「黒」とは何か?「黒」の定義

 色を光として見るとき、黒は、光がまったく無い状態を意味する。パソコン画面での黒は、黒として発色することは出来ないため、他の色とのコントラストの調整によって人の目に強い黒として錯覚させている。

 物体の黒は、すべての波長の光を吸収する色である。絵具の三原色の3色を混ぜると黒になる。ただし、全ての波長を完全吸収する物質(黒体と呼ばれる)は存在しない。

 天体のブラックホールの周囲には非常に強い重力場が作られるため、ある半径より内側では脱出速度が光速を超え、光ですら外に出てくることが出来ない。つまり光の全くない状態になる。



 光がない色を黒と言うならば、ブラックホールが一番黒い。ブラックホールそれ自体は不可視だが、ブラックホールは物質を吸い込む際にX線やガンマ線を放出するので観測が可能である。

 黒い物質も開発されている。米レンセラー工科大とライス大の研究チームが「世の中で最も暗い物質」をつくった。当たった光の99.955%を吸収するという。ミニブラックホールといった感じの真っ黒であるが、しくみはまったく違う。

 この黒い物質は、基板の上に微細な炭素の筒(カーボンナノチューブ)を成長させたもの。光を0.045%しか反射せず、従来の記録より約3倍も暗くなった。ブラックホールが光を強い重力で吸収するのに対し、カーボンナノチューブは光を吸収し、効率よく電気エネルギーや熱エネルギーに変換している。

 今回、自然界の中で最も黒い生物が明かになった。それは、深海に棲む、ムラサキホシエソ(Echiostoma barbatum)などの黒い深海魚。生息地は水深3000メートルを超える。99.9%の光を吸収することが判明した。敵から身を守るために闇にまぎれることができる。


黒い深海魚、99.9%の光を吸収と判明

 どこまでも暗い海の中で、闇に紛れて身を守る魚たちがいる。一体どのような方法で彼らは“無”に溶け込んでいるのだろうか?

 深海生物を専門とする米デューク大学の海洋生物学者ソンケ・ヨンセン氏と、米スミソニアン自然史博物館のカレン・オズボーン氏は、深海に暮らす“スーパーブラックフィッシュ”が効果的に身を隠す巧みな方法を突き止め、統合比較生物学会の年次総会で発表した。魚たちは皮膚の複雑なナノ構造で光子を捕らえ、体に当たった光をほぼすべて吸収しているのだという。

 ホウライエソなどの深海生物は、さえぎるものが何もない海で身を隠すため、より黒く進化している。光のあるところで「彼らを見てみると、特に水中では、まるで宇宙空間に開いた穴のようです」とヨンセン氏。

 本来は無脊椎動物を専門とするオズボーン氏は「ただ色素の数が多いだけだと思っていました」と話す。「しかし実際は、とても複雑な構造によって、これ以上ないほどの黒さを獲得していました」

 それにしても、太陽の光が届かない無限の暗闇で、なぜ視覚的なトリックが必要なのだろうか。


 光子のピンボール

 餌が少ない深海では、あらゆる生物が捕食の対象になる。アンテナのようなアンコウの鰭条(きじょう)のように、動物たちは獲物を感知するためのツールを進化させてきた。

 光を放って周囲の獲物を探す生物も多い。

 「懐中電灯で照らしても、何も返ってこない世界を想像してみてください」とヨンセン氏は話す。「でも時々、何かにぶつかった光が反射するんです」

 光をレーダーのように使う探査法から深海魚が身を守るには、果てしない闇に同化するしかない。「懐中電灯の光が偶然ぶつかっても、光をすべて吸収しなければなりません」

 ヨンセン氏によれば、すべての光を吸収するには、黒の色素が大量にあるだけでは不十分だという。鍵を握るのは皮膚だ。

 もし魚の皮膚がガラスのように滑らかで、単純な構造だったら、光子がそのまま跳ね返り、おなかをすかせた捕食者に見つかってしまう。一方、皮膚の構造が複雑だったら、光子が捕捉され、まるでピンボールのようにあちこち跳ね返る可能性が高まる。

 オズボーン氏は最近、野生のスーパーブラックフィッシュ7種を採集し、皮膚の表面構造を確認した。その結果、人間にもある黒い色素メラニンの小さな粒が、目まいがするほど複雑な微細構造を形成しており、とても複雑なピンボールの台のようになっていることがわかった。もはや光に勝ち目はない。

 ヨンセン氏らの研究によれば、光の吸収率が99.9%に達している種もいるという。つまり、1000分の1の光子しか皮膚の表面から逃れられないということだ。


 最も黒い生物は?

 こうしてスーパーブラックフィッシュは暗黒生物の仲間入りを果たした。知られている限り、最も黒い生物のひとつだ。

 “最も黒い黒”の記録保持者は、オーストラリアなどにすむ極楽鳥(フウチョウ)だ。その羽毛は最大99.95%の光を吸収する。

 雄の羽毛が複雑な微細構造を獲得したのは、より黒い黒によって色鮮やかな模様を際立たせるためだと考えられている。最終目標は当然、メスの誘惑だ。

 米エール大学の鳥類学者リチャード・プラム氏は、深海魚が光を吸収する「斬新なメカニズム」に感銘を受けている。

 「鳥の羽毛やチョウの鱗粉(りんぷん)は、基本的に微細な空洞で光を捕捉します」とプラム氏は説明する。一方、スーパーブラックフィッシュは、色素の粒で光を吸収する光学的な構造を皮膚の内側に持っている。

 このユニークな構造は、人工のスーパーブラックをつくり、カメラや望遠鏡、ソーラーパネルに応用したいと考える科学者たちの関心を引いている。その大きな理由は、現在の生産技術が高くつくことだ。

 もしかしたら、魅力的な笑顔と紫の発光器を持つムラサキホシエソが、その黒々とした体で次なる技術革新の扉を開けてくれるかもしれない。


 最も黒い物質は?

 世界で最も黒い物質がイギリスで開発された! イギリスのサリー・ナノシステムズ社が開発し、「ベンタブラック」と名付けられたこの物質はなんと光の99.96%を吸収してしまう。 通常の黒い塗料などの吸収率は95〜98%。数字だけ見るとそんな変わらないのでは無いかと思うが動画や写真をみると全く異なることがわかる。

 通常人間は光を物にあたって反射した光を見て色を認識しているため、ほとんど光を反射してこないということは全く何も見えない。つまり真っ黒である。実際に「ベンタブラック」を塗ったアルミホイル(掲載画像)はまるで穴が空いているかのように見える。実際はこのアルミホイルはデコボコしているのだがそれを認識することは出来ない。別にこの画像の黒い部分は黒く塗りつぶしている訳ではなく、凹凸を認識するだけの光の反射がないからである。

 ベンタブラックは空撮カメラや望遠鏡、赤外線検知器など、不必要な光を抑制することで性能が向上する機器へ利用が考えられている。例えば、ベンタブラックを使用した望遠鏡を使用すれば、今まで認識できなかった未知の惑星なども発見できるようになるかもしれない。またこの手の製品の例に漏れず、兵器産業や宇宙産業からも熱い視線を集めている。


参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/042000181/


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