宇宙初期に反物質が消えたのはなぜか?
物質を分解していくとどうなるか? そう、分子や原子に分かれていき、さらに、陽子・中性子・電子にまで分かれていく...。中学校や高校ではその程度までしか学ばないが、現代ではさらに細かく分析されていて、分子や原子は様々な小さな粒子が集まってできていることが分かっている。
2013年ノーベル物理学賞の「ヒッグス粒子」や2015年ノーベル物理学賞の「ニュートリノ」や2017年ノーベル物理学賞の「重力波」などは物質を細かく観察してわかった素粒子と呼ばれるものが関係している。
次なる目標の一つが「反物質」の謎の解明である。
約137億年前の宇宙誕生時、ビッグバン(Big Bang)によって物質と反物質の粒子が対を成して生成された。物理学の通説ではそうなっている。物質と反物質が出会うとエネルギーを発生して、消える「対消滅」が起きるとされる。
だが、現在の宇宙で見ることができる、地球上の小さな昆虫から宇宙にある巨大な星までのあらゆるものは物質の粒子でできており、それと対を成す反物質はどこにも見つからない。
現代科学理論によると、宇宙の成り立ちは人が見たり触れたりできる、全てのものを作り出している通常「物質」が、宇宙の4.9%を構成しており、他の物体に及ぼす重力の作用によってのみ検出される謎の物質「暗黒物質(ダークマター)」が宇宙の26.8%、「ダークエネルギー」が残りの68.3%を構成するという。いったい「反物質」はどこへ行ってしまったのだろうか?
反物質「消滅」の謎、解明に一歩前進 CERNチーム
欧州にある巨大な地下素粒子実験施設の物理学者チームは4月4日、実験室内で作った反物質の粒子「反水素原子」の前例のない観測を通じて、この謎の解明に一歩近づいたとする研究結果を発表した。
2013年のノーベル賞を受賞した「ヒッグス粒子発見」。この発見に貢献したのが、欧州合同原子核研究機構(CERN)の加速器(LHC)である。
CERENの「ALPHA(Antihydrogen Laser Physics Apparatus)」実験チームのジェフリー・ハングスト(Jeffrey Hangst)氏は「われわれが探究しているのは、通常物質の水素と反物質の反水素が同じように振る舞うかどうか(を確かめること)だ」と話す。
挙動にほんのわずかでも違いが見つかれば、物質と反物質の見かけ上の不均衡を説明する助けになるばかりか、宇宙を構成する基本素粒子とそれらを支配する力を記述する物理学の主流理論「標準模型(Standard Model)」が揺るがされる可能性がある。
だが、ややがっかりなことに、今回の最新研究の「これまでで最も高精度の実験」でも、水素原子と反水素原子の挙動に違いは見つからなかった。目に見える宇宙の構成要素と挙動を記述する標準模型は、反物質の「消滅」を説明できない。
ビッグバンでは、質量が同じで電荷が逆の粒子と反粒子のペアが生成されたと広く考えられており、粒子と反粒子が出会うとエネルギーだけを残して消える「対消滅」が起きるとされる。
物理学では、ビッグバンの直後に物質と反物質が反応して崩壊する現象が実際に起きたと考えられている。そうであれば、現在の宇宙には残されたエネルギー以外は何もないはずだ。
にもかかわらず、科学者らによると、人が見たり触れたりできる全てのものを作り出している通常物質が、宇宙の4.9%を構成しているという。他の物体に及ぼす重力の作用によってのみ検出される謎の物質「暗黒物質(ダークマター)」が宇宙の26.8%、ダークエネルギーが残りの68.3%を構成する。
手が届くところに「反水素」分析
ALPHAの物理学者チームは、通常物質の最も簡単な原子の水素を用いて反物質の謎の解明を試みている。水素は陽子1個の周りの軌道に電子が1個存在する。
チームは、CERNによる高エネルギー粒子の衝突で発生した反陽子を捕捉し、(電子と対を成す反粒子の)陽電子と結合させて、水素の反粒子を生成する。生成される反水素原子は、通常物質と接触して対消滅してしまわないように、磁気トラップに閉じ込め、この状態の反水素原子にレーザー光を当てて反応を調べる。
原子は物質の種類によって異なる振動数の光を吸収するため、主流理論に基づけば、水素と反水素は同じ種類の光を吸収する──そしてこれまでのところ、その振動数に違いはみられない。
だが、実験の精度が高まるにつれて、両者の違いが現れるに違いないと研究チームは期待している。
「現在の精度はまだ通常の水素の精度には及ばないが、ALPHAの急速な進歩は、反水素(の測定)で水素と同レベルの精度の実現に今や手が届くところに来ていることを示唆している」と、ハングスト氏は話した。(AFPBB News)
加速器とは何か?
荷電粒子(陽子、電子、陽電子など)を光の速度近くまで 加速し、高いエネルギーの状態にする装置である。加速器は、素粒子物理学、物質構造科学、生命科学などさまざまな最先端の研究に用いられるほか、医療用にも利用されている。磁場や電場の力により、荷電粒子の運動を制御し加速する。
日本には、基礎的分野として、1.東北大学電子光理学研究センター(旧原子核理学研究施設)2.東北大学サイクロトロンRIセンター 3.高エネルギー加速器研究機構 4.理化学研究所 5.仁科加速器研究センター 6.大阪大学核物理研究センター 7.京都大学化学研究所 8.九州大学粒子物理学講座 9.J-PARC などがある。
医学応用分野としては、放射線医学総合研究所。放射光研究分野としては、1.SPring-8 2.分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR-II) 3.兵庫県立大学高度産業科学技術研究所(NewSUBARU) 4.広島大学放射光科学研究センター(HiSOR) 5.佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター(SAGA-LS) 6.立命館大学SRセンター 7.SACLA(X線自由電子レーザー施設)などがある。
このうち、高エネルギー加速器研究機構(KEK)に設置されている電子・陽電子衝突加速器「KEKB(ケックビー)」は、衝突部にはベル測定器が置かれ、CP対称性の破れの研究が行われている。B中間子が大量に生成されることからBファクトリーとも呼ばれる。
ルミノシティが大きいと衝突が起きやすい
KEKB は衝突型加速器(Colliding machine)のひとつである。この型の加速器では、二つのビーム(KEKB の場合は電子のビームと陽電子のビーム)を衝突させて素粒子物理学の実験を行う。
実験中にはいろいろな素粒子反応が起きるが、ある特定の反応に注目する時、その反応のおきる度合いは物理法則で決まる。この「反応のおきる度合い」を物理学の言葉で断面積(cross section)と呼ぶ。多くの教科書ではこの断面積を σ と言うギリシャ文字で表している。
さて実際の実験の現場では、ある単位時間に注目する素粒子反応がおきる回数、これをYとすると上に説明した断面積 σ に比例する。この時の比例定数をルミノシティと言い、よく L の文字で表される。以上のことを式で表すと
Y = L σ となる。
ルミノシティは、大雑把に言って、1.ビームの中にいくつの粒子が存在するか、2.互いにぶつかるビームがその衝突点でどれだけ細くなっているかで決まる。
この式からわかるように、より多くのデータをためて現象を調べるためにはルミノシティは非常に大切なパラメータで、これが如何に大きくできるかで衝突型の加速器の価値が決まると言っても過言ではない。ルミノシティが高いほど、たくさんの衝突が起こるということだ。
KEKB のルミノシティは当初の設計値よりも、2005年2月には当初の約1.5倍、2006年秋には約1.7倍と、ルミノシティの最高値を更新しつづけている。
世界最高の衝突性能を目指す加速器「SuperKEKB」が始動
2018年3月23日、高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市、KEK)は22日、機構内にある大型加速器「スーパーKEKB」が本格稼働した、と発表した。4月にも誕生直後の宇宙を模した環境をつくる実験を開始する予定で、宇宙の成り立ちの解明を目指す国内最大級の大型加速器の実験成果に期待が寄せられている。
スーパーKEKBは、地下10メートルにある1周3キロの日本最大の大型円形加速器。2010年まで運転を続けた前身のKEKBを大幅に性能向上させるために同年から高度化改造し、16年春にはほぼ完成。17年4月に素粒子が崩壊する様子を捉えることができる「ベルⅡ」測定器が設置された。素粒子の一種の「電子」と電子の反物質である「陽電子」が真空パイプの中で加速されて衝突する頻度を、従来の加速器「KEKB」の約40倍高め、衝突速度はほぼ光の速さまで加速できるようになった。
宇宙が誕生した直後は宇宙空間の「物質」と、それらの物質と電気的な性質が逆の「反物質」が同じ数存在したと考えられている。しかしその後なぜ反物質は減り、物質だけが残ったかは、宇宙物理学の大きな謎となっている。KEKBは2008年のノーベル物理学賞を受賞した小林誠、益川敏英両氏の理論が正しいことを実証する実験に用いられた。
スーパーKEKBを使った研究には日本を含む世界20カ国以上の700人以上の研究者が参加する予定だ。
参考 サイエンスポータル: http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2018/03/20180323_01.html
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反物質―消えた反世界はいまどこに?究極の鏡の謎にせまる |
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Newton 反物質の謎 |
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株式会社ニュートンプレス |
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コメント一覧 (1)
下記のURLを参照していただければと思います。
日本放射光学会(この中で「東京大学物性研究所軌道放射物性研究施設」はSPring-8にビームラインを設置していますが、独自の加速器施設は持っていません。)
http://www.jssrr.jp/link/kokunai-j.html
文科省資料(この中ではSACRAは放射光でないということで対象になっていません。)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/022/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/07/01/1348612_01.pdf