ヤブニッケイという植物
ヤブニッケイという植物をご存じだろうか...?近畿地方から沖縄かけて、野山で普通に見られるクスノキの仲間で、花や実に特徴がないためあまり目立たない木だが、葉が密生することや性質が丈夫であることから、目隠しや防風など実用的な目的で植栽されることが多い。
葉は裏面が白く、クスノキ科独特の芳香がある。臭みを消すため、魚料理にこの葉を使う地方もあるという。雌雄異株でメスの木には黒い果実ができる。鳥が好んで食べるこの果実からは蝋燭などに使う油を採取できる。
2017年5月、小笠原諸島、母島の世界自然遺産の森の奥深くで、ヤブニッケイの木の幹から伸び出しているニョロニョロとした謎の物体が発見された。写真はSNSで拡散。ネットでは「謎の物体」として話題になり、「キノコ?」「寄生虫?」、はたまた「宇宙植物?」などと、さまざまな臆測やおもしろがる声が飛び交った。
このニョロニョロの正体は何だろうか?研究グループの調査で明らかになりつつある。一方、依然として謎も残っている。
実はこのニョロニョロは、「ヤブニッケイもち病」。
八丈島にあるヤブニッケイは「ヤブニッケイもち病」に罹ることがあり、これは同島にのみ見られる菌類によるもの。 ヤブニッケイの樹皮から鹿の角のような突起が生じる奇病で、これまで世界で唯一、八丈島でのみ確認されていた。梅雨に発生が見られるが、時期が終わるときれいさっぱり角を落とす。ツイッター上では、とりわけそのグロテスクな外見が話題を呼んでいた。
キノコ?寄生虫?
母島での採取の様子(去年 このニョロニョロが見つかったのは去年5月。世界自然遺産に登録されている東京都の小笠原諸島の母島で、固有種の植物、「コヤブニッケイ」の幹から、鹿の角のようなものが突き出ているのを島のレンジャー(自然保護指導員)が発見、SNSに投稿し、話題になった。
あれから約10か月。その正体はどこまでわかったのか。調査を行ったのは、法政大学生命化学部応用植物科学科・植物医科学センターの廣岡裕吏専任講師らの研究グループ。
ヒントは母島から北に約700キロ離れた同じ東京都の八丈島にあった。八丈島では1980年代に、今回のニョロニョロと似た病気が確認されていたからだ。
その名前は「ヤブニッケイもち病」。母島の「コヤブニッケイ」と同じクスノキ科の「ヤブニッケイ」の幹や枝から、角状の突起物が生えていた。
この突起物は菌類に感染したことで、植物の一部が変形したもので、世界でも八丈島でしか見られないもの。研究グループは、今回見つかった突起物と八丈島の突起物について、形状のほか、遺伝子の配列を詳しく調べて比較した。
今回のものは、採取したサンプルの状態がよくなかったため、完全な解析はできなかったが、それでも両者が極めて高い確率で同じものと見られることがわかった。
今回、母島で見つかったのは、八丈島の「ヤブニッケイもち病」と同じく、菌類に感染してできた突起物である可能性が高まった。
世界で2例目か?
このように植物に菌類が感染してこぶのようなものができる病気は、広く「もち病」と呼ばれている。これ自体は、ツツジなどさまざまな植物に見られる一般的な病気で、名前のごとく、お餅のようにぷっくりと丸くなるのが特徴である。
しかし、今回、母島で見つかったものは全く違い、角のような形状。八丈島に次ぐ世界で2例目となる。
残る大きな謎は…
しかし、まだ大きな謎が残されている。2つが同じだとしたら、小笠原で見つかったものは、はたして700キロ離れた八丈島からやってきたものなのか、という点である。
仮説(1) 風
菌類の生態などが専門の三重大学生物資源学研究科の白水貴助教によると、菌が移動したと仮定した場合、まず、考えられるのが風。
この菌類はキノコと同じように胞子を飛ばして繁殖する。胞子は極めて小さいので、一般的には風に乗った場合、700キロ程度の距離であれば、移動する可能性は十分にあると言う。
一方、気象庁に取材してみると、日本列島の南海上、八丈島から小笠原諸島にかけては、700キロもの距離を吹くような強い風は確認されていないということで、疑問は残る。
仮説(2)鳥・虫
鳥や虫が運んだ可能性も考えられる。白水助教によると、カビやキノコなどの場合は、鳥や虫が食べたりすることで、胞子が運ばれるといったケースはありえると言う。
ヤブニッケイでは、突起物の中から虫が見つかったという報告はあるようだが、詳しいことはわかっていない。
仮説(3)人
人の体に付着したり、持ち込んだ植物や土に混入して運ばれた可能性も考えられる。八丈島と小笠原諸島は、ともに東京都の自治体で、人の行き来はある。
しかし、今回見つかった場所は、母島のなかでも人の立ち入りや植物の採取が厳重に制限されている国立公園の特別保護区。島の中でも、この場所だけでしか見つかっていないことからも可能性が高いとは言えない。
いずれの説にしても、今の段階では、根拠とすることができるようなデータや情報はない。
貴重な固有種は大丈夫?
研究グループは今回の研究成果を2018年3月25日から神戸で始まる「日本植物病理学会」の大会で発表した。
そこでは鹿の角のような形状になるという実態にあわせ、「コヤブニッケイ角もち病」と命名するとともに、八丈島の病気についても「ヤブニッケイ角もち病」に変更することを提案した。
今後、研究グループは、ことし新たに母島で採取したものを解析し、母島と八丈島のものが完全に同じか確認するとともに、貴重な固有種であるコヤブニッケイにどの程度、悪影響を及ぼすのかなども詳しく調べることにしている。
ニョロニョロの正体。完全にスッキリしたとは言えないが、いつかすべての謎が明らかになるのを期待したい。
参考 NHK news: http://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/800/294826.html
ヤブニッケイ H500~700mm 200本 | |
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