宇宙全体のブラックホール
ブラックホールは宇宙にいくつあるのだろうか?
ブラックホールは、重たい星と同じくらいたくさんある。というのは、重たい星が爆発するとブラックホールができるからだ。太陽よりも8倍以上重たい星は、燃え尽きると爆発する(超新星爆発)。爆発が起きると、とても密度が高い(小さいのに重たい)天体が最後に残る。
ブラックホールは、密度が極限にまで高くなった天体。特に重たい星(太陽の数十倍以上)が超新星爆発をおこすと、ブラックホールが残る。これほど重たい星は、1000万年もしないうちに必ず爆発してブラックホールになるので、宇宙には、重たい星の数ほどブラックホールがあることになる。 また、たいていの銀河の中心には、太陽の百万倍以上重たい超巨大ブラックホールがある。この超巨大ブラックホールは銀河と同じ数だけ存在すると考えると、観測できる範囲内に1000億個以上はある。
今回、私たちの銀河系(天の川銀河)の中心付近に、多数のブラックホールが集まっていることが明らかになり、学術誌「ネイチャー」に発表された。
この発見は、これまで考えられていたよりはるかに多くのブラックホールが銀河系全体に分布している可能性を示唆している。重力波と呼ばれる時空のさざ波の解明にも役立ちそうだ。
いて座A*は超大質量ブラックホール
銀河系の中心に怪物級のブラックホール「いて座A*」が潜んでいることは、ずっと前から知られている。いて座A*は、地球から太陽までの距離ほどの狭い空間に、太陽の400万倍以上の質量が詰め込まれた、コンパクトな天体だ。
科学者たちは以前から、銀河系では約2万個の小さなブラックホールが軌道運動しているのではないかと考えていた。けれどもブラックホールはその名が示すように、直接観測するのは非常に困難だ。
この困難を克服するため、ある天文学者のチームは、ブラックホールと恒星が強く結びついている「ブラックホール連星」に目をつけた。こうした連星では、恒星の物質が超高密度のブラックホールに落ち込んでいて、渦を巻くガスがブラックホールのまわりに降着円盤を形成している。超高温のガスの円盤はX線を放出し、天文学者はこのX線を検出することができる。
米コロンビア大学のコロンビア天体物理学研究所に所属する天体物理学者で、今回の論文の筆頭著者であるチャック・ヘイリー氏は、「今回発見されたブラックホールは氷山の一角です」と言う。「私たちがブラックホールを見つけるには、こうした痕跡を探すしか方法がないのです」
見えないブラックホール
研究チームは、いて座A*から約3光年内と近くにあるブラックホール連星で、その運動から、いて座A*に落下しつつあると思われるものを探した。
「長い目で見ると、超大質量ブラックホールには小さなブラックホールが次々と落下しているのです」とヘイリー氏は言う。
天文学者たちは、銀河系内に散在するブラックホールより、中心の巨大ブラックホールの周りに群がるブラックホールの方が、数が多いのではないかと考えている。今回の発見に基づき、研究者たちは、銀河系にブラックホール連星が約500あり、ブラックホールは合計約1万個あると見積もっている。
彼らは、降着円盤をもつブラックホールで、かつ観測できるものは全体のごく一部であると仮定して、この結論に至った。
「あなたがサッカー場にいて、100ワットの電球と10ワットの電球が周囲にたくさん置いてあると想像してみてください」とヘイリー氏は言う。この電球を、1マイル(約1.6km)離れたところにばらばらに置いてもらう。「100ワットの方はまだ見えるでしょうが、10ワットの方は見えないでしょう。けれども、100ワットの電球と10ワットの電球の比率が分かっていれば、1マイル離れた100ワットの電球の光を見て、その周囲に10ワットの電球が何個あるかがわかります」
今回の研究は、ブラックホールの20個に1個が連星になっているとする理論に基づいている。しかしヘイリー氏は、たとえこの理論が完璧なものでなくても、銀河系には、これまでに見つかっている60個よりはるかに多くのブラックホールがあるだろうと考えている。
「理論が間違っていて、ブラックホール連星の割合が2桁も3桁も違っていたとしても問題ありません。ブラックホールが1000個あるなら、1個もないよりはるかにすばらしいことだと思います」
重力波研究の実験室に
銀河系の中心には地球から最も近い超大質量ブラックホールがあり、その周囲は密集する天体間の相互作用を知るのに理想的な実験室になっている。
ヘイリー氏は、今回の発見は重力波の研究にも関わってくると指摘する。重力波は、巨大な天体どうしの衝突といった激しい天体現象に伴って生じる時空のさざ波だ。ブラックホールの個数が明らかになれば、ブラックホールから来た重力波がどれで、どのような過程で発生したかを推定するのに役立つだろう。
「天体物理学者が必要とするものはすべて銀河系の中心にあるのです」とヘイリー氏は言う。
天の川銀河のブラックホール
天の川銀河の中心はいったいどうなっているのか。地球から2万6000光年ほど離れた、いて座の方角にあり、可視光でも、赤外線でも、その位置を目で直接見て確かめることはできない。その方角と地球との間には高密度の星雲や星間塵(せいかんじん)を含んだ渦巻腕が横たわり、銀河の中心には年老いた赤や黄色の星が無数にひしめいていて、視界を遮っているのだ。
いうなれば、天の川銀河全体をまとめているのは、こうした恒星たちの重力だ。だとしたら、銀河の中心部分は何がまとめているのだろう。銀河の中心部周辺にある不思議な天体と、そこで起こっている激しいプロセスの正体がやっとわかり始めたのは、1990年代になってからのことだ。
天の川銀河をはじめとする銀河は、中心部に物質が高密度で集まり、巨大な固まりを作っている重力によって形をなしているのだと天文学者たちはある時期、予測していた。中心部にある恒星は、楕円軌道を描いている。その軌道は銀河の平面に対して大きく傾いており、銀河円盤の上にある恒星の軌道と比べると、あまり秩序立ってはいない。重なり合った軌道の効果が累積し、中心部は平たいボールのようになっている。しかし、見るからに混然としていているこの中心部分の領域にある天体はすべて、この中心部分の中でも比較的小さい領域を中心に、公転する軌道をもっているようだった。
1974年にこの領域を初めて電波で探査したときには、いて座Aという名で広く知られている、電波発生源のグループを発見した。そのうちの一つ、いて座Aイーストは泡状の高温ガスで、おそらく膨張している超新星の残骸だと考えられている。
一方、いて座Aウエストは、銀河の中心部分に向かって落下しつつあるガスでできた見事な三つの渦巻腕をもち、その形状は二つの高密度の巨星星団からの放射によって作られていた。
どちらも比較的短時間の「スターバースト」からできたと考えられている。このスターバーストは、天の川銀河の中心からほんの100光年ほどしか離れていない位置で、独特の条件がそろったときにガスが大規模に圧縮して起こったと考えられている。
いて座Aイーストの中心部にはほかに、第三のコンパクトな電波発生源、いて座A*(スター)が埋もれている。この天体はまた別の大質量星団の中に横たわっていた。どうやらそのあたりがちょうど天の川銀河の心臓部であり、なおかつ天の川銀河のど真ん中に横たわる巨大質量のブラックホールがある位置でもあるらしかった。
目に見えない心臓部「いて座A*」
いわゆる活動銀河の中心部分に高密度・大質量の天体があることは、1950年代には予測されていた。これがブラックホールだと天文学者たちが考えるようになったのは、1970年代になってからだ。当時ですら、ブラックホールがこれほどまでに巨大に成長するメカニズムを疑う声は多かった。
1980年代になってようやく、天の川銀河の中心部に近いところを通る恒星の軌跡を詳しく求めてみると、核がどれだけコンパクトであるかがわかった。そのため、天文学者たちは天の川銀河の中心部分にも、これと似たようなモンスターが潜んでいるのではないかと考えるようになった。
いて座A*が実際、とてつもなく大きなブラックホールであることを裏づける有力な証拠は、1998年に得られた。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアンドレア・ゲッズが、ハワイ島のマウナケアにある巨大なケック望遠鏡を使って、天の川銀河の中心部に極めて近い位置にある動きの速い恒星を観測した。
くっついて見えるほど近い距離にある恒星を個別に解像し、その動きを求める新しい技術が開発されていた。ゲッズはそれを利用して、どの星も中央にあるとおぼしき目に見えない天体の周囲を最大秒速1万2000kmで巡っていることを突き止めた。この天体は小さく見積もっても太陽質量の370万倍あり、ほんの数光年ほどの幅の領域に集まっていた。
2002年、チリにある超大型望遠鏡(VLT)を使った測定によって、ブラックホールの質量を巡る謎は解決に向けて大きく動いた。銀河の中心にあるブラックホールから17光時間(光の速度で17時間)または120天文単位という狭い範囲の周囲を、S2という名の恒星が15年の軌道周期で移動しているのを、ドイツのマックス・プランク地球外生物研究所に所属するライナー・ショーデルが中心となったチームが発見した。
その後10年の間にこの恒星の動きに関する観測はさらに行われ、ブラックホールの質量はだいたい431万±38万太陽質量の範囲にまで絞り込まれた。
参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/040600154/
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