骨粗しょう症の原因はエストロゲンの低下

 骨粗しょう症は、骨に小さな穴ができてもろくなる病気で、症状が進むと転んだだけでも骨折する。また、背中が曲がる原因になり、介護が必要な寝たきりになるケースも多い。性ホルモンの「エストロゲン」が減ると骨芽細胞の働きが弱まる…と考えられているが、発症や症状が進む詳しいメカニズムは分かっていない。国内では、未受診者を含めると患者は1,100万人以上と推定され、高齢女性が多い。

 骨粗鬆症は圧倒的に女性に多い病気で、閉経を迎える50歳前後から骨量が急激に減少し、60歳代では2人に1人、 70歳以上になると10人に7人が骨粗鬆症といわれている。

 これは、女性ホルモン(エストロゲン)が骨の新陳代謝に関わっているからである。その他、年齢や遺伝的な体質、偏食や極端なダイエット、喫煙や過度の飲酒、運動習慣なども骨粗鬆症の原因として考えられており、最近では、若い女性の骨粗鬆症も問題になっている。なお、他の病気の影響によって骨粗鬆症になりやすくなる場合もある。



 今回、東京医科歯科大学の江面陽一(えづら よういち)准教授、野田政樹(のだ まさき)教授らの研究チームが、骨粗しょう症を防ぐ遺伝子の一つ(Nck)を発見したと、米科学アカデミー紀要電子版に発表した。これまで未解明だった発症の仕組みを明らかにし、高齢化時代で患者が増えている骨粗しょう症に有効な新薬開発につながると期待されている。


 骨粗しょう症防ぐ遺伝子を発見 新薬開発に期待

 研究チームによると、骨の内部では、「破骨細胞」と呼ばれる細胞が古い骨を吸収、欠損部ができる。次にその部分に「骨芽細胞」と呼ばれる細胞が移動して欠損部を修復して新しい骨ができる。こうして骨は絶えず作り変えられている。

 研究チームは、「Nck」という細胞の骨格と細胞移動を制御する遺伝子が、骨の作り変えメカニズムに関係していると考え、マウスで実験した。培養したマウスの骨芽細胞でNck遺伝子の機能を抑えると、骨芽細胞の動きが鈍くなった。またマウスの大腿(だいたい)骨の骨芽細胞でNck遺伝子が機能しないようにすると、骨粗しょう症の状態になった。これらのことから、Nck遺伝子が骨の修復を担う骨芽細胞の働きに必要で、この遺伝子が骨粗しょう症を防ぐ働きをしていることを確認した、という。

 骨粗しょう症は、骨に小さな穴ができてもろくなる病気で、症状が進むと転んだだけでも骨折する。また、背中が曲がる原因になり、介護が必要な寝たきりになるケースも多い。性ホルモンの「エストロゲン」が減ると骨芽細胞の働きが弱まる、と考えられていたが、発症や症状が進む詳しいメカニズムは分かっていなかった。国内では、未受診者を含めると患者は1,100万人以上と推定され、高齢女性が多い。


 骨がつくられる仕組み

 骨の発達にヒトが外から受ける力が大切である。宇宙空間での無重力状態や、運動不足などで骨に力がかからなくなると、骨密度が減少し、骨がやせてもろくなる危険性がある。健康な成人では、骨がつくられる量 と、溶かされて吸収される量が釣り合っていて、そのバランスによって常に骨が若々しく保たれている。

 骨は、その堅さのために、一度つくられると新陳代謝が行われないように思ってしまいがちだが、骨も生き続けている組織である。10代に迎える成長期や、骨折した箇所が治る時など、骨の成長が必要な時期には、そのバランスが骨をつくる方向に傾いて、骨を伸ばしたり、より強い骨をつくったりする。

 これとは反対に、高齢になって老化したり、骨粗鬆症などの病気にかかったりすると、このバランスが崩れて骨が溶かされる方向に傾く。この骨のつくられる量と溶かされる量のバランスによって健康にも病気にもなるというわけ。


 骨の量を調節する仕組み

 では、どんなしくみで骨の量は調節されているのだろうか。私たちの骨格を形づくっている骨は、骨細胞(こつさいぼう)という小さな細胞と、その周りに蓄えられたコラーゲンやアパタイトという物質からできている。

 コラーゲンは、皮膚や軟骨など弾力のある部分に多く含まれるタンパク質で、骨にも弾力を与えて折れにくくする働きがある。アパタイトは歯の成分としてご存じの方もいるかもしれないが、堅い組織の原料となる、カルシウムを含んだ物質。

 骨細胞は、骨芽細胞(こつがさいぼう)という骨細胞(こつさいぼう)のもとになる細胞がアパタイトを貯め込んだ結果できたもの。このため、実際に骨をつくる作業にあたっているのは、骨芽細胞ということになる。


 骨芽細胞と破骨細胞

 それでは、せっかく骨芽細胞がつくりあげた堅い骨を溶かしてしまうのはいったい何者なのだろうか。実は骨を溶かすのも細胞である。私たちの体の中では、破骨細胞(はこつさいぼう)という細胞が絶えず古い骨質を溶かし続けている。

 破骨細胞(はこつさいぼう)は文字通り、骨をこわす細胞という意味で名付けられているが、実際には、骨をかじって砕いたりしているわけではなく、骨質を溶かす酵素を放出したり、骨と接する部分を酸性にしたりして骨を溶かしている。

 破骨細胞は骨を溶かすことのできる細胞です。破骨細胞を骨の薄片にのせて培養すると、骨を吸収する様子を観察することができる。

 健康な成人では、1年間に5%~10%の骨組織が新しい骨組織に置き換わるといわれている。つまり、1年間でそれだけの量の骨が溶かされているということになる。溶かされた骨は血液にとけ込んで、また新たな骨の材料として利用されたり、ホルモンなどの作用を助けるカルシウム源として利用されたりしている。

 このため、ホルモンバランスが崩れたり、カルシウムの摂取が足りなかったりすると、積極的に骨が溶かされてしまうこともある。最近よく耳にする骨粗鬆症なども、多かれ少なかれ、こういったことが原因でおこる可能性も考えられる。

 このように、破骨細胞は理由もなく骨を破壊してしまう細胞ではない。食生活やホルモンのバランスなどによって、私たち自身がその働きを乱している場合も少なくない。骨組織は私たちが生きていく上で重要なカルシウムを蓄積し、また、必要なときにはそのカルシウムを供給している。

 骨芽細胞と破骨細胞との連係プレーによって体内のカルシウムも調整されているのだ。


 カルシウム・パラドックス

 カルシウム摂取が不足すると骨粗鬆症の原因となるだけでなく、血管等の軟部組織にカルシウムが逆に増え、動脈硬化、糖尿病、高血圧など様々な疾病が起こる現象をカルシウム・パラドックスと呼ぶ。

 カルシウム摂取不足により血中カルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモンの働きにより骨からカルシウムが溶出し血液中に流入する。このカルシウムが血管へ沈着(動脈石灰化)し動脈硬化を引き起こすと考えられる。

 骨粗鬆症患者では動脈石灰化症による冠状動脈疾患・心臓病が多くみられることはよく知られている。骨粗鬆症を予防すると同時に動脈硬化を防ぐためには、適切なカルシウム摂取と同時にカルシウム以外の骨代謝に必須の栄養素であるビタミンDやビタミンKの摂取が推奨されている。

 一方、2002年の世界保健機関 (WHO) の報告書では、骨粗鬆症予防のための項目で、カルシウムの摂取量が多い国に骨折が多いという現象をカルシウム・パラドックスと呼んでいる。

 この現象の原因として、カルシウムの摂取量よりも、カルシウムを排出させる酸性の負荷をタンパク質がもたらすという悪影響のほうが重いではないかと推論されている。

 さらに、2007年のWHOの報告書で、酸を中和するほどのアルカリ成分がないとき、カルシウムが排出され骨に影響すると考えられ、アルカリ成分として野菜と果物が挙げられている。

 日本国外の骨粗鬆症の診療ガイドラインでは、砂糖や動物性食品はカルシウムを奪う「骨泥棒」とされ、骨粗鬆症の予防のためアルカリ性食品を摂取するように言及している。また、そうしたことで発生した血中の酸を中和するのは骨の仕事だと解説している。

 1995年、食品の腎臓への酸性の負荷をPRAL値という指標で表す測定方法が考え出された。酸性の食事が骨の健康を損ねるので、この目的でも用いられる。野菜と果物を多く食べた子供は尿中のカルシウムの排出量が少なかった。

 野菜と果物の摂取量が多いほど骨密度が高いという研究結果が老若男女それぞれにある。疫学的調査によれば牛乳を良く飲む人ほど骨粗鬆症になりやすい。ホメオスタシスの働きにより、急激に上がり上限値を越えてしまったカルシウム濃度を下げようと負のフィードバックが働き、今度は下限値を越えてしまい、骨からカルシウムを補う為である。


参考 サイエンスポータル: 骨粗しょう症を防ぐ遺伝子を発見 新薬開発に期待


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