火星で「生命生き残れる証拠」続々発見

 今年は火星が大接近中であるが、火星についての新たな研究成果も次々と発表されている。2018年6月8日付け『サイエンス』誌に発表された最新の研究によると、火星の大気からはメタンが検出され、土壌からは有機物質が発見され、大きなニュースになった。

 どちらも地球上では生物が存在せねば、残らないものである。つまり、火星には生物がいるという間接的な証拠になっている。

 研究によると、火星に夏がくるたびに大気中のメタン濃度が約0.6ppb(1ppbは10億分の1)まで上昇し、冬になると、その3分の1の0.2ppbまで低下することが判明した。地球の大気中にある分子の多くには季節変動がない。化学成分に季節変動のある惑星なんて、まさに別世界のような話だ。この原因は、火星の地下の深いところでメタンは発生していて、表面温度の変動によって立ちのぼってくると考えられる。



 現在の火星にメタンがあるのは不思議なことだ。メタンは数百年しか存在できないので、現在の火星で検出されたということは、火星がメタンを補給しつづけていることを意味する。つまり地下に何らかの微生物が存在する可能性が高い。

 そして今回、火星の南極にある氷床の下に大量の水をたたえた「湖」が存在する可能性があると、イタリア国立宇宙物理学研究所などのチームが7月25日に発表した。地下に水があるということは、生命が生き残れる可能性がさらに高まった。7月27日発行の米科学誌サイエンスに論文が掲載された。


 火星、氷床の下に大量の「水」発見か? 

 太陽から平均約2億2800万キロ離れた火星には、地球の約100分の1の大気があり、生命の「材料」とされる有機物も岩石から発見されている。約40億年前は大量の水に覆われていたと考えられ、現在も北極や南極周辺に氷床が残っている。

 研究チームは、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「マーズ・エクスプレス」が2012~15年に得た南極周辺の観測データを分析。電波の反射具合から、厚さ約1.5キロの氷床の下に、水とみられる層が幅20キロにわたって湖のように存在することがわかった。

 水がある氷床の底の温度は零下約70度と推定されるが、塩分が濃いことや氷床の圧力がかかっていることで液体のまま存在できているらしい。研究所のロベルト・オロセイ氏は「生命にとって好ましい環境ではないが、水中では単細胞生物などが生き残れる可能性がある」としている。

 というのは、地球でも、南極の氷床下で地底湖がいくつも発見されており、水が存在していて、その地底湖の中に微生物のDNAが存在していることが最近確認されたからである。

 地球外での水の存在は、木星の衛星「エウロパ」や土星の「エンケラドス」などでも予想されているが、火星はより太陽に近く、光や熱で生命活動の元になる化学反応が起きやすい。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の臼井寛裕教授(岩石学・地球化学)は「火星に水があるなら、地球と似た生物がいる可能性が高まったと言える」と話している。


火星の地下に湖を発見、太古の海の痕跡? 

 周回軌道上から見た火星の南極の極冠。レーダーを使った観測から、その地下に液体の水がある可能性が出てきた。

 火星の南極の地下約1.5kmの深さに幅約20kmの湖があるらしいことが明らかになり、7月25日付け学術誌『サイエンス』に論文が発表された。

 それだけではない。火星の地下には、ほかにも湖があるようなのだ。「似たような領域がほかにもあります。ここだけと断定する理由は全くありません」と、今回の論文の共著者であるイタリア、ローマ第三大学のエレナ・ペティネッリ氏は言う。

 これまで、木星の衛星や土星の衛星には液体の水がたっぷりあることがわかっていたが、火星でまとまった量の水を見つけるのは困難だった。

 湖の存在が確定すれば、太古の火星にあった海についての謎の解明につながるだけでなく、将来、人類が火星に移住する際の水源にもなりうる。宇宙生物学者にとっては、湖は地球外生命の理想的な生息地に見えるだろう。

 「地球の南極にも同じような環境があり、細菌が生息していることがわかっています」とペティネッリ氏。「彼らは厚い氷の下で生きているのです」


 火星は海に覆われていた

 数十億年前の火星は、おそらく地球と同じように温暖で、その表面は海に覆われていた。しかし今ではすっかり干上がり、砂漠の惑星になってしまった。かつての火星の海に何が起きたのか、科学者たちは長らく頭を悩ませてきた。

 火星ではこれまでに何度か水が発見されているが、大気中に漂っていたり、永久凍土層や極冠に閉じ込められていたり、季節ごとにクレーターの斜面からしみ出していたりと、一時的なものや手の届かないものばかりだった。さらにその量は古代の火星の海を満たせるような量ではなかった。

 米コロラド大学ボルダー校のボビー・ブラウン氏は、「これまでにわかっている水の量では、かつて火星の表面にあった大量の水の行方を説明できないのです」と言う。そこで科学者たちは、行方不明の水の一部が地下の帯水層に閉じ込められているのではないかと考えるようになった。


 29回にわたるレーダー観測

 人類が地下の水を嗅ぎつけることのできる探査機を火星に送り込むようになったのは21世紀になってからだった。

 その1つである欧州宇宙機関の火星探査機マーズ・エクスプレスは、2003年から火星の軌道を周回しているが、これに搭載されているMARSISという観測装置は、レーダーパルスを利用して火星の地下を探っている。MARSISは低周波数の電波を火星に照射し、跳ね返ってきた反射波を調べることで、地中にあるものを推測できる。

 MARSISチームは2008年、火星の南極付近にある氷床が何層にも重なっている領域で、非常に明るい反射を発見。この領域を詳細に観察することにした。

 それから数年間に収集したデータはあまり役に立たなかったが、研究チームは2012年の観測から全体像を描くのに十分なデータを収集できるようになった。研究に必要な情報が揃ったのは、それから3年後、29回におよぶレーダー観測のあとだった。

 MARSISのデータ解析は容易ではなかった。それからの2年間、研究チームは地下の湖以外の可能性を1つ1つ否定していった。すでに、火星を訪れたいくつもの探査機によって、この惑星に水が存在する証拠が数多く見つかっている。

 科学者たちは、火星での反射率のパターンを、地球で見られるパターンと比較することによって、自分たちが発見したものが地下の湖であることを確信した。湖の深さは数メートルで、各種の塩(えん)を含んでいるため、極端な低温でも氷にならずに液体の状態にあると推測している。


 NASA(MRO)では確認できず

 マーズ・エクスプレスのチームは、今回発見された湖を、グリーンランドや南極大陸の氷床の下にある湖と比較する。こうした湖にはかなり巨大なものもあり、生命も生息している。

 しかし、火星の地下の「湖」が本当に湖であるとは考えていない人もいる。研究チームも、くぼ地を満たしているのは水ではなく、水で飽和した堆積物(ゆるい泥)の可能性もあると言っている。その性質を厳密に特定するには別の観測装置が必要だとペティネッリ氏は言う。

 「情報が足りないので、湖か泥沼か断定することはできません。湖の方が興味深いのですが」

 現在、火星の周回軌道上にはレーダーで地中を探れる探査機がもう1機あり、これが話を少々ややこしくしている。

 NASAのマーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)に搭載されたSHARADという観測装置の運用チームのメンバーである米スミソニアン国立航空宇宙博物館のブルース・キャンベル氏は、「私たちにはこの反射体は見えません」と言う。

 2006年から火星の軌道を周回しているMROは、火星の南極の堆積物の層を含め、広大な範囲をレーダーで探査してきたが、 地下の湖のようなものは見つけていない。

 米アリゾナ大学のジャック・ホルト氏は、SHARADのレーダーが使う波長はMARSISのレーダーとは違っているため、湖のある深さまで届かないうちに南極の氷に散乱されてしまうのかもしれないが、液体の湖は電波を反射しやすいのでSHARADでも探知できるはずだと言う。

 「塩水は、金属を除けば、おそらく最強のレーダー反射体です」と彼は言う。「湖なら表面は鏡のように滑らかなので、その反射はSHARADで捉えられるはずです。これに対して、水で飽和した堆積物なら、表面がでこぼこしているので、SHARADではとらえにくいでしょう」

 発見者であるMARSISチームを含め、科学者たちは皆、今回の発見を確認したがっている。

 「私たちは、それが水である可能性を否定するために全力を尽くしたと自負しています」とペティネッリ氏は言う。「あれだけやって否定できなかったのですから、今では水であることを確信しています。将来、ほかのデータによって裏付けられることを期待しています」


 水ではなく、ゆるい泥の可能性も

 火星の地下に湖があるとすると、この小さな塩水の水たまりは火星の失われた海の謎の解明に役立つ可能性がある。火星の水については、極冠が解けた水は地下に帯水層として蓄えられ、水の大部分は南の高地から北の低地に流れているとする理論がある。米SETI研究所のナタリー・キャブロール氏は、地下の湖は、こうした火星の水文学的循環に関する手がかりにもなると指摘する。

 キャブロール氏は、地球上にある火星によく似た環境も調べていて、アンデスの高地の湖に潜ることもある。彼女は、今回MARSISが発見したものが水で飽和した堆積物であっても本物の湖であっても、非常に面白いと言う。

 「いずれにしろ、ここには水と隠れ家があります。そして、鉱物からは栄養分を作り出すことができます」と彼女は言う。「ほかに必要なのはエネルギー源ですが、両極地方に新しい火山があれば、生命が生息できる可能性は高く、生命探査のターゲットになります」

 「とはいえ、ここを訪れることには非常に問題があります。火星の両極地方は、惑星を保護するための特別な領域にあたるからです」。国連は、生命が生息している可能性のある惑星間環境の汚染を防ぐために、厳しい規制を行っているからだ。

 地下の湖は、人類が火星への定住を考えるときに、すぐにではないがいつかは利用したい資源でもある。

 『ナショナル ジオグラフィック』の火星シリーズのアドバイザーであり、NASAの以前の首席技術者でもあるブラウン氏は、「最初に火星に降り立った人々が地下何kmにも達するような穴をあけるとは考えられません」と言う 。

 「これが本当に湖なら、ほかのもっと表面に近いところにも湖があるでしょう。地下数十mのところに大量の水があることがわかれば、ベースキャンプの建設を計画する頃には、そうした水のことをもっと知りたくなるでしょうね」


参考 National Geographic news:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/072700332/


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