1966年のノーベル物理学賞
1966年のノーベル物理学賞の受賞理由は「原子のラジオ波共鳴を研究するための光学的手法の発見および開発」である。
「ラジオ波」というと、ラジオやテレビで使用されている電磁波なのでこう呼ばれている。現代ではWi-Fiなど携帯電話やスマートフォンでも使用されている身近な電磁波「マイクロ波」のことである。
電磁波というといかにも人工のものというイメージを持っている方は多いだろう。 しかし、自然界で電磁波はあふれている。その代表が太陽光。可視光も紫外線や赤外線も電磁波の一種である。また、宇宙から降りそそぐ放射線も電磁波の一種。放射線は、現在のところ唯一人体への害がはっきりしている電磁波である。放射線の一種であるX線はレントゲン撮影にも欠かせない。

このように、生活の一部となっている電磁波であるが、どのように発生しているかは、あまり一般に知られていない。「あるものはある」といった感じであろうか。
電磁波はどのように発生するのだろうか? 実は原子の構造が大きく関係している。
通常の安定した原子は電磁波を放出しない。しかし、原子は核分裂や核融合などでその構造が大きく変化したり、外部から電磁波を吸収すると、原子核の周りを回っている電子の軌道が大きく変化する。
その電子が安定した軌道に戻ろうとするときのエネルギー差により、電磁波(光)が放出される。太陽光がさまざまな周波数の電磁波でできていることは、虹ができるときに七色に分かれることで証明されているが、それほど大きな原子の変化が起きているということを裏づけている。
さて、通常の原子の構造はそのままで、電子だけ軌道を変え、電磁波を発生させるにはどうしたらよいだろうか? それには、その原子や分子に特有の周波数の電磁波(光)を当てればよい。すると、光は一時吸収され、原子・分子内にエネルギーが蓄えられる。この時、電子はエネルギーの高い軌道に励起する。この電子がもとの軌道に戻るとき、同じ周波数の電磁波が放出される。これが「原子のラジオ波共鳴」である。
光学的手法「光ポンピング法」
カストレルが考案した「光ポンピング」法は、光を原子にポンプで水を送るように吸収させることで、原子のエネルギーを低い状態から高い状態に変化させる手法だ。この方法によって外部から励起光を入れることで、単一の周波数をもつ指向性の高い光、つまりコヒーレントな光を取り出すことを「誘導放出」という。カストレルは1950年にこの光ポンピング法を提唱し、その後の実験で確認することに成功した。
光ポンピング法は、その後のメーザーやレーザー研究の基礎となる理論で光の工業的な利用に幅広くつながる重要な研究成果である。またこの手法は、アルベルトアインシュタインがマックスプランクの輻射公式から導いた理論に由来する。
レーザーやメーザーというと、1964年に受賞したチャールズ・タウンズらを思い出すが、「光ポンピング法」は、そのもとになった研究だといえる。授賞が前後してしまったが、後のメーザー、レーザー開発の基礎的な研究だといえる。
誘導放出によってとり出すマイクロ波をメーザー、光であればレーザーという。このレーザーの基本特許は、1981年にノーベル物理学賞を受賞するアーサー・ショーローや1964年に受賞したチャールズ・タウンズの所属するベル研究所が取得していた。
しかし、コロンビア大学のゴードン・グールドが、レーザーを誘導放出で取り出す方法と「レーザー」の名前であることが裁判で認められている。1987年の判決で、莫大な利益と名誉を手に入れたが、ノーベル賞の受賞は逃したままとなっている。
ノーベル賞というと名誉と同時に富も関係する。最近では、青色発光ダイオードの研究で、2014年ノーベル物理学賞を受賞し、名誉と富の両方を得た中村修二氏を思い出す。名誉や富、利権なども多くの会社が存続するためには必要かもしれない、しかし、特許で利権を独占し、科学的な発展を妨げるのであれば、人類全体の福祉に貢献することはできない。難しい問題だ。
アルフレッド・カストレル
アルフレッド・カストレル(Alfred Kastler、1902年5月3日 - 1984年1月7日)は、フランスの物理学者。 1966年に「原子のヘルツ波共鳴を研究するための光学的手法の発見および開発 」によりノーベル物理学賞を受賞した。
オー=ラン県ゲブヴィレールで生れた。高等師範学校で学んだ後、ミュルーズのリセで教師を務めて、ボルドー大学で1941年まで教えた。ジョルジュ・ブルア(Georges Bruhat)の招きで高等師範学校に戻り、1952年に教授になった。
ジャン・ブロッセル(Jean Brossel) と協同で原子と光の共鳴的相互作用を研究し、原子を励起するために光のエネルギーを用いる光ポンピング法を開発した。これはレーザーやメーザーの開発のために重要な技術となった。
カストレールは原子のエネルギー準位の光学的共鳴を研究。ヘルツ波共鳴を観測する方法を発見した。これはレーザー技術の基礎となる「光ポンピング」の原理であり、以後のレーザー開発に大きな貢献を果たしたといえる。
光ポンピングとは、光照射によって高いエネルギー状態に電子を励起し、負温度状態といわれる電子分布を実現する方法である。その他、弱い磁場の測定方法を導き出している。1966年レーザーの発展への貢献によりノーベル物理学賞を贈られる。
レーザー発想の誕生と発展
1917年:レーザーの成り立ちには、アルベルト・アインシュタインが深く関わっている。理論物理学者アインシュタイン(1921年ノーベル物理学賞受賞)による1917年の論文「Zur Quantentheorie der Strahlung(放射の量子論について)」が、レーザー=LASER(=Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)とメーザー=MASER(=Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)の理論的基礎を確立した。
アインシュタインは、電磁波の吸収、自然放出、誘導放出についての確立係数(アインシュタイン係数)に基づいて、マックス・ブランクの幅射公式から新たな公式を導き出す。
1928-1939 その後1928年、Rudolf W.Ladenburgによって誘導放出及び負の吸収という現象の存在が確認され、1939年にValentin A.Fabrikantによって誘導放出を使った「短い」波長増幅の可能性が予言される。
1947年:物理学者 ウィリス・ラムWillis Eugene LambとR.C.Retherfordが水素スペクトルに明らかな誘導放出を発見し、誘導放出をテーマとした世界初のデモンストレーションが行われる。
ラムは水素スペクトルの微細構造に関する研究により、彼もまた1955年にノーベル物理学賞を受賞する。
1950年:アルフレッド・カストレル Alfred Kastrer(1966年ノーベル物理学賞受賞)は、原子と光の共鳴的相互作用を研究し、原子を励起するために光を用いる「光ポンピング法」を提案し、数年後にこれをJean Brossel、Winterと共に開発することに成功。
これが後のメーザーやレーザー開発の際に重要な技術となる。 同じ頃、物理学者のジョセフ・ウェバー Joseph Weberhaは、AとBのアインシュタイン定数がメーザーやレーザー という電磁波増幅器を作れば、使えることに着目する。
1952年: カナダ・オタワでの無線学会でその見解を発表し、量子エレクトロニクスの基礎となる公開文献を出版することに成功。彼はその後「初期のメーザーへと導く考え方の理解」に対する功績で認められ、メーザーやレーザーの実用開発へと導いた量子エレクトロニクスの先駆者として名を残している。
1951年: アメリカの物理学者 チャールズ・タウンズ C. H. Townesはアンモニアガスを媒体とする装置の開発を開始し、その後時を経て1954年に誘導放出による電磁波の発生と増幅を初めて得る。
タウンズはこれを「MASER(Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation=放射の誘導放出によるマイクロ波増幅)」と名付け、1954年に、義弟であり同じく物理学者であるアーサー・ショーロー Schawlowと共に、電波の一種 マイクロ波を強力にまっすぐに送り出す装置である「アンモニア分子線メーザー」を開発した。
1958年にはメーザーを可視光や赤外線の範囲でも実現できることを理論的に示し、具体的にどのようなシステムで実現できるかを提案した。これがレーザー=LASER(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation 放射の誘導放出による光増幅)」に関する最初の論文だ。
アメリカ人物理学者セオドア・メイマン Theodore Harold Maimanは、タウンズの理論に基づき、1955年にメーザーの研究を始めた。
1960年:1960年5月16日GMのヒューズ研究所でルビーの結晶を使い、光を強力に直線的に送り出すレーザー発振装置=世界初のルビーレーザーを発明することに成功。これが近代レーザーの発祥となる。
1960年代には、アメリカ人皮膚科医 レオン・ゴールドマンがルビーレーザーを使って、世界で初めて子供の血管腫を治療した。発明後レーザーは応用/適応範囲、医療では治療範囲を着々と広げ、いつしか「近代科学史上最も大きな発明の一つは、人工の光レーザーである」と言われるようになる。
1980年代:レーザーの医学への応用が飛躍的に進み、1.生体情報取得への応用(Optical Coherence Tomography等)レーザー光をセンシングプローブとして「NMR」など、さまざまな情報を得る道具が開発される。→単位周波数(波長)に対する高い精度 =時間的コヒーレンスの利用
2.生体切除術・改質への応用(Laser Surgery等)→波長程度の大きさに集束出来、高いエネルギー密度 =空間的コヒーレンスの利用といった分野でレーザーが活躍することになる。
参考 Nobelprize.org
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レーザー技術入門講座―光の基礎知識とレーザー光の原理から応用技術まで |
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