クラゲに閉じ込められて泳ぐ魚

 オーストラリア東部のバイロンベイでスノーケリングをしていた男性が、クラゲの体内に閉じ込められた状態で泳ぎ回る魚の珍しい写真を撮影した。こうした現象は100万分の1の確率でしか発生しないとされる。

 写真を撮影したのは海が大好きという写真愛好家のティム・サムエルさん。バイロンベイ沖のサンゴ礁でスノーケリングしながら友人らと一緒にカメを撮影し、海岸とサンゴ礁の間を泳いでいる時に、見たことのない光景に遭遇した。

 「(魚は)少しもがいている様子で泳ぎ回っていて、真っすぐ泳ごうとしていたが、クラゲが邪魔して円を描かせていた」とサムエルさんは描写する。「魚を自由にしてやることも考えたけれど、やはり自然に任せようと決めた」という。



 サムエルさんはこの姿を20~30分追い続けてカメラに収め、自身のウェブサイトやインスタグラムで写真を公開した。サムエルさんが拠点としているバイロンベイは海洋公園に指定されて釣りが禁止されているため、海洋生物の宝庫だという。

 しかしクラゲに入った魚については、自然科学系の学術誌に問い合わせても「そんな現象は見たことがない」という返答だったといい、「自分が遭遇したのはものすごく特別な現象だったことが分かった」とサムエルさんは振り返る。

 クインズランド大学の海洋生物学者イアン・ティベッツ氏は同誌のウェブサイト上で、閉じ込められているのはクラゲの毒針を使って身を守ることで知られるアジの仲間の魚と思われると解説。「魚が不運に見舞われたのか、それとも好んでクラゲの中にいるのか断定するのは難しい」「しかし魚が泳いでいる様子を写真家から聞いた限りでは、クラゲの中で守られていることに満足しているらしい」と推定している。


 正体はエボシダイ

 エボシダイ科(Nomeidae)は、スズキ目イボダイ亜目に所属する魚類の分類群の一つ。未成魚がクラゲや流れ藻に付いて浮遊生活を送ることで知られるグループで、エボシダイ・ハナビラウオなど3属16種が所属する。科名(模式属名 Nomeus)の由来は、ギリシア語の「nomeys(羊飼い)」から。エボシダイ科の魚類はすべて海水魚で、世界中の温帯から熱帯・亜熱帯にかけての海に幅広く分布する。日本近海からは少なくとも3属8種が報告され、スジハナビラウオなど一部が食用として利用される。

 多くのイボダイ亜目の仲間に共通する特徴として、エボシダイ類の仔稚魚はクラゲや流れ藻に帯同した浮遊生活を送る。成魚は深海に移行し、中層あるいは底層で暮らすとみられているが、詳細な生活史はよくわかっていない種類が多い。

 エボシダイ科の仲間は左右に平たく側扁し、体型は円形から楕円形までさまざま。体長10–30 cmほどの種類が多いが、大型種では1mを超えることもある。吻(口先)は尖らず、柔らかみを帯びる。尾柄部に肉質のキール(隆起)をもたず、近縁のオオメメダイ科・ドクウロコイボダイ科との鑑別点となっている。

 背鰭は2つあり、第1背鰭は9–12本の細長い棘条、第2背鰭は0–3棘15–32軟条で構成される。臀鰭は1–3棘14–30軟条で、腹鰭は成魚にも存在する。エボシダイ (烏帽子鯛、Nomeus gronovii )は硬骨魚綱スズキ目エボシダイ科に属する海水魚。エボシダイ属はエボシダイのみで一属一種である。大西洋東部と地中海を除く世界中の温帯と熱帯の海に分布する。体長25cm。

 稚魚から幼魚期にはカツオノエボシ等のクラゲ類と共生することが知られているが、エボシダイがクラゲの体の一部を食べたり、逆にクラゲがエボシダイを食べることがあるため、この共生関係が互いにとってどのような利益があるのかは不明である。エボシダイがカツオノエボシの触手の間を住みかとすることができるのは、カツオノエボシの刺胞の毒に耐性があるためである。

成魚になるとクラゲ類のいる表層から離れ、水深200~1000mの底層に移る。エボシダイがカツオノエボシの触手の間を住みかとすることができるのは、カツオノエボシの刺胞の毒に耐性があるためである。


「電気クラゲ」にご用心

 一方、こちらは美しくも危険な「カツオノエボシ」。夏のビーチに、美しい色の風船のような生き物がいたら、それはカツオノエボシだ。今日は、あまり知られていないその生物の正体に迫ってみよう。

 カツオノエボシは、別名「電気クラゲ」とも呼ばれるほどクラゲによく似ているが、実はヒドロムシが複数集まった群体だ。米フロリダ自然史博物館のジョージ・バージェス氏は、ヒドロムシは「協力して1つのまとまった体を形成する」小さな生物であり、車で例えるならば、それぞれが部品のような役割を果たしていると説明する。

 移動手段をもたないため、海流や風に乗って熱帯や亜熱帯の海を浮遊している。米ジャクソンビル大学の海洋生物学者クイントン・ホワイト氏によると、フロリダ近海にすむカツオノエボシは、大西洋のメキシコ湾流に乗り、はるか北まで流れていくという。

 カツオノエボシの体はポリプで形成されていて、ポリプはそれぞれ、食事をしたり、身を守ったり、生殖したりと、さまざまな役割をもっている。

 浮き袋の役割をもつポリプには、一酸化炭素や酸素、アルゴンなどのガスが詰まっていて、これで体を水に浮かせている。鳥に襲われた際には、その浮き袋についた水管から中のガスを吹き出し、水中に逃げるのだと、バージェス氏は語る。


 海は危険がいっぱい

 カツオノエボシの触手はコイル状になっているが、伸ばすと50メートルにもなる。小魚などの獲物に触れると、触手が「ビヨーンと伸びるんです」と、バージェス氏は言う。表面は刺胞に覆われていて、ここから毒を出し、獲物の自由を奪う。獲物を口まで運ぶと、口から酵素が出て、消化が始まるという。

 そんな危険なカツオノエボシだが、この生物に寄生する魚もいる。エボシダイは刺胞がほとんどない“浮き”の下にもぐり込み、宿主であるカツオノエボシの触手や、栄養分が豊富な生殖器官を突いて食べている。

 さらに天敵となるのは、革のような皮膚をもつマンボウや、固い突起がびっしり生えた口をもつアオウミガメだ。刺胞に刺されることなくカツオノエボシを食べてしまうと、バージェス氏は言う。

 一方、人間が刺さた場合は、みみず腫れになって激痛に襲われる。なかにはアレルギー反応で呼吸困難に陥ることもあるため、「溺れてしまう危険があります」とホワイト氏は懸念する。

 以前、刺されて病院で手当て受けたことがあるバージェス氏は、その経験から1つだけ注意を促す。「海の中には野生の世界が広がっているということを、心にとめておいてください」


参考 National Geographic news: 珍写真「クラゲに入った魚」が話題

日本クラゲ大図鑑
クリエーター情報なし
平凡社
共生する生き物たち (楽しい調べ学習シリーズ)
クリエーター情報なし
PHP研究所

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