月の石からわかること
月の石(lunar rock)というと月で生成された石。放射年代測定によると、一般に月の石は地球上の石に比べはるかに古く、最も新しいものでも地球上に見られる最古の石より古い。その年代は月の海から採集された玄武岩サンプルの32億歳から高原地帯で採集されたものの46億歳と幅広く、太陽系生成早期に遡るサンプル資料となる。
月の石は地球の岩石と比較して、マグネシウムに対する鉄の含有量が少なく、カリウム、ナトリウムといった揮発性元素が地球の地殻岩石と比べて乏しい。かつては水分子を全く含まないと思われていたが、2008年になって微量な分子も検知できる二次イオン質量分析法を使用することでごくごく微量の水が含まれていることが判明し、月の地中深くには地球のマグマと同様の水分が含まれている可能性がある。
2007年9月14日に打ち上げられた月探査衛星「かぐや」により、2009年9月には、月の地殻構成物質が、ほぼ「斜長石100%」で形成されていることがわかった。
現在地球上には以下3種類のソースから採集された月の石が存在する。
一つは、アメリカ合衆国の月探索計画であるアポロ計画により持ち帰られたもの。二つ目は、ソビエト連邦のルナ計画により持ち帰られたサンプル。三つ目は、月面のクレーター形成過程に生まれ、隕石として地球上に落下したものである。
2,415サンプル(総重量382kg)が主にアポロ15, 16, 17号によって、6度のアポロ計画による月面探索中に採集された。3機のルナ計画宇宙探査機は更に326gのサンプルを持ち帰った。2006年後期において月から飛来した隕石は90以上(総重量30kg以上)確認されている。
今回、東北大学が月隕石から「モガナイト」と呼ばれる、生成に水が不可欠な鉱物が発見した。月の地下に大量の水氷が埋蔵されている可能性を示唆するものだ。
月隕石に「モガナイト」発見、月の地下に大量の氷が存在する可能性
NASAの探査機「エルクロス」などの探査により、月の極域には大量の水氷が存在していることが知られている。月の水を研究することは、科学的な意味だけでなく、将来の有人探査や人類が月で居住する上での飲料水などの観点からも重要だ。水が月のどこに集まっているのか、その起源は何かを突き止めるため、日本を含む世界各国が様々な探査計画を検討している。
シミュレーション研究によると、月の水は温度の低い地下数mの領域に溜まりやすい性質を持っていると予想されているが、周回探査機から観測できるのは表面から1m程度の深さまでであるため、それより深いところに水が存在するかどうかについては、ほとんど手がかりが得られていない。
東北大学学際科学フロンティア研究所・理学研究科の鹿山雅裕さんたちの研究チームは、月から地球に飛来した13種類の月隕石に対して、電子顕微鏡などを使った微小部分析を行った。すると、2005年にアフリカ北西部で発見された「NWA 2727」と呼ばれる月隕石から、「モガナイト」と呼ばれる鉱物が検出された。地球外物質でモガナイトが見つかったのは初めてのことだ。
過去の合成実験によると、モガナイトは高い圧力条件でアルカリ性のケイ酸水溶液から沈殿してできることがわかっている。その沈殿反応には水が不可欠であることから、水が豊かな地球では堆積岩に広く分布していることが地質調査から判明している。今回、月隕石からモガナイトが発見されたことにより、月でも同様の水の活動(水と岩石との反応や水からの沈殿)が生じていたことが明らかになった。
月隕石と地球のモガナイトのデータ比較によると、月隕石中のモガナイトの沈殿過程には、月の外からアルカリ性の水がもたらされることと、月の比較的温度が高い場所でその水が蒸発することの両方が必要となることがわかった。このことから研究チームでは、月への水の供給プロセスとモガナイトの沈殿に関する以下のようなモデルを提案している。
月への水の供給とモガナイトの沈殿の過程
1.約30億年前に、月のプロセラルム盆地(月のウサギ模様のほぼ全域にわたる盆地)で、月隕石の母体となる岩体がマグマから固化。
2.27億年前以降に、プロセラルム盆地にアルカリ性の水を豊富に含む炭素質コンドライトが衝突。
3.衝突で形成されたクレーターの内部が、放出された月の地殻の一部や炭素質コンドライトの破片で埋まる。その後、クレーターの表面から底部にかけての領域で水が捕縛。
4.太陽光が当たる表面では水が蒸発してモガナイトを沈殿。地下数m以深やクレーターの影など低温環境では水が氷として残存(1億3000万年前?)。
5.100~3000万年前までに起こった巨大天体の衝突で、クレーターの一部の岩石が宇宙へ放出(下図 (iv))。
6.1万7000年前に、岩石が北西アフリカの砂漠に月隕石として落下(下図左下)。
このモデルに基づくと、モガナイトの沈殿に必要な水の量は少なくとも岩石1m3あたり18.8リットル以上となる。
また、このモデルによれば、月の表面では太陽光の熱で水が蒸発してモガナイトが作られる一方で、温度が非常に低い地下やクレーターの影では水は氷となる。シミュレーションの結果から、月の地下の氷は数十億年以上も残り続けることが判明しているので、現在もプロセラルム盆地の地下には大量の水氷が眠っていることになる。これほど大量の水氷が月で報告された例は、月の極域以外では初のことだ。
研究チームでは今後、未調査の月隕石やアポロ・ルナ計画で回収された月の試料の微小部分析を行い、そこから水や氷の痕跡を探る研究を予定している。研究が進むことで月の水や氷に関してさらなる事実が明らかにされ、月の探査計画の推進に繋がる科学データが得られることが期待される。
モガナイトとは何か?
モガナイトは石英と同じ二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする鉱物で(一方で結晶構造は異なる)、過去の合成実験により高い圧力条件(>100 MPa)でアルカリ性のケイ酸水溶液(H4SiO4)から沈殿してできることが判明しています。
その沈殿反応(SiO2 (s) + 2H2O ↔ H4SiO4 (aq))には水が不可欠であることから、水に豊かな地球では堆積岩に広く分布していることが地質調査により明らかとなっています。
しかし地球以外の天体に関しては、水に乏しいことからモガナイトは決して存在しないと考えられていました。今回の研究で月隕石からモガナイトが発見されたことにより、月でも同様の水の活動(水と岩石との反応や水からの沈殿)が生じていたことが明らかとなりました。
本研究で得られた成果を地球のモガナイトに関するデータと比較したところ、月のモガナイトはpH 9.5–10.5かつ90–126 °Cのケイ酸水溶液から数カ月間から数年間かけて沈殿したことが分かりました。
つまり、その沈殿過程には月の外からもたらされたアルカリ性の水が不可欠であり、さらにその水が月の比較的温度が高い場所で蒸発する必要があります。このような事実をもとに、ここでは月への水の供給プロセスとモガナイトの沈殿に関する以下のようなモデルを提案しました。
月の石について
月の石(lunar rock)は月で生成された石。「月の石」という呼称は厳密なものではなく、月面探索中に収集された他の物質についても用いられる。
アポロ計画において、月の石はハンマー、レーキ、スコップ、トング、コアチューブといった様々な道具を使って採集された。石のほとんどは採集前に発見された時点の状態を写真に記録された。石は採集時にサンプル袋にいったん入れられ、それから汚染を防ぐための特別環境試料容器に格納され、地球へ持ち帰られた。
放射年代測定によると、一般に月の石は地球上の石に比べはるかに古く、最も新しいものでも地球上に見られる最古の石より古い。その年代は月の海から採集された玄武岩サンプルの32億歳から高原地帯で採集されたものの46億歳と幅広く、太陽系生成早期に遡るサンプル資料となる。
月の石は超塩基性岩や塩基性岩であり、地球表面上で一般的に見られる地殻の岩石と比べると、月の石は地球の岩石と比較して、マグネシウムに対する鉄の含有量が少なく、カリウム、ナトリウムといった揮発性元素が地球の地殻岩石と比べて乏しく、また、水分をほとんど含まない。
他方、酸素同位体において非常によく似た性質を持つ。かつては水分子を全く含まないと思われていたが、2008年になって微量な分子も検知できる二次イオン質量分析法を使用することでごくごく微量の水が含まれていることが判明し、月の地中深くには地球のマグマと同様の水分が含まれている可能性が出てきた。2011年の北海道大学のグループのSIMSを用いた研究成果では、月の水は地球のそれとは水素同位対比が異なり、彗星の水素同位対比に似ている。
月面の砂「レゴリス」は貴重な資源?
月面は砂(レゴリス)によって覆われている。レゴリスは隕石などによって細かく砕かれた石が積もったものであり、月面のほぼ全体を数十cmから数十mの厚さで覆っている。より新しいクレーターなどの若い地形ほど層が浅い。非常に細かく、宇宙服や精密機械などに入り込みやすく問題を起こす。
しかしその一方でレゴリスの約半分は酸素で構成されており、酸素の供給源や建築材料としても期待されている。また太陽風によって運ばれた水素やヘリウム3が吸着されており、その密度は低いもののそれらの供給源としても考えられている。ヘリウム3は核融合の原料となる。
月面で発見された新鉱物には、アポロ11号に搭乗していた3名の宇宙飛行士の、アームストロング、オルドリン、そしてコリンズにちなんで名づけられたアーマルコライトがある。ただし、アーマルコライトは後に地球上でも発見されたため、月に固有の鉱物というわけではない。
日本では、1970年の大阪万博においてアメリカ館で実物が展示され人気を博した。あまりにも反響が大きすぎたため、入館待ち行列・時間が長くなり体調を崩す来場客が相次ぎ、事態を重く見た日本政府が、万博開催前に政府間レベルの友好の証しとしてアメリカ政府から寄贈されていた月の石(ただし、体積はアメリカ館で展示されていた物よりはるかに小さい)の日本館展示を会期途中から始め、アメリカ館関係者から不満・苦情を寄せられたという話もある。
その後、2005年の愛知万博でもグローバルハウスのオレンジホール内のグローバルショーケースに大阪万博のものとは別の物が展示されたが、大阪万博で断念した来場客を喜ばせることとなった。常設の展示品としては、国立科学博物館や北九州市のスペースワールドで見ることができる。
参考 アストロアーツ: www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9897_moganite
デジタルアポロ ―月を目指せ 人と機械の挑戦― | |
クリエーター情報なし | |
東京電機大学出版局 |
月へ アポロ11号のはるかなる旅 | |
クリエーター情報なし | |
偕成社 |
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