世界中に広がったマイクロプラスチック

 太平洋には日本の面積の倍以上の海域に「太平洋ゴミベルト」という、世界でもっとも多くのゴミが漂う海域がある。そこには漁網など大量のプラスチックゴミが含まれている。

 今回、北極海にも海氷中にマイクロプラスチック(微小なプラスチック粒子)が「憂慮すべきほど」蓄積していると警告する研究結果が発表された。地球温暖化で海氷の融解が進むと重大な水質汚染源となる可能性があるという。

 見つかったプラスチック粒子には、レジ袋や食品包装、船の塗料、漁網、合成繊維のナイロンやポリエステル、紙巻きたばこのフィルターなどに由来するプラスチックが含まれていた。



 あるサンプルは、海氷中でこれまでに確認された最高濃度の氷1リットル当たり最大1万2000個のプラスチック粒子を含有していた。論文によると、これは過去の測定値よりも2~3倍高いという。

 マイクロプラスチックは、今や世界の海洋の表層水中の至る所に存在することを今回の研究は示唆しており、影響を免れている場所など、どこにもない。マイクロプラスチックは非常に小さく、一部の粒子は直径が11マイクロメートルで、人毛の直径の約6分の1しかないという。1マイクロメートルは1000分の1ミリ。

 魚が常食とする小型甲殻類などの北極海に生息する微小な生物でも容易に体内に摂取できる。別の研究では、人が貝類や甲殻類、水道水やボトル入り飲料水などに含まれるマイクロプラスチックを摂取しているとの警告がなされている。こうしたマイクロプラスチックの健康リスクに関しては、まだ不明なことが多い。


プラスチックを「食べる」酵素

 一方で朗報もある。プラスチックを分解する酵素が発見された。

 今回の発見は将来的に、環境内に数百年間残留するはずの何百万トンものプラスチックをリサイクルする解決策につながるかもしれない。ペットボトルをはじめ、食品容器、服の繊維などの製造に用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)を分解できるこの酵素を発見した経緯は、4月17日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の論文に書かれている。

 それは偶然の発見だった。英ポーツマス大学のジョン・マギーハン教授と米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のグレッグ・ベッカム氏は、ある酵素の働きを解明しようと、結晶構造を詳しく調べていた。その最中に、2人が率いるチームは偶然、自然界で得られたものよりも、プラスチックを強力に分解する新たな酵素を作り出した。

 チームは現在、酵素の効果をさらに高めて、産業レベルで使えるようにする研究を続けている。これが成功すれば、プラスチックをまたたく間に分解できるようになるかもしれない。

 マギーハン氏は言う。「プラスチック問題には、誰しも大きな貢献ができますが、この『脅威の物質』を作り出したおおもとである科学コミュニティは、今こそ、真の解決策のためにあらゆる技術を投入すべきです」


 酵素の進化

 ブレイクスルーが起こったのは、日本のごみリサイクル場で発見された、プラスチックを分解する酵素の構造を調べていたときだった。同酵素がどのように進化したのかを解明し、さらなる改良が可能かどうかを確かめるためだった。ところがその検証の最中に、偶然にもPETをさらに効率よく分解できる酵素ができてしまったのだ。

 基礎科学研究においては、偶然が大きな役割を果たすことがよくあります。今回のわれわれの発見も例外ではありません」とマギーハン氏は言う。

「改良の程度はささやかですが、今回の予期せぬ発見は、これらの酵素にはさらなる進化の余地があることを示しています。積み上がるばかりの廃棄プラスチックの山に対するリサイクルの解決策に現実味を持たせてくれるものです」

 研究チームはこの先、タンパク質工学およびタンパク質進化という分野の手法を用いて、酵素のさらなる改良を目指していく。また新たな酵素は、バイオ由来のPET代替プラスチックであるポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)を分解することもわかっている。PEFは現在、ガラスのビール瓶の代替品として需要が高まっている素材だ。

 マギーハン氏は言う。「新たな酵素の開発方法は、バイオ洗濯洗剤や、バイオ燃料の製造に使われる酵素のときとほぼ同じです。これからの数年間で、PETのみならず、その代替品のバイオプラスチックであるPEF、PLA、PBSといった成分まで、元の素材に戻して持続的にリサイクルする方法を、産業規模で確立できる可能性が十分にあります」


北極海氷にマイクロプラスチック蓄積 「重大な汚染源」

 北極海に浮かぶ海氷中にマイクロプラスチック(微小なプラスチック粒子)が「憂慮すべきほど」蓄積していると警告する研究結果が4月24日、発表された。地球温暖化で海氷の融解が進むと重大な水質汚染源となる可能性があるという。

独アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI)の研究チームは、2014年から2015年にかけて砕氷観測船ポーラーシュテルン(Polarstern)に乗船して3回の北極海調査航海を実施。この調査中に収集した海氷サンプルに17種の異なるプラスチック粒子が含まれていることを発見した。

 見つかったプラスチック粒子には、レジ袋や食品包装、船の塗料、漁網、合成繊維のナイロンやポリエステル、紙巻きたばこのフィルターなどに由来するプラスチックが含まれていた。

 あるサンプルは、海氷中でこれまでに確認された最高濃度の氷1リットル当たり最大1万2000個のプラスチック粒子を含有していた。英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された研究論文によると、これは過去の測定値よりも2~3倍高いという。

 英南極調査所(BAS)の海氷物理学者、ジェレミー・ウィルキンソン(Jeremy Wilkinson)氏は、英サイエンスメディアセンター(Science Media Centre)へのコメントで、マイクロプラスチックが「今や世界の海洋の表層水中の至る所に存在する」ことを今回の研究は示唆しており、「影響を免れている場所など、どこにもない」とした。

 海氷は既存の氷の真下にある海水の氷結によって成長するため、海氷が下向きに成長するのに伴って、浮遊しているマイクロプラスチックが氷の中に取り込まれると、ウィルキンソン氏は説明する。

 これは、北極海で氷が成長し、漂流している時にマイクロプラスチックが存在していたことを意味している。


 マイクロプラスチックに悪影響は?

 そして特に懸念されるのは、粒子のサイズが小さいことだ。研究チームによると、一部の粒子は直径が11マイクロメートルで、人毛の直径の約6分の1しかないという。1マイクロメートルは1000分の1ミリ。

論文の共同執筆者でAWIの生物学者のイルカ・ピーケン(Ilka Peeken)氏は、このことが意味するのは、魚が常食とする小型甲殻類などの「北極海に生息する微小な生物でも容易に体内に摂取できる恐れがあるということ」だと指摘する。その上で「マイクロプラスチックが海洋生物にとって、また最終的には人にとってどれほど有害なのかは、まだ誰も確かなことは言えない」と話した。

 今回の研究で、ピーケン氏と研究チームは採取した氷コアに赤外光を照射する分光計を使用。氷に含まれるプラスチック片が何を起源とするのかを判定するために、プラスチック片で反射される赤外光を分析した。

 太平洋北東部の海水がベーリング海峡(Bering Strait)を通って流れ込むカナダ海盆(Canada Basin)で採取したサンプルは、包装材に用いられるポリエチレンを多く含んでいた。論文執筆者らはこの分析結果から、この地域のマイクロプラスチックが主に「太平洋ごみベルト(Great Pacific Garbage Patch)」に由来するものだと結論づけた。大量のプラスチックごみが渦巻いているこの海域は現在、フランス、ドイツ、スペインの国土面積の合計を上回る範囲に及んでいる。

 また研究チームによると、プラスチック粒子は海氷内に2~11年間とどまるという。

 この2年から11年という期間は、海氷がロシア東部シベリア(Siberia)や北米北極圏の海域から南へ移動し、デンマーク領グリーンランド(Greenland)とノルウェーの間のフラム海峡(Fram Strait)に到達するのに要する時間に相当する。海氷は同海峡で融解する一方、北方の海域では新たな海氷が形成されるが、このサイクルは地球温暖化によって加速される。

 英ニューカッスル大学(Newcastle University)の海洋学者、ミゲル・アンヘル・モラレス・マケダ(Miguel Angel Morales Maqueda)氏は、別の解説記事で「北極の多年海氷の融解が気候変動によって加速することは、北極海を覆う海氷中に蓄積された大量のプラスチックが海水柱中に放出されることに合理的に帰着すると考えられる」と述べている。

 また最近の別の研究では、人が貝類や甲殻類、水道水やボトル入り飲料水などに含まれるマイクロプラスチックを摂取しているとの警告がなされている。こうしたマイクロプラスチックの健康リスクに関しては、まだ不明なことが多い。(AFPBB News)


参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/042400186/


海洋と生物 215 Vol.36-No.6 2014
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