羽毛恐竜の抱卵温度、ニワトリと同程度
恐竜はどうやって仲間をふやしたのだろうか?
オウムに似たくちばしを持つ二足歩行の羽毛恐竜に、現生鳥類と共通の特徴が羽毛意外に一つあったとする研究論文が2017年6月に発表されている。それによると、この羽毛恐竜は卵を抱き、ニワトリと同じくらいの温度に温めていたという。
学術誌「古生物学(Palaeontology)」に掲載された論文によると、ダチョウほどの大きさのこの恐竜は、鳥類の祖先とされる獣脚類のオビラプトルで、卵をふ化させるために35~40度に温めていた。これは、現代のニワトリの37.5度と同程度だ。
中国とフランスの研究チームは、約1億年~6600万年前の白亜紀後期に生息していたオビラプトルの卵7個の殻と胚の骨の酸素原子を測定・分析した。論文の共同執筆者で、フランス国立科学研究センター(CNRS)の古生物学者、ロマン・アミオ(Romain Amiot)氏は、今回の分析法で抱卵中に胚形成が進む期間の温度が明らかになったと説明する。
恐竜が恒温動物か変温動物かは、科学の長年の謎となっている。2015年に発表された研究では、恐竜はそのどちらでもなく、両者の中間に位置づけられる存在だったことが示唆された。その研究によると、恐竜は体内で熱を発生させ、体温を上げることはできたが、現代の恒温動物のように体温を常に高いレベルに維持するのは不可能だったとされる。
今回、名古屋大学の田中康平特別研究員や北海道大学などは、恐竜の巣の化石を詳しく分析し、どのように卵を温めていたかを推定した。そして、卵の化石に含まれる岩石の成分を分析した。その結果、冷涼な気候の北極圏では、植物が発酵するときに出す熱を利用していた可能性があることが判明した。
この方法ならば、変温動物であっても、巨大な体重で卵を押しつぶすことなく、なかまを増やすことができる。
発酵熱で卵を孵す「ツカツクリ」
現代の恐竜の子孫とされている、鳥類の中にも卵を抱卵しない鳥がいる。
それは、ツカツクリ科(Megapodiidae)の鳥である。ツカツクリ科は、鳥綱キジ目に属する科。アメリカ合衆国(マリアナ諸島)、インド(ニコバル諸島)、インドネシア、オーストラリア、トンガ、バヌアツ、パラオ、フィリピンに生息する。
全身は黒や褐色の羽毛で覆われる。種によっては頭部に羽毛がなく皮膚が露出し、ニワトリのような鶏冠や肉垂がある。
普通の鳥は自分で卵を抱いてあたためるが、ヤブツカツクリは塚を暖め、手段は仲間によって様々だ。落ち葉が腐る時に出る熱や火山による地熱を利用したり、海岸の砂に穴を掘って太陽熱で卵を温める種類もいる。ヤブツカツクリの仲間は大きな塚を作ってその中で卵を産む。
塚は何度も使用されていくうちにどんどん大きくなり、直径が5m以上になることもある。だいたい塚の内部の温度は33度から36度にほぼ安定しており温度が上がりすぎると風を通し、下がると落ち葉を積み上げて温度調節をする。
ヤブツカツクリの大きさは体長が70cm前後で体重は重い個体で3キロ前後。基本的に果実や木の実や虫を食べて生活をしている。
寒い地域の恐竜たちが卵をかえす「発酵熱」を使う方法
恐竜は爬虫類(はちゅうるい)だ。もちろん今もワニやヘビ、トカゲなどさまざまな爬虫類はいるが、恐竜は今から6600万年ほど前に滅びてしまった。巨大な隕石が地球に衝突したことが原因とされている。滅びてしまったから、恐竜の生態を生きた状態で観察することはできない。だから、今も謎が多い。
大きな謎のひとつは、かなり高緯度の寒い地域にも恐竜がいて、卵をかえしていたらしいことだ。北極圏のシベリアで、卵の化石が見つかっているのだ。卵は冷えると死んでしまう。そんな寒い気候の地域で、無事に卵はかえるのか。暖かい地域の恐竜とは、卵のかえし方にも、なにか違いがあるはずだ。
世界中に分布していた恐竜たちがいろいろなタイプの巣を作って卵を温めていたことは、巣の化石から分かっている。現在のウミガメのように、地面に穴を掘って埋める方法。地面に盛り土をして、その中に卵を入れておく方法。そのほか、鳥のように卵を抱いていた恐竜もいたらしい。これらの方法は、具体的になにがどう違うのか。それが分かれば、恐竜が自分の子を残す繁栄戦略の謎に迫ることもできる。
現代に生きる「恐竜のなかま」を調べてみる
この疑問に答えるには、今も生きている恐竜の仲間を調べるのが有効だ。ワニの仲間は恐竜の直接の子孫ではないが、「主竜類」と呼ばれる同じ仲間だ。そして鳥類。鳥類は恐竜が進化した直接の子孫で、これも主竜類だ。
そこで、名古屋大学博物館で研究している日本学術振興会特別研究員の田中康平(たなか こうへい)さんらの国際研究グループは、ワニや、親鳥が抱卵しないツカツクリという鳥の仲間に関するこれまでの研究を調べた。いずれも、地中や盛り土に卵を産む。その結果、盛り土には植物などの有機物が交じっていることが多く、地面に穴を掘った巣の卵は砂に囲まれていることが多かった。
土に有機物が交じっていると、発酵して熱が出る。畑の肥料にするため牛のふんを積み上げておくと、発酵で発熱して湯気が出るのと同じだ。田中さんらが調べたところ、この発酵熱を使うタイプの巣の温度は、平均すると周囲の気温より7.3度も高かった。一方で、地中に穴を掘って埋める砂タイプの巣には、太陽熱や地熱を利用して温度を上げるものが多く、太陽熱を利用する場合だと、気温より平均で3.9度高かった。発酵を利用するタイプの巣のほうが、卵を温める効果がはるかに高いのだ。
太陽熱・地熱・発酵熱を利用する
田中さんらは、こうして得られた現在のワニや鳥についての結果を、これまでに見つかっている恐竜の巣の化石に当てはめてみた。たとえば、子どもたちにも人気のブラキオサウルスに代表される首の長い巨大恐竜「竜脚形類」の中には、巣の化石がおもに砂岩から見つかる種類がいて、これは太陽熱や地熱を利用していたらしい。
土の発酵熱を使うタイプには、別の竜脚形類やハドロサウルス類がいたようだ。また、鳥のように卵を抱いて温めた可能性が指摘されているオビラプトルサウルス類やトロオドン科の恐竜は、砂にも土にも巣を作っていたらしい。どのみち抱いて温めるので、地面の種類はあまり関係なかったとみられる。
太陽熱を使う砂主体の巣は、あまり加温効果が高くないので、暖かい低緯度から中緯度にかけての地域に向いている。それに対して、発酵熱や地熱を使う巣を作る恐竜や抱卵する恐竜は、極域の寒い地域でも卵をかえせたはずだ。
実際に、北極圏のシベリアからは、抱卵や発酵熱で温めていたらしい卵の化石が見つかっている。恐竜が栄えた白亜紀後期(6800万~6600万年前)は、現在より気候が温暖だった。それに加えて抱卵や発酵熱で卵を守ったことで、恐竜たちは北極圏まで進出することができたらしい。「巣のタイプ」は、恐竜がどのように世界に広がっていったのかを考える新たな視点だという。
現代の北極圏などのように寒い地域で恐竜がいたとは、考えにくいが、極寒の地「南極」でも抱卵する「皇帝ペンギン」がいる。可能性はある。
参考 サイエンスポータル: http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/03/20180328_01.html
大人の恐竜図鑑 (ちくま新書) | |
クリエーター情報なし | |
筑摩書房 |
世界恐竜発見地図 (ちしきのぽけっと) | |
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岩崎書店 |
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