世界に広がる化学物質
化学物質というと自然界には存在しない、人類がつくりだした物質をいう。現在、世の中に存在する化学物質は何十万種とあり、市場で広く出回っているものだけでも数万の物質がある。プラスチックがその典型的な例だ。
プラスチックの登場により生活が便利になった面は大きいが、自然環境で分解されにくく広く分布してしまった。その結果、我々が食べる魚介類中などにもマイクロプラスチックが発見されており、その魚介類を通じてプラスチックを食べているケースもある。
また近年、南極に生息するペンギンの身体から、PCBという化学物質が検出されている。PCBは電気製品の絶縁体として、科学技術の発展に貢献した物質であるが、揮発性があり地球の大気循環の流れによって、全世界に広がってしまった。PCBが体内に蓄積されると発がん性があるとされている。
今回、2016年から2017年にかけて17頭のハンドウイルカが調査され、12頭の体内から人間が作り出した化学物質がみつかった。それはフタル酸エステルという物質だった。
イルカに化学物質が蓄積、プラスチック添加剤
米フロリダ州サラソタ湾のハンドウイルカ(Tursiops truncatus)たちは、人懐っこく、好奇心旺盛なことで知られ、観光の目玉となっている。だが最新の研究によれば、イルカたちの体内に人間が作り出した化学物質が蓄積していることがわかり、健康に被害が及んでいるかもしれないという。
9月5日付けの学術誌「GeoHealth」に発表された論文によると、プラスチックや化粧品、ペンキなどの身近な製品に添加されているフタル酸エステルという種類の化学物質が、ハンドウイルカの体内からみつかった。
2016年から2017年にかけて、米チャールストン大学と米シカゴ動物学協会の研究者たちは、サラソタ湾にいた17頭のイルカから尿のサンプルを集めた。尿からは、イルカが摂取してから3カ月ないし6カ月経った後も体内に残っている化学物質を抽出できた。
野生のイルカからフタル酸エステルが発見されたのは初めてだ。サラソタ湾のイルカたちは40年以上にわたって研究が続けられており、研究者たちにとってはおなじみの顔ぶれである。
「フタル酸エステルにさらされ、ばく露していること自体には驚きませんでしたが、驚いたのは検出された量でした」と、論文の筆頭著者であるレスリー・ハート氏は言う。
調べたイルカのうち、12頭から少なくとも1種類のフタル酸エステルがみつかった。
イルカの健康への影響は
ハート氏によると、尿を調査したのは今回が初めてなので、どのくらいの量が通常の範囲内とされるべきなのかはまだわからない。だがイルカの中には、人の体と同程度の量のフタル酸エステルがみつかったものもいるという。人間のほうがプラスチックや化粧品等、フタル酸エステルを含む製品に多く接触しているはずなので、これは驚くべきことだ。
今回の研究によって、どういった化学物質がイルカの体内に残るのかはある程度わかった。だが、イルカがどのようにしてフタル酸エステルに接触するに至るのか、そして彼らの健康にどういった影響があるのか、という新たな疑問が浮かびあがった。
フタル酸エステルはプラスチックやビニールをより軟らかくするために使われるもので、世界中の消費者向けの製品に含まれている。1998年以前には乳児用のおしゃぶりなどにも使われていたが、現在では使用が禁止されている玩具もある。米国国立医学図書館によれば、フタル酸エステルは水、土、そして空気中からも発見されているものの、健康への影響についてはあまりよくわかっていない。
フタル酸エステルとは何か?
フタル酸エステルは、フタル酸(オルト体)とアルコールのエステルの総称である。フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を代表とする高級アルコールのフタル酸エステルは可塑剤として有用である(フタル酸系可塑剤)。
一般に工業的には、フタル酸(遊離酸)と過剰のアルコールから、水をアルコールと共沸脱水してエステル化する。内分泌攪乱物質である疑いが強く、ヨーロッパでは近年使用規制の動きが強まっている。
プラスチック製品(特にPVC)などを軟らかくするための可塑剤として使用されている。柔軟性を高めるために、なぜフタル酸エステル類が使用されているかというと、耐久性、長寿命、低コストなどの利点が多いため。
その中でも、代表的な汎用可塑剤として広く使われていて、フタル酸系の約60%の生産量を占めている物質として、「フタル酸ビス(2―エチルヘキシル)(別称:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、DEHP)」がある。
フタル酸の構造は、フタル酸部分とアルコール部分に分けることができる。このアルコール部分の構造を変化させることによって、様々なフタル酸エステルを合成することができる。
フタル酸エステル類は、ヒトへの有害性への懸念から様々な規制を受けている。各国の研究機関で生殖毒性が指摘されているが、研究結果によって毒性評価に差異がある。一部のフタル酸は発がん性の可能性があるカテゴリーに分類されている。
ついに環境汚染が深海まで到達!マリアナ海溝の深海生物(エビ)に、中国最悪の川を超える50倍のPCB検出!
深海1万メートルの生物に汚染物質PCB
マリアナ海溝の6千~1万メートルの深さに生息するといわれるヨコエビの仲間から、高い濃度のPCBが検出されている。地球上の最も深い場所で、人間由来の汚染物質が生物に大量に蓄積しているとは...。そんな調査結果を、英アバディーン大などのチームが2017年2月のネイチャー誌に発表した。チームによると、極めて深い海の生物汚染については、ほとんど分かっていなかったという。
チームは、北太平洋にあるマリアナ海溝の深さ約7800~1万メートルでヨコエビの1種を、南太平洋のケルマデック海溝の深さ約7200~1万メートルで別のヨコエビ2種を採取し、POPs(ポップス)と呼ばれる、有機汚染物質類の含有量を調べた。
すると採取した全てのヨコエビからPOPsを検出。マリアナ海溝の深さ約7800メートルにいたヨコエビでは、ポリ塩化ビフェニール(PCB)というPOPsが乾燥重量1グラムあたり905ナノグラム(ナノは10億分の1)だった。チームは、海溝が狭く、ものが拡散できない形になっているためPCBが蓄積した可能性があると推測。「中国で最も汚れているとされる川から水を引いた田にすむカニの50倍もの汚染レベルだ」と説明している。
PCBは絶縁体などの材料として使われ、慢性的に取ると体内に蓄積、健康被害を引き起こす。日本では、製造が禁止され、処理が進められている。
参考 National Geographic: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/091100399/
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