地中内部を調べる方法

 見えない地中内部を調べるにはどうしたらよいだろうか?

 例えば地球内部構造を調べるには、「地震波」を使う方法がある。すいかをたたいて実がつまっているかを調べたり、聴診器を当ててからだの様子を探るように、地震波の波の伝わり方から地球内部を調べることができる。この方法は、異なる層の境界がどこにあるかを調べる上では大変有用で、地殻、マントル、核の境界とともに、それぞれの中にも、深さ方向に大きく波の伝わり方が変化するところがあることがわかった。今では、核の中は、深さ約5150kmを境にして、外側の液体部分(外核)と内側の固体部分(内核)からなることが分かっている。

 最近では、人体のCTスキャンにも似た「地震波トモグラフィー」という手法によって、地球内部の3次元的な構造を細かくみることができるようになってきた。地球内部の電磁気的性質やニュートリノを使った新しい方法によって、地球の内部構造がより具体的に明らかになると期待されている。




 火山の中を細かく覗き見る最新のテクノロジーとして、「宇宙線ミューオンラジオグラフィ」という方法もある。これはX線撮影(レントゲン撮影)に似ている。X線は地面の中を通り抜けることはできないので、火山のレントゲン撮影は無理。しかし、宇宙からやってくる高エネルギーの放射線「宇宙線」により生み出される素粒子「ミュー粒子(ミューオン)」は物質を通り抜ける力が強いことが知られている。X線の代わりにミュー粒子を使えば、火山の「レントゲン撮影」ができる。 これが宇宙線ミューオンラジオグラフィと呼ばれる技術である。日本の研究者たちは、世界に先駆けてこの技術にトライしており、火山内部の「撮影」に次々と成功している。

 宇宙線ミューオンラジオグラフィでは、重い物質と軽い物質を見分けることができます。地表付近まで上がってきたマグマはガスを多く含むため、周りの岩石よりも軽くなっていると考えられるが、実際に活火山で調査を行ったところ、火口直下にマグマと思われる画像が確認された。

 身近な地中を調査する方法には、地中レーダー探査がある。これは、高周波の電磁波を地中に向けて放射し、ある地中の箇所より跳ね返ってくる反射波の走時を測定することによって、地中の様子を探査する方法で、物理探査の一手法である。

 電磁波の速度は地表面の状態や地下媒体によって異なるが、反射波の走時を測定すれば、その深度がわかる。また、反射強度や波形によって反射物が何であるか予測できる。

 地中レーダーは通常、油田や鉱脈、埋設管や空洞、コンクリート構造物中の鉄筋調査等で有効な方法だが、近年では地雷の除去や考古学的な調査にも応用されている。

 今回、この地中レーダー技術を使って古代エジプトのツタンカーメン王の墓が調査された。その結果、エジプト政府は、発見されていない隠し部屋が存在するのはほぼ確実だとしていたこれまでの見解を翻して、部屋はなかったと発表した。


 ファラオの呪い

 ツタンカーメン王の墓といえば、有名な「ツタンカーメンの呪い(ファラオの呪い)」がある。調査隊のスポンサーでもあり、墓の開封にも立ち会ったカーナヴォン卿が発掘の翌年4月に原因不明の高熱で急死。同じ時、カイロ中の電気が停電した。

 犠牲者はこれに留まらない。カーナヴォン卿の死の直後には墓の開封に立ち会った考古学者のアーサー・メイスも急死。同じく開封に立ち会ったアラン・ガーディナー、ジェイムズ・ブレステッド、ハーバート・ウィンロック、アーサー・キャレンダー、リチャード・ベセルも相次いで死亡。

 さらにはツタンカーメンのミイラの検査を行なったダグラス・デリーが肺虚脱で亡くなり、同じく検査を行なったアルフレッド・ルーカスも同時期に急死した。

 結局、犠牲者はこの後も続き、1930年までにツタンカーメンの墓の発掘に関わった22人が死亡。1930年まで生き残ったのはわずかに1人だけであった...。

 この「ツタンカーメンの呪い」は、ツタンカーメンの墓の発掘話のときによく出てくる有名な話。しかしこの有名な話とは裏腹に、その真相を調べてみると、実はデタラメと誇張のオンパレードらしい。

 エジプト学者ハーバート・ウィンロックの調査によると1923年の墓の開封式に出席していた26人が、その後10年以内に何人亡くなったのかが調べられた。結果は、わずか6人。残りの20人は健在だった。

 また棺を開けたときに立ち会った22人の場合も、亡くなったのはわずかに2人。さらにミイラの包帯を取り除いたときに立ち会った10人の場合は誰も亡くなっていなかった。

 イギリスのジャーナリスト、サイモン・ホガート&マイケル・ハッチソンの調査では、墓の調査に深く関わった23人の死亡時の平均年齢と、墓の開封から平均で何年生きたかが調査された。結果は死亡時の平均年齢が73歳、墓の開封からは平均で24年間も生きていた。


「隠し部屋なかった」ツタンカーメン王の墓 従来の見解を翻す

 エジプト南部ルクソールの「王家の谷」にある古代エジプトのツタンカーメン王の墓では、壁の奥に空洞が存在する可能性が指摘され、3年前に日本の技術者などがレーダー調査を行った結果、エジプト考古省はこれまで見つかっていない2つの隠し部屋があることはほぼ確実だとしていた。

 ところが、考古省は5月6日、イタリアの研究チームが別のレーダーを使って改めて行った調査をもとに、空洞そのものが確認できなかったとして、「隠し部屋はなかった」とする見解を発表した。

 隠し部屋をめぐっては、3年前にイギリスの考古学者が、ツタンカーメン王の義理の母とされ「伝説の美女」と呼ばれる王妃ネフェルティティが埋葬されている可能性があるという学説を発表し、注目を集めていた。

 今回のエジプト考古省の発表に対して、日本側の調査チームは「調査結果には自信を持っている」と反論しており、今後も論議を呼ぶことになりそうだ。


論争を呼んだ「隠し部屋」問題、入念なレーダー調査でついに決着か

 ツタンカーメン王の墓で、地中探査レーダー(GPR)を使用して西の壁の奥に空間がないか探す技術者。2018年の調査は、イタリア、トリノ工科大学の専門家が中心となって進められた。

 エジプト、王家の谷にあるツタンカーメン王墓で入念なレーダースキャンが実施され、玄室の壁の奥にあると期待された隠し部屋や通路が、いずれも存在しないことが決定的に判明したと、エジプト高官が発表した。

 ギザの大エジプト博物館(GEM)で開かれていた第4回国際ツタンカーメン大エジプト博物館会議の中で、エジプト考古最高評議会のムスタファ・ワジリ事務局長の代理人が明らかにした。

 調査が始まったきっかけは、ナショナル ジオグラフィックが支援するエジプト学者ニコラス・リーブス氏が、3300年前のツタンカーメンの墓の後ろに第18王朝の伝説の女王ネフェルティティの墓が隠されているという仮説を提唱したことだ。以来、3年にわたって繰り返されてきた調査は、今回の発表によって残念な結末を迎えた。

 リーブス氏の説を検証するため、これまでにも2度、地中探査レーダー(GPR)を使った隠し部屋や通路の探査が行われたが、決定的な証拠は得られていなかった。

 3度目となる直近のレーダー調査は、ナショナル ジオグラフィック協会の支援を受け、イタリア、トリノ工科大学のフランコ・ポルチェリ氏を中心とする合同科学チームが今年初めに実施した。これまでで最も包括的な調査だった。

 5月5日にポルチェリ氏がワジリ氏とエジプト考古相カーレド・エル・アナニ氏に提出した報告書は、「ツタンカーメンの墓の隣に隠し部屋が存在するという仮説は、GPRのデータでは裏付けられないと、大いに自信を持って結論する」という言葉で締めくくられている。


 相反する2度の調査結果

 GPRは、一般に石油やガス、その他の鉱物資源を探すために使われる遠隔探査技術だが、考古学調査にもますます不可欠なツールになっている。墓や通路のような、地中にある人工の空間を、壊れやすい古代遺跡を傷つけずに見つけ出すことができるからだ。

 2015年には、レーダー技術者の渡辺広勝氏がツタンカーメンの墓をGPRスキャンで調査し、玄室の北と西の壁に隠された入口がある証拠を発見したという、驚くべき結果を発表した。

 しかし、2016年にナショナル ジオグラフィック協会のエンジニアが実施した2度目の墓のレーダースキャンでは、渡辺氏の発見を検証できなかった。

 2度のスキャン調査で明らかになった相反する結果について、2016年の国際ツタンカーメン大エジプト博物館会議で意見が対立し、エル・アナニ考古相は「決着をつける」ための包括的なレーダー解析の実施を依頼した。


 3チームが3つの周波数で調査

 今回の報告書には、2018年2月に新たに実施された3回のスキャンの結果が含まれている。スキャンは3つの独立したチームが、それぞれ異なる周波数(高、中、低)を用いて行った。高周波のレーダーでは、約2メートルの深さまでの詳細な結果を得ることができる。一方、低周波ではより深くまで調べられるが、解像度が粗くなる。

 共同研究チームは7日間にわたって調査を行い、表面を走査した距離にして約2.5キロメートル分のデータを収集した。複数の専門家が、レーダーのデータを個別に解析した後、全員でそれぞれの結果のクロスチェックを行った。

「わかったのは、玄室の壁から4メートル奥までに、入口や空間が存在する証拠はないということです」とポルチェリ氏はナショナル ジオグラフィックに語った。

「残念ながら、これが結果です。私たちの確定的な見解です」


 ゴースト信号

 以前行われたレーダースキャンでファラオの玄室において異質なものが検出されたことから、奥にネフェルティティの墓が隠されているのではないかという期待が高まったわけだが、その原因をポルチェリ氏は「ゴースト信号」、すなわち、壁の奥ではなく表面で起こる、まぎらわしいレーダー反射だったと考えている。

 通常の状態では、GPRが発射した電波は壁を通り抜け、真っすぐに跳ね返ってきた波を受信するため、信号はクリアになる。

 しかしツタンカーメンの墓では、どこかの部分で電波が壁を貫通せず、壁の表面など別の経路をたどって受信機に戻ったためゴースト信号がとらえられたと見られる。

 その原因として研究者らが考えているのは、石灰岩の壁に塗られた漆喰に、電気を通す性質があるのではないかということだ。

「石灰岩自体にも、この現象を生じさせる性質があるかもしれません」とポルチェリ氏は説明する。

 そのほか、巨大な珪岩でできたツタンカーメンの石棺によるゴースト信号もあったかもしれないと、研究者らは考えている。


技術の有効性を証明

 最新のレーダースキャンの結果は、調査を始めるきっかけとなった「隠されたネフェルティティの墓」という当初の仮説を立証するものにはならなかったが、ポルチェリ氏は、このプロジェクトによって、GPRが最終的な答えを出せることが示されたと考える。世界中の遺跡で実績が上がっているにもかかわらず、エジプトの考古学界には未だにこの技術を懐疑的に見る人が多い中で、これは特に重要なことだ。

「伝統的な考古学の方法より効率的で、より非破壊的な調査を可能にしてくれるかもしれません」とポルチェリ氏は言う。

ナショナル ジオグラフィックの考古学者フレデリック・ヒーバート氏も同意見だ。 「これは王家の谷で行われた最初の決定的なGPRプロジェクトです。方法の有効性を証明するものです。今後エジプトで行われるであろう優れた研究でも役立つでしょう」

「がっかりする結果かもしれませんが、科学には逆らえません」


参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/050800178/