水琴窟の音の正体

 水琴窟の音は、地中に作りだされた小さな空洞の中に水滴を落とした際に発生する音で、音を空洞内で反響させ、地上に漏らしたものである。音が小さい場合、聞くための竹筒などを設置してある場合もある。

 水琴窟の音は「極めて静穏な庭園」において、縦穴の上部から半径2m以内の地点で明瞭に、半径4m以内の地点で比較的明瞭に聞き取ることができる。

 水琴窟の音は底部に溜まった水の深さに影響される。深さが深ければ「静的な深みのある音」が、浅ければ「騒的な軽い音」が出、水琴窟内部の空洞の高さの1/10ほど水が溜まった際に「清楚にして中和せる」、最良の音が出るという。また、水滴が底部の中心部に落ちると「正確にして且豊か」で、中心から外れるほど「繁雑にしてかつ貧しきものとなる」そうだ。



 瓶を用いる場合、天井入り口周辺の裏側にわざと規則的に凹凸が作ることによって、より大きな水滴ができる。大きな水滴が落ちる時に生じる、従水という「小さな水滴」が「大きな水滴」に追随して共に落ちていく事で、大きな水滴が水面に生んだ椀状ドームの中に小さな水滴が落ちて、ドームと瓶の中で音が反響し、より綺麗な音が鳴るとされている。

 水滴の落ち方にはいくつかの種類がある。まず、間欠的な落ち方と連続的な落ち方があり、間欠的な落ち方には滴水の間隔が1秒ほどのもの(短間欠的点滴)と2秒以上のもの(長間欠的点滴)とがある。また、水滴が1箇所から落ちる場合(一条点滴)と2箇所または3箇所から落ちる場合(二条点滴、三条点滴)とがある。これらは水量で調整される。

 このような、繊細な音にこだわった、日本人の感性には驚かされる。水琴窟は江戸時代、庭園技術として発展した。しかし、誰が発明したのかなど、なりたちははっきりしない。明治、大正、昭和と時代が進むにつれて姿を消した。

 「桜山一有筆記」には、1590年ごろ茶人小堀政一が18歳の時に水琴窟を造り、古田重然(織部)を驚かせたという逸話が登場する。


 水滴の「ぽちゃん」、音出る仕組みを解明

 ところで、あの水の「ぽちゃん、ぽちゃん…」という音、なぜ発生するのかこれまで解明されていなかった。今回、「ぽちゃん」という音は、衝突によって水中に泡ができ、その泡の振動がさらに水面を揺らすことで、高い音が発生することが明らかになった。

 水琴窟の音は風流で趣があるが、水滴が次々と落ちてくる音は身近にたくさん存在する。水道の蛇口がきちんと締まっていないか、あるいは天井の隙間から水が漏れているのかもしれない。この音がしていると、一晩中眠れないという人もいるだろう。

 英ケンブリッジ大学の工学者、アヌラグ・アガルワル氏もその1人だ。そんなアガルワル氏らの研究チームが、この独特な音が発生する仕組みをついに解明し、6月22日付けの学術誌「Scientific Reports」に発表した。

アガルワル氏は、2016年にブラジルの友人宅を訪れた際、雨漏りのする天井から、下に置いてあるバケツの中にひっきりなしに落ちる水滴の音が気になって仕方がなかった。「当時は雨期で、激しい雨が降っていました」

  水滴の音にいらつくと同時に、アガルワル氏は、水滴が落ちるとなぜああいった独特の音がするのだろうかと考え始めた。この音が発生する仕組みは、まだ科学的に解明されていなかった。これが単なる衝撃音だとは考えられない。たとえば拳を机に叩きつければ音がするが、「あの音楽的な響きはありません」とアガルワル氏は言う。


 衝突したときの音ではなかった

 2017年、アガルワル氏はケンブリッジ大学の実験室で、ハイスピードカメラ、マイク、水中マイクなどを使い、水滴がいつ、どのようにぽちゃんという音を発生させるのかを正確に捉える実験を行った。

 高さ約9センチから直径4ミリの水滴を水に落としたところ、衝突の瞬間、水滴は音を立てなかった。しかし衝突からわずか数ミリ秒後、水滴によって水面にくぼみができ、くぼみが反動で元に戻ろうとするとき、水面下に小さな気泡ができる。この気泡こそがぽちゃんという音を発生させる元凶だった。気泡は毎秒5000回振動しており、この振動がさらに水面を震わせ、例の耳障りな音を生み出すという。

 ぽちゃんという音は、水滴が水面に落ちたときにしか発生しない。乾いた木材の上に水滴が落ちた場合には、ぽとりというにぶい音がするだけだ。アガルワル氏はまた、洗剤を加えた水には気泡の発生を抑える働きがあるため、ぽちゃんという音を防げることも発見した。

 水滴が音を立てる仕組みを理解することは、将来的にゲームや映画の音響エンジニアが、バケツに水滴が落ちる音をよりリアルに再現することに役立つかもしれないとアガルワル氏はしつつも、この研究は主に好奇心から行ったものだと述べている。

  そして、もうひとつの動機は、「あの音を止める方法」をなんとしても突き止めたかったのだろう。


 水琴窟とは何か?

 水琴窟は、日本庭園の装飾の一つで、手水鉢の近くの地中に作りだした空洞の中に水滴を落下させ、その際に発せられる音を反響させる仕掛けで、手水鉢の排水を処理する機能をもつ。水琴窟という名称の由来は不明である。同系統もしくは同義の言葉に洞水門(とうすいもん)がある。

 水琴窟は手水鉢の近くに設けられた地中の空洞の中に手水鉢の排水を落とし、その音が地上に聞こえるように設計される。この時、排水は滴水化して落とす。具体的な過程としては、縦穴を伝って流れ落ちた水が水滴となって空洞の底面に溜まった水に落ち、その際に発せられた音がヘルムホルツ共鳴によって増幅され、縦穴を通して外部に漏れる。

 多くの場合、空洞は瓶を逆さにして地中に埋めることによって作りだされる。空洞の形状には吊鐘形(円柱形、上部は半球形)、銅壺形(角柱形、上部は水平もしくは若干反った形)、龕灯形(円柱形、上部はが大きく反った形)がある。東京農業大学教授の平山勝蔵によると、音響面の効果は吊鐘形が最も大きい。より大きな効果を得るための方法としては吊鐘形の空洞を二重に設ける、空洞の側壁の裏側に隙間を造り出すといった方法がある。空洞の幅と深さの関係のバランスによって音の質に違いが生じる。

 空洞の側面および上部は石・陶器・金属などによって造られ、側面には土留が設置される。底部は丸小石、割石、煉瓦、瓦などによって造られる。滴音の反響を大きくするには底部に水を溜める工夫をする必要がある。空洞の上部には水を落とし、さらに音を空洞の外部に漏らすための縦穴をあける。

 平山はこの縦穴の寸法について、「内法3cm、深さ3cm」が最適としている。水が空洞の壁を伝って流れ落ちないようにするため、縦穴の下端には水切りを用意する必要がある。縦穴の上部は方形または円形かつすり鉢状に整形される。この部分は流れ落ちる水の量および勢いが必要以上のものとなることを防ぐための堤防の機能をもち、滴音が一定に保たれる。

 伝統的な水琴窟は茶室前の蹲踞(つくばい)に併設されることが多い。空洞の中に溜まる水の量を一定に保つ(溜まり過ぎた水を排出する)ため、底には排水管が設けられる。瓶を使用する場合、その底(空洞の頂上部)には穴が開けられ、地上から水を導くための管が取り付けられる。


参考 National Geographic news:http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/062600279/