太陽系外縁天体
私たちは太陽系の外側についてどのくらい理解しているのであろうか?
先日、宇宙が誕生して間もないころの、132.8億光年彼方の銀河を地球最大の電波望遠鏡で発見しているが、意外なことに我々は、太陽系の外側に何があるか分かっていない。
というのも、自ら光を出す恒星や恒星の集団である銀河については観測可能であるが、太陽系外縁部は太陽の光も弱くなり、自ら光ることのない惑星や小惑星は、観測する方法がないからだ。ちょうど光を発しないブラックホールが、どこに存在するか分からないことに似ている。
太陽系外縁天体(TNO)とは、海王星軌道の外側を周る天体の総称である。エッジワース・カイパーベルトやオールトの雲に属する天体で、かつて惑星とされていた冥王星もこれに含まれる。2006年1月19日に打ち上げられたNASAの「ニュー・ホライズンズ(New Horizons)」などの活躍により少しずつ調査はすすんでいる。
ニュー・ホライズンズは、2015年1月15日、冥王星の観測を開始したと発表。2015年7月14日には冥王星をフライバイ(接近通過)し、冥王星と衛星カロンを撮影。最接近時の距離は13,695kmで、カロンの公転軌道の内側を通った。そのときの速度は14km/s。
2016年1月まで冥王星とその衛星を観測した。今後は2019年1月にエッジワース・カイパーベルト内の太陽系外縁天体2014 MU69をフライバイし観測を行い、その後は太陽系を脱出する予定だ。
最近、カイパーベルトに位置する小惑星2004 EW95をヨーロッパ南天天文台のVLTで観測したところ、この天体が炭素質であることが明らかとなった。カイパーベルトでこのタイプの小惑星が確認されたのは初めてである。
また仏・コート・ダジュール天文台が、太陽系初期を再現したシミュレーション研究により、他の天体とは逆向きに公転している小惑星「2015 BZ509」が太陽系外から移住してきた天体であることが判明した。
炭素質の小惑星をカイパーベルトで初めて発見
現在考えられている太陽系初期の理論モデルによると、巨大ガス惑星が誕生後に太陽系の中を移動し、その影響で太陽系の内側にあった小さな岩石質の天体は外縁部へと弾き出されたと推測されている。このモデルに従えば、海王星の軌道より外側にありほとんどが氷の小天体で占められているカイパーベルトにも、岩石質の小天体が少しは存在することになる。
現在、探査機「はやぶさ2」が目指している小惑星「リュウグウ」は、「C型小惑星」と呼ばれる炭素質の小惑星だ。リュウグウは地球のすぐ外側を公転しているが、理論モデルが正しければ似たような小惑星はカイパーベルトにも存在するはずである。しかしこれまでに、確実に炭素質の小惑星だと思われる天体がカイパーベルトで発見されたことはなかった。
英・クイーンズ大学ベルファストのTom Seccullさんたちの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTに搭載されている分光観測装置X-ShooterとFORS2を使用して、カイパーベルトにある小惑星2004 EW95の反射スペクトルを観測し、この小惑星の組成を調べた。
2004 EW95が注目を集めたのは、かつてハッブル宇宙望遠鏡によって観測された際に反射スペクトルが独特なものだったためだ。通常、カイパーベルト天体の反射スペクトルにはこれといった特徴が見られず、そこから天体の組成に関する情報はほとんど得られないが、2004 EW95のスペクトルは明らかに周りの小天体とは異なっていたのである。
2004 EW95の大きさは約300kmで、小惑星としては小さなものではないが、地球から約40億kmも離れたところを移動しているため、口径8.2mのVLTをもってしても観測は困難であった。
分光観測の結果、2004 EW95の反射スペクトルに酸化第二鉄(鉄の赤さび)とフィロケイ酸塩(雲母などのケイ酸塩鉱物)の存在を示す特徴が見られた。これらの物質がカイパーベルトの天体で検出されたのは初めてのことで、2004 EW95がC型小惑星のような炭素質の小惑星であることを強く支持するものだ。
炭素質の小惑星がカイパーベルトにも見つかったことは、太陽系初期の理論モデルを支持する強い根拠となる。
逆行小惑星は太陽系外からの移住者だった
太陽系初期を再現したシミュレーション研究により、他の天体とは逆向きに公転している小惑星「2015 BZ509」が太陽系外から移住してきた天体であることが判明した。
地球を含めた惑星や無数の小天体のほとんどは太陽系の中を同じ方向に回っているが、小惑星「(514107) 2015 BZ509」は、他の天体とは逆方向に公転している。
「木星に近い軌道を持つこの小惑星がどうして逆走しているのかは謎でした。もし太陽系で生まれたのなら、少なくとも当初は、惑星や小惑星が生まれる材料となったガスや塵の動きを反映して他の天体と同じ向きに公転していたはずです」(仏・コート・ダジュール天文台 Fathi Namouniさん)。
Namouniさんたちは、太陽系内で惑星形成が終わったころにあたる約45億年前にさかのぼるシミュレーション研究を行った。その結果、小惑星の公転の向きに変化は見られなかったことから、2015 BZ509は太陽系で生まれたのではなく、他の恒星系からやってきてとらえられた天体であることが示された。
「太陽が誕生した星団は密度がとても高く、個々の星の周りには惑星や小惑星が存在していたと考えられますから、他の恒星系からの小惑星の移住は起こり得ます。星同士が接近していると惑星の重力も働いて、恒星系同士の間で小惑星の引きはがしや取り込みが起こるのです」(ブラジル・サンパウロ州立パウリスタ大学 Helena Moraisさん)。
2017年、太陽系へやってきた初の恒星間天体として注目を浴びた「オウムアムア」は太陽系を通過して去っていったが、同じように太陽系の外からやってきた2015 BZ509は、そのまま太陽系内に居すわっている。
いわば太陽系の外からの「移住者」である小惑星の初の発見は、惑星形成や太陽系の進化に関わる未解決の問題、そして、おそらく生命そのものの起源にも重要な示唆を与えることになるだろう。
参考 アストロアーツ: www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9907_2004ew95
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