。マウスを使った動物実験では、遺伝子操作により動物の持久力や筋肉の増強に成功している。

 一部では、競技能力を強化するための遺伝子ドーピングが、すでに現実のものとなっているとの声も上がっている。ただ、今の検査技術は遺伝子ドーピングを検出できるほど精度が高くないため、本当のところは誰にも分からないというのが現状だ。

 確かなことは、スポーツ選手の能力強化に遺伝子組み換えを使用することは技術的には可能だということ。そして、命の危険にさらされても金メダルを取りたいと思っている選手が存在していることだ。

 米ペンシルベニア大学のリー・スウィーニー教授は2007年、筋ジストロフィーの研究をしている際に、老化が進んでも筋力が衰えず、十分な強さを保ち続けるマウスを作り出すことに成功した。

 2004年には、遺伝子操作したマウスが通常のマウスの2倍の距離を走ることも発見されており、当時は「マラソンマウス」という言葉がメディアでもてはやされた。こうした遺伝子操作が人間にも適用できる可能性がある。(アイラブサイエンス:遺伝子ドーピングの可能性


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