雲が語る大気擾乱
 最近ではゲリラ豪雨や、竜巻、集中豪雨、大型台風など異常気象が問題になっている。こうした天気には、異常に発達した積乱雲が伴う。天気と雲には相関関係がある。

 空を見上げると、これまで見たこともない雲に出会うことがある。11月4日、オレンジ色をしたロール状の雲の帯がアメリカ、テキサス州ティンバークリークキャニオンの上空に出現した。

 この不思議な雲をトッド・マスク(Todd Mask)さんらが撮影、「YouTube」に投稿された動画が評判を呼んでいる。この雲の正体は何だろうか?また、何を意味するのだろうか? 実際に目にするチャンスはあるのだろうか?


 ここで疑問にお答えしよう。これはアーチ雲の一種「ロール雲」で、雷雨に伴って低層に生じる帯状の雲。条件が揃えば、「数百キロに渡って数時間観測される場合もある」と、米国海洋大気庁(NOAA)のスティーブン・コルフィディ(Stephen Corfidi)氏は解説する。

 National Geographic news「珍しいロール雲をテキサスで撮影」から引用する。


 珍しいロール雲、テキサスで撮影
 ロール状に縦回転する動きは、大気中の逆転層による風速や風向の変化が引き起こす。通常とは反対に、上空に行くほど気温が高くなる層を逆転層という。寒気と暖気の境界(前線)に発生する場合もあり、いずれ激しい対流が発生して天候が乱れる。「風向または風速の差(ウインドシア)が鉛直方向に回転を生み出し、ロールケーキのような形になる」。

 目撃できるかどうかは気象条件により予測は難しい。だが、オーストラリアなら可能性は高まる。

 同氏によると、ティンバークリークで撮影されたロール雲は、モーニング・グローリーに似ているという。オーストラリア北東部で9~10月に見られる雲で、湿度が高い朝方、逆転層が発生する際に出現する傾向がある。

「帯状に複数発生するロール雲は壮観な眺めだ。雷雨の境界付近、特に気温が急変する場所で形成されやすく、北アメリカ大陸に広がるグレートプレーンズでも春によく観察される」と同氏は述べている。

 しかし、雷雨の真っ最中など湿度が高すぎると、ほかの雲が邪魔になってしまう。ロール雲を目撃するチャンスはめったになさそうだが、まずは空を見上げてみるに越したことはないだろう。(Sonia Harmon,National Geographic News November 21, 2013)


 アーチ雲とは何か?
 アーチ雲(アーチぐも、arcus)とは、厚い積乱雲や積雲の下にある、アーチのような形をした雲のこと。ロール雲、棚雲などとも言う。雲形分類では副変種に分類される。

巨大なお椀や皿をひっくり返し、それの半分だけが見えているような形の雲である。"arcus"はラテン語で「弓、橋」を意味し、これに因んで名づけられた。

荒天時に見られ、積乱雲や積雲の雲底近くにできる雲である。特に、大気の不安定によって発達した局地的な寒冷前線(ガストフロントなど)の前線面に沿ってでき、激しい対流を伴うことが多い。

気温差のある暖気と寒気が衝突した局地寒冷前線の前線面で、暖気と寒気が収束しながら上昇すると、気圧の低下と温度差によって雲が生じる。これが前線面に沿ってでき、積乱雲や積雲本体へとつながる。

この雲が見られるということは、激しい対流が発生してそれが移動しているということを示し、その前後の時間に突風や大雨、雷、雹などの荒れた天気が発生することが多い。

アーチのような形は不明瞭になることも多いが、異様なほど明瞭な形になることがある。形が明瞭で輪郭がはっきりしているほど、対流が整っていて、雲の内部と外部の温度差や湿度差が大きいと考えられる。


 乳房雲とは何か?
 乳房雲(Mammatus)とは、雲底からこぶ状の雲がいくつも垂れ下がっている状態のこと。その形は乳房、泡などとも形容される。巻雲、巻積雲、高積雲、高層雲、層積雲、積乱雲に現れる。

 学術名の"Mamma"はラテン語で「乳房、胸」を意味し、これにちなんで名づけられた。雲底で下降気流や渦流が発生しているとき発生する雲。

 積乱雲の場合、雲の中に大量の雨粒や雪・氷の粒が蓄えられているようなときに、乱流を伴った下降気流が生じることがある。雲の中の気流は多数の乱流(渦)を持った下降気流、雲の下の気流は上昇気流または雲の中よりも弱い下降気流であるため、雲の底面付近で気流の衝突が起こる。すると、雲の中の乱流がこぶ状の雲となって現れる。積乱雲やそれに付随する雲で見られることが多いが、それ以外の雲でも、乱流のあるときに現れることがある。

 乳房雲の出現は強い下降気流の発生を示唆しており、下降気流に伴って降る大雨や雹、雷に注意が必要である。また、はっきりとしたこぶが現れた場合は激しい気流の渦が発生していることが考えられ、上空では乱気流、地上近くでは竜巻が発生する恐れがある。ただ、上空高い所の乳房雲(巻雲や巻積雲など)は乱流が原因といってもその影響が地上にまで及ぶことは考えにくく、地上の竜巻よりも上空の乱気流への警戒が必要である。

 積乱雲など、特に上空の低い所に現れる乳房雲は、アメリカでは竜巻の前兆として広く知られている。 


「雲」の楽しみ方
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