水の超臨界点と石油(炭化水素)
水が氷になる温度は0度、沸騰して水蒸気になる温度は100℃というが、いつもそうだとは限らない。
例えば、 高い山では水は100℃より低い温度で沸騰する、ということを聞いたことがあると思う。これは高い山では大気圧が1気圧より低いため水の沸点が100℃より下がることが理由だ。
逆に圧力がかかった状態では水の沸点は100℃より高くなる。深海の熱水噴出口から噴き出す熱水は300℃以上になることがあるが、深海は非常に圧力が高く、300℃でも水が沸騰しない環境にある。
水の場合、温度、圧力が非常に高くなり、374℃、218気圧以上になると、液体と気体の水は互いに区別できなくなる。この点を水の臨界点という。
今回、東京工業大学(東工大)は2月6日、水の臨界点(374℃、218気圧)付近の高温高圧下で形成される水+石油(炭化水素)混合系の無限時間放置した状態で液相が巨視的に変化せず、熱力学的に安定となる状態である「液液平衡」において、水リッチ相と炭化水素リッチ相の上下位置関係が、圧力変化によって逆転する液液相転移を発見したと発表した。
これらの成果は、高温高圧水を利用したオイルサンドや堆積岩中に存在する、シェールガスや石油、タール、アスファルト等の採掘、分離、改質、精製プロセスにおいて、相状態を明らかにする上で不可欠な知見となると研究グループでは説明している。
温高圧水+炭化水素混合系の液液は圧力条件で相転移することを確認
臨界点とは、気液相が共存する蒸気圧線の終点。気相と液相の区別がつかなくなる状態。また、液液平衡とは、2液相が共存した状態で、無限時間放置した状態で液相が巨視的に変化せず、熱力学的に安定となる状態をいう。例えば地中にある「地下水・石油」の液体どうしの境界ではどんなことが起きているのだろう?
高温高圧下における臨界点の水+炭化水素2成分系では、気液・液液・気液液平衡といった複雑な相挙動を示すが、これらの相挙動は、軽質炭化水素や重質炭化水素といった炭化水素の種類によって大きく異なり、軽質炭化水素+重質炭化水素から成る炭化水素混合系では、水+炭化水素2成分系と比較して、より複雑な相平衡が形成されると考えられてきた。
そこで今回、東工大研究グループでは、一定の温度下において、水+軽質炭化水素+重質炭化水素系の液液平衡を形成させ、圧力を操作する実験を実施。その結果、高圧条件では上相が水リッチ相、下相が炭化水素リッチ相となり、低圧条件では、上相が炭化水素リッチ相、下相が水リッチ相となることを確認したほか、液液相転移(液液平衡において、上下相の位置が入れ替わる現象)が生じる圧力について、重質炭化水素の供給組成や、軽質炭化水素の種類が及ぼす影響を把握することに成功したという。
これらの結果について、高温高圧水を利用したオイルサンドや堆積岩に含有される石油、タール、アスファルト等の重質油成分である「ビチュウメン」などの超重質油改質プロセスにおいて、改質反応工程や分離・精製工程での相状態を明らかにする上で不可欠な知見となると研究グループでは説明しており、今後は、さらに幅広い温度・圧力条件、ならびに多種の炭化水素混合系における液液相転移の把握を目指し、今回の知見を基にした液液相転移を再現する理論モデルの構築などにつなげたいとコメントしている。
同成果は、同大大学院理工学研究科化学工学専攻の下山裕介 准教授、同 東郷昌輝氏、同 稲守由輝氏らによるもの。詳細は「The Journal of Chemical Thermodynamics」に掲載された。(マイナビニュース:高温高圧水+炭化水素混合系の液液は圧力条件でそう転移することを発見 東工大)
超臨界流体とは何か?
超臨界流体(Supercritical fluid)とは、臨界点以上の温度・圧力下においた物質の状態のこと。気体と液体の区別がつかない状態といわれ、気体の拡散性と、液体の溶解性を持つ。なお、原子力工学で扱う「臨界状態」は、全く意味を異にするので注意が必要である。超臨界流体としてよく使用される物質は、水と二酸化炭素である。
超臨界流体の水は酸化力がきわめて高いため、腐食しにくいといわれているハステロイや白金-イリジウム合金、さらに金やタンタルまでもが腐食する。安定な物質であるセルロースやダイオキシン、PCBも超臨界水中では分解するといわれている。酸化力が極めて高いがゆえに使いづらいケースも多く、その場合は亜臨界水を用いる。
また、超臨界流体の二酸化炭素は、様々な物質をよく溶解する。目的物を溶解した超臨界二酸化炭素を臨界点以下にすると、二酸化炭素は気化するので、後には溶質のみが残る。気化した二酸化炭素は回収して再利用が可能である。このプロセスは実際にコーヒーの脱カフェインなどに使用されている。
以上のように、超臨界流体を使用したプロセスは従来の重金属や強酸などの触媒を使ったプロセスや可燃性や毒性のある溶媒をこのプロセスに置き換えることで、環境に対する影響を低減させる特徴を持つ。
また、ダイオキシンに代表される有害物質の分解にも使用可能である。そのため、グリーンサスティナブルケミストリーの視点から注目を集めている。ただし、高温高圧の条件が必須であるため、装置は高圧ガス保安法の適用を受ける場合が多い。また、溶解性や反応性が高いため、容器やシールの材質にも配慮が必要である。以上の理由から、超臨界流体関係装置の容積は必ずしも大きくない。
火力発電では、作動流体である水蒸気の圧力及び温度は、高ければ高いほど発電所一基当たりの熱効率が高くなる。このため、ボイラーに貫流ボイラーを使用し、発生する蒸気の圧力・温度を水の臨界圧以上に高めた超臨界流体が使われている。そのような発電技術を超臨界圧(Super Critical: USC)、又は超超臨界圧(Ultra Super Critical: USC)と呼び、2013年における最新式の石炭火力発電プラントで実用化されている。(Wikipedia)
参考 Wikipedia:超臨界流体 マイナビニュース:温高圧水+炭化水素混合系の液液平衡は圧力条件で相転移
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