素粒子とは何か?
素粒子とは、物を構成する一番小さい単位のことをいう。それはつまり、皆さんの身体も、着ている服も、その手に持っているお菓子も、みんなみんな素粒子の集まりということだ。
物理になじみのない人でも、分子だとか原子だとかそういう言葉は聞いたことがあると思う。たとえば、水。これは水分子がたくさんたくさん、集まってできているもの。そんな水の分子は、酸素原子1つと水素原子2つがくっついてできている。
じゃあ原子が素粒子...というわけではない。原子もよく調べてみると、もっともっと小さなものが集まってできている。原子は、原子核とそのまわりに捕まっている電子でできている。そんな原子核も、陽子 proton と中性子 neutron とよばれる粒からできている。そしてそんな陽子や中性子が、3つのクォーク quark と呼ばれる「素粒子」から構成されている。
そんなクォークや、原子核の周りをまわっていた電子が、現在の「素粒子」と呼ばれるものである。クォークは全部で6種類、レプトン lepton(電子の仲間の素粒子のこと、カミオカンデで有名になったニュートリノ neutrino もこれに含まれる)も全部で6種類、あることになっている。
もともと6種類ずつ全部見つかっていたわけではなく、ノーベル物理学賞を受賞された小林誠先生と益川敏英先生が「クォークとレプトンが6種類ずつあると、CP対称性の破れが理論的に説明できる」と予言していた。そしてその後の実験で、実際に6種類ずつのクォークとレプトンが発見された。
クォークの種類は、6種類のフレーバー(軽い方からアップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップ)と3種類のカラー(赤、青、緑)を持つ。
そして陽子や中性子などのように3個のクォークが結合してできる粒子をバリオンと呼ぶ。ほかには、ラムダ(Λ)粒子やデルタ(Δ)粒子、そしてオメガ(Ω)粒子などがある。
さらに2個のバリオン(クォーク6個)から構成される粒子も発見されている。これをダイバリオンという。これまで確定しているものは陽子1個中性子1個からなる重陽子のみで、理論的には、Hダイバリオンなどさまざまなダイバリオンが予言されている。
新粒子「ダイオメガ(ΩΩ)」の存在を予言
そして今回、理化学研究所(理研)の研究グループ「HAL QCD Collaboration」が、スーパーコンピュータ「京」を用いることで、新粒子「ダイオメガ(ΩΩ)」の存在を理論的に予言したと発表した。ダイオメガは、6個のクォークからなる粒子であり、これまでは、1930年代に発見された重陽子(陽子1個と中性子1個)以外には見つかっていない。
同研究グループは、理化学研究所仁科加速器科学研究センター量子ハドロン物理学研究室の権業慎也 基礎科学特別研究員、土井琢身 専任研究員、数理創造プログラムの初田哲男 プログラムディレクター、京都大学基礎物理学研究所の佐々木健志 特任助教、青木慎也 教授、大阪大学核物理研究センターの石井理修 准教授らによるもの。同成果は米国の科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。
クォークには、アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップの6種類があることはすでに明らかににされている。陽子や中性子はアップクォークとダウンクォークが3個組み合わさって構成されており、3個のストレンジクォークからなるオメガ(Ω)粒子も実験で観測されている。3個のクォークからなる粒子(バリオン)は、これまで多数見つかっているが、6個のクォークからなる粒子(ダイバリオン)は、1930年代に発見された重陽子(陽子1個と中性子1個)以外には見つかっていない。
今回、同研究グループは、2個のΩ粒子間に働く力を「京」を用いて明らかにし、ダイオメガ(ΩΩ)の存在を予言した。これは、6個のストレンジクォークだけからなる最も奇妙なダイバリオンであり、重陽子の発見以来、約1世紀ぶりとなる実験的発見が期待されるとのことだ。
南部博士のバトンをつなぐ、クォーク・バリオンの研究
私たちの身の回りの物質は全て、「クォーク」と「レプトン[6]」(電子やニュートリノなど)と呼ばれる素粒子からできている。陽子や中性子、そしてオメガ(Ω)粒子など3個のクォークから構成される粒子は「バリオン」と総称されている。
また、バリオンが複数集まったものが原子核である。特に、二つのバリオン(クォーク6個)からなる最も簡単な原子核は「ダイバリオン」と呼ばれている。ダイバリオンは実験的には、重陽子(陽子1個と中性子1個の結合状態)が1930年代に発見されたのみであり、それ以外のダイバリオンは現在に至るまで観測されていない。
クォークの運動を決める基礎理論は、南部陽一郎博士(2008年ノーベル物理学賞受賞)によって提唱された「量子色力学」である。しかし、量子色力学の基本方程式を紙と鉛筆だけで解くことは、理論物理学の最先端手法をもってしても困難である。
ケネス・ウィルソン博士(1982年ノーベル物理学賞受賞)は、この困難を解決する「格子ゲージ理論」を提唱した。その後、この理論に基づいた大規模数値シミュレーションを行うことにより、量子色力学の直接計算が可能になった。
さらに、2007年に石井理修准教授、青木慎也教授、初田哲男プログラムディレクターは、格子ゲージ理論を用いて、2個のバリオンの間に働く力を明らかにする新しい方法を提案しました。これにより、量子色力学から直接ダイバリオンの研究を行う道が拓かれましたが、ダイバリオンについての現実世界のシミュレーションは、当時の理論手法とスーパーコンピュータの性能では不可能であった。
スパコン「京」と「HOKUSAI」が解き明かしたクォーク6個の新世界
共同研究グループは、石井准教授、青木教授、初田プログラムディレクターの方法を発展させ、現実世界でのダイバリオンの研究を初めて成功させた。本研究の鍵となったのは、「理論手法の発展」、「計算アルゴリズムの開発」、「スーパーコンピュータの性能向上」の三つある。
まず「理論手法の発展」では、時間依存型HAL QCD法という新手法の確立により、数値計算誤差を指数関数的に縮小させることに成功した。また、陽子や中性子だけでなく、Ω粒子を含む多種多様なバリオンの間に働く力を計算できるように理論を拡張した。
「計算アルゴリズムの開発」では、複雑に絡み合うクォークの運動を高速で計算できる、統一縮約法という独自の数値計算アルゴリズムを開発し、これまで難しかった大規模数値シミュレーションを可能にした。
これら新しい理論手法と計算アルゴリズムに基づき、理研のスーパーコンピュータ「京」や「HOKUSAI」などを用いて、初めて現実世界でのバリオン間に働く力を計算した。この計算は、最先端のスーパーコンピュータでなくては実現困難なもので、それでも約3年の歳月を要した。
今回のシミュレーション結果の一つとして、2個のΩ粒子間に働く力に興味深い振る舞いが発見された。2個のΩ粒子をだんだん近づけていった場合、0.3×10-13cm程度まではお互いに引き合うが、それ以上近づくと、強く反発し合うことが分かった。さらに、この引き合う力のおかげで、2個のΩ粒子が結合状態を作る可能性が示された。
また、この新粒子「ダイオメガ(ΩΩ)」は、重陽子とよく似た性質を持っていることが明らかになった。重陽子は陽子1個と中性子1個が弱く結合し、陽子と中性子が空間的に離れて運動している。
ダイオメガも2個のΩ粒子が弱く結合し、Ω粒子同士が空間的に大きく離れて運動していることが分かった。これは、ダイオメガが重陽子と同様に、ユニタリー極限近傍という非常に結合が壊れやすい特殊な状態になっていることを意味している。
スパコンと数理によるダイバリオン研究の幕開け
本成果により、2個のΩ粒子からなる新粒子「ダイオメガ」が現実世界に存在する可能性が明らかになった。この予言を受けて、今後、世界各地で行われる重イオン衝突実験により、重陽子の発見以来、約1世紀ぶりとなるダイバリオンの新発見が期待できる。
また本研究では、現実世界で、量子色力学からバリオンの間に働く力を導出することに初めて成功した。今後は、「京」を用いて行った多種多様なバリオン間の力に関する大規模数値シミュレーション結果を発表し、6個のクォークが織りなすダイバリオンの世界を明らかにする予定である。
スパコンと数理により、クォークがどのように組み合わさって物質ができているのかという、現代物理学の根源的問題の解明につながると期待できる。
参考 マイナビニュース: https://news.mynavi.jp/article/20180524-635118/
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