酵素の正体を探れ!
酵素とは、体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子である。酵素によって触媒される反応を“酵素的”反応という。
酵素は生物が物質を消化する段階から吸収・輸送・代謝・排泄に至るまでのあらゆる過程に関与しており、生体が物質を変化させて利用するのに欠かせない。したがって、酵素は生化学研究における一大分野であり、早い段階から研究対象になっている。
酵素の正体は何だろうか?多くの酵素は生体内で作り出されるタンパク質を基にして構成されている。したがって、生体内での生成や分布の特性、熱や pH によって変性して活性を失う(失活)といった特性などは、他のタンパク質と同様である。
最初に発見された酵素はジアスターゼ(アミラーゼ)であり、1832年にA・パヤン (Anselme Payen) とJ・F・ペルソ (Jean Francois Persoz) によるものである。命名も彼らが行った。彼らは翌1833年には麦芽の無細胞抽出液によるでんぷんの糖化を発見し、生命(細胞)が存在しなくても、発酵のプロセスの一部が進行することを初めて発見した。
また、1836年にはT・シュワンによって、胃液中にタンパク質分解酵素のペプシンが発見・命名されている。この頃の酵素は生体から抽出されたまま、実体不明の因子として分離・発見されている。酵素の正体がわかるのは1926年になってからであった。
1926年にジェームズ・サムナーがナタマメウレアーゼの結晶化に成功し、初めて酵素の実体を発見した。サムナーは自らが発見した酵素ウレアーゼはタンパク質であると提唱したが、当時サムナーが研究後進国の米国で研究していたこともあり、酵素の実体がタンパク質であるという事実はなかなか認められなかった。
その後、ジョン・ノースロップが、ペプシン、トリプシンキモトリプシンの結晶化に成功。ウェンデル・スタンリーはウイルスの正体は核タンパク質であることをつきとめた。タンパク質からなる酵素が次々と発見され、酵素の実体がタンパク質であるということが広く認められるようになった。
ジェームズ・サムナー、ジョン・ノースロップ、ウェンデル・スタンリーの3名は、1946年ノーベル化学賞を受賞する。受賞理由は「酵素とウイルスタンパク質の結晶化」である。
ジェームズ・サムナー
ジェームズ・バチェラー・サムナー(James Batcheller Sumner, 1887年11月19日~1955年8月12日)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州カントン出身の化学者で、1946年のノーベル化学賞受賞者である。
17歳のとき、事故で左腕半分を切断した。1910年にハーバード大学卒業。1912年にハーバード医療学校で生化学を学び、1914年に博士号を取得。その後コーネル大学医学部の助教授となった。
コーネル大学では酵素の単離に取り組み、ウレアーゼを結晶化することに成功した。しかしながら今まで多くの人が失敗してきたことであったので、すぐにその業績は認められなかった。
1926年になって低分子量の酵素も結晶化できるということを示して業績が認められ、そのかどで1929年に教授に昇進した。1937年にはグッゲンハイム研究奨励金を与えられ、5か月にわたってスウェーデンのセオドア・スヴェドベリのもとに滞在した。
同年、ジェームズ・サムナーと同様の方法でロックフェラー研究所のジョン・ノースロップがペプシンの結晶化に成功した功績でシェール勲章を得た。ノーベル化学賞を1946年に受賞し、1948年には国立科学アカデミーの会員となり、1955年ニューヨーク州バッファローで没。
酵素の正体は何か?
サムナーは酵素にもっとも興味を持った。研究にとりかかったころ、R・ウイルシュテッター(1915年ノーベル化学賞「クロロフィル研究」)の酵素はタンパク質ではない。…という説によって、酵素の本質に関する問題は混乱状態になっていた。
そこで、酵素の純粋分離に力を注ぎ、1926年ナタマメから、酵素ウレアーゼ結晶状に抽出することに成功。これは酵素の最初の結晶化であった。さらにこの酵素のタンパク質としての特性を明らかにし、前出のウイルシュテッターの説を覆した。
その後、J・H・ノースロップらが、ペプシン、ペプシノゲンなどを結晶状タンパク質として純粋分離することに成功。サムナーが考案した酵素精製法が普遍性を持つことが証明された。その後スウェーデンに行き、オイラー・ケルピンや、スベドベリー結晶酵素の研究を行った。1943年にはF・G・ソマーズと共著で「化学と酵素の方法」を表した。1946年酵素の結晶化の発見により、生触媒の研究を促進した功績が認められ、ノーベル化学賞が授与された。
ジョン・ノースロップ
ジョン・ハワード・ノースロップ(John Howard Northrop, 1891年7月5日~1987年5月27日)は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ヨンカーズ出身の生化学者。1946年のノーベル化学賞受賞者として知られる。
1915年、コロンビア大学で博士号を取得。第一次世界大戦では米陸軍の化学戦部隊でアセトンとエタノールを発酵によって製造する研究を行っていた。この研究がきっかけで酵素について学ぶこととなった。
1919年には胃の消化酵素ペプシンの単離、結晶化に成功し、それがタンパク質であると同定した。さらに1938年にはバクテリオファージの結晶化に世界で初めて成功。それが核酸とタンパク質の混合物であることを示した。
彼の業績としてはトリプシン、ペプシノーゲン、キモトリプシン及びカルボキシペプチダーゼの結晶及び単離が挙げられる。酵素を解析するには不純物のない純物質を取り出す必要があり、また構造を知るためには結晶をX線回折して調べる必要がある。そのため、彼の研究は酵素の構造解明に一役買ったといえるだろう。
1916年から1961年までロックフェラー研究所に在籍。1949年にはカリフォルニア大学バークレー校の教授に就任。引退後、アリゾナ州ウィッケンバーグで没。
トリプシン・キモトリプシンの結晶化
第一次世界大戦中は陸軍の化学戦隊で、アセトンやアルデヒドの工業的製法開発を目的に、酵素反応を研究した。
ロックフェラー医学研究所では、J・ロイプ(ウニの人工単為生殖の発見)の研究室の研究に従事。1930年に胃液中のタンパク質分解酵素ペプシンの結晶化に成功。32年と35年に膵臓分泌液中のタンパク質分解酵素、トリプシン、キモトリプシンの結晶を得たことを発表。そして、これらの物質がタンパク質であることを証明して、酵素の本質をめぐる長年の論争に終止符を打った。
また、38年にはバクテリア寄生ウイルスを他に先駆けて単離し、核タンパク質であることを示した。諸酵素とウイルスタンパク質の純粋調整に成功し、酵素科学の発展に大きく貢献した功績で、46年スタンリーとサムナーとともにノーベル化学賞を受賞している。彼の研究は、その後の酵素研究および、酵素が関与する多くの生命現象の研究の礎の一つとなった。著書として「結晶性酵素」がある。
ウェンデル・スタンリー
ウェンデル・メレディス・スタンリー(Wendell Meredith Stanley, 1904年8月16日~1971年6月15日)はアメリカ合衆国の生化学者、ウイルス学者で、1946年のノーベル化学賞受賞者。
インディアナ州リッジヴィル出身。アーラムカレッジで学士号を取得し、1927年にはイリノイ大学で修士号を得る。1929年には化学分野で博士号を取得した。この年に彼は結婚している。
その後1931年まで米国学術研究会議の一員としてミュンヘンで過ごした。帰国後ロックフェラー研究所の助手となり、1948年までその地位にあった。後にカリフォルニア大学バークレー校で生化学の教授となり、1958年には生化学部の部長となった。
彼の業績にはビフェニルの立体化学やステロールの化学があげられるが、最も重要なものとして、タバコモザイクウイルスの単離、結晶化が挙げられる。この結果により、ウイルスはたんぱく質と核酸のみからできているということが判明した。数グラムのタバコモザイクウイルスを得るために要したタバコの葉は数トンであったといわれる。
ノーベル賞以外にも多くの賞を受け、パリ大学やハーバード大学、プリンストン大学あるいはイェール大学から名誉職に任ぜられた。カリフォルニア大学バークレー校には彼の名にちなんだスタンリーホールがある。スペインサラマンカで客死。
ウイルスの正体は核タンパク質
スタンリーの研究はらい病特効薬の研究、ジフェニル化合物の立体化学およびステロール化学の研究から始まった。しかし、サムナーのウレアーゼの結晶化(26年)、ノースロップのペプシンの結晶化(30年)の成功により、タンパク質や酵素の精製法のめざましい進歩の中、32年、生きた細胞の中でしか増殖しないウイルスの分離純化に取り組んだ。
そして、39年タバコモザイクウイルスを、タンパク質結晶化と同じ方法を用いて、細い針状の結晶として単離することに成功。
この結晶がウイルスとしての増殖性を持ち、水に溶かしてタバコの葉に塗るとモザイク病が発病することを確認した。
この研究によって、ウイルスが単なる病原体ではなく、核タンパク質であることが示され、物理学的、化学的方法による研究が可能であることが認識された。
また、ウイルスが生物か無生物かをという議論をまきおこした。この業績により、ノースロップ、サムナーとともに、46年ノーベル化学賞が授与された。
第二次世界大戦中は、インフルエンザの研究をし、ワクチン開発に参加した。バークレーでは植物、細菌、動物などのウイルスに関する研究を行った。さらに、小児麻痺や腫瘍ウイルスの研究も手がけた。
参考 Wikipedia:ウエンデル・スタンリー ジョン・ノースロップ ジェームズ・サムナー
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