「量子通信」とは何か?

 「量子通信」とは「光」がもっている性質、潜在能力を全部使い切る究極の通信技術と言える。

これまでの「電気」や「光」による通信は、エネルギーの塊としてしか制御されていない。電気や光のパルスを出すか出さないかで、「0」と「1」の信号を表している。

しかし「光」を「波」と考えた場合、光には「周波数」がある。また波と波がぶつかると波が強くなったり弱くなったりと相互に作用する「干渉」がある。また、光には「偏光」という向きもある。このような性質まで使うと、今の「光」通信よりもはるかに多くの情報量を伝えることが出来るようになる。

 さらに、光は波の性質を持っていると同時に「粒」の性質も持っている。光の粒「光子」としての性質を利用出来るようになると、どんな盗聴でも検知する暗号を作ることが可能になる。光子を盗聴するということは光子を抜き出すということで、抜き取られた部分は光子が抜け落ちたまま受信されるため、盗聴されたことがすぐに分かってしまうからだ。



 この「粒」の性質を使った技術には「量子暗号」や「量子テレポーテーション」がある。このような、1つ1つの光子のもつ、最大の情報を引き出せるような技術が完成すれば、同じエネルギーの信号でも今よりも遙かに多くの情報を伝えることが出来るようになる。これが、物理法則が許す限りの究極の通信技術である「量子通信」だ。

 今回、情報通信研究機構(NICT)は、超小型衛星(SOCRATES)を使い、東京都小金井市にあるNICT光地上局との間で、光子一個一個のレベルで情報をやり取りする量子通信の実証実験に成功した。

 超小型衛星(SOCRATES)は、重量50kg、サイズ50cm角で、衛星量子通信用途としては世界最軽量・最小サイズの衛星。この衛星にはNICTで開発した小型光通信機器(SOTA)が搭載されており、毎秒1千万ビットの速度で光の信号を地上局へ送信する。

 地上局では光子一個一個の到来を検出しながら信号を復元することで、高度600kmを秒速7kmで高速移動する衛星との量子通信を実現した。超長距離・高秘匿な衛星通信網の構築に向けた大きな一歩となる。

 本成果により、これまで大型衛星を必要とした衛星量子通信が、より低コストの小型衛星で実現できるため、多くの研究機関や企業による開発が可能になると期待される。今後の宇宙産業の発展に向け新たな1ページを拓く成果である。


 次世代の「量子通信」 基礎的な実験に成功 

 人工衛星の打ち上げが世界各国で相次ぎ、宇宙空間での通信が急増する中、「量子通信」と呼ばれる次世代の通信を行うための基礎的な実験に成功したと国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が発表した。

 情報通信研究機構が成功したのは、「量子通信」と呼ばれる光の粒に情報を載せて送る新たな通信技術の実験だ。

 去年8月、高度600キロメートルの宇宙空間を周回する超小型衛星(SOCRATES)から、東京・小金井市にある望遠鏡に向けてレーザー光線を発射し、光の粒に載せた試験データを送ることに成功した。

 宇宙空間では民間企業の参入による人工衛星の打ち上げが相次ぎ、画像や位置情報などのデータ通信も急増していて、大容量のデータをいかに機密性を保ちながらやり取りできるかが課題となっている。

 今後、量子通信の技術が確立されれば、送信できるデータの量が今の10万倍に増やせるほか、暗号によってデータに鍵をかけた状態で送れるようになるということで、宇宙空間を利用したビジネスが活発になると見られる中、サイバーテロなどに備える技術として期待される。

 情報通信研究機構の佐々木雅英主管研究員は「大容量かつ安全な宇宙通信の技術開発を急ぎ、加速する宇宙ビジネスで日本の優位性を高めたい」と話している。


 宇宙と地上を結ぶ超長距離・高秘匿な衛星通信網の構築

 今世紀に入り、小型衛星を低コストで打ち上げる技術が進展し、多数の衛星を連携させ、地球全域をカバーする通信網や高解像度の観測網を形成する「衛星コンステレーション」構築への取組が活発化している。

 そこでは、短時間で大量の情報を安全に地上まで送信する技術が必要になるが、従来の電波やマイクロ波は使用できる周波数帯が既に逼迫しており、通信の大容量化には限界がある。これに対して、レーザを用いる衛星光通信は、広大な周波数帯を持ち、電力効率の高い伝送が可能なため、衛星通信網を支える重要な技術として期待されている。

 また、更なる長距離・高秘匿化を実現できる衛星量子通信の研究開発も、日本、中国、欧米各国で活発に行われている。2016年8月には、中国科学技術大学を中心とするチームが600kgの大型の量子科学技術衛星を打ち上げ、2017年6月に1,200km離れた2つの地上局に向けて衛星から量子もつれ配信を行う実験に成功した。

 NICTでは、超小型衛星(SOCRATES)に搭載された衛星搭載用小型光通信機器(SOTA)から、2つの偏光状態に0,1のビット情報をランダムに符号化した信号を毎秒1千万ビットの速度(10メガビット/秒)で地上局へ送信した。東京都小金井市にあるNICT光地上局では、口径1mの望遠鏡でSOTAからの信号を受光し、量子受信機まで導波してビット情報を復号した。

 地上局に届いた信号には、パルス当たり平均0.1光子という微弱なエネルギーしか含まれていない。NICTは、この微弱信号を低雑音で検出できる量子受信機と、微弱な光子検出信号から直接、衛星・地上局間での時刻同期及び偏光軸整合を確立する技術を世界で初めて開発し、重量50kgの超小型衛星による量子通信を世界で初めて実証した。これは、従来の衛星光通信より更に高効率な通信や、情報漏えいを完全に防ぐ量子暗号の基盤技術となる。

 今回開発した衛星量子通信技術は、これまで多額の予算と大型衛星が必要だった衛星量子通信を、より低コストの軽量・小型衛星で実現することを可能にする。したがって、多くの研究機関や企業でも開発が可能になると期待される。さらに、限られた電力で超長距離の通信が可能となることから、探査衛星との深宇宙光通信の高速化にも道を切り拓くものである。

 今後、更なる光子伝送の高速化と捕捉追尾技術の高精度化により、衛星・地上間での量子暗号の実現と最終的には衛星コンステレーション上での安全な鍵配送や大容量通信の実現を目指す。


 「光子」を使った量子通信

 量子力学によれば、光は"波"の性質と"粒子"の性質を併せ持っている。光の粒子は「光子」と呼ばれ、これ以上分割することのできない光のエネルギーの最小単位である。例えば、光通信で通常用いられる1.5ミクロンの波長では、1光子のエネルギーは約1000京分の1(1京は1の後に0が16個ついた単位)ジュールという極めて小さな値になる。単一光子とは、パルス内に光子が一個しかない状態のことをいう。

 量子通信は、電磁気学の法則に基づいて設計されている従来の電波通信や光通信に対して、量子力学まで取り入れて設計された新しい通信技術。光子一個一個のレベルで情報を制御し伝送、受信することにより、従来の光通信より桁違いに小さな送信電力で大容量通信を実現する技術である。より広義には、盗聴を確実に検知し安全に鍵配送を行う量子暗号や、量子テレポーテーションなど新しい通信プロトコルなども含む。

 2個以上の量子(光子や電子のような粒子)が、古典力学的には考えられない特殊な相関をもって結びついている状態のことを量子もつれ状態と呼び、代表的な量子力学的現象の一つである。この量子もつれ状態を構成する量子のうち、ある1つについての情報が測定によって確定すると、それに伴って別の粒子についての情報も確定する。量子もつれ配信とは、遠隔2地点間に量子もつれ状態を送信し、2地点間に量子もつれ状態を形成する操作を指す。

 量子暗号は「量子鍵配送」による秘密鍵の共有と、それを用いた「ワンタイムパッド暗号化」から構成される。量子鍵配送では、送信者が光子を変調(情報を付加)して伝送し、受信者は届いた光子一個一個の状態を検出し、盗聴の可能性のあるビットを排除(いわゆる鍵蒸留)して、絶対安全な秘密鍵(暗号化のための乱数列)を送受信者間で共有する。変調を施された光子レベルの信号は、測定操作をすると必ずその痕跡が残る(ハイゼンベルクの不確定性原理)ため、この原理を利用して盗聴を見破る。


参考 NHK news:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170721/k10011067141000.html


量子暗号と量子テレポーテーション―新たな情報通信プロトコル
クリエーター情報なし
共立出版
量子コンピュータと量子通信〈1〉量子力学とコンピュータ科学 (量子コンピュータと量子通信 1)
クリエーター情報なし
オーム社

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