生物発光とは何か?

 生物発光とは、生物が光を生成し放射する現象である。化学的エネルギーを光エネルギーに変換する化学反応の結果として発生する。ケミルミネセンスのうち生物によるものを指す。生物発光はほとんどの場合、アデノシン三リン酸(ATP)が関係する。この化学反応は、細胞内・細胞外のどちらでも起こりうる。

 生物発光はルミネセンスの一種である。「冷たい発光」とも言われ、放射する光の20%以下しか熱放射を起こさない。 生物発光を蛍光や燐光、光の反射とは異なる。発光は暗黒条件下で生物のエネルギーによって光を放つものである。たとえばヒカリモやヒカリゴケは反射光を強く放つものであり、発光ではない。

 2008年のノーベル化学賞の受賞対象となった緑色蛍光タンパク質(GFP, Green Fluorescent Protein)は、1960年代に下村脩博士によってオワンクラゲから発見された。このタンパク質は蛍光であり、発光ではない。



 生物発光の仕組みは、化学反応によるもので、ルシフェリン - ルシフェラーゼ反応と呼ばれる。発光する生物の多くは、これを自力で合成するが、発光する生物を共生させ、それによって光るものもある。

 今回、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエンジニアが、ケールやクレソン、ホウレンソウなどを使った実験で植物を光らせることに挑戦。クレソンの葉にナノ粒子を埋め込むことで、3時間半にわたり弱い光を生み出すことができると突き止めた。

 この研究ではまず、葉をナノ粒子の溶液に浸し、次に高圧にさらす。これにより気孔と呼ばれる小さな穴から葉の中に粒子を浸透させる。

 葉の中に入り込んだナノ粒子はルシフェリンと呼ばれる発光性の化合物と、ルシフェリンに作用してこれを光らせるルシフェラーゼという酵素を放出する。こうして、植物の代謝それ自体により光を生み出した。


 「光る植物」の開発が進められている

 人間と植物のつながりは長年にわたり科学的な関心の対象となってきた。最近の研究ではポジティブな効果が明らかになっている。

 米オハイオ州ヤングスタウンで実施された研究では、市内の緑豊かな地域で犯罪が比較的少ないことが判明した。別の研究によれば、職場に観葉植物が飾られている場合、従業員の生産性が15%上昇することが分かったという。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)のエンジニアはこれをもう一歩押し進めた。多様で、風変わりでさえある機能を担わせるため、植物の組成に改変を加えたのだ。

 こうした植物の中には、葉に印刷されたセンサーが水不足を伝えるものや、周囲の3次元画像を記録して送信できるものがある。さらに、爆発物に使用される化学物質を地下水内で検知できる植物もある。

 一連の試作品は、「植物ナノバイオニクス」と呼ばれる新たな学問分野に位置づけられている。研究分野とその名称はいずれも、MITのマイケル・ストラノ教授のグループが考案した。

 最近のプロジェクトのひとつでは、ケールやクレソン、ホウレンソウなどを使った実験で植物を光らせることに挑戦。クレソンの葉にナノ粒子を埋め込むことで、3時間半にわたり弱い光を生み出すことができると突き止めた。

 この研究ではまず、葉をナノ粒子の溶液に浸し、次に高圧にさらす。これにより気孔と呼ばれる小さな穴から葉の中に粒子を浸透させる。

 葉の中に入り込んだナノ粒子はルシフェリンと呼ばれる発光性の化合物と、ルシフェリンに作用してこれを光らせるルシフェラーゼという酵素を放出する。こうして、植物の代謝それ自体により光を生み出した。

 生み出された光は、文字などを読むのに必要な量の1000分の1ほど。研究は始まったばかりだ。ストラノ氏は、こうした技術がいつの日か室内を照らしたり、樹木を街灯に変貌(へんぼう)させたりするのに使われる可能性もあるとの見方を示した。

 ナノバイオニクスという言葉は二つの概念を組み合わせたものだ。「バイオニック」は生物に人工的な能力を付与することを意味する。「ナノ」の方は、生物に新たな能力を備えさせる目的で利用できる100ナノメートル以下の粒子を指している。

 ストラノ氏は電話インタビューで、「植物を使って身の回りの機器の機能を代替するにはどうすればよいか考えている」と説明。プラスチック製品などを挙げ、「これらを生きた植物で代替することはできないだろうか」と問いかけた。

 将来的には、葉や苗木に対する1回の噴射で効果が持続するような技術を開発したい考えだ。また、日光にさらされた場合に光が弱まるようなオンとオフの「スイッチ」の開発にも取り組んでいる。

 米国で消費される全電力のうち照明が占める割合は約7%。照明は通常、発電所など電力源から遠く離れているため、送電の過程で多くのエネルギーが失われる。光る植物はこの距離を縮めて、エネルギーを節約するのに一役買うかもしれない。

 ただ、ストラノ氏は、一番の狙いは環境対策ではなく美的なものだと強調。光る植物の実現を目指す理由として、「何よりも美しいからだ」と述べた。(CNN)


 MIT、ナノ粒子を注入し植物を光らせる技術を開発

  マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、ナノ粒子を使って植物を光らせる技術を開発したと発表した。クレソン(オランダガラシ)の葉にナノ粒子を埋め込んで、4時間近く光らせることに成功した。光はまだぼんやりとした弱いものだが、技術の最適化を進めれば「植物照明」としてオフィスで使える明るさを丸1日持続できるようになると主張している。研究論文は「Nano Letters」に掲載された。

 MIT化学工学教授Michael Strano氏の研究室は、「植物ナノバイオニクス」と呼ばれる新しい研究領域の開拓を行っている。植物ナノバイオニクスとは、さまざまな種類のナノ粒子を埋め込むことによって植物に新たな能力や特性を付与するというものであり、現在は電子電気機器が担っている多くの機能を植物で置き換えることを目指すとする。

 同チームではこれまでに、植物を使って爆発物を検知してその情報をスマホに知らせるシステムや、乾燥状態のモニターとして植物を使う技術などを発表している。

 今回の研究では、照明器具として植物を利用することを試みた。植物に備わっている自己修復能力、光合成によるエネルギー生成能力、屋外環境への適応力などが、照明器具にも向いていると考えられる。

 研究チームは、ホタルが体を光らせるのに使っている発光酵素ルシフェラーゼに着目した。ホタルの体内では、発光物質であるルシフェリンがルシフェラーゼによって活性化されて光を放つ。また、この発光プロセスでは、補酵素であるコエンザイムAが、ルシフェラーゼの活性を抑制する反応副生成物を取り除く役割を担っている。

 そこで今回は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、コエンザイムAという3つの要素を、それぞれ種類の異なるナノ粒子キャリア内に入れた。ナノ粒子の原料はすべて、米国食品医薬品局(FDA)が安全と分類しているものを使ったという。ナノ粒子は、発光のための3要素がそれぞれ植物内の適切な部位に届くことを促す。また、これらの物質が1か所に集中することによって植物に対して毒性をもつことを防ぐ役割ももっている。

 ルシフェラーゼの運搬には、直径10nm程度のシリカのナノ粒子を用いた。ルシフェリンとコエンザイムAの運搬には、それぞれシリカナノ粒子よりやや大きなPLGA(乳酸-グリコール酸共重合体)とキトサンの粒子を用いた。これらのナノ粒子を溶液中に分散させ、植物を溶液中に浸して高い圧力をかけると、ナノ粒子が植物の気孔を通って葉の内部に入りこむ。

 ルシフェリンとコエンザイムAを放出する粒子は、葉肉細胞外のスペースに蓄積するように粒子サイズが大きめに設計されている。一方、ルシフェラーゼ運搬用の小さな粒子は、葉肉細胞の内部に入りこむ。葉肉細胞外ではPLGA粒子が徐々にルシフェリンを放出し、このルシフェリンが葉肉細胞に入ると発光反応が起こるという仕組みになっている。

 研究開始当初の発光時間は45分程度だったが、現時点では3時間半まで延長することができている。ただし、明るさについてはまだ、10cm程度のクレソンの株では暗闇の中で文字を読むために必要な光量の1/1000程度しかない。研究チームは、発光要素の濃度と放出速度を最適化することによって、もっと明るく長時間にわたって植物を光らせることが可能になるとしている。

 これまでにも植物を光らせる技術はあったが、遺伝子操作によってルシフェラーゼ遺伝子を発現させるという方法であり、遺伝子改変した特定の植物しか光らせることができなかった。また、目的も照明用途ではなく、植物の遺伝子研究ツールであるため光量も少なかった。今回開発された技術は、どんな種類の植物でも光らせることができるという特徴があり、クレソン以外にもルッコラ、ケール、ホウレンソウといった野菜も同じ方法で光ることが実証されている。

 さらに将来的には、ナノ粒子を植物の葉に塗布またはスプレー噴射する技術を開発することによって、樹木や大型植物を照明用光源に変えることも検討しているという。(マイナビニュース)


参考 CNN: https://www.cnn.co.jp/fringe/35113445.html


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