アリと植物の共生
 アリ植物というものがある。アリ植物は、アリと共生関係を持ち、その植物体の上にアリを常時生活させるような構造を持つ植物のこと。日本には確実なものはないが、世界各地の熱帯域にその例が知られる。

 アリは小さいが肉食性が強いものも多く、丈夫で攻撃力もあり、しかも大きな集団で活動するので一部の特殊な動物以外はそれを避ける傾向がある。そのため、アリが多くいるところにはそのような動物は寄りつかないか、アリによって排除される。

 そこで、自分の体の上でアリが暮らせるように進化した植物がある。それがアリ植物(myrmecophyte、ant plantとも)である。このような植物では、アリが巣を作るための腔所が植物体のどこかに作られ、またアリが好む蜜を分泌するなど、アリを誘引し、栄養供給を行う仕組みを持っているものが多い。

 今回、アカシアという植物が出す蜜が酵素を含んでおり、その酵素はアカシアの蜜以外の養分を消化できなくするはたらきがある。アカシアの蜜を舐めたが最後、アリはアカシアの奴隷となってしまうのだ。


 National Geographic news「アカシア樹液でアリを奴隷に変える」から引用する。


 アカシア、樹液でアリを奴隷に変える
 互いに利益を得ながら進化してきたアカシアとアリだが、その相利共生の関係(共進化)には、一方を依存状態に追い込む巧妙な戦略が潜んでいたことがわかった。

 中央アメリカでは、アリがアカシアのボディガードの役割を担っている。はびこる雑草を防ぎ樹液を狙う動物から守るアリは、代わりに住処とエサを得る。自然界の代表的な共生関係の1つだ。

 しかし、メキシコのシンベスタブ・ウニダード・イラプアト(Cinvestav Unidad Irapuato)研究所のマーティン・ヘイル(Martin Heil)氏は、アカシアの樹液が含む酵素によって、アリがほかの糖源を摂取できないように仕向けられている状況に気付いた。

 住処と食事を得るアリは、死ぬまで労働を強制されるのである。「受け身で移動できない植物であるアカシアが、活動的なアリを巧みに操っている」とヘイル氏は驚きを語る。


 樹液中毒
 ヘイル氏は、乳糖(ラクトース)を化学的に分解した乳製品を販売して、消費者を囲い込もうとする乳製品販売会社に例える。牛乳を消化できなくなった消費者が依存する様子が、アカシアそっくりだいうわけだ。

 その手口は巧妙だ。アリが摂食する樹液などのエサには、ショ糖などの甘い糖分が多く含まれている。小さな糖に分解して消化するには、インベルターゼという酵素が欠かせない。

 へイル氏は2005年、アカシアアリ(学名:Pseudomyrmex ferrugineus)のインベルターゼが不活性化して、通常のショ糖を消化できくなっている状態を突き止めた。

 一方、アカシアは、それを補うかのようにインベルターゼを樹液中に分泌し、消化しやすい食餌を提供している。結果的にアカシアアリは、アカシアの樹液に依存するように強いられる。

 しかし、この依存関係には腑に落ちない点がある。アカシアの樹液に固執するアカシアアリは、なぜ重要な酵素を失ったのか?

 研究を続けたへイル氏は3年後に、幼虫時代には正常だったインベルターゼが、成虫になる頃には不活性化するとの結論に達した。


 犯人はキチナーゼ?
 アカシアが原因でこの現象が起こると同氏は主張する。樹液に含まれるキチナーゼという酵素が、インベルターゼを阻害しているという。

 サナギから成虫に羽化したアカシアアリは、まず樹液を口にする。アカシアの思惑通りインベルターゼが不活性化し、その活性は二度と元に戻らない。

 同氏は現在、キチナーゼによるインベルターゼの阻害の仕組みを解明しようと取り組んでいる。

 「生化学者に尋ねてみたが、酵素が別の酵素を阻害するケースはあり得ないと、皆口をそろえて言う。だが、未知のメカニズムがあるはずだ」と同氏は語る。

 「利益供与の関係が一方的でも、共進化のシステムが維持される場合があるようだ」と、アメリカ、シカゴのフィールド自然史博物館の進化生物学者コリー・モロー(Corrie Moreau)氏は述べる。

 アカシアとアリの場合は、アカシアの巧みな戦略によってほかに消化できるエサがなくなり、アカシアを防衛する羽目に追い込まれる。

 一方、モロー氏には疑問点も残っている。「まともな酵素を持つ幼虫や羽化したばかりの成虫時代に、アカシア以外のエサにありつくケースはないのだろうか?」

 これに対してヘイル氏は、アカシアの樹液は最も身近で、しかも巣でほかの成虫から与えられるため、ほぼすべてが最初に摂る食事だと考える。「最初の一口で十分だ。インベルターゼの活性は失われ、この共生関係から逃れられなくなるというわけだ」。

 今回の研究結果は、「Ecology Letters」誌オンライン版に11月4日付けで発表された。(Ed Yong for National Geographic News November 7, 2013)


 アリ植物とは何か?
 アリ植物とは、アリと共生関係を持ち、その植物体の上にアリを常時生活させるような構造を持つ植物のことである。日本には確実なものはないが、世界各地の熱帯域にその例が知られる。

 アリは本来は肉食の凶暴な昆虫で、アリの集団には他の昆虫やその他小動物が近づかない。脊椎動物でもアリを嫌う例がある。アリグモのようにアリに擬態する虫があるのもこれによる。またアブラムシやツノゼミ類の幼虫が蜜を分泌してアリに与えるのも、その結果としてアリがそれらを食料供給源としてその周囲に居着き、さらにはそれらを防衛することから、アリに守られる効果によると考えられる。

 これは植物にとっても同様であり、むしろ植物の場合、アリに食害される可能性が少ないだけによりありがたいとも言える。多くの植物が花に蜜を持ち、これは訪花昆虫を呼び込む効果を持ち、それによって花粉媒介を担わせるものである。ところが花が咲く前から、花茎に蜜腺があって蜜を出していたり、葉にも蜜腺があったりする植物が結構ある。これは、上記のアブラムシのようにアリを誘っており、アリが常在する状況を作ることで結果的にアリに防衛される効果が得られるためと考えられる。アリ植物はこの傾向が極端に進んだものと見ることができる。

 アリ植物にはこのようなアリと植物体上での栄養供給、さらにアブラムシなどの昆虫も関わりを持つ例があり、このような状況を基礎として発達したものと考えられる。

 アリ植物に共通する特徴としては、植物体の一部にアリが巣として使える腔所を持つことが挙げられる。その形や位置はさまざまで、葉や托葉が巻き込むようにして部屋を作るもの、茎や根茎内部に空洞を形成するものなどがある。

 また、何等かの栄養分を分泌してアリの食料に供する例も多い。葉や茎に蜜腺を持ち、蜜を分泌するのは多くのもので見られる。より特殊なものとしては、タンパク質や糖分の多い特に分化した構造を作る例もある。このようなものは栄養補給型のアリ植物では発達しない。ただしアブラムシやカイガラムシが関係する例もあり、判断は難しい。(Wikipedia:アリ植物


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