フリーゲージトレイン(FGT)とは何か?
フリーゲージトレインとは、レール幅(ゲージ)が異なる新幹線と在来線を走行できるように、車輪の幅を変えられるようにした列車。
軌間可変電車ともいう。鉄道車両が異なる軌間の線路へ直通することができる機構であり、車輪を車軸方向にスライドさせる台車を搭載した車両を、軌間の異なる線路を接続するように設置された軌間変換装置を通過することで軌間を変更できる。
日本の鉄道総合技術研究所による軌間可変電車(FGT)は、新幹線の1,435mm(標準軌)と在来線の1,067mm(狭軌)の両方の軌間を走行可能な車両として開発されている。1998年の第一世代車両から数世代に渡って走行試験が行われているが、実用化の目処は立っていない。
最高速度は新幹線区間で270km/h、在来線で130km/hを目標としている。軌間変換には1分以上かかる。この技術を用いれば、標準軌の新幹線と狭軌のままの在来線を直通運転する列車を運行できる。また、乗換えが不要となり、利用者の負担軽減を図ることができる。
全線フル規格新幹線に対しては所要時間の面で格段に劣るが、新規路線の建設用地確保が不要であるため建設コストや建設期間を大幅に抑えることができる。また、ミニ新幹線のように改軌による在来線のネットワークの寸断も生じない。このため、実用化に至れば、新在直通乗り入れという同じ効用を得るためのコストとしては、軌間可変電車のほうが格段に低くなる。新規のミニ新幹線が建設される可能性は低くなる。
ただし、十数年かけてもなお実用化のめどは立っておらず、開発費が嵩んでいる。これまでの試験車両の試験結果では、新幹線区間では目標を達成しているものの、在来線の曲線区間においては、既存の特急列車に比べて速度が最大で40 km/hも低い状態であった。その後新たに開発された新形台車も振動や速度に問題があり、台車の改良は断念された。
フリーゲージトレイン、北陸新幹線も断念 国交省が方針
車輪の間の幅を変えて新幹線と在来線の両方を走れる新型車両フリーゲージトレイン(FGT)について、国土交通省は8月27日、北陸新幹線(東京―金沢―新大阪間)への導入を断念する方針を与党側に説明した。JR西日本から8月24日に導入断念の意向について報告を受けたという。
FGTをめぐってはJR九州も九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)への導入をあきらめており、国内新幹線へのFGT導入計画はいずれも頓挫したことになる。
27日、整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)で国交省が報告した。JR西の広報担当者は「耐久性とコストの問題。この二つの課題が解決していない中で導入は難しい」と説明している。一方、PTの座長を務める自民党の岸田文雄政調会長は会合終了後、「地元への説明など、しっかり丁寧な対応を国交省に求めた。その上でPTとしての結論を出す」と話した。
FGTは旧運輸省(現国交省)が1997年から技術開発を始めた。これまでに投じた費用は約500億円に達する。線路幅の違う新幹線と在来線の直通運転が可能になるため、費用を抑えつつ高速鉄道網を全国に広げられるとして期待を集めた。
しかし、技術開発は難航。鉄道・運輸機構による耐久走行試験では2014年に車輪と軸受けに24カ所の摩耗痕が見つかるなど、車両の欠陥が見つかり、費用対効果も疑問視された。長崎新幹線の整備方法に関する国交省の試算では、現行の在来線の特急と比べたときの収支改善効果が、フル規格が年約88億円のプラスなのに対して、FGTは年約20億円のマイナスだった。
国交省は今後、線路幅が異なる在来線への導入をめざして引き続き開発を続けると与党側に説明した。私鉄大手の近畿日本鉄道は5月、京都(京都市)―吉野(奈良県吉野町)間でFGTを走らせる構想を打ち出している。
同PTでは、整備費が想定より上ぶれするとの報告もあった。北陸新幹線(金沢―敦賀間)で約2300億円増の約1兆4100億円、九州新幹線(武雄温泉―長崎間)で約1200億円増の約6200億円になるという。(朝日新聞 2018年8月28日)
フリーゲージトレイン開発は継続
石井啓一国土交通相は8月28日の記者会見で、整備新幹線の北陸ルートと九州・長崎ルートの建設費が人件費高騰などで上振れすることを受け、2019年度予算の概算要求で建設費を18年度当初の755億円から増額要求すると正式に表明した。「開業に影響が生じないよう、必要な財源確保に取り組む」と述べた。
2ルートは2023年春ごろ開業の北陸新幹線金沢―敦賀(福井県)と、2022年度に暫定開業予定の武雄温泉(佐賀県)―長崎。
一方、新幹線と在来線を直通運転できるフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の新幹線への導入断念に関し、北陸新幹線の運行主体であるJR西日本からも「導入は難しい」との見解が示されたことを明らかにした。ただ、石井氏は「技術開発が無駄になるわけではない」とも述べ、私鉄の在来線区間などでの活用も想定し、開発を続ける考えを示した。
FGTはまず長崎ルートで実用化する計画だったが、国交省は開発遅れに加え、車両の製造・維持費が高額なため導入を断念。北陸新幹線もで福井県敦賀市で北陸新幹線とJR北陸線をFGTで直通運転する計画だったが8月27日、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)の会合で、北陸新幹線への導入を断念すると報告した。
FGTについては近畿日本鉄道などが在来線での活用を検討している。近鉄は京都から吉野までの直通運転を目指し、開発を進めると5月に表明している。(福井新聞社 2018/08/28)
日本と世界各国の「フリーゲージトレイン」その違いは?
日本では頓挫した形になったフリーゲージトレインだが、世界ではすでに開発済みの技術で利用されている。日本以外の軌間可変車両といえば、すでに営業運転を行っているスペインの例が世界的に有名だが、他にもさまざまな技術が開発されている。主な軌間可変システムをまとめてみた。
【スペイン】
実用的な成功例として最も早く軌間可変車両を実現したのはスペインだ。スペインの在来線は軌間1668mmの広軌で建設されたため、日本の新幹線と同じ標準軌(1435mm)を採用している欧州他国への乗り入れには国境での台車交換が必要だった。
これを解決したのが、1968年に登場した軌間可変機構を備えた1軸連接客車「タルゴIII RD」形だ。「タルゴ」はもともと、曲線の多いスペインの在来線(広軌・1668mm)を高速走行することを目的に開発された客車で、カーブでの通過をスムーズにするために左右の車輪を結ぶ車軸がなく、それぞれが独立して回転する独特のシステムを採用していたが、車軸のない構造だったことが軌間可変機構には有利となった。
「タルゴ」の軌間可変機構は国際列車用として開発されたが、1992年以降スペイン国内で急速に整備された高速新線(新幹線)網は基本的に軌間1435mmの標準軌となっているため、近年は高速新線と在来線の直通列車用として国内でも軌間可変車両の需要が高まっている。現在は両端に軌間可変機構を備えた機関車を連結した「タルゴ」編成も活躍している。
2013年7月に脱線事故を起こした高速列車「Alvia(アルビア)」も、タルゴ客車の両端に機関車を連結した構造の「タルゴ250(メーカーでの名称)」と呼ばれるタイプの車両だったが、軌間可変機構は事故とは無関係だ。
スペインの軌間可変車両は「タルゴ」だけと思われがちだが、軌間可変機構を備えた電車やディーゼルカーも既に営業運転を行っている。同国の車両メーカー、CAF社の軌間可変システム「BRAVA」は日本のFGTと同様に車軸のある構造で、スペイン国鉄(renfe)のS120形高速電車、594.2形ディーゼルカーなどに使用されている。CAF社は同システムを既存車両の改造にも使用できるとしており、実際に594.2形ディーゼルカーは広軌用だった車両を改造して登場した。(BRAVAシステムの解説動画)
これらの車両は動力分散式の軌間可変車両のため、日本のFGTと一見似ているが、大きく異なるのが動力伝達の方式だ。日本のFGTが台車に取り付けたモーターから車軸を駆動する一般的な電車のシステムであるのに対し、S120形電車などはディーゼルカーのように、車体に取り付けたモーターからシャフトで車軸を駆動するシステムを採用している。
今のところ、営業運転を行っている動力分散式の軌間可変車両は世界でもこれらの車両だけだが、営業最高速度は250km/hで、日本のFGTの設計最高速度よりやや低い。軸重もFGTの新試験車両が最大11.5tのところ16.2tで、欧州では標準的だが日本の新幹線より重い。
【欧州~ロシア方面】
欧州では、1435mmの西欧・東欧諸国と旧ソ連諸国をはじめとする軌間1520mmの国々との直通も輸送のネックとなっており、軌間可変車両の研究開発が行われてきた。ポーランドでは「SUW2000」と呼ばれる客貨車用の軌間可変システムが開発され、リトアニアやウクライナへの国際列車に使用されている。
SUW2000の特徴は、軌間変換のシステムが輪軸内にすべて収まっている点だ。日本のFGTやスペインのタルゴ、BRAVAシステムでは、車輪の位置を移動したあとに固定するロック装置が車輪の外側にあり、軌間変換の際には線路の外側に設けた支持レールが台車外側の軸箱を支え、車両の重さが車輪にかかっていない間に軌間を変更する。
これに対し、SUW2000は車輪の輪軸内にロック装置が収まっており、車輪に車体重量がかかったままで線路の内側に設けられた変換装置を通過して軌間変更を行う。ドイツで開発されたDBAG/Rafil Type Vと呼ばれるシステムも同様の機構で、両者は線路に設置する軌間変換装置も共用できる構造となっている。
これらのシステムは国際列車の台車交換や輪軸交換の時間を省くことが目的で、今のところ客貨車のみに使用されている。最高速度も160km/hとなっており、高速鉄道と在来線の直通運転を目指す日本のFGTとは開発・使用の目的が異なるといえるだろう。
【スイス】
スイスには「メーターゲージ」と呼ばれる軌間1000mmの狭軌鉄道が多く存在する。「ゴールデンパス・ライン」と呼ばれる観光ルートも軌間1000mmの路線と1435mmの路線が混在し、2回の乗り換えを強いられているが、同ルートを構成する狭軌のモントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道(MOB)は軌間1000mmと1435mmの両方を走行できる軌間可変客車の導入を計画している。
同線で使用を予定している軌間可変台車は通常のボギー台車だが、車軸のない左右独立車輪となっており、2010年には既存の客車に取り付けられた試作品が公開された。「ゴールデンパス・ライン」は一部にラックレールを使う路線があることから、技術的な問題により全区間の直通はできないが、軌間可変客車の導入で乗り換えの回数は1回に減る。軌間可変客車による直通列車は2015年にも運転を開始する予定となっている。
標準軌の1435mm以外で鉄道網が建設された国は日本以外にも世界に数多くあるが、一方で新しく建設される高速鉄道はどの国でも1435mm軌間がほとんどだ。狭軌の1067mm軌間と標準軌の1435mm軌間を高速で直通運転でき、かつ欧州の技術よりも軽量な日本のFGT。実用化が近づくにつれ、世界の注目もより高まっていくだろう。
参考 東洋経済: https://toyokeizai.net/articles/-/217485
新幹線 最前線―週刊東洋経済eビジネス新書No.231 | |
クリエーター情報なし | |
東洋経済新報社 |
週刊 東洋経済増刊 鉄道完全解明2013 2013年 2/22号 [雑誌] | |
クリエーター情報なし | |
東洋経済新報社 |
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