国連気候変動ワルシャワ会議、閉幕
 2013年11月11日から開催されていたポーランド・ワルシャワでの国連気候変動会議(COP19・COP/MOP9)は、会期を1日延長した23日土曜日の夜にようやく終了した。

 今回は、2020年以降の次期枠組みの土台作りということもあり、クロージング・プレス・リリースは「2015年にパリで開かれるCOP21で最終合意される新たな合意に向けて作業の道筋が付いた」としたものの、CO2削減に向けた大きな成果はなかった。

 福島第一原発事故後、原発がほとんど動かせなくなった日本は、COP19で、石原伸晃環境相が、原発抜きで2020年に2005年比3.8%削減という新目標を発表した。


 「すでに世界最高水準のエネルギー効率を20%も改善するという野心的なもの」としたものの、2009年に当時の鳩山由紀夫首相が発表した「1990年比で25%削減」と比べると大きく後退している。1990年比で換算すると3%増という今回掲げた新目標に対し、世界からは失望を示す声明も出た。

 米国、中国、インドを含めた全ての温室効果ガス排出国が参加する新枠組みを2020年に開始することは、COP17で合意されていた。COP18では2015年中の新枠組み採択に向け、2014年のCOP20までに交渉の要素を整理し、2015年5月までに交渉文書をまとめるとの作業計画を作った。

 また、COP18では、京都議定書の延長期間(第2束期間)が2013~2020年の8年間と決まり、国際的な枠組みの「空白期間」が生じることは避けられた。ただし、第2約束期間に参加するのは、欧州連合(EU)やスイス、ノルウェー、オーストラリアなど。国際エネルギー機関(IEA)によると、参加国・地域の二酸化炭素(CO2)排出量は、世界全体の排出量の十数%に過ぎない。(毎日新聞 2012年12月09日)

 日本は参加せずに自主的に削減を進めている。日本のような非参加の先進国は、クリーン開発メカニズム(CDM)を使った途上国での削減事業で生じた排出枠の取得は認められるが、売買はできない。


 COP19主な結果
 2020年までの取り組みの底上げについては、残念ながら望まれたような具体的な決定はありませんでしたが、WWFが期待していた小島嶼国連合(AOSIS)の提案が部分的に取り入れられ、希望が残りました。他方、2015年合意へ向けた道筋は、焦点であった目標設定に関して極めて曖昧な時間軸の設定となり、多くの課題を残しました。

 議長国であるポーランドは、そのエネルギー源の多くを石炭に依存していることから、石炭の活用を議論する「国際石炭・気候サミット」を、COP期間中にわざわざ開催することを決めているなど、議長国自体の姿勢に市民社会から疑問の声が挙がっていました。

 また、会期中の第1週目に、日本やオーストラリアが目標を後退させるという発表を相次いで行い、「削減努力の底上げを」という議論に水を差す結果となりました。特に日本は、小島嶼国連合(AOSIS)、イギリス、EUなどの政府から公式に懸念を表明され、国際メディアにもその後退が大きく報道されるなど、悪い意味で存在感を示すことになってしまった会議でした。


 2020年の削減努力の底上げと2015年合意への道筋
 2020年以降の新たな温暖化対策の枠組みに向けた議論の進展と、2020年までの取り組みを加速することが求められた今回の交渉でしたが、これまでの交渉とは違った交渉のダイナミズムが見られ、さらに難航した会議でした。

結局、目標の提出については、2020年以降の枠組みにおいては、すべての国が自主的に提示する決定となりました。目標を指し示す言葉としては、「目標」(target)や「約束」(commitments)という言葉ではなく、「貢献」(contribution)というやや弱い言葉が使われることになりました。

 また、一番の注目点であった2020年以降の目標をいつ国連に出すかについては、具体的な締切を入れることがかなわず、2015年の"COP21のかなり前に"というあいまいな表現で決着しました。ただし、「準備のある国は」2015年第一四半期までに出す、という表現が括弧書きで付け加えられています。

 これまでの交渉は、歴史的に排出責任のある先進国に対して、資金援助を求める途上国というのが伝統的な対立でしたが、今回特に鮮明になったのが、先進国・途上国が入り乱れた対立になってきたことです。気候変動枠組条約が採択された1990年代に比べて、中国・インドなど新興国が急速に発展し、途上国の中でも開発程度に大きな差が生まれていることを背景に、これら新興国やベネズエラ、サウジアラビア、フィリピン等を中心に「同じ考えを持つ国々」(Like-Minded Developing Countries)という新たなグループを形造っており、欧州連合と鋭く対立しました。

 これに加え、途上国側の小島嶼国連合やコロンビアをはじめとする一部のラテンアメリカのグループ、それに後発開発途上国グループが、目標提出にきちんと締め切りを与えて交渉を前へ進めようと最後まで粘ったのです。最終的にはあいまいな表現ではありますが「かなり前に」提出されるという文言で決着しました。「ちなみに同じ考えを持つ国々」は、先進国が約束した資金援助の明確化を要求し、自分たちにも降りかかる目標提出の締切を入れることに強く反対していました。

 なお、肝心の目標が、どの温室効果ガスを対象とするのか、総量なのか原単位なのか、森林吸収分を含むのかなどの内容については、今回では規定するような項目は入りませんでしたが、2014年のCOP20において削減目標に関して出すべき情報を決めることになりました。


 小島嶼国連合が提案した「再生可能エネルギーと省エネルギーの政策推進」
 一方、2020年までの取り組みの強化については、唯一の進展とよべるものは、小島嶼国連合が提案した「再生可能エネルギーと省エネルギーの政策推進」です。これは2020年の各国の目標を引き上げようとしても、現状の膠着では困難なので、せめて目標引き上げに間接的につながる可能性のある再エネと省エネ政策の導入を促そうというものです。

 各国の思惑で、再エネと省エネに限らず「高い削減の可能性がある分野」全部を対象となり、ずいぶん弱められましたが、なんとか政策の検討と導入促進を図れそうなプロセスには合意することができました。この議論も小島嶼国連合という途上国からの提案にもかかわらず「同じ考えを持つ国々」が反対し、それにEUやアメリカ・後発開発途上国が賛成するという構図が見られました。

 世界の勢力地図が塗り替わって、温暖化交渉における各国の思惑も従来とは大きく変化していることを実感する交渉ともなりました。


 「ワルシャワ・国際メカニズム」の設立
 昨年のカタール・ドーハでのCOP18において、「損失と被害」に関する国際的なメカニズムをCOP19で設立することが決まっていました。

 「損失と被害」とは、気候変動の緩和対策(排出量削減対策)や適応対策(影響に対応する対策)を行ったとしても、どうしても発生してしまう「損失と被害」に対して、どのように対応するのかを議論する分野です。

 具体的には、異常気象等による被害や、海面上昇に伴う土地の消失・移住・コミュニティの崩壊、生物種の絶滅など、「適応しきれる範囲を超えて」発生してしまう損失と被害が念頭に置かれています。

 現状、既に気候変動枠組条約の下では「適応」対策を進めるための仕組みは存在しますが、こうした「適応を超えたところ」で発生する「損失や被害」に対応するための仕組みは存在しません。

 このため、その仕組みを設立するべきだというのが、島嶼国を中心に強い主張として途上国側から挙がっていました。

 しかし、実際に発生した損失と被害を、それが気候変動に関係しているものとそうでないものとに区分するのは難しく、ともすれば何でもありになってしまうことを先進国は懸念し、この国際メカニズムの設立に躊躇していました。

 最終的には妥協が図られ、「ワルシャワ・国際メカニズム」という名で、「損失と被害」に関するメカニズムの設立が合意されました。「損失と被害」分野の知見を集め、対策を促進するためのメカニズムとしておおまかな機能についての合意がされたので、今後の会議でさらに詳細が詰められることになります。


 資金支援拡大へ向けての道筋
 今回のCOP19は、以前から「資金のCOP」となることが目されていた会議でした。そのために、閣僚級の会議も予定されており、(交渉官レベルではない)政治的な後押しも受けて、議論を前に進めることが期待されていました。

 1つの争点は、2009年のコペンハーゲン合意および2010年のカンクン合意で示された「2020年までに年間1000億ドルの資金」の流れを生み出すという目標に向けて、具体的な道筋を描けるかどうかでした。

 日本のように、2013年〜2015年の3年間160億ドルの資金拠出を宣言したり、適応基金への拠出を宣言したりした一部欧州諸国もありましたが、どの国も決して経済状態が良いとは言えない状態であり、具体的な資金拠出の金額という意味ではあまり目立った動きはありませんでした。

 成立した合意文書では、具体的な数字はないものの、1000億ドルという目標に向けて2年間ごとのレビューを行うことが盛り込まれました。


 COP20は、ペルーの首都リマ
 今回の会議直前に、フィリピンを巨大台風が襲い、甚大な被害を引き起こしました。気候変動がこのまま進行した際の異常気象がもたらす影響を予見するような惨状を目の当たりにして、会議参加者の間でしきりに気候変動対策の「緊急性」を訴える声が相次ぎました。フィリピンの交渉代表は、この惨状を受けて、会議がきちんとした成果を生むまでの断食を宣言し、それに共感した多くの人が同時に断食をするという事態にまで発展しました。

 しかし、会議はやはり難航しました。

 各国がそれぞれ緊急性を言及しつつも、従来通りのポジションを訴えて、一向に違いを乗り越えて行こうという意志が見られない状況に危機感を募らせたWWF、オックスファム、グリーンピース、FoE等を含む多くのNGOが、会議終盤、抗議と懸念の意志を表明するために、「ウォークアウト」(自発的退場)という行動を実施しました。あえて、市民社会が会場を同時一斉に出て行くという行動で、危機感の深さを示したのです。

 WWFとしては、多国間交渉の場としてこの国連気候変動会議のプロセスを重視しています。だからこそ、こうした通常でない意思表示を通じて、少しでも多くの人に、そして各国の代表に危機感を伝えることができればとの願いを込めて行いました。

 来年2014年のCOP20は、ペルーの首都リマで開催される予定となっています。

 日本としても、今回の会議で受けた国際的な批判の嵐を踏まえ、国内で早急に気候変動目標を見直し、そして新しい2020年以降の目標についての検討も開始することで、引き続き、気候変動対策に積極的に貢献する意志のあることを示すことが重要です。(WWF:国連気候変動ワルシャワ会議、閉幕


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