人工心臓とは?

 人工心臓とは、心臓の機能の代替もしくは補助を行うために用いられる人工臓器である。 人類は、働きが悪くなり回復不能になった臓器を取り換えて、健康を取り戻せないかと長い間、考えてきた。その結果、臓器移植や人工臓器が登場した。

 心臓は血液を全身に送り出すポンプとして休むことなく働いている。そのポンプの働きが落ちてくると心不全になるが、原因によって治療法は異なる。

 原因が心臓の弁の異常や、心臓に栄養を与えている冠動脈が狭くなったり、詰まったりしているときには、外科手術やカテーテルを用いる治療によって、心不全から回復させることができる。一方、心臓の筋肉に生じた異常が原因の場合は、まず、薬による治療が行われる。しかし、それが重症の場合は、心臓ポンプの働きを補助したり、代行したりすることが必要で、心臓移植や人工心臓が用いられてきた。



 心臓移植は、これまでに世界で6万例以上行われた。成績はよく、80%以上の人が1年以上、半数の方が9.3年以上生存されており、生活の質も良好である。ただし、心臓移植にはドナー(提供者)が必要で、移植実施時期を決めることはできず、また数にも限りがある。これに対し、人工心臓は必要な時に治療できる手段として期待されており、心臓移植に代わり得るシステムの開発が進められている。

 人工心臓の開発は、まず1957年にわが国の阿久津、米国のコルフ両博士によって、「全置換型人工心臓」の動物実験が行われ、世界で初めて、自然心臓ではなく人工心臓により全身の循環が維持された。その翌年には米国のクセロー博士が「補助人工心臓」の実験を行った。全置換型人工心臓は1969年、心不全の患者さんに対し、心臓移植が実施できるまでの期間を受け持つ、"ブリッジ"(つなぎ)として臨床応用が開始された。

 人工心臓も日々進化しており、患者の中には人工心臓だけで555日間通常通り生活して、その後心臓移植手術を受けることができた人がいる。


「心臓なし」で555日、臓器提供待ち続けた男性

 重い心臓疾患のために心臓を摘出され、人工心臓で1年半以上も日常生活を送ってきた米ミシガン州の男性が、5月に移植手術を受けて今週中にも退院できる見通しとなった。

 スタン・ラーキンさん(25)は2014年11月に心臓摘出の手術を受けた。今年5月にドナーが現れてミシガン大学病院で移植手術を受けるまでの555日間、背中に背負ったバックパックの中の人工心臓が生命を支え続けた。

 バスケットボールをしていて突然倒れ、遺伝性心臓疾患の家族性心筋症と診断されたのは9年前。間もなく弟のドミニクさん(24)も同じ疾患を持つことが分かった。

 2人ともやがて心不全に陥り、心原性ショックを発症して2014年に人工心臓を装着された。ドミニクさんは6週間後に心臓移植手術を受けることができた。一方、ラーキンさんは人工心臓の具合が良く、退院して自宅で過ごすことを許されたという。ミシガン州では初めてのケースだった。

 「体内に心臓がない状態で生きられると医師に言われ、機械が自分の心臓になると聞かされた時はショックだった」とラーキンさんは振り返る。
シンカーディア製の人工心臓「フリーダム・ドライバー」は重さ約5.8キロ。ラーキンさんの左胸部の下から伸びる2本の管で体に接続され、圧縮空気を心室に送り込んで体内の血液を循環させていた。

 ラーキンさんはバックパックを背負ったままバスケットボールを楽しんだり、自分の子どもたちと過ごしたり、友人たちと車で出かけたりしていたという。

 「本物の心臓と変わらない」とラーキンさんは言う。「心臓がバッグの中にあって、自分から管が突き出ているというだけ。でもそれ以外は本物の心臓のように感じられて、教科書が入ったバックパックを背負っている感じだった」

 世界で初めて内蔵型の人工心臓が患者に装着されたのは2001年。この手術にかかわったルイビル大学のラマン・グレイ医師はラーキンさんの症例について、人工心臓が以後どれほど進歩してきたかを物語ると解説する。

 米臓器移植ネットワークによると、全米で心臓移植を待つ患者は約4000人に上る。末期状態の心不全に陥って、腎臓や肝臓など他の臓器不全に至る患者も少なくない。その多くは、人工心臓のようなサポートを受けられないまま死亡しているという。


人工心臓には二つのタイプ

 人工心臓には、大きく分けて二つのタイプがある。心臓の働きが落ち、重い心不全となった患者さんの心臓をそっくり取り除き、その場所に埋め込んで心臓の働きを代行する「全置換型人工心臓(total artificial heart : TAH)」と、重症の心不全になった患者さんの心臓はそのままにし、心臓のそばに置き、その働きを助ける「補助人工心臓(ventricular assist system : VAS)」である。

 これらの人工心臓は、血液ポンプ、ポンプを動かす駆動装置、それを制御する装置、さらに駆動装置を働かせるエネルギー系、情報処理系などから成り立っています。これらを「基本構成要素」と呼んでいます。

 血液ポンプがどこに置かれるかによって「体外に設置するタイプ」と、「体内に収納するタイプ」がある。さらに「体内に収納するタイプ」は、制御装置やエネルギー系を体外に設置する「携帯型」と、基本構成要素はすべて体内に収め、皮膚の上からエネルギーを送ったり、制御したりする「完全埋め込み型」とがある。


ポンプにいろいろな方式

 血液ポンプには、1.人の心臓同様「ドクッ、ドクッ」と脈を打たせながら血液を送り出す「拍動流ポンプ」と、2.水道水が流れるように、拍動がないまま血液を送り出す「無拍動流ポンプ」とがある。

 1.の拍動流ポンプには「ダイアフラム型」「サック型」「チューブ型」「プッシャープレート型」があり、人の心臓(自然心臓)と同じように流入したり、流出したりする側に弁が必要で、人工弁が取り付けられている。

 2.の無拍動流ポンプには、スクリューやプロペラのような仕組みで血液を送り出す「遠心ポンプ」や、「軸流ポンプ」と呼ばれる方式がある。この無拍動流ポンプでは人工弁などを必要としないので小型化できる。しかし、このポンプによる血液の流れには脈がないから、患者さん自身の心臓の機能低下が大きな場合、脈が触れなくなる。


 人工心臓を動かすには

 人工心臓を動かす方法を駆動法というが、その方法には、1.「空気圧方式」2.「電気-機械方式」3.「電気-流体方式」がある。

 「空気圧方式」は、空気圧の差を利用して膜やチューブを動かし、血液を送り出しす。「電気-機械方式」は、モーターの回転運動を往復運動に変えて血液の拍出を行う。この方式には電磁石を利用して往復運動をつくりだす「ソレノイド駆動法」もある。「電気-流体方式」は、電動ポンプによる油圧で動かす。また、無拍動ポンプではスクリューやプロペラなどを回転させることで血液を送り出す。

 患者さんの心臓を温存したまま取り付ける補助人工心臓では、1.「患者さん自身の心臓の拍動に合わせて駆動する方式」と、2.「患者さんの心臓の拍動リズムとは連動しないで駆動する方法」とがある。「患者さん自身の心臓の拍動に合わせて駆動する方式」では、患者自身の心臓が拍出するときには人工心臓からの拍出を行わず、自分の心臓が拡張する時に人工心臓から拍出が起こるので、患者自身の心臓への負担が軽くなる。

 患者さん自身の心臓で不整脈が多い時は、十分な拍出が行えなくなる。そうした場合に「患者さんの心臓の拍動リズムとは連動しないで駆動する方法」が行われる。


参考 CNN news:心臓なしで555日、臓器提供待ち続けた男


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