LIGOチームが2度目の重力波を観測 ブラックホールが合体
重力波を世界で初めて観測した米大学などの「LIGO」研究チーム が、ブラックホールの合体により生じた重力波を再び捉えることに成功した。 研究チームが日本時間16日未明発表した。ブラックホールの合体が宇宙で比較的頻繁に起きている現象であることを示し、日本の研究者も期待する「重力波天文学」の発展、確立につながる成果といえる。
LIGO研究チームによると、チームは2015年12月26日に重力波の信号を捉えた。地球から14億光年離れたところで、太陽の14倍と8倍の質量を持つ二つのブラックホールが合体した際の膨大なエネルギーが重力波となって放出されたという。
同じチームが15年9月14日に初観測(発表は2月11日)した重力波は太陽の29倍と36倍の質量を持つ二つのブラックホールの合体により生じたとされる。今回観測された重力波を生んだエネルギーはこれよりは小さいが、LIGOの重力波望遠鏡は再び重力波を捉えた。
重力波は、極めて重い物体が超高速で激しく動くと、周囲の空間や時間の流れがわずかにゆがんで波として伝わる現象とされる。1916年にアインシュタインが一般相対性理論でその存在を予言した。重力波を観測できると、電磁波などでは見えない天体現象が観測できるため、新たな天文学と言える「重力波天文学」の成果が期待されている。
欧州が開発する重力波望遠鏡「VIRGO」は年内にも運用を開始する予定。日本では、岐阜県飛騨市に重力波望遠鏡「かぐら」が昨年完成、現在試験運転中で17年度中の本格観測を目指している。
LIGOは、米ワシントン州とルイジアナ州の2カ所に重力波望遠鏡を設置している。L字形(1辺が4キロの長さ)の巨大装置で、中心部から2方向に同時にレーザー光を放出し、4キロ離れた鏡に反射させて戻ってきた光を測る仕組み。重力波が届くと鏡までの距離が伸び縮みし、光の戻る時間にずれが生じるのを検知できるという。研究チームには米カリフォルニア工科大学、米マサチューセッツ工科大学など米大学を中心に、日本を含む15カ国の約1,000人の研究者が何らかの形で参加している。
2度目の重力波観測、天文学はいよいよ新時代へ
科学者たちが重力波の直接観測に再び成功し、天文学の新時代の始まりが決定的になった。
2016年2月に歴史的な初観測が発表された重力波と同じく、今回の重力波も、10億年以上前に2つのブラックホールが互いに強く引かれ合い、激しい抱擁を交わしたことで発生した。この重力波がさざ波のように宇宙空間に広がり、地球を通過したところを天文学者が捉えたのだ。
ブラックホールどうしの合体や超高密度の中性子星どうしの衝突など、宇宙でも有数の激しい天体現象によって生成する重力波は、宇宙を観測するまったく新しい方法を科学者にもたらすことになる。どんな波長の光でも見ることのできないものを重力波で観測し、研究できる可能性がある。
2回目の重力波が観測されたことにより、LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)での2月の初観測が単なるまぐれ当たりではなく、千回とまでは言わないが、何百回という現象の1例であることが確実になった。すなわち、次があるということだ。
LIGOに資金を提供している全米科学財団の理事長である天体物理学者のフランス・コルドバ氏は、「壮大な現象を検出することには大きな意義がありますが、1回だけでは科学というより魔法です」と言う。
「2回目に検出できたときに初めて、その現象を本当に観測できたと言えます。これでようやく、人類が本当に新しい観測手段を手にしたことが証明されました」
時空のさざ波
初回の発表前に実は観測されていた。重力波が初めて検出された2015年9月14日、1世紀にわたって物理学者たちをやきもきさせてきた探求の物語に終止符が打たれた。
1916年に重力波の存在を予言したアルベルト・アインシュタインは、その後、重力波の存在を疑うようになったが、彼の一般相対性理論には重力波が絶対に必要だった。1970年代に新型のパルサーが観測されたことで重力波の存在がようやく証明されると、その功績を上げた科学者は1993年にノーベル物理学賞を受賞した。
LIGOが最初に検出した重力波は、太陽の約30倍の質量を持つ巨大ブラックホールどうしの衝突によって発生したものだったが、今回の重力波は、太陽質量の14倍と約8倍の軽いブラックホールどうしの衝突によるものだ。
この2つのブラックホールがお互いのまわりを回転したのちに合体した結果、太陽のおよそ21倍の質量の新しいブラックホールが誕生し、太陽が100億年の生涯の間に作り出すのと同じ量のエネルギーを放出した。
この衝突によって生じた時空のさざ波が14億年かけて宇宙空間を伝わり、今度は2015年12月26日未明に地球を通り抜けた。
米国ルイジアナ州とワシントン州に設置された、レーザーと鏡を組み合わせた2基のL字型の検出装置が、おそろしく小さな波をそれぞれ測定した。その波は、陽子の直径の1万分の1にも満たない長さだけ地球を引き伸ばした。
家族と一緒に休暇を楽しんでいた米ペンシルベニア州立大学の物理学者チャド・ハンナ氏のもとに電話がかかったのはその70秒後だった。
LIGOが検出した重力波のデータを分析するチームの共同リーダーであるハンナ氏は、この知らせを聞いて「椅子から飛び上がり、ノートパソコンと携帯電話をひっつかんで2階に駆け上がりました。家族はあっけにとられていました」と言う。
当時、ハンナ氏と1000人以上の科学者や技術者たちは、2015年9月に検出された重力波の確認作業に追われていた。2つの分析を同時に進めるために、彼らは冬中、猛烈な勢いで仕事をしなければならなかった。最初の重力波に続き、このほど比較的静かな12月の重力波についても確認が終わり、『フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)』6月15日号に分析結果が発表された。
LIGOの研究者たちは、最初の重力波の検出について発表する前に第2の重力波を検出できたことで大いに勇気づけられ、自信をもって2月の発表に臨むことができたという。重力波の検出は、すでにこの数十年で最も重要な物理学上の発見の1つとされている。
米マサチューセッツ工科大学LIGO研究所の所長で、近年のLIGOの改良に取り組んできたデヴィッド・シューメーカー氏は、「この発見には、ずいぶんじらされました」と言う。「自分たちが何を手にしたのかは分かっていたので、じらされることも楽しめましたが」
新しい観測施設も続々と
いま、重力波天文学の見通しはかつてないほど明るい。
研究者によると、LIGOは現在、本来のわずか3分の1の感度で運用されているという。計画通りに改良が進めば、LIGOは2019年までに27倍の広さの宇宙を調べられるようになるため、重力波もどんどん検出されるようになるはずだ。
さらに、世界各地でも重力波を検出できるようになる。2016年5月には全米科学財団とインドとの間で協定が結ばれ、2023年にもインドにLIGOのような重力波検出装置が設置される可能性が出てきた。日本の研究チームも地下に重力波検出装置を建設中で、2018年に稼働する予定である。
さらに、現在アップグレードのために運用を停止しているイタリアの重力波天文台VIRGOが稼働を始めれば、重力波が空のどの領域からやってきたかを三角測量により決定できるようになり、天文学者は光学望遠鏡で問題の領域を観測できるようになる。コルドバ氏が考える重力波天文学の究極の目標は、この連携にある。
米国国立電波天文台の天文学者スコット・ランサム氏の言葉によれば、いよいよ「重力波天文学の時代の華々しい幕開けです」
参考 National Geographic news 2度目の重力波観測、天文学はいよいよ新時代へ
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Newton(ニュートン) 2016年 04 月号 [雑誌] |
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