太陽が燃え続けている謎

 どうやって太陽があれほどのエネルギーを産生し続けられるのか、人類にとっては長い間謎であった。もしも化石燃料などを燃やしているのであれば、太陽は燃え尽きているはずだったからだ。

 しかし、20世紀の早期に、熱核融合ならば膨大なエネルギーが産生されることが判り、そしてこれこそが太陽のエネルギー源であり、また太陽が未だ燃え尽きていない理由であることが理解された。

 1920年、フランシス・アストンに従って原子の原理の正確な測定を行っていたアーサー・エディントンは、恒星はそのエネルギーを水素がヘリウムへ転換される核融合反応から手に入れていると最初に提案した。



 1939年、ハンス・ベーテが「恒星におけるエネルギー生成」という論文で、水素からヘリウムへの核融合以外に核反応が起こり得るか、その可能性を分析した。その結果として、彼は恒星のエネルギー源として2つのプロセスを提示した。最初の1つが、陽-陽連鎖反応であり、これは太陽程度の質量を持った恒星における、最も有力なエネルギー源である。

 2つ目は1938年にC・F・V・ヴァイツゼッカーによって考察されていたCNOサイクルであり、こちらは太陽よりも質量の多い恒星における、最も重要なエネルギー源であった。この反応において、炭素(C)や窒素(N)、酸素(O)までが合成されることが分かった。これらの核融合形態は、恒星を熱く保つためのエネルギー発生に関連していた。

 しかしながら、彼らはそれより重い元素の合成については扱わなかった。これより重い元素の合成に関する理論については、1946年にフレッド・ホイルによって研究が始められ、彼は非常に高温高圧の環境があれば鉄(Fe)までの元素の合成が可能だろうと主張した。

 ホイルは続いて1954年に発表した論文で、恒星内部において炭素から鉄にかけての元素の合成がどのように進行するかを概説した。この時のホイルの理論に存在していた遺漏は後に訂正されるが、それは1957年、一般にはB²FH論文として知られている名高いレビュー論文がM・バービッジ、J・バービッジ、W・ファウラー、F・ホイルによって公表されることで始まった。

 我々人類は、こうして地球に居ながらにして、太陽が核融合反応していることまで突き止めてしまうのだから、凄いものだと思う。しかし、太陽についての謎はこれだけではなかった。


「太陽の謎 解明する」“最接近” 探査機

 太陽にこれまでで最も近い距離まで近づいて観測する探査機が8月打ち上げられるのを前に、アメリカ航空宇宙局(NASA)が記者会見し、太陽で起きる現象の解明に期待を示した。

 NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は8月に打ち上げられ、ことし11月以降、合わせて24回、太陽に接近し、太陽の表面からおよそ600万キロと、これまでより格段に近いところから観測する計画である。

 NASAは打ち上げを前に7月20日、アメリカ南部フロリダ州のケネディ宇宙センターで記者会見を開いた。

 それによると、探査機には厚さ10センチを超える炭素繊維でできた直径2.3メートルの耐熱板が取り付けられていて、1400度近い高温の中でも機器を30度前後に保つことで、太陽に接近しての観測が可能になる。

 そして、これまで謎とされてきた、太陽を取り囲むガス「コロナ」が表面温度をはるかに超える100万度にまで達する理由や、人工衛星や地球上の通信などに影響を及ぼす太陽から出る電気を帯びた爆風「太陽風」がどう加速するのか調べ、地球への影響の予測に役立てるとしている。

 NASAの担当者は「太陽の現象を解明する最後のピースを提供したい」と述べ、期待を示した。


 NASAの宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の秘密

 米航空宇宙局(NASA)の宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が、7月末に打ち上げられる。特殊な断熱シールドを使った同機は太陽への最接近を目指し、周囲にあるコロナや太陽フレア、宇宙天気といった数々の「謎」を解き明かす手がかりをつかむことがミッションだ。前代未聞の「太陽探索」を目指す探査機の「秘密」と、ミッションの全体図を紹介する。

 ワシントンD.C.近郊にあるアンドルーズ空軍基地から、15億ドル(約1,659億円)相当の貨物を積んだ「C-17」輸送機が4月1日午前4時ごろ(現地時間)に飛び立ち、フロリダ州ケープ・カナヴェラルに向かった。貨物の中身は、太陽とのランデヴーに向かう宇宙探査機で、詰め物とともに慎重に包装されていた。

 ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所(APL)が設計して組み立てを行い、米航空宇宙局(NASA)が運用する宇宙探査機の「パーカー・ソーラー・プローブ」は7月31日、「デルタIVヘヴィー」ロケットで打ち上げられる予定だ。

 パーカー・ソーラー・プローブは、太陽に向かう途中で金星の引力を利用したスリングショットを行い、最高時速は45万マイル(約72万4,000km)に達する見込みだ。この速度なら、太陽の表面から400万マイル(約640万km)上空にあるかすみがかった大気、すなわちコロナを通過できる。宇宙探査機は、これまでにない距離で最も太陽に接近するのだ。


 「太陽の謎」の解明を目指す

 科学者はパーカー・ソーラー・プローブが収集するデータによって、地球上の通信信号に大きな被害をもたらす太陽フレア[日本語版記事]の発生や宇宙天気について理解を深め、予測できるようになる。4年をかけてつくられたパーカー・ソーラー・プローブは、宇宙における耐用年数が7年以上とされ、太陽の謎を明らかにする根本的な疑問にも答えてくれるだろう。

 例えば、コロナは太陽の表面と比べて300倍も熱い。このミッションを担当し、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所の主任科学者であるニコラ・フォックスは次のように説明する。

 「太陽の表面から離れるにつれ、高温ではなく低温になるはずです。高温になる理由については諸説ありますが、太陽のなかを飛行しないと理論を検証できません」

 フォックスらは「時速100万マイル(約160万km)で太陽から地球に向けて放出される電離した気体である太陽風が、太陽から離れるにつれ減速するのではなく、加速する理由も知りたい」と考えている。太陽風は、地球の磁場を撹乱(かくらん)して停電を引き起こしたり、軌道衛星や国際宇宙ステーションに搭載されている電子機器をショートさせたりする恐れがあるのだ。パーカー・ソーラー・プローブが収集するデータは、こうした現象の予測に使用するモデル構築に役立つだろう。


 太陽探索を可能にする「耐熱シールド」

 NASAとジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所の科学者は、1958年から太陽の近くに探査機を送り込むことを夢見てきた。だが、資金調達の遅れや技術的な問題により、このプロジェクトは2014年まで構想段階にとどまっていたのである。プロジェクト責任者のアンディ・ドリースマンによると、工学上において最大の課題は「探査機と搭載機器を太陽の熱から守ることだった」という。

 パーカー・ソーラー・プローブの構造物全体は、約1,371℃の高温に耐えられるように厚さ4.5インチ(約11.4cm)で、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)の耐熱シールドで覆われている。耐熱シールドを結合する接着剤などは、溶ける可能性がある資材が使用されないよう注意する必要があった。

 すべての部材がシールドで保護されているわけではない。太陽風の角度とプラズマエネルギーを測定する直径8インチ(約20cm)のソーラー・プローブ・カップは、シールドで保護されていない数少ない機器のひとつだ。その代わりに融点が2,470℃と高い希元素のニオブでできている。

 宇宙空間に似た環境で、耐熱シールドをテストする現実的な方法はない。「サンプルをテストして結果を受け入れ、高温に耐えられるのを証明しなければいけません」とドリースマンは語る。NASAとジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所のチームは、パーカー・ソーラー・プローブが自律的に決定を下し、データを迅速に送り返す能力を向上させながら、操作する人間から離れても稼働し続けられる新しいタイプの自律制御システムも設計した。


 「今度こそは」と成功を祈る関係者

 パーカー・ソーラー・プローブは7月の打ち上げ前にも、さらなるテストと組み立てが行われる予定だ。ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所とNASAのエンジニアと科学者は、こうしたテストが問題なく行われるのを願っている。

 NASAゴダード宇宙科学研究所にいるすべての人々は、パーカー・ソーラー・プローブが96億ドル(約1兆円)をかけた別の大規模な宇宙科学プロジェクトであるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡[日本語版記事]のような運命をたどらないことを祈っている。

 ワシントンD.C.にいるNASA本部の関係者は、3月27日に「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げを20年まで1年延期する」と発表した。原因は、請負業者のノースロップ・グラマンによる「回避可能なミス」のせいだという。

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の組み立てとテストが行われたゴダード宇宙科学研究所の誰もが、この発表について公式に語ろうとしない。しかし、より小規模で低予算のパーカー・ソーラー・プローブが支出に見合う十分な科学的価値をもたらし、耐熱シールドが機器を守り、無事に接続されるのをNASAが願っているのは明らかだ。


 まだある、太陽に残された謎

 三態においての分類

 これは太陽だけでなく他の恒星にも言えるが、太陽には固体からなる地球型惑星や衛星、液体が大半を占める木星型惑星や天王星型惑星などと異なり、はっきりした表面が存在しない。かつては、太陽を始めとする主系列星や未来の太陽の姿とされる赤色巨星は、気体で構成される、という説が有力であった。

 しかしながら、内部の重力の影響で、表面は気体だが、内部は液体ならびに固体で構成されている、とする説もある(前述の通り、核ではかなりの高温高圧になっているため、密度も非常に高くなっている)。21世紀初頭では、太陽の内部はプラズマや超臨界流体といった、固体でも液体でも気体でもない第四の状態となっている、とする説が最も有力となっている(中でも、既述したプラズマ説が最も有力)。このため、太陽の内部構造が三態のいずれかに該当するかについては結論は出ておらず、いまだにわかっていない。

 コロナ加熱問題

 太陽の表面温度は約6,000度であるのに対し、太陽を取り囲むコロナは約200万度という超高温であることが分かっているが、それをもたらす要因は太陽最大の謎とされた。1960年代までは太陽の対流運動で生じた音波が衝撃波へ成長し、これが熱エネルギーへ変換されてコロナを加熱するという「音波加熱説」が主流の考えだった。

 1970年代からスカイラブ計画を通じてコロナのX線観測が行われたところ、コロナの形状は太陽の磁場がつくるループに影響を受けていることが判明し、ここから太陽磁場の影響による加熱が提唱された。しかし他にも磁場に伴うアルベーン波説や、フレアによる加熱説などもあり、結論には至っていない。

 太陽ニュートリノ問題

 太陽内部の核融合反応に伴って、太陽からはニュートリノが常時放出されている。これは可視光で調査不能な太陽内部を直接知る手段として注目された。標準太陽モデルで求められた陽子-陽子連鎖反応による太陽ニュートリノは、以下の4種類が想定された。

 これらの名称およびエネルギー値は上から、p-pニュートリノ (0.42MeV)、pepニュートリノ (1.44MeV)、ベリリウム・ニュートリノ(0.38MeVおよび0.86MeV)、ボロン・ニュートリノ (6.7MeV) である。

 太陽ニュートリノ観測は1960年代にアメリカ、1985年から日本でそれぞれ行われたが、その結果は、恒星内部の核反応の理論から予測される値の半分程度しかないことが分かった。その後行われた高精度が期待される手法による観測でも理論値よりも測定値が低い結果が再現された。複数の観測法で同じ傾向の結果が出たために、方法的欠陥とは考えられなくなった。

 1990年代に複数の仮説が提案された。ひとつは素粒子物理学におけるニュートリノ振動が影響するというものであった。ニュートリノが質量を持つと仮定すると、そのフレーバー(電子型、ミュー型、タウ型)が宇宙空間を飛来する間に変化する可能性があり、過去の電子型ニュートリノのみを測定する手法では太陽ニュートリノが減衰したように見えるというものだった。

 他にも標準太陽モデルにおけるニュートリノ発生比率への疑問も呈され、過去の実験では高エネルギーのボロン・ニュートリノを捉えやすい性質があったため、仮に太陽中心の温度が想定よりも低いとするとp-pIII反応の比率は低くなり、結果として太陽ニュートリノの観測値が低くなるという考えが提案された。他にも「太陽では核反応が起こっていない」という極端な説が飛び出る中、新たな観測方法が求められた。

 21世紀に入り稼動したスーパーカミオカンデは、同時期に開始されたカナダの観測法よりも比較的電子型以外のニュートリノも捉えることが可能だった。太陽ニュートリノを観測した結果は、理論値よりも低いながらもスーパーカミオカンデの実測値はカナダのそれを上回り、太陽ニュートリノ問題はフレーバーの変化という説で決着した。スーパーカミオカンデは別な観測でニュートリノ振動を実証し、これを受けて「太陽ニュートリノ問題」提唱者レイモンド・デイビスとカミオカンデ実験を主導した小柴昌俊は2002年度のノーベル賞を授与された。

 太陽に環は存在するか

 1966年の日食の際、アメリカの科学者が赤外線観測によって、太陽から約300万キロメートル離れた地点で数µm程度の微細な塵がリング状に広がっていることを発見した。だが1993年にインドネシアにおいて観測された日食の際に京都大学の研究チームが環を確認して以来、環は見えなくなっており、今後の研究が待たれている。


参考 Newsweek: https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/4nasa8.php