ソーラン節・石狩挽歌に見るニシン漁の栄枯盛衰
「ヤーレンソーランソーラン...」で始まるソーラン節は、北海道の日本海沿岸の民謡。ニシン漁の歌として有名である。 かつて北海道の日本海沿岸には、春になるとニシンが産卵のために、大群となって押し寄せてきた。メスが卵を産み、オスが一斉に放精する。そのありさまは、海が白く染まるほどだったという。
江戸時代から昭和の初期にかけて、群がる鰊を目当てにした漁で日本海沿岸は大いに賑わった。毎年、春の漁期が近づけば、東北地方や北海道各地から「ヤン衆」と呼ばれる出稼ぎ漁師が一攫千金を求めて、西海岸の漁場に続々と集まってくる。
彼らは宿舎を兼ねた網元の大邸宅「鰊御殿」に集結し、船頭による統制の元でニシンの「群来」(くき、と読む)を待ち続けるが、やがて群来の一報が入るや、一斉に船を漕ぎ出し、網でニシンを獲る。

一連の漁期が一段落した5月の北海道西海岸はニシン製品の売買や、帰郷前に歓楽街へ繰り出す漁師達の喧騒で「江戸にも無い」といわれるほどの賑わいに包まれたという。
さて、現在ニシンというと正月料理に欠かせない「カズノコ」がある。「にしんそば」は、かけそばの上に身欠きニシンの甘露煮を載せたものだ。北海道や京都府の名物料理となっている。しかし、サンマやイワシなどはよく話題になるが、ニシンが大漁だとかはあまり聞くことがない。今はどうなっているのだろうか?
明治30年には97万tもの漁獲高があったニシン漁だが、昭和30年代に入るとわずか100tにまで激減する。現在に至っては1月~3月末で水揚げが1000tを超えたぐらい。最盛期の1/1000しかない。
なぜ、そんなにニシンは少なくなったのだろうか? ニシンが獲れなくなった要因としては、1.乱獲 2.水温の変化 3.森林の伐採 等の理由が考えられているが、一番の理由は乱獲だろう。その証拠に近年の漁獲資源保護や毎年稚魚放流を続けた結果、ここ数年で群れが戻ってきている傾向がみられている。
ニシンがいなくなってしまった状況を表現した歌がある。昭和50年にヒットした石狩挽歌である。2番の歌詞を要約してみると、「かつては100万トン近く獲れたニシンはどこに消えてしまったのだろう。ニシン御殿と呼ばれた建物も今では寂れてしまった。当時はよかった。ニシンが消えてしまったために町の灯は消えてしまった…」という内容だ。
ニシンがコンブの栄養源として寄与すると判明
ニシンがいなくなった海では、コンブなど大型海藻類も少なくなり、1930年頃には消失、それを餌とするウニやエゾアワビ等の生産も減る「磯焼け」という現象が発生するようになった。
アマモなどの海草やコンブ、ホンダワラなどの大型海藻が茂る場所は「藻場」と呼ばれ、多くの生物の棲みか、成育の場として大切であるため海のゆりかごとも言われている。
近年、「藻場」が消えてしまう「磯焼け」の発生が問題となっている。磯焼けという言葉はもともと伊豆半島の方言で、大型の海藻の大部分が沿岸の一部で枯れてしまいウニやアワビなどの漁獲量が激減することを意味する。
磯焼けは北海道から沖縄県まで太平洋岸から日本海岸を問わず日本各地で起こり、その見た目から英語では「海の砂漠」と呼ばれれる。磯焼けが起こると藻場に棲む生物が姿を消すだけでなく、ウニのような水産上重要な生物の水揚げが減るという漁業被害、藻場で光合成により栄養塩が消費されなくなるため環境の汚染が進むなどの問題が起こる。
今回、北海道大学の研究チームは、ニシンのいる海がコンブなどの大型海藻類の生育に関係していることをつきとめた。
北海道大学博物館に保管されている、昔のコンブの成分を調べた結果、大量のニシン産卵群による卵や精液、加工により生じた煮汁等が分解して「栄養塩」となりコンブに吸収されることが「磯焼け」のない豊穣の海には必要だということを発見した。
豊穣の海を取り戻せ!「磯焼け」は最重要課題のひとつ
「磯焼け」は、コンブ等の大型海藻類が消失し、それを餌とするウニやエゾアワビ等の生産が減る現象。北海道日本海では、南西部を中心に磯焼けが著しく、その一因として栄養塩との関連性が指摘されている。一方、19世紀末~20世紀初頭(明治~大正期)には大きくて黒々としたぶ厚いコンブが大量に存在していたと、漁業者により昔から伝えられてきた。しかし、過去の海の栄養状態を説明できる科学データは、これまで存在しなかった。
そこで同研究チームは、コンブは栄養塩を利用して生育するため、昔のコンブ成分を調べれば当時の海の栄養状態がわかるのではないかと考え、北海道大学総合博物館が所蔵する1881年~2014年に北海道周辺海域に分布したコンブ標本を用い、栄養状態に関する情報を含む窒素安定同位体比(14Nと15Nの比率)を調査した。
その結果、1881年~1920年(明治~大正期)にかけて日本海側で生育したコンブのみ、他の年代や海域と比べて窒素安定同位体比が特異的に高い値を示した。このことは、一般に知られる窒素安定同位体比の上昇要因では説明できず、長年言い伝えられてきた仮説「ニシンによる栄養塩供給」との関連性が考えられたという。
そこで、北海道日本海におけるコンブの窒素安定同位体比をニシンの漁獲量変動と比較した結果、窒素安定同位体比が高いほど、漁獲量も多くなっていた。明治~大正期にかけての北海道では、現在の500~1000倍に及ぶ大量のニシンが漁獲され、その90%以上は日本海側のもので、今回示された高い窒素安定同位体比は、大量のニシン産卵群による卵や精液、加工により生じた煮汁等が分解して「栄養塩」となりコンブに利用されたためと考えることが、最も矛盾のない説明だという。
また、当時ニシンは、コンブの最成長期である春に来遊していたため、コンブの成長促進と現存量増大に特に寄与していたことが考えられるということだ。
磯焼けは国内外において解決すべき最重要課題のひとつであり、同研究で磯焼け発生以前の海の栄養状態が明らかになったことは、漁業関係者を長年悩ませてきた磯焼けの要因解明やその対策を検討するうえで重要な知見となるということだ。
海の砂漠!「磯焼け」を防げ
磯焼けとは藻場がなくなること。最近よく起こる磯焼け。その原因はどんなものが考えられる?磯焼けの影響やメカニズム解明は「水産学」のテーマである。
アマモなどの海草やコンブ、ホンダワラなどの大型海藻が茂る場所は藻場と呼ばれ、多くの生物の棲みか、成育の場として大切であるため海のゆりかごとも言われている。
近年、藻場が消えてしまう磯焼けの発生が問題とされている。磯焼けという言葉はもともと伊豆半島の方言で、大型の海藻の大部分が沿岸の一部で枯れてしまいウニやアワビなどの漁獲量が激減することを意味する。
磯焼けは北海道から沖縄県まで太平洋岸から日本海岸を問わず日本各地で起こり、その見た目から英語では「海の砂漠」と呼ばれる。磯焼けが起こると藻場に棲む生物が姿を消すだけでなく、ウニのような水産上重要な生物の水揚げが減るという漁業被害、藻場で光合成により栄養塩が消費されなくなるため環境の汚染が進むなどの問題が起こる。
なぜ磯焼けが起こるのだろうか? 現在のところ、磯焼けの原因は大きく分けて3つある。1つ目は自然環境の変化、2つ目は人間活動の影響、3つ目が植物を食べる動物の影響。
1つ目には、降雨などの一時的な変化と海水温の上昇、海の養分が少なくなるなどさまざまなものが含まれている。特に近年は地球温暖化の影響により海水温が上昇することにより、昔よりも磯焼けが多く、長期的に発生するのではと心配されている。
2つ目の原因ではダムの影響が有名だ。もし雨がたくさん降った場合、推移を調節するためダムの放水が行われる。このとき大量の土砂が海にそそがれるが、このような土砂は海流により流され不安定だ。そのため海底の海草の種子、海藻の動く胞子が流されやすくなったり発芽しにくくなったりする。
3つ目の原因である植物を食べる生物の影響とは、草食性の魚やウニのような無脊椎動物が含まれる。特にウニは藻場と深い関係にあることで有名で、ラッコの数が減ったためウニが大増殖し、コンブの藻場がなくなったというニュースはよく知られている。ウニは卵からふ化したあと海を漂って生活し、変態、着底して赤ちゃんウニとなる。
このプロセスにおいて、大型海藻群落である藻場が作り出すある物質は変態を妨げる。反対に、無節サンゴ藻類と呼ばれる小さな藻類の群落はウニの変態を促す。赤ちゃんウニの数が少ないと食べられる海藻の量は少なくなり藻場の規模は保たれるが、数が多いと食べられる海藻の量が多くなり藻場は小さくなって磯焼けが進む。餌の海藻がなくなりウニは死んでしまうため、藻場がなくなるとウニの漁獲量が激減してしまう。
磯焼けのような問題は水産業に直接影響するのはもちろん、水質汚染にも関係するため水産学や環境学の研究テーマの一つ。いつまでもおいしい魚、貝、ウニを食べたいという人はぜひ水産学や環境学を学んでみてはいかがだろうか。
参考 マイナビニュース: http://news.mynavi.jp/news/2017/07/24/025/
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鰊―失われた群来(くき)の記録 |
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| 北海道新聞社 |
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石狩挽歌 |
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| 徳間ジャパンコミュニケーションズ |


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