世界最大の恐竜は?

 世界最大の動物というとシロナガスクジラであるが、過去に地上を歩いた動物で史上最大なのは、竜脚類と呼ばれる首の長い恐竜のグループだ。動く大聖堂とさえ言われる草食の巨人たちは、頭から尾の先までの長さは最大で35メートルを超え、体重はなんと70トン近いものもいた。

 恐竜は、脊椎動物の分類群の一つである。中生代三畳紀に現れ、中生代を通じて繁栄した。多様な形態と習性のものに適応放散し、陸上動物としては非常に大きくなったものもあったが、約6,600万年前の白亜紀と新生代との境に多くが絶滅した。かつて、地球全体にわたって恐竜という巨大な動物が栄えた時代があった。別名恐竜の時代ともよばれた中世代のことである。

 恐竜は大型ハ虫類の一群で、主竜類に属する。現在恐竜の仲間は約350属確認されており、それらは鳥形骨盤類である鳥盤目恐竜と、トカゲ型骨盤類である竜盤目恐竜の2種類に分類される。さらに竜盤目は竜脚類と獣脚類に分かれる。



 このうち、特に巨大化したのは竜脚類の恐竜である。ブラキオサウルスは、アメリカ大陸やアフリカ大陸で中生代ジュラ紀後期から白亜紀前期に繁栄した。体長25m、体重50tと推定される。ティタノサウルスは、南アメリカで中生代白亜紀前期に繁栄した。体長は37m、体重は70tにもなる。アルゼンチノサウルスは南アメリカで中生代白亜紀に繁栄した。体長は約40m、体重は100tもあったと推定されている。

 どの巨大恐竜も進化の過程で、中生代白亜紀に最大になったと考えられてきた。ところが7月24日付けの学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された最新の論文が、長く語られてきたこの竜脚類の起源の物語に一石を投じた。

 中国で発見され、「霊武(リンウー)の驚くべき竜」を意味するリンウーロン・シェンキ(Lingwulong shenqi)と命名された新種の恐竜が、竜脚類の主要なグループである新竜脚類で最古のものであり、彼らの出現がこれまで考えられていたより少なくとも1500万年も早かったことが示されたのだ。

 この発表のわずか数週間前には、別の画期的な論文が学術誌「ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション」に掲載されていた。それによると、インゲンティア・プリマ(Ingentia prima、「最初の巨人」の意)と名付けられた2億800年前の恐竜が、竜脚類が出現する以前から、竜脚類の巨大化につながる体の基本構造をすでに備えていたという。


 1500万年早く「新竜脚類」は出現、巨大化もたらす特徴はさらに古く

 「どちらの論文にもとても魅かれます。いずれも、流れを大きく変えるものですから」と話すのは、英エジンバラ大学の古生物学者スティーブ・ブルサット氏だ。『The Rise and Fall of the Dinosaurs(恐竜の栄枯盛衰)』の著者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある。

 「竜脚類に関する私たちの知識が誤りだったということではありません。その進化の鍵を握る出来事が、従来の認識より何千万年も早く起こっていたと分かったのです」

 恐竜時代の大部分にわたり、竜脚類は地上の生態系を支配していた。2億年以上前の三畳紀後期から、約9000万年前の白亜紀後期までという長さだ。しかし、最初から巨体だったわけではない。最初の竜脚類は2足歩行するちっぽけな存在だった。

 古生物学者たちは、典型的な竜脚類が「草食の超高層ビル」になるために必要な適応をなしとげたのはジュラ紀中期の1億8000万年前以降だと考えていた。このグループの恐竜はおおむね生まれてからずっと成長し続ける。進化するにしたがって大小さまざまなものが現れたが、頭骨は小さくなり、首の骨には空洞が増え、一方で脚はずんぐりした柱のようになった。

 しかし、進化上重要なこれらの特徴をいつ、どこで獲得したのだろうか。最新の成果によれば、ジュラ紀中期よりもずっと前だという。


 巨大化をもたらす特徴が先行

 アルゼンチンにあるサンフアン大学の古生物学者、セシリア・アパルデッティ氏が率いる研究チームは、比較的首が長い恐竜の不思議な化石をパタゴニアで発見した。年代はおよそ2億800万年前で、竜脚類の古い親類だった。インゲンティア・プリマと正式に命名されたその恐竜は、体長は10メートル余り。体重は10トンほどで、竜脚類が「巨大化セット」を獲得する前に現れた動物としては驚異的な大きさだった。

 典型的な竜脚類よりも古い親類たちは、巨大化への独自の方法を偶然見出していた。ただし、時代が下ったジュラ紀中期の竜脚類と違って、彼らの骨は一定の速さでスムーズに成長せず、成長がゆるやかな時期と爆発的な時期を交互に繰り返していた。しかも、後の竜脚類の柱のような脚と違って折れ曲がっていたが、それでも自分の体重をうまく支えていた。首の骨も空洞はなく、竜脚類ほど長くはなかった。

 この発見で、三畳紀後期にはすでに大型の草食動物という地位を恐竜が占め始めていたことが確認された。それを可能にしていたのは、さまざまな特徴の寄せ集めだ。

 「恐竜は進化の初期段階から、解剖学的な革新を起こす独自の能力を持っていました」とアパルデッティ氏は話す。「これにより、彼らは非常に長い期間にわたって、ほとんどの場所で地上の生態系を支配し、他を圧倒できました。この『解剖学的多用途性』はおそらく、地球史上最も成功した脊椎動物の1つとなる上で決定的だったはずです」


 アジア初、しかも最古の化石

 インゲンティアの発表からわずか数週間後、中国で調査していた別の古生物学者チームが、リンウーロン・シェンキの論文を発表した。1億7400万年前のディプロドクス上科と呼ばれる竜脚類の一種だ。この発見も驚きだ。場所も年代も、全く予期しないものだったからだ。

 2005年、中国科学院の古生物学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーである徐星氏は、同僚とともに中国北西部の霊武で発掘を開始した。前年に地元の農家が見つけた場所だった。以来、8~10体の恐竜が見つかっており、アジアでは前例のなかった恐竜であるリンウーロンもその1つだ。

 「この発見で、空白を埋められるかもしれないと気付きました」と、論文の主著者である徐氏は話している。

 リンウーロンでひときわ目を引くのは、太古の超大陸パンゲアの分裂が、竜脚類の進化にどう関係したかの手掛かりになる点だ。地球規模で起きた超大陸の分裂は、恐竜時代の地上の生物の進化に重大な影響を与えた。ひとつながりだった地域が海によって隔てられると、陸上の動物たちは昔のように大陸じゅうに分布できなくなり、孤立した地域で独自の進化をたどるようになる。

 リンウーロンが見つかる前、東アジアでディプロドクス上科の恐竜は見つかっておらず、古生物学者たちはそれが当時の生物学的現実とみなしていた。この種の恐竜がいないことの説明として、約1億8000万年前以降、東アジアに内海ができてパンゲアから切り離されたという説が科学者から提唱された。巨大な堀のせいで、ディプロドクス上科やその仲間、いわゆる新竜脚類が東アジアに到達できなかったというわけだ。

 かつて地球上を、1000種を超える恐竜が歩き回っていた。最大と最小の恐竜、食べ物、行動、絶滅に関する驚くべき事実などを紹介する。しかしリンウーロンが見つかった以上、新竜脚類はパンゲアが分裂する前に大陸の広い範囲にいたと考えなければならない。だとすると、竜脚類の中心的なグループは、これまで考えられていたより少なくとも1500万年は早く分岐していたことになるという。

 「新たな動物の発見は……隔離説がいくぶん弱まったか、もっと言えばとても疑わしくなったことを意味します」と話すのは、論文の共著者のポール・アップチャーチ氏だ。同氏は英ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)の古生物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある。「中国にはいなかったとされているグループの多くはおそらく存在していたはずだと私たちは提唱しています。本当にいなかったのではなく、化石の試料採取が不十分で、まだ見つかっていないだけなのです」


 恐竜とその時代とは?

 恐竜は、脊椎動物の分類群の一つである。中生代三畳紀に現れ、中生代を通じて繁栄した。多様な形態と習性のものに適応放散し、陸上動物としては非常に大きくなったものもあったが、約6,600万年前の白亜紀と新生代との境に多くが絶滅した(アラモサウルスなどの一部の属については、この後もしばらく生き延びていた可能性を主張する研究者もいる)。 かつて、地球全体にわたって恐竜という巨大な動物が栄えた時代があった。別名恐竜の時代ともよばれた中世代のことである。

 恐竜は大型ハ虫類の一群で、主竜類に属する。現在恐竜の仲間は約350属確認されており、それらは鳥形骨盤類である鳥盤目恐竜と、トカゲ型骨盤類である竜盤目恐竜の2種類に分類される。恐竜の大きな特徴は、直立型の姿勢にある。他のハ虫類のワニやトカゲやカメのように4本の手足を左右に張り出して歩くのではなく、鳥類やほ乳類のように、脚を体の真下において歩行した。また、2足歩行をした恐竜は、手を親指とそれ以外の指と向かい合わせにするによって、物をつかむ事ができた。

 中生代、三畳紀(トリアス紀)は、約2億4800万年前~2億1200万年前の時代。恐竜が登場したのは約2億3000万年前、三畳紀後期のはじめである。当時繁栄していたのは、ワニ似たハ虫類の先祖(植竜類)や1メートル以上もある水陸両生の両生類(主竜類)、大型の陸上ハ虫類(獣弓類)であった。初期の恐竜は小型で3~4.5メートル以上のものはいなかった。肉食性または雑食性で、2足歩行をしていた。またこの時代、獣弓目の中から最初のほ乳類が出現した。

 中生代、ジュラ紀は、約2億1200万年前~1億3000万年前の時代。 恐竜は環境に適応した結果、様々に進化していった。陸には巨大な獣弓目、空には翼竜などの鳥盤目、海には首長竜などの鰭竜目や魚竜目が現われ、これらのハ虫類が陸・海・空すべてを支配するようになった。鳥の先祖が鳥盤目から分化したのもこの頃である。

 中生代、白亜紀は1億3000万年前~6500万年前の時代、6500万年前、恐竜は忽然と地球上から姿を消してしまった。この絶滅に関しては様々な説が考えられたが、最近では小惑星衝突説が有力である。直径10km、重さ1兆トンもある隕石の衝突事件が恐竜を滅ぼしたというこの小惑星衝突説は1980年、カリフォルニア大学のアルヴェスらによって発表された。

 この説を支える強力な証拠は、恐竜が絶滅した6500万年前の地層から各地で発見されたイリジウムという物質である。イリジウムは地球外起源物質、つまり地球ではできない物質である。よってこの時代に隕石が地球に落下したことはほぼ確実であるといえる。ちなみに、その時の衝撃は核兵器数千個分であったと推測される。

 原因はどうあれとにかくこうして1億6500万年もの間続いた恐竜時代は幕を下ろしたのである。そしてその後、生き残った小型のほ乳類や鳥類、トカゲ、ヘビ、ワニなどによって新たな時代が築き上げられていくのである。


参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/072600331/

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