終戦記念日を迎えて

 今年も終戦記念日を迎えて、お盆のこの時期だけは戦争について考えさせられる。当時の日本の指導者は一般市民が玉砕してまでも戦争を続けさせた。沖縄戦などや東京大空襲、広島、長崎の原子爆弾投下などは多くの一般市民に犠牲者が出た。まったく無用の出来事だった。

 戦って死ぬのは軍人だけでいい。軍隊というのは国を守る大切な仕事である。だいたいミッドウェー海戦で大勢は決してしまった。指導者は一般市民が犠牲になるようであれば戦争は終わらせるべきだった。それなのにダラダラと戦争を続けてしまったのは、欧米が何を目指しているかが理解できなかったからだろう。

 明治維新以後、富国強兵政策ということで「強兵」は欧米に追い付き追い越せで増強してきたが、「富国」が理解できていなかったとしか思えない。黒船が来て結ばれた日本で悪名高い日米通商友好条約は、その目的は通商することで利益を得たいという目的がはっきりしている。当然自国に有利なようにどこの国だって約束したい。経済的な取引(リテラシー)の一つだった。




 明治維新以後国家主導で「富国」にも努めてきたようだが、経済リテラシーがなかったとしか言いようがない。その証拠に、経済的なリテラシーの一つであった「植民地主義」に、精神性を問題にして反発したがために戦争を誘発し大敗を喫することになった。また、石油をめぐる利権や満州国鉄道に関する利権についても、技術的に優れた米国企業の経済性を無視したがために招いた戦争ともいえる。

 戦後は経済優先で努力したおかげで、日本はめざましい発展を遂げた。一時は経済ばかりで「心(精神)」がないといわれたが、最近はバリアフリーなどを取り入れたり、人に優しい精神性の高い発展を目指している。戦前は精神性が最優先だった。やはり経済と精神、両方が大切でありこれからも両立した発展を目指したい。

 一方で、米国も一般市民を巻き添えにした、東京大空襲、広島、長崎の原子爆弾投下などは行き過ぎだった。精神性(人道)を重視してみると、あれほどの歴史的な大量虐殺は例を見ない。これはあきらかな人種差別であり、これを公式謝罪しない限り、経済優先に偏り、国内にまだ残っている人種差別問題を乗り越えることはできず、米国に今後の発展はないと思う。


 DNA鑑定、収集遺骨「日本人なし」

 さて、終戦後の科学技術の発展には目覚ましいものがある。DNA分析技術もその一つである。

 戦没者の遺骨収集事業は、1952年の平和条約(サンフランシスコ講和条約)発効後から南方作戦地域(東南アジア・南太平洋)において開始され、旧ソ連抑留者の遺骨については、ソ連崩壊後の1992年から実施された。

 厚生労働省によれば、2009年(平成21年)3月現在、第2次世界大戦において海外で戦死した旧日本軍軍人・軍属・民間人約240万人のうち、日本に送還された遺体は約半数の約125万柱となっている。残りの約115万柱については、海没したとされる約30万柱を含め、現在もなお海外に残されたままである。

 今回、太平洋戦争中の激戦地フィリピンで、厚生労働省に委託された2人の専門家が、旧日本兵のものとして収集された遺骨の一部をDNA鑑定し「日本人である可能性が高い人骨はなかった」などとする報告書をまとめていたことが、関係者への取材で分かった。

 厚労省は2012年10月に報告書の提出を受けたが、結果を公表していなかった。同省の担当者は報告書の存在を認めた上で「11年に実施した検証結果の域を出るものではないと判断し、公表しなかった。隠していたわけではない」と述べた。

 フィリピンでの遺骨収集事業は8年前に現地住民のものが混入している可能性が指摘され、中断しているのが現状。どうやらフィリピン政府から委託された業者の遺骨の中にフィリピン人のものが混入していた模様である。

 戦後、73年も経て遺骨を収集するのは困難なことだと思うが、それにしても遺骨一つで国籍まで分かるというのは凄いことだと思う。いったいどうやって調べるのであろうか?

 要するに遺骨に、DNAが残っているので、これを分析することで国籍まで分かる仕組みだ。ところでDNAとは何か?遺伝子と染色体との違いは何だろうか?


 DNA・遺伝子・染色体・ゲノム

 それでは、DNAと遺伝子について解説する。

 DNA分子は、デオキシリボース(糖)、リン酸、塩基からなるヌクレオチドが多数つながってできている。そして、この塩基配列が遺伝情報としてはたらくわけだが、すべての塩基配列が遺伝情報となるわけではない。

 すなわち、DNAには遺伝情報をもっている部分ともっていない部分が存在し、遺伝情報をもっているDNAの一部(領域)のことを遺伝子という。したがって、DNAは遺伝子(遺伝情報)を保持している物質として「遺伝子の本体」あるいは「遺伝情報の本体」と呼ばれる。

 では、この問題について確認しよう。「遺伝情報の本体」というと、領域を指す「遺伝子」ではなく、物質名である「DNA」と答えるのが適切。

 さらに、DNAと染色体の関係についても確認しておこう。大腸菌などの原核生物では,細胞質基質中に通常1個の環状のDNA分子が細く折りたたまれて局在している。原核生物の場合は、これを染色体と呼ぶ。

 また、ヒトなどの真核生物では、DNA分子は通常ヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きつき、繊維状の構造体で核内に分布している。分裂期になると、繊維状の構造体が何重にも折りたたまれて凝縮され、太い染色体になる。このように細胞内でDNAを安定に保持するために生じた構造が染色体である。

 ゲノム (genome) は「ある生物をその生物足らしめるのに必須な全遺伝情報」として定義される。すなわちその生物の遺伝子の総和である。例えば、半数体ヒトゲノムは約30億塩基対からなり、体細胞は2倍体であるため約60億塩基対のDNAを核内に持っている。


 DNAから分かること分からないこと

 遺伝子検査が珍しくなくなった。親から子へと受け継がれる遺伝子の本体であるDNAについて、今の多くの大人たちは学校で教わらなかったが、最近の子どもたちは、中学理科の時間でメンデルの法則などと共に学習している。

 ただし、本質的な学習は高校の生物の範疇となっていて、保健でも学習しない。それゆえ、遺伝子検査を受ける可能性のある時代になっても、私たちの側で積極的に学ぼうとしない限り、十分な予備知識を得ることはできないことになる。

 DNAは、糖、リン酸、塩基の三つの部分からなる単位がずらっと並んだ糸のような構造をしている。糖やリン酸は1種類だが、塩基はA、T、C、Gの4種類がある。

 遺伝子検査で調べているのは、4種類の塩基の並び(塩基配列)。ヒトの塩基の並びは全体では30億個にもなる。膨大な数だが、コンピューターの処理能力が向上し、既に全部解読されている。検査では、その一部を調べる。

 塩基の並びは、並んだ三つをひとまとまりとして読んでいく。このひとまとまりをコドンといい、一つのコドンが一つのアミノ酸を意味している。書かれているアミノ酸は全部で20種類ある。また、なかには「ここからスタートですよ、ここで一区切りですよ」と開始や終了の位置を示すコドンもある。

 よくDNAは設計図という言われ方をするが、ただアミノ酸の繋ぎ方が示されているだけなのだ。アミノ酸はタンパク質の材料だから、結局、DNAは、体の中で必要なタンパク質の材料とその材料をくっつける順番だけ示していることになる。


 アミノ酸の種類によってタンパク質の形が出来る

 これだけの情報しか書いていないのに、ヒトの体がつくられ、生命機能を維持するわけだから、不思議だ。実はこれにはアミノ酸の持つ性質や構造が大いに関係している。

 アミノ酸は、種類ごとに異なるR基と全種類共通のアミノ基、カルボキシル基の三つの部分からなる。アミノ酸同士が繋がれるのは、互いのアミノ基とカルボキシル基が結合するから。

DNAの塩基配列に従って順番に繋がったアミノ酸は、R基の持つ構造や性質などにより、繋がったまま自然と位置を変え、立体的な構造をとるようになる。

 例えば繋がった時、電気的にプラスを帯びやすいものとマイナスを帯びやすいものが近くにあると引き寄せられる。プラス同士やマイナス同士の場合は反発して遠ざかろうとする。その時、別のアミノ酸の大きなR基があれば、うまく避けるような位置に落ち着く。

 また、周りに水分が多い所では、水になじみにくいR基を持ったアミノ酸は内側に折りたたまれようとする。つまり、並んだ後のことを見越して、最初から最終形を意図したアミノ酸の並びになっている。

 コラーゲンの場合は、糸のように直線構造をとるアミノ酸配列になっている。糸が織り重なって布になるように、糸状のコラーゲンも弾力のある皮膚をつくっていく。

 また、消化酵素の場合は、アミノ酸同士が適当な距離を保ち、何かがスポッと入り込める空間を持てる配列になっている。この形のおかげで、空間にぴったりはまる物が来た時だけ働くことができる。


 DNA塩基配列のバリエーションが重要

 さて、DNAの全配列が解読されたと言っても、具体的にどのタイミングで何の働きをするタンパク質なのかまで、すべて分かっているわけではない。

 また、塩基の並びにはバリエーションがあって、並びが少々異なっていても同じ形で同じ働きをするタンパク質がつくられる。誰もがこの少々異なる部分を持っていて、異なり方にはいくつかのパターンがあることが分かった。

 さらに統計解析により、このパターンと疾患に関連性があることや薬の効きやすさに違いがあることも明らかになってきた。遺伝子検査では主にこのパターンを調べている。

 しかし、疾患になりやすいパターンを持っていたとしても、すぐに病気に結び付くものではなく、生活環境や生活習慣も関与するので、遺伝子検査の結果をどこまでどのように利用するかが課題となる。

 一方で、薬の構造とアミノ酸の配列には大いに関係があるので、副作用を軽減するためには、異なり方のパターンを調べる必要がある。

 今後ますます私たちの生活に遺伝子情報が密接に関係していく。その活用方法は医療関係者だけでなく、社会全体で考えていかなければなならない。


参考 HUFFPOST: https://www.huffingtonpost.jp/robust-health/post_7125_b_4977118.html


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