光子推進ロケットは実現可能

 近い将来、人類が火星まで行くとなるとその時間が問題になる。火星までの距離は7800万km。徒歩で1000年、車で30年、音速ジェットでも約5年、現在の宇宙船でも5ヶ月もかかる。

 そこで、現在とは違う方法で移動する宇宙船が考えられている。反重力や反物質、空間を変化させる方法、ワームホールを利用する方法など様々なアイデアがあるが、もっとも実現に近いものが光子推進ロケットかもしれない。

 光は質量がないにもかかわらずエネルギーを持っている。これを「光エネルギー」という。このエネルギーをロケットに照射し、反射させれば推進力に変わる。



 従来の光子ロケットは、ロケットが核燃料を使って、光子を発生させる方法が考えられていたが、それでは、ロケット本体が核分裂による衝撃に耐えられない。最近考えられているのは多数の人工衛星から、宇宙船の反射鏡に向かってレーザー光を照射する方法である。

 この方法なら、宇宙船は光速の30%まで達することができる。将来はわずか3日で火星に到達することができるようになるという。


 「EMドライブ」が実際に動作することをNASAも確認

 これと似ているのがEMドライブという推進装置。液体水素などの燃料(推進剤)を必要とせず、太陽光パネルで発電した電力で発生させたマイクロ波だけを用いることで宇宙船を半永久的に航行させる。

 光にエネルギーがあるなら、光は電磁波の一種であり、他の電磁波もエネルギーがある。特に電磁波は波長が短いほどエネルギーが大きくなることが分かっている。波長の短いマイクロ波を使って推進力を得ようとする方法だ。

 だが、推進装置「EMドライブ」は、これまでの物理の法則では説明がつかない力を生みだすことから議論の的になっていた。そんなEMドライブについてNASAが実際にテストを行い、動作が確認された報告書を作成していることが明らかになっている。

 EMドライブはイギリスの航空宇宙技術者であるロジャー・ショーヤー(Roger Shawyer)氏によって考案され、2001年に発表された推進装置。密閉された円錐状のコーンの中でマイクロ波を反射させるだけで推進力が得られるという特徴を持っており、従来のように推進剤を噴射させた反作用で推力を得るロケットエンジンとはまったく異なる仕組みを持つエンジン(推進装置)になる可能性を秘めている。

 EMドライブの最大の謎とされてきたのが、「なぜ推進力が生まれるのか」というポイント。現在の主流であるロケットエンジンのように推進剤を外部に噴射することなく、密閉された容器の中でマイクロ波を反射させるだけで自らは何も失うことなく物体に加速度を与えるエネルギーがなぜ生まれるのかについて、考案者のShawyer氏を含めてこれまで満足な説明がなされていないそうだ。


燃料いらずの夢の宇宙エンジン、第三者が初の検証

 宇宙旅行は大変だ。重い宇宙船に貨物、そして人間を打ち上げ、それなりの速度で別の惑星まで飛行し、欲を言えばねらった目的地でちゃんと停止したい。それには莫大な量の推進剤が必要になる。残念ながら、現在のロケットではおよそ非現実的だ。

 だが、燃料を使わずに推力を得られるエンジンがあれば、話は別である。

 まるで夢のような話に聞こえるけれど、NASAの研究所イーグルワークスは、まさにそのようなエンジンを製作しようと試験を重ねてきた。物理法則に反するとも言われるその装置は、「EMドライブ」と呼ばれ、燃料を使わず、密閉された円錐形の容器の中でマイクロ波を反射させるだけで推力を得るとされる。

 いわば、スター・ウォーズの宇宙船ミレニアム・ファルコンが、ハン・ソロ船長がダッシュボードに頭突きをしただけで飛ぶというようなものだ。奇妙な話に聞こえるのは当然である。

 EMドライブについては、2016年末にも、NASAが最新試験結果を発表して話題になった。そして今度は、NASAとは無関係のドイツの研究者たちが独自にEMドライブを製作し、NASAが成功したと主張する実験の結果を検証し、報告した。


 EMドライブの推進力は電磁相互作用?

 その内容は、最近開催された宇宙推進会議の記録によると、「推進力は、EMドライブから発生したのではなく、何らかの電磁相互作用による」というものだ。

 ドイツにあるドレスデン工科大学のマーティン・タジマール氏率いるグループは、様々なセンサーや自動の機器を取り付けた真空槽の中に、EMドライブを入れて試験を行った。そうやって、振動や熱、共鳴、その他推力を発生させそうな要因をほぼ全てコントロールできたものの、地球の磁場の影響は完全には遮断できなかった。

 EMドライブ内でマイクロ波の反射が起こらないような状態にして、試験装置のスイッチを入れたが、EMドライブはそれでも推力を得ていた。これはおかしい。NASAの説明が正しければ、推力は発生しないはずだ。

 研究者が出した暫定的な結論は、真空槽の中の電気ケーブルに地球の磁場が影響を与えたため、推進力が測定されたというものだった。ほかの専門家も、この結論に同意している。

 「EMドライブの場合、実験でわずかに確認された推力は、地球の磁場との相互作用によるというのが有力な説です」と、自らも独自の推進装置を開発している米カリフォルニア州立大学フラトン校のジム・ウッドワード氏はコメントした。

 地球の磁場の影響を受けずに試験を行うには、ミューメタルという合金で作られた磁気シールドの中にEMドライブを密閉する必要がある。だが、イーグルワークスが行った試験でも、このような磁気シールドは使われていなかった。つまり、イーグルワークスの試験結果が磁場の影響を受けていた可能性を否定できない。

 ドレスデン工科大学の報告は、EMドライブの概念自体に冷や水を浴びせるような内容だが、最終的な結論とするにはまだ早いとウッドワード氏は考えている。ミューメタルの磁気シールドは別としても、ドレスデンの試験はかなり低い出力で行われていた。そのため、「本当に推進力が発生していたとしても、ごくわずかで、ほかの雑音にかき消されてしまう可能性もゼロではありません」と、ウッドワード氏は言う。

  したがって、もっと出力を上げた試験を行えば、論争に決着をつけてくれるかもしれない。


 EMドライブの正体はフレミング左手の法則?

 研究者が出した暫定的な結論は、真空槽の中の電気ケーブルに地球の磁場が影響を与えたため、推進力が測定されたというものだった。ほかの専門家も、この結論に同意している。

 「EMドライブの場合、実験でわずかに確認された推力は、地球の磁場との相互作用によるというのが有力な説です」と、自らも独自の推進装置を開発している米カリフォルニア州立大学フラトン校のジム・ウッドワード氏はコメントした。

 地球の磁場の影響を受けずに試験を行うには、ミューメタルという合金で作られた磁気シールドの中にEMドライブを密閉する必要がある。だが、イーグルワークスが行った試験でも、このような磁気シールドは使われていなかった。つまり、イーグルワークスの試験結果が磁場の影響を受けていた可能性を否定できない。

 ドレスデン工科大学の報告は、EMドライブの概念自体に冷や水を浴びせるような内容だが、最終的な結論とするにはまだ早いとウッドワード氏は考えている。ミューメタルの磁気シールドは別としても、ドレスデンの試験はかなり低い出力で行われていた。そのため、「本当に推進力が発生していたとしても、ごくわずかで、ほかの雑音にかき消されてしまう可能性もゼロではありません」と、ウッドワード氏は言う。したがって、もっと出力を上げた試験を行えば、論争に決着をつけてくれるかもしれない。


 EMドライブとは何か?

 EMドライブ(EM-drive、electromagnetic drive)は、イギリスの航空宇宙技術者のロジャー・ショーヤー(英語版)が考案した宇宙機の推進方法。ロケットエンジンなどの既存の推進機関とは異なり、推進剤なしで推力を生み出すとされている。EMドライブは、サテライト・プロパルジョン・リサーチ社により2001年に発表された。

 EMドライブは、マイクロ波を円錐形の鏡の密閉容器内で反射させるという機構からなるシステムである。その原理は2017年現在解明されていないが、既存のロケットエンジンやイオンエンジンが推進剤を噴射する反作用で加速するのとは異なり、推進剤を用いず推進力が得られるとしている。これは、太陽電池などで電力を確保できれば、半永久的に加速が続けられることを意味しており、実現するのであれば画期的な推進機関になると考えられている。

 一方で、外部とのやり取りをせずに推進力を得られるという主張に対しては、運動量保存の法則に反しているとの激しい批判も寄せられている。永久機関や異星人の宇宙船、反重力装置などの疑似科学の一種だとする科学者も多く、英国政府の援助も打ち切りとなっている。

 2016年、推力発生のメカニズムにウンルー効果が関わっているのでないかという仮説が提案された。ただし、この仮説は光子が質量を持ち、真空中の光速が変化するとする仮定に立脚しているため、主流科学とは大きく乖離している。さらに、ウンルー効果は理論的に予言されているものの、実験的な検証の目処は2017年現在たっていない。ウンルー効果の他には、電磁波の波としての干渉が関わっていて推進力が生じているとする説もある。


 検証実験

 EMドライブの追試は、複数の研究機関により試みられている。中国の西北工業大学(英語版)の研究チームは2010年、2.5 kW の電力を使用したシステムで720 mN の推力を生み出すことに成功したと発表した。

 2014年、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のイーグルワークス・チームは、同様のエンジンで実験を行った結果、中国チームによる報告の一万分の一以下ではあるが、30〜50 µNの推力が発生したことを発表した。

 2015年には、真空チェンバー内でも推力が発生したことが報道されている。2016年11月改めてNASAが発表した報告によると1.2±0.1mN/kWの推力を生じるとされている。

 一方で、2018年5月に発表されたドイツのドレスデン工科大学による追試結果では、同じくEMドライブから4 µNの推力が観測されたものの、EMドライブの向きを90度変えても、またEMドライブを稼働させず実験装置のみを起動させた状態でも同じ推力が観測されてしまったことが報告されている。

 研究チームはこの結果について、EMドライブの推力とされてきたものは、地球の磁場と電源ケーブルの電磁相互作用によって生じた力ではないかと分析している。


 宇宙空間におけるテスト

 2016年11月、International Business Timesは、米国政府がボーイングX-37B のEMドライブ版をテストしており、また中国政府がEMドライブをその軌道宇宙実験室天宮2号に組み込む予定であると報道した。

 2016年12月、Yue Chenは、中国科技日報の記者に、チームが同地で5年間の資金調達を受けEMドライブを軌道上でテストを行っていたと語った。Chenは、プロトタイプの推力は「マイクロニュートン〜ミリニュートン」のレベルであり、決定的な実験結果を得るために少なくとも100-1000mNまでスケールアップしなければならないと指摘した。

 それにもかかわらず、彼の目標はドライブの検証を完遂し、その技術を「できるだけ早く」衛星技術の分野で利用できるようにすることだと述べた。2016年11月09日(Wikipeia)


参考 National Geographic news: http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/052400226/