冥王星は生きている

 冥王星には、メタンの氷がヘビの鱗状に覆った広大な平原をはじめ、太陽系屈指の奇妙な地形が見られる。しかし、その地下ではさらに、氷の天体の概念を根底から覆すような、地質活動が起こっている。

 それまで科学者たちは、太陽系の端にあるこの極寒の天体に、ほとんど地質活動はないと考えてきた。 地球からの観測によって、冥王星の表面で季節ごとに氷が移動している可能性は指摘されてはいたが、今回ニューホライズンズのデータからは、想定外の事実が明らかになった。冥王星は今も(あるいはつい最近まで)地質学的に“生きている”のだ。内部の熱の作用で、その表面の物質に動きが起きている。

 米サウスウエスト研究所のキャシー・オルキン氏は、スプートニク平原と呼ばれる直径1200キロほどの広大な氷原に言及し、「太陽からこんなに離れた冥王星に地質活動があるとは、本当に驚きでした」と言う。




 なめらかなその平原は多角形のパターンに分割されている。それはすなわち、新しい氷が下からゆっくりわき上がってくることを示している。その表面の氷は地質学的に驚くほど新しいもので、50万~100万年ほどで置き換わるという。

 こうした観測結果から、太陽系外縁天体の地下海の寿命が、衛星カロンとの重力作用で起こる潮汐加熱によって延ばされていると、NASAの研究者は考えている。

 米航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターのオリバー・ホワイト氏は、「冥王星が太陽の周りを公転する際、表面と大気の相互作用に関連した活動があるのではと思っていましたが、こんなに広範囲にわたって窒素の氷の塊が対流していた」と驚く。


冥王星に「地球のような特徴」、メタン粒子の砂丘

 それだけではない。冥王星には砂丘などの「地球のような特徴」が発見された。

  米航空宇宙局(NASA)の探査機「ニューホライズンズ」が冥王星に接近通過してから3年近く。5月31日に米科学誌サイエンスに発表された論文で、冥王星には砂丘などの「地球のような特徴」があることが明らかになった。

 ただ、冥王星の砂丘は地球のものとは異なり、固体メタンの氷の粒でできている。太陽系で砂丘が存在するのは地球と火星、金星、土星の衛星タイタンと彗星(すいせい)「67P」だけだ。

 論文共著者の米ブリガムヤング大准教授は声明で、「最初にニューホライズンズの画像を見たとき、砂丘が存在すると即座に思った。大気が少ないことは分かっているので本当に驚きだった」と明かした。そのうえで、「地球の30倍も太陽から離れているにもかかわらず、冥王星は地球のような特徴を持っていることが判明した」としている。

 惑星科学者や物理学者、地理学者らの国際研究チームは今回、冥王星の表面をとらえたニューホライズンズの詳細な画像を分析した。

 冥王星で最大級の地形を構成する広大な氷原「スプートニク平原」では、一定間隔で並ぶ357の尾根や、風でできた6本の暗い筋も見つかっている。

 研究チームは風の筋や砂丘のような地形の分析に加え、数量モデルなども組み合わせることで、冥王星の砂丘を形成したとみられる仕組みを突き止めた。

 砂丘の場合、微粒子がいったん大気中に舞えば、あとは風による形成が可能だ。冥王星の表面気圧は地球の10万分の1であり、こうした粒子は比較的簡単に舞い上がる。

 固体が直接気体に変化する昇華が表面で起こっていれば、こうした現象もあり得るという。冥王星では太陽が氷の表面を熱することで、大気中に気体が放出されている可能性があり、これもメタン粒子を舞い上げる要因になっているようだ。

冥王星は今も生きていた!氷火山の下に生命存在も?探査機「ニューホライズンズ」が潮汐加熱を発見


 冥王星探査機「ニューホライズンズ」

 ニューホライズンズ (New Horizons) はアメリカ航空宇宙局 (NASA) が2006年に打ち上げた、人類初の冥王星を含む太陽系外縁天体の探査を行う無人探査機である。

 2015年1月15日、冥王星の観測を開始。2015年2月14日、冥王星探査開始。2015年7月14日、11時47分に冥王星をフライバイ(接近通過)し、冥王星と衛星カロンを撮影。最接近時の距離は13,695kmで、カロンの公転軌道の内側を通る。そのときの速度は14km/s。2016年1月まで冥王星とその衛星を観測した。

 2016年1月、接近後の探査終了。2019年1月 - エッジワース・カイパーベルト内の太陽系外縁天体2014 MU69をフライバイし観測を行う予定である。その後は太陽系を脱出する。

 ニューホライズンズのとらえた冥王星は想像を超えるものだった。名前の通り、太陽から遠い極寒の地であり、死の世界だと思われた冥王星が内部に熱源を持ち、生命さえ生存可能な生きている天体であったからである。

 ニューホライズンズの撮影した冥王星の鮮明な画像には驚いた。当初予想されたのは隕石の衝突でクレーターだらけの地表であったからだ。巨大な氷火山と思われる地形が見つかったり、なめらかで広大な平原が発見されたりしていた。氷火山とは水が溶岩のように融けて流れたり噴出する火山である。なめらかな平原はごく最近も地質活動が続いていることを意味する。

 冥王星の衛星、カロンも単調なクレーターだらけの世界だと考えられてきた。しかし、冥王星側の半球(地球の月と同様、カロンは常に同じ面を冥王星に向けている)をとらえた高解像度画像を見た研究者たちの目に飛び込んできたのは、山々や峡谷、地滑りの跡といった地形、さらに表面の色までも変化に富んだ世界だった。


 氷の火山とは何か?

 氷の火山(ice volcano)は、低い温度で氷のマグマのようなもの(ice-volcanic melt)を噴出する場所である。また、これは地球で見られるものではなく、地球よりも太陽から遠い、表面温度の低い天体で観測されたものである。ただし、氷の火山にはそのメカニズムなど不明な点も存在する。氷の火山は、溶岩ではなく、代りに、水やアンモニアやメタンのような揮発性の物質を火山のように噴出している。

 ここでは、主に液体と固体の物質で成り立った気体を含む「氷の溶岩」を、非常に低い温度帯で噴出している。なお、噴出後の「氷の溶岩」は、噴出前と比べて固体成分が多くなる。氷の火山が実際に観察されたのは、その表面が主に氷でできていると考えられている衛星においてである。それは、1989年にNASAの無人探査機ボイジャー2号が、海王星の衛星の1つであるトリトンに接近した際に撮影された。

 この氷の火山が「噴火」するための、つまり氷が融解するためのエネルギー源としては、海王星がトリトンに及ぼす潮汐力であろうと考えられている。これによってトリトンは変形し、これによる摩擦で氷が融解しているという考え方である。

 このトリトンで見られたような氷の火山の「噴火」のエネルギー源は、通常、近傍の天体が及ぼす潮汐力に由来するものと考えられている。しかしながら、氷でできている天体は、その表面が半透明である可能性がある。その場合、地球のような岩石惑星では大気中で起こる温室効果のような作用が、表層近くの氷の中で起こって、それによって氷が融解するために十分な熱が蓄積し、これがエネルギー源となっている可能性も示唆されている。

 したがって、今回冥王星で確認された、エッジワース・カイパーベルトに属するような太陽系外縁天体においても、その表面が主に氷でできた天体であれば、氷の火山が存在する。

 なお、太古にはエッジワース・カイパーベルトに属する天体において、多くの氷の火山が存在しただろうという仮説も存在する。太古の太陽系は、現在の太陽系よりも天然に存在する放射性同位体の量が多かったと見積もられている。

 放射性崩壊が起こると、熱が発生する。太古の太陽系のように放射性崩壊を起こす原子の数が多ければ、氷が融解するためのエネルギー源となり得ただろうから、それによって氷の火山が「噴火」していただろうという仮説である。例えば、水とアンモニアの混合物の固体(氷)は、マイナス95度で融解するから、そのような氷の存在する天体ならば「噴火」し得ただろう。


 氷火山の熱源「潮汐力」とは何か?

 潮汐力(tidal force)とは、重力によって起こる二次的効果の一種で、潮汐の原因である。起潮力(きちょうりょく)とも言う。

 潮汐力は物体に働く重力場が一定でなく、物体表面あるいは内部の場所ごとに異なっているために起こる。ある物体が別の物体から重力の作用を受ける時、その重力加速度は、重力源となる物体に近い側と遠い側とで大きく異なる。

 これによって、重力を受ける物体は体積を変えずに形を歪めようとする。球形の物体が潮汐力を受けると、重力源に近い側と遠い側の2ヶ所が膨らんだ楕円体に変形しようとする。

 ある重力場の中に有限の大きさを持つ物体があると仮定する。この時、物体表面もしくは内部の任意の位置での潮汐力による加速度は、その位置での実際の重力加速度ベクトルから物体の重心での重力加速度ベクトルを引き算したものになる。

 この時、物体は必ずしも公転していなくても潮汐力は発生する。例えば物体が重力場の中を一直線に自由落下するような場合でも潮汐力の作用を受ける。


参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/060100188/

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