謎の巨大天体“ヒミコ”の正体
 2009年4月、多数の望遠鏡を使った観測により、ビッグバンから約8億年後の生まれて間もない宇宙で、不思議な巨大天体が発見された。

 これは、「ヒミコ」と名付けら、ライマンアルファ・ブローブという天体に分類された。その巨大なガス雲は将来銀河になる可能性を秘めているが、本当はどうなのか分かっていなかった。

 ライマンアルファ・ブローブ(Lyman-alpha Blob:LAB)とは、強い光を放つ巨大なガス天体。天の川銀河の数倍に達する場合もある、既知の天体としては宇宙最大級のものである。

 今回、すばる望遠鏡(ハワイ島)で4年前に発見された宇宙誕生初期の“謎”の巨大天体「ヒミコ」は、一直線に並んだ3つの星団を巨大な水素ガス雲が包み込んでいる構造をしていることが分かった。3星団は合体してさらに大きな天体を形作ろうとしているところで、銀河が作られる最初の過程だと見られている。


 「ヒミコ」は「くじら座」の方向、129億光年離れた遠方にある非常に明るい巨大なガス雲で、2009年に発見された。137億年前に宇宙が誕生してからわずか8億年後のもので、“古代宇宙に輝く天体”として邪馬台国の女王「卑弥呼」の名前が付けられた。

 「ヒミコ」の広がりは5万5,000光年と、われわれの太陽系がある“天の川銀河”の半径にも匹敵する大きさで、同時期に存在した一般的な天体に比べて約10倍も大きい。さらに、太陽の数百億倍という大質量をもつことが分かってきたが、これほど巨大なガス雲を高温で輝かせるエネルギー源などについては謎のままだった。


 アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で迫る
 アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡という世界最高性能の望遠鏡を使って、宇宙初期の巨大天体ヒミコの謎に満ちた姿が明らかになりました。きわめて原始的な特徴を持つ3つの天体が、まさに合体してさらに大きな天体を形作ろうとしていたのです。

 今回の観測結果は、宇宙が星々の光で満たされ始めた「宇宙の夜明け」と呼ばれる時代において、銀河が作られる最初の過程を明らかにする上で重要な知見を与えました。

 ヒミコは2009年にすばる望遠鏡で初めて発見された天体で、宇宙が8億歳(現在の宇宙年齢のわずか6%)だった時代に存在した巨大な熱いガスのかたまりです。日本のすばる望遠鏡の観測天域にあって、ひときわ明るく輝く古代の天体であることから、邪馬台国の女王卑弥呼の名がつけられています。

 ヒミコの大きさは55,000光年におよび、同時期に存在した一般的な天体に比べて約10倍と極めて大きいです。またスピッツァー宇宙望遠鏡による赤外線観測から、太陽の数百億倍という大きな星質量をもつことも明らかにされました。これらの特徴から、ヒミコは宇宙初期に銀河がまさに形づくられる段階にある、きわめて特徴的な天体として注目を集めてきました。一方で、これほど巨大なガス雲を高温で輝かせるそのエネルギー源については謎のままでした。


 “ヒミコ”は3つの星団の集まり
 東京大学宇宙線研究所の大内正己准教授が率いる日米の国際研究チームは、宇宙初期に存在する巨大な天体「ヒミコ」をアルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測しました。アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡は、それぞれ電波と近赤外線の観測において極めて高い性能を有しています。

 「我々はヒミコに対して、普通では行えないほどの超高感度観測を行って、その深部の構造に迫りました。この観測により、今まで謎だったヒミコの全体像を明かすことに成功しました。しかし、同時に予期せぬ結果も出てきたのです。」と大内氏は語ります。

 ハッブル宇宙望遠鏡の観測画像には、2万光年を越えて一直線に並んだ3つの星の集団が写っています。ひとつひとつの集団は、ヒミコと同じ時代の典型的な銀河と同じくらいの明るさで、巨大な水素ガス雲がこれら3つの星の集団を包み込んでいます。

 際立って明るい光源がないことから、ヒミコのエネルギー源が超大質量ブラックホールではないことが分かりました。またハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡の観測から、その活発な星の形成の様子も明らかになりました。


 “ヒミコ”で生まれる星々
 研究チームのメンバーで、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのマシュー・アシュビー博士は「ヒミコの中で、1年に太陽質量の約100倍におよぶガスが星に変わっていることが明らかになりました。おそらく、この激しい星形成活動が巨大で熱いヒミコを覆うガスを温め続けているのでしょう。」とその観測成果を説明しています。

 一方で、アルマ望遠鏡を用いたヒミコの観測では、活発に星が作られている「爆発的星形成銀河」に見られる固体微粒子が発する電波、さらには星形成活動度の指標となる炭素原子ガスが出す電波のいずれもが、まったく検出されませんでした。

 同程度の星形成活動度を持つ他の銀河と比べて、ヒミコが放つ電波は30倍以上も弱かったのです。既存の電波望遠鏡に比べて圧倒的に高い感度を持つアルマ望遠鏡を持ってしてもこれらの電波が検出されなかったことは、ヒミコがこれまでに知られている爆発的星形成銀河とは大きく異なる性質を持っていることを示しています。


 重い元素を含まない「ヒミコ」
 宇宙の始まりであるビッグバンでは、水素やヘリウムといった軽い元素が合成されました。ビッグバンのあとで星が誕生し、この星の中での核融合反応によって水素やヘリウムが炭素や酸素といったより重い元素に変換されていきます。

 そして星がその一生を終える際にこれら重元素は宇宙にばらまかれ、周囲のガスの重元素の比率が上がっていきます。アルマ望遠鏡で、重元素からなる固体微粒子が放つ電波、および炭素原子が放つ電波が全く検出されなかったということから、ヒミコにはこれら重元素が僅かしかないと考えられます。

 このため、ヒミコはビッグバンで作られた水素やヘリウムなど原始的なガスを主体とする天体である可能性が高いのです。大内氏は、「もしヒミコが重元素をほとんど含まない天体であればこれは画期的な発見で、ヒミコはまさに形成中の原始銀河なのかもしれません。」と語っています。

 研究チームの一員であるカリフォルニア工科大学のリチャード・エリス教授は「天文学者は天体からの光や電波などのシグナルを捉えた時に興奮するのが普通です。しかし、今回の場合はこれとは逆なのです。重元素が放つはずのシグナルがヒミコに見られなかった、という結果に私たち天文学者はゾクゾクと興奮しているのです!」とその驚きを表現しています。(NASA/ESA/NAOJ/東京大学)


アルマ望遠鏡:宇宙初期の巨大天体ヒミコの正体

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