2016年ノーベル医学生理学賞

 スウェーデンのカロリンスカ医科大は10月3日、今年のノーベル医学生理学賞を、東京工業大の大隅良典(よしのり)栄誉教授(71)に贈ると発表した。大隅氏は2013年にトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞、ノーベル賞候補になっている。

 授賞理由は「オートファジー(自食作用)の仕組みの発見」。細胞が自分自身の一部を分解し、栄養源としてリサイクルしたり、新陳代謝したりする仕組みを明らかにした。様々な生物に共通する根源的な生命現象の謎を解いた。

 日本のノーベル賞受賞は、昨年の医学生理学賞の大村智・北里大特別栄誉教授、物理学賞の東京大宇宙線研究所長の梶田隆章教授に続き25人目。医学生理学賞は1987年の利根川進・米マサチューセッツ工科大教授、2012年の山中伸弥・京都大教授、大村氏に続いて4人目。日本人の単独受賞は自然科学系では利根川氏以来。授賞式は12月10日にストックホルムである。賞金は800万スウェーデンクローナ(約9400万円)。大隅さんは福岡県生まれ。


 呼吸や栄養の消化、生殖など生命のあらゆる営みにたんぱく質は欠かせない。人は体内で1日に約200グラムのたんぱく質をつくるが、食事からは約70グラムとされる。不足する分は、主にオートファジーで自分自身のたんぱく質を分解し、新しいたんぱく質の材料として再利用している。また、病気の原因になる老朽化したたんぱく質などの不要物を掃除する役割も担う。

 1960年代から細胞内で成分が分解されていると考えられていたが、メカニズムや生体内での役割は長年不明だった。

 大隅さんは1988年、酵母細胞で老廃物をため込む「液胞」という器官に注目し、世界で初めてオートファジーを光学顕微鏡で観察した。特殊な酵母を飢餓状態にすると、分解しようと細胞内のたんぱく質などが液胞に次々に運ばれていた。詳しい過程を電子顕微鏡でも記録し、92年に発表した。

 大隅さんはオートファジーに欠かせない遺伝子も15個発見した。これらの発見をきっかけに、世界中でオートファジー研究が広がり、ヒトやマウスなどの哺乳類、昆虫、植物などあらゆる生物に共通の生命現象であることがわかった。

 パーキンソン病やアルツハイマー病などは、神経細胞内に異常なたんぱく質が蓄積することが病気の一因と考えられており、オートファジーはこれらの病気と関係しているという報告もある。ほかの様々な病気の解明や治療法の開発に貢献すると期待されている。

 大隅さん「光栄としか言いようがない」

 ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった、東京工業大学・栄誉教授の大隅良典さんは、横浜市緑区の東京工業大学の研究室で、報道陣の取材に答え、「私のような基礎的な生物学を続けてきた人間が、このような形で評価していただけることを光栄に思います」と述べた。

 報道陣から「いまのお気持ちは」と問いかけられると、「本当に光栄としか言いようがない」と喜びをあらわしていた。また、「若い人には、サイエンスはすべてが成功するわけではないが、チャレンジすることが大切だと伝えたい」と話した。大隅さんは、外部からの英語の電話に「本当にありがとう。うれしいです」と答えていた。

 「研究者としてこの上なく名誉なこと。ノーベル賞には格別の重さを感じる。私のような基礎的な研究者が運が良ければそういう機会にも恵まれると若い人が知ってくれる機会になってくれたらうれしい。」

 「人がやらないことをやろう、という興味から酵母の液胞の研究を始めた。研究を始めたときに必ずがんにつながるとか寿命の問題につながると確信して始めたわけではない。この分野は(日本が)大きくリードしていた分野。ほかの研究者と共同受賞があったらいいなと思っていた。単独受賞は驚きとともに感慨深い。」

細胞の基本的な働き「オートファジー」を発見

 大隅良典さんは、細胞の内部で不要なたんぱく質などを分解する「オートファジー」という仕組みを解明した研究が評価され、ノーベル医学・生理学賞を受賞することになった。

「オートファジー」は、「自分を食べる」という意味で細胞に核のあるすべての生物に備わる生命の基本的な仕組み。

 細胞は栄養が足りない状態になると、生き残るためにみずからの中にあるたんぱく質などをアミノ酸に分解し、新しいたんぱく質の材料やエネルギー源として利用する。古くなったり、傷ついたりして要らなくなったたんぱく質も同じように分解し、再利用していて、こうしたオートファジーの仕組みは、細胞の働きを正常に保つ上で欠かせないものとなっている。

 大隅さんは、昭和47年に東京大学の大学院を出たあとアメリカのロックフェラー大学に留学し、酵母を使って細胞内部の働きを詳細に調べる研究を始めた。そして、昭和63年、東京大学の自分の研究室で顕微鏡をのぞいていたとき、細胞の「液胞」と呼ばれる器官の中で小さなたんぱく質の粒が激しく動く様子を見つけた。

 栄養の足りなくなった酵母が、細胞の成分のたんぱく質などを分解するために液胞に取り込む、オートファジーの様子を捉えた瞬間だった。
大隅さんは、その後、栄養不足の状態にしてもオートファジーが起きない酵母を人工的に作り、正常な酵母と比較して、オートファジーに必要な遺伝子を次々と特定した。

 こうした遺伝子は動物や植物にも共通していることが徐々に明らかになり、オートファジーはヒトを含む、細胞に核のあるすべての生物が持つ生命の基本的な仕組みであることが分かってきた。

 パーキンソン病などの神経の病気の一部ではオートファジーの遺伝子が、正常に機能していないことが分かっていて、予防法や治療法の開発につながるのではないかと期待されている。

 こうしたことからオートファジーの研究を巡っては世界的に激しい競争が続いていて大手調査会社の「トムソン・ロイター」の集計によりますと関係する論文の数は去年1年間だけでおよそ5000本にのぼるという。こうした研究の発端となっているのが大隅さんの発見で、生命科学の分野に大きな影響を与えたことを示している。

オートファジーとは何か?

 オートファジー (Autophagy) は、細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ。自食(じしょく)とも呼ばれる。酵母からヒトにいたるまでの真核生物に見られる機構であり、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与している。

 このほか、個体発生の過程でのプログラム細胞死や、ハンチントン病などの疾患の発生、細胞のがん化抑制にも関与することが知られている。auto-はギリシャ語の「自分自身」を表す接頭語、phagyは「食べること」の意。

 細胞がある種のストレス(アミノ酸飢餓の状態や、異常タンパク質の蓄積)に晒されると、細胞質中の一部で、過剰に作られたタンパク質や異常タンパク質と共にリン脂質が集まり、オートファゴソーム(Autophagosome、またはオートファジー小胞 Autophagic vesicle)と呼ばれる細胞内構造の形成がはじまる。

 集積したリン脂質は脂質二重膜を形成し、さらにそれが成長していくことで、細胞質成分やオルガネラなどを二重のリン脂質の膜で取り囲んだ小胞が形成される。この小胞形成には、Atg(以前はApgという名称で呼ばれていた)タンパク質と呼ばれる一群のタンパク質が関与している。

 酵母や植物細胞では、形成されたオートファゴソームは液胞と膜融合し、その内部に取り込まれた異物などは液胞内部の分解酵素によって分解される。動物細胞においては、オートファゴソームが形成されると、次にオートファゴソームと細胞内のリソソームが膜融合を起こす。こうしてリソソームと融合したものをオートリソソームと呼ぶ。

 オートリソソームの内部で、オートファゴソームに由来する分解すべきタンパク質と、リソソームに由来するさまざまなタンパク分解酵素が反応し、この結果、オートファゴソームに取り込まれていたタンパク質はアミノ酸やペプチドに分解される。このとき、オートファゴソームの二重膜のうち、内側の脂質膜も同時に分解される。(Wikipedia)

 大隅良典教授 略歴

 太平洋戦争末期の1945年2月、福岡県福岡市にて生まれた。父は九州大学の工学部で教授を務めており、四人兄弟の末子として生まれた。幼いころから、兄に贈られた自然科学の本に親しんだ。特に八杉龍一の『生きものの歴史』、マイケル・ファラデーの『ろうそくの科学』、三宅泰雄の『空気の発見』などに心を動かされ、科学に興味を持った。

 福岡県立福岡高等学校を卒業後上京し、東京大学の理科二類に進学した。当初は理学部で化学を学ぼうと考えていたが、教養学部に新設された基礎科学科に興味を持ち、そちらに進む。基礎科学科の同級生には、神原秀記や渡辺公綱らがいた。1967年に東京大学を卒業し、学士の称号を取得した。

 そのまま東京大学の大学院に進学し、理学系研究科にて学んだ。蛋白質の生合成についての研究に魅力を感じ、今堀和友の下で指導を受けた。なお、博士課程においては、京都大学の大学院でも内地留学して学んでいる。1972年に、東京大学の大学院を単位取得満期退学した。その後、1974年東京大学より理学博士の学位を取得した。論文の題は「コリシンE3の作用機作に関する研究」。

 恩師である今堀和友の紹介でジェラルド・モーリス・エデルマンの研究室に留学することになり、アメリカ合衆国に渡り、ロックフェラー大学の博士研究員となった。そのころのエデルマンは、従来研究していた免疫学を離れ発生生物学に取り組み始めていたため、大隅も試験管内での受精系の確立の研究に従事した。

 東京大学理学部の安楽泰宏に声をかけられたのをきっかけに、日本に帰国した。1977年より1986年にかけて、東京大学の理学部にて助手を務めた。1986年には東京大学の理学部にて講師に昇任し、1988年まで務めた。同年に東京大学の教養学部に転じ、助教授に就任した。1996年、岡崎国立共同研究機構が設置する基礎生物学研究所に転じ、教授に就任した。また、2004年からは、総合研究大学院大学にて生命科学研究科の教授も兼任した。

 2009年、基礎生物学研究所と総合研究大学院大学の教授を退任することとなり、それぞれ名誉教授の称号が贈られた。同年、東京工業大学にて、統合研究院の特任教授に就任した。現在は、東京工業大学のフロンティア研究機構にて特任教授を務めている。

 専門は生物学であり、特に分子細胞生物学などの分野を研究している。オートファジーの分子メカニズムや生理学的な機能についての研究が知られている。その研究論文は他の研究者から多数引用されており、2013年にはトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞している。そのほか、藤原賞、日本植物学会学術賞、朝日賞などを受賞している。

 2006年、日本学士院は、大隅の業績について「一貫してオートファジーの分子機構の解明に正面から取り組んでおり、他の追随を全く許さない研究を続けている」と高く評価し、日本の学術賞としては最も権威ある日本学士院賞を授与している。

 2012年には、「生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価される」として、ノーベル賞を補完する学術賞として知られる京都賞の基礎科学部門を受賞している。

 細胞が自らのタンパク質を分解し、再利用する「オートファジー」(自食作用)の仕組みを解明し、悪性腫瘍の特効薬を発明した功績が認められガードナー国際賞を受賞した。2016年10月3日,「飢餓状態に陥った細胞が自らのタンパク質を食べて栄養源にする自食作用『オートファジー』の仕組みを解明した」成果が認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。メカニズムの詳細についてはオートファジーを参照。日本生化学会、日本分子細胞生物学会、日本植物学会、日本植物生理学会などに所属している。


参考 東工大: 東工大の研究者たち 大隅良典

オートファジー―生命をささえる細胞の自己分解システム (DOJIN BIOSCIENCE SERIES)
クリエーター情報なし
化学同人
実験医学 2013年6月号 Vol.31 No.9 命名から50年 オートファジーで解明した謎,解明したい謎〜細胞への栄養素供給・細胞内浄化のメカニズムと,ヒト疾患への関与
クリエーター情報なし
羊土社