初期宇宙のモンスター銀河を多数発見
2010年9月、日本の研究者を中心とするチームが、80億年以上前の宇宙で爆発的に星を形成する「モンスター銀河」を200個近く発見した。モンスター銀河とは、誕生から数十億年までの宇宙において天の川銀河の1000倍ほどのすさまじい勢いで星を形成している銀河のことで、これほど大量に発見されたのは世界で初めてのことだ。
近年までは可視光や近赤外線による観測が天文学のメインだったが、この「モンスター銀河」は電波の一種であるミリ波・サブミリ波によって観測される。ラジオの波長域を切り替えると違う番組が聴こえてくるように、観測する波長域を切り替えると違う物質や天体が見えてくる。これまでミリ波・サブミリ波で観測された空の領域はまだほんのわずかであり、いままでは見つからなかった天体を今後掘り起こすことによって星形成の歴史が詳しく正確に解明されることが期待されている。
2018年8月、宇宙が誕生してまもない時期につくられ、内部で星が次々と生まれる「モンスター銀河」と呼ばれる種類の銀河の詳しい観測に国立天文台などが成功した。
「モンスター銀河」のうち124億光年という遠方にあるモンスター銀河の詳しい観測に、国立天文台などの研究グループが電波望遠鏡を使って成功した。それによると、このモンスター銀河では、中心と、そこからそれぞれ数千光年離れた2か所に、星のもととなるガスとちりが集まっていることがわかった。
ほかの多くの銀河ではガスとちりが円盤状に広く分布するのに比べ、このモンスター銀河は中心だけでなく、離れた2か所にもガスとちりの塊があるため、銀河全体で星が生まれやすくなっていると考えられるという。
120億光年を超える遠い場所にあるモンスター銀河のガスなどの分布を詳しく観測できたのは初めてで、研究グループの代表を務める国立天文台の但木謙一さんは「星が効率的につくられる仕組みの一端がわかった。今後はなぜ多くのガスが集まる場所があるのか、その疑問を解明したい」と話している。
124億光年彼方で暴走するモンスター銀河
現在の天の川銀河で星が誕生する割合(星形成率)は1年あたり太陽数個分の質量程度だが、宇宙にはその数十倍以上もの割合で星を生み出している「スターバースト銀河」と呼ばれるタイプの銀河も存在する。とくに初期の宇宙には天の川銀河の1000倍という驚異的なペースで星を作る銀河も存在し、「モンスター銀河」とも呼ばれている。こうしたモンスター銀河における猛烈な星形成活動の原因は、まだ明らかになっていない。
銀河で星がどのように生まれるのかを知るには、星の材料である分子ガスが銀河内でどのように分布しているかを明らかにすることが必須である。しかし、初期宇宙にある、つまり非常に遠方にある銀河は小さく見えるため、ガスの分布を調べるには高解像度の観測が必要となる。そのうえ、銀河は暗いため、高感度の観測も必要だ。
国立天文台の但木謙一さんたちの国際研究チームは、ろくぶんぎ座の方向に位置する銀河「COSMOS-AzTEC-1」を、高解像度かつ高感度が得られるアルマ望遠鏡で観測した。この銀河は以前の観測により、地球から124億光年彼方に位置し、猛烈な勢いで星を生み出していることが知られていたモンスター銀河の一つだ。
アルマ望遠鏡の観測によって作られた高精細な分子ガスの地図から、COSMOS-AzTEC-1では分子ガスの大部分が中心から1万光年の範囲に集中していることがわかった。これは、これまでに調べられてきた多くのモンスター銀河と同様の傾向だ。多くのモンスター銀河では中心部分で活発に星が生まれていることがわかっているので、星の材料である分子ガスが中心部に集中しているのは珍しいことではない。
さらに、COSMOS-AzTEC-1では、中心から数千光年離れた位置にも大きなガスの塊が2つあることがわかった。この塊こそが、COSMOS-AzTEC-1における爆発的な星形成の鍵と考えらえれている。
濃く集まった分子ガス雲が自らの重力によってつぶれることで、多くの星が生まれる。そして、ある程度の量の星ができると、星や超新星爆発から噴き出すガスの圧力が重力による収縮を妨げるように機能するため、星が生まれにくくなる。こうした自己制御の結果として、銀河における星形成活動は、ほどよいペースに自動的に落ち着くと考えられている。
モンスター銀河は巨大楕円銀河の祖先
今回の観測では圧力の分布も明らかにされており、その結果によると、COSMOS-AzTEC-1では銀河全体にわたって分子ガスの質量(重力)が大きいわりに圧力が弱く、星形成活動のペースを抑える効果が働いていないことがわかった。
つまり、この銀河は、中心部だけでなく全体にわたって、極めて活発な星形成を起こしやすい状態にあったということだ。モンスター銀河について、このような性質が明らかになったのは、今回が初めてである。
COSMOS-AzTEC-1では、わずか1億年で星の材料である分子ガスを使い果たしてしまうほどの勢いで星が暴走的に生まれていると考えられる。つまり、モンスター銀河は長期間にわたってモンスターとして君臨し続けることはできないということだ。モンスター銀河が、天の川銀河のおよそ1000倍もの星を持つ巨大楕円銀河の祖先と考えられていることと合わせると、巨大楕円銀河は宇宙初期のある時期に短期間に形成され成長すると考えられる。
COSMOS-AzTEC-1が星形成活動の自己制御を失ってしまった原因として、この銀河が近い過去に衝突を経験したことが可能性として考えられている。ガスを多量に含む銀河同士がぶつかることによって狭い範囲にガスが押し込められたため、自己制御が失われて暴走的に星が生まれているのかもしれない。「COSMOS-AzTEC-1では、今のところ銀河衝突の証拠は見つかっていません。今後、アルマ望遠鏡を使ってより多くのモンスター銀河を観測することで、銀河衝突とモンスター銀河の関連を明らかにしたいと考えています」(但木さん)。
約50台のパラボラアンテナを使って判明
太陽のような星は、宇宙に漂うガスが集まり固まってできる。星の集団である銀河は、その質量(重さ)で周りからガスを引き付け、銀河の中では星が誕生し続ける。私たちの太陽系が属しているこの銀河では、質量にして1年あたり太陽1個分くらいの星が生まれているとされる。
ところが、いまから100億~125億年ほど前には、その1000倍くらいのハイピッチで星を生み出す、まるで怪物のような銀河がいくつもあった。「モンスター銀河」ともよばれるこの銀河は、なぜこんなに星を大量生産できるのか。国立天文台で研究している但木謙一(ただき けんいち)・日本学術振興会特別研究員らのグループが、南米チリの高地にある「アルマ望遠鏡」を使った観測で、その秘密の一端をつかんだ。
アルマ望遠鏡は、干渉計とよばれるタイプの天体観測装置。たくさんのパラボラアンテナを宇宙に向けて、宇宙から来る電波をとらえる。但木さんらは2017年の10~11月に、約50台のパラボラアンテナを使って124億年前のモンスター銀河を観測した。アンテナ間の最大距離は16キロメートル。こうして、口径が16キロメートルもの現実にはありえない超巨大望遠鏡と同等の高解像度で、遠方にある小さくて弱い光の銀河を観測したのだ。
星が形成される場で強く放射される一酸化炭素ガスからの電波を観測したところ、ふつうの銀河で見られる中心部に加え、すぐ脇の2か所からの強い放射がみつかった。通常の銀河の場合は、できた星や星の最期である超新星爆発から噴き出すガスの影響で、空間に漂っているガスが収縮しにくくなり、星の形成が抑えられる。だが、このモンスター銀河の場合はガスを収縮させる力のほうが強く、ふつうの銀河のようにバランスがとれていなかった。つまり、ガスが収縮して星ができる一方の「暴走状態」になっている。それが、ハイピッチで星を生み出す理由だった。
宇宙は138億年前に起きたビッグバンで1点から始まり、膨らみながら星や銀河、銀河が集まった銀河団ができてきた。どうやって宇宙は、この現在の姿になったのか。それを解明することは天文学や宇宙物理学の大きな課題であり、夢でもある。大昔にできたモンスター銀河の素性を知ることも、そのひとつ。但木さんはこの研究の魅力について、「今回の研究は、宇宙の考古学のようなもの。アルマのような高解像度の望遠鏡を使えば、現在の宇宙にいたる途中のこうした古い銀河の姿を、直接見ることができる」と話している。
参考 アストロアーツ: http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10142_cosmosaztec1
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