がんになりやすい動物となりにくい動物
人類は「がん」に弱い。「がん」は人類の死因第一位である。単純に1年間にがんになった人の人数(がん罹患数)とがんで死亡する人(がん死亡数)で見てみても、がんは増えている。この原因は高齢者が増加していることにある。特に人は50歳以上になるとがんになる確率が増えることなどが統計で分かっている。
平成29年の全死亡者に占める割合は 27.8%であり、全死亡者のおよそ3.6 人に1人は悪性新生物(がん)で死亡している。ちなみに心疾患(高血圧性を除く)は、昭和60年に脳血管疾患にかわり第2位となり、その後も死亡数・死亡率ともに増加傾向が続き、平成29 年は全死亡者に占める割合は 15.2%。第3位は脳血管疾患で、全死亡者に占める割合は 8.2 %となっている。
人類はこんなにも、がんに対して脆弱な状況であるが他の動物はどうであろうか?調べてみると、ゾウやクジラなど巨大な動物がほとんどがんにならないことが知られている。そもそもがんは、遺伝子にダメージを受けた細胞が突然変異して異常増殖することによって起こる。だから、細胞の数の多い動物ほどがんになる確率は高い。
それなのに動物園で飼われているゾウの死因を調べると、がんで死亡したゾウは4.8%。人間ががんで死ぬ確率は25~30%と比べると、驚くほど低い。巨大な体を持ち、人間同様に70年以上も生きるのに、ほとんどがんにならないゾウは不思議だが、最近の研究でがんを防ぐ要因が遺伝子にあるということが分かってきている。
ところが小さい体にもかかわらず「がん」になりにくい動物もいる。それは何か?「ハダカデバネズミ」である。
「ハダカデバネズミ」が、ガンにならない理由
ハダカデバネズミは、ガンマ線を打ち込んだり、腫瘍を移植したり、発ガン物質を注射したりしてもガンにならない。その一因は「密度の高いヒアルロン酸」だとする研究が発表された。
ハダカデバネズミは酸素の少ない環境で生きるため呼吸のペースが遅く、非常に少量のエサでも生きることができ、苦痛にも強いことがわかっている。
ハダカデバネズミはアフリカに生息するネズミの一種だ。地中に平均80頭、最大300頭もの大規模な群れを形成し生活する。このネズミが研究者たちの関心を引いているのは、彼らが30年近く生きられるためだ。体の大きさは実験用マウスとほぼ同じであるにもかかわらず、寿命はマウスの10倍近くも長い。
ガンの研究者から見るとマウスとハダカデバネズミは、それぞれガンという病気の両極端にある。マウスはガンの動物モデルとして使われるが、それは寿命が短くガンの発生率が高いからだ。ガン発生のメカニズムの研究や、ガンに効く薬のテストにこの特徴が役立つ。
一方、ハダカデバネズミは長年の研究においてガンが発生したことがない。研究では通常、ガンを誘発するためにガンマ線を打ち込んだり、腫瘍を移植したり、発ガン物質を注射したりするのだが、ハダカデバネズミはガンにならないのだ。
米ロチェスター大学のヴェラ・ゴルブノヴァとアンドレイ・セルアノヴは、ハダカデバネズミがガンから身を守るメカニズムを発見したのではないかと考えている。
ふたりはハダカデバネズミの腋窩と肺から採った細胞を研究していて、細胞の周辺に化学物質が異常に密集していることを発見した。その化学物質はヒアルロン酸(ヒアルロナン)だとわかった。
ヒアルロン酸の分子量に変化が
ヒアルロン酸はすべての動物に見られる化学物質であり、細胞の結合が主な役割だ。ヒアルロン酸は力学的な強さを与えるだけでなく、細胞の数が増える際の制御にも関係している。
ガンでは細胞の無秩序な増加が見られるため、ヒアルロン酸は悪性腫瘍の発達に関係していると考えられていた(たとえば悪性胸膜中皮腫の腫瘍マーカーであり、胸水でのヒアルロン酸の検出は胸膜中皮腫を示唆する)。しかしゴルブノヴァ氏によると、ヒアルロン酸の量と密度といったさまざまな側面が、細胞の増殖を調整している可能性がある。
重合体であるヒアルロン酸は、ひとつの鎖に含まれるヒアルロン酸分子の数が大きくなるほど密度が高くなる。ヒアルロン酸の分子量が大きいと、細胞は数が増えないよう「命じられる」。分子量が小さいと、細胞は増殖するよう「依頼」される。ハダカデバネズミは、ヒアルロン酸の分子量が普通よりも大きく、マウスや人間の5倍もあることをゴルブノヴァ氏は発見した。
ゴルブノヴァ氏はヒアルロン酸を分解する酵素の量を増やして、ヒアルロン酸の分子量を減少させてみた。するとすぐにハダカデバネズミの細胞がガンになったマウスの細胞と同じように、大きなガンの塊へと増殖を始めるのが観察された。
さらにゴルブノヴァ氏はこの仮説をテストする別の実験において、ヒアルロン酸を生成するようコード化された遺伝子を破壊することで、ヒアルロン酸を減少させるという方法を使った。そのうえでガンを抑えるのではなく発生させるウイルスを注射すると、ハダカデバネズミの細胞が癌性になった。
ゴルブノヴァ氏は、ハダカデバネズミはヒアルロン酸の密度が高いことで、皮膚の弾力性が増しているのではないかと考えている。そのためハダカデバネズミは、地下の小さなトンネルで暮らすことができるわけだ。その特徴が図らずも、ガンを防ぐという新しい役割を得たのかもしれない。
今回の論文は『Nature』誌」に掲載された。
※ハダカデバネズミには生活環境が厳しい時に代謝を低下させる能力があり、それが酸化による損傷を防いでいるという説がある。ガンにならない性質については、遺伝子的な研究も行われている。
ヒアルロン酸とは何か?
ヒアルロン酸(hyaluronic acid)は、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種。学術上はヒアルロナン(英: hyaluronan)と呼ぶ。生体内に広く分布し軟骨では重要な役割を持つ。
変形性関節症や成人の美容を目的とした注射は、FDAによる医療承認がある。健康食品では膝の違和感や乾燥肌の機能性表示がある。保湿成分として化粧品に添加される。 N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸 (GlcNAcβ1-4GlcAβ1-3) の二糖単位が連結した構造をしている。極めて高分子量であり、分子量は100万以上になると言われている。コンドロイチン硫酸など他のグリコサミノグリカンと異なり、硫酸基の結合が見られず、またコアタンパク質と呼ばれる核となるタンパク質にも結合していない。
生体内では、関節、硝子体、皮膚、脳など広く生体内の細胞外マトリックスに見られる。とりわけ関節軟骨では、アグリカン、リンクタンパク質と非共有結合し、超高分子複合体を作って、軟骨の機能維持に極めて重要な役割をしている。ある種の細菌も同様な構造を持つ糖鎖を合成している。
ヒアルロン酸は、悪性胸膜中皮腫の腫瘍マーカーであり、胸水でのヒアルロン酸の検出はこれを示唆する。早老症において尿中ヒアルロン酸濃度が高くなる。肝硬変では血清中のヒアルロン酸濃度が上昇する。 ヒアルロン酸は、私たちの体内の中に含まれ、次のような役割を果たしています。
ヒアルロン酸、からだの中での役割
ヒアルロン酸は細胞と細胞の間に多く存在し、水分の保持やクッションのような役割で細胞を守っている。皮膚、真皮に多く含まれ、水分を保持している。ヒアルロン酸の少ない皮膚は、肌の張りがなく、皮膚の表面も乾燥していく。
ヒアルロン酸は、関節液、関節軟骨などに多く含まれ、潤滑作用(骨と骨の間の滑りをよくする)や緩衝作用(クッションとしての役割)など、関節の動きを良くする働きをしている。また目では、硝子体に多く含まれ、緩衝作用や組織形状の維持(目の形を保つ)などの働きをしている。
ヒアルロン酸を用いている医療用医薬品の中に、関節機能改善剤がある。これは、関節内にヒアルロン酸を注射するもの。「変形性膝関節症」と「肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)」「関節リウマチにおける膝関節痛」への治療に使われて、抗炎症作用、疼痛抑制作用などが報告されている。
ヒアルロン酸を用いている眼科手術補助剤は、白内障手術や全層角膜移植術に使用されている。ヒアルロン酸の持つ粘弾性により、傷つきやすい細胞を保護するとともに、手術する空間を広げることを目的に使われている。
参考 WIRED: https://wired.jp/2013/06/26/cancer-immunity-of-strange-underground-rat-revealed/
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