初代「はやぶさ」がやり残したこと

 小惑星探査機「はやぶさ」というと、数々の困難を乗り越え、世界で初めて小惑星の資料回収に成功した。2003年5月9日、鹿児島県肝付町のJAXA内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。

 イオンエンジンの実証試験を行いながら2005年夏にアポロ群の小惑星 (25143) イトカワに到達。2005年11月、イトカワに2回着陸した後、通信が途絶。復旧後の2007年1月、カプセルのふたを閉めて地球への帰路についた。

 60億kmの旅を終え、地球に大気圏再突入。サンプル容器が収められたカプセルはオーストラリアのウーメラ立入制限区域内にパラシュートを展開して降下、2010年6月14日、無事に回収された。打ち上げから、帰還まで7年という長い時間が過ぎていた。


 そして現在、はやぶさ2が日本の小惑星探査機「はやぶさ2」が6月27日、地球から約3億キロ離れた小惑星「リュウグウ」に到着し本格的な調査に入ろうとしている。

 初代はやぶさが、唯一やり残したことといえば、小型探査ロボット「MINERVA」がうまく着陸できなかったこと。「MINERVA」は、小惑星に当たって跳ね返り、宇宙空間を漂ってしまった。今回のはやぶさ2にも小型探査ロボット「MINERVA-II」が搭載されている。果たしてうまく着陸できたのだろうか?


はやぶさ2、ローバーの分離に成功、タッチダウンに向け「大きな自信」に

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月21日、小惑星探査機「はやぶさ2」の小型ローバー「MINERVA-II」の分離運用を行い、分離に成功したことを明らかにした。探査機本体のシーケンスは、すべて順調に実施。着陸の確認は今後になるものの、小惑星に着陸し、ホッピングによる移動に成功すれば、世界初の快挙となる。

 はやぶさ2は、9月20日の14:10より降下を開始。当初は40cm/sという速度で、高度5kmからは10cm/sに減速し、順調に降下を続けた。高度60mまでは赤道上空にいたが、そこで降下速度を一旦ゼロにし、水平方向にスラスタを噴射して北半球側に移動。その140秒後の21日13:06頃、ローバーを固定していたワイヤーを切断し、探査機から分離した。

 分離時の高度は55m。初号機のときは、探査機が上昇したタイミングで地上から分離コマンドが届いてしまい、着陸に失敗していた。しかし、はやぶさ2では、自律制御で分離のタイミングを制御、降下中でしか分離を行わないはずなので、初号機と同じ失敗はあり得ない。この低高度で分離さえできていれば、着陸はほぼ間違いないと見られる。

 分離後、ローバーは15分~30分程度でリュウグウ表面に到達するが、バウンドするため、静止するまで少し時間がかかる。その後は、ローバーが自分の判断で行動し、移動と撮影を繰り返す予定だ。リュウグウの夜側では太陽電池の発電ができないため、ローバーは休止。真昼の暑いときにも休止するため、朝夕の活動が中心になるという。

 MINERVA-IIには、ローバー2機のMINERVA-II-1と、ローバー1機のMINERVA-II-2があり、今回分離が行われたのはMINERVA-II-1の2機だ。分離後の2機とは、正常に通信が行われており、分離後に自律モードへ移行したことも確認されている。

 もしローバーから地表の画像が届いたら、それは着陸成功の動かぬ証拠となる。基本的には、ローバーからの画像を待つしかないが、分離の1時間~1時間半後あたりで、電圧の低下が確認された。これは、ローバーが着陸に成功し、リュウグウの自転で夜になったと考えると辻褄が合う。着陸成功が期待できるデータと言えるだろう。

 吉川真ミッションマネージャ(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)は、「着地した状態で表面を横から撮影するのは探査機では不可能。科学的に期待している」とコメント。また津田雄一プロジェクトマネージャ(同 宇宙飛翔工学研究系 准教授)は、「リュウグウの地表から夜空を見上げた景色が早く見たい」と笑顔を見せた。

 探査機本体は、ローバーを分離した1分後、高度53m程度の地点でスラスタを噴射して上昇を開始。現在、高度20kmのホームポジションへ戻る途中だ。探査機の状態は正常。ホームポジションに到着するのは22日午後になる予定で、その前後から順次、地球へのデータ送信を開始するため、着陸の確認はそれ以降になると見られる。


 タッチダウン本番に向けた準備も

 今回の運用の目的はもちろんMINERVA-IIの分離であるが、それと同時に、レーザー高度計(LIDAR)の動作確認も重要なミッションとなっていた。

 LIDARは、レーザーパルスを地表に照射し、反射して戻ってくるまでの時間から、高度を測定する装置。しかし、先日実施した1回目のタッチダウンリハーサルでは、高度600m付近で計測できなくなり、降下を中断していた。

 LIDARは、25kmという遠距離から、30mという近距離まで使う必要があるが、1つのセンサーでこれほどのダイナミックレンジを確保するのは難しいため、遠距離では有効径110mmの大きなカセグレン望遠鏡を使い、近距離では有効径3mmの小さな望遠鏡に切り替える。この切り替えのタイミングは、光量から自動で判断する仕組みだ。

 前回は高度600mまでに近距離モードへの切り替えが行われる予定だったが、反射光が予想したよりも弱く、それまでに切り替えることができなかった。今回はパラメータを見直し、遠距離モードを高度150mまで許容。その結果、高度300mで正常に切り替えが行われ、最後まで正常に動作したことが確認できた。

 これで、接近高度の記録を、600mから53mまで一挙に更新。これについて、津田プロマネは「表面スレスレまで探査機を降下させることができ、大きなハードルを越えた」と述べ、「着陸に向けての大きな自信になった」と評価した。

 ただ、高度40m以下で使用する予定のレーザーレンジファインダ(LRF)の動作確認は、今回は行えなかった。10月下旬のタッチダウン本番の前に、もう1回リハーサルを行う予定なので、LRFについてはそのときに確認することになる。

 また前回のリハーサルは途中で中断したため、探査機の誘導精度の確認と、小惑星表面の接近観測が行えなかった。そのため今回の運用では、併せてこれらも実施した。

 今回、MINERVA-II-1は北半球の「N6」地点に投下する計画で、実際に精度良く探査機を誘導できたという。はやぶさ2で想定していた着陸精度は100m四方。「まだデータを精査しないと数字は言えないものの、100m四方の内側には十分入れそうな感触」(津田プロマネ)とのことだが、安全に着陸するために、「さらに精度を上げたい」(同)とした。

 一方、はやぶさ2の着陸候補地点は赤道上の「L08」だが、今回の運用では、望遠カメラ「ONC-T」を使い、高度数100m程度から撮影できているはずだという。今までよりも高分解な画像で、より小さな岩塊まで写っていることが期待される。L08に安全に着陸できそうな場所があるのかどうか、今後の解析結果が気になるところだ。


 「はやぶさ2」の小型機「MASCOT」がリュウグウに着地成功

 さらに10月9日、小惑星探査機「はやぶさ2」は、搭載されたドイツ・フランスの着陸機「MASCOT」が小惑星リュウグウへの着地に成功し、約17時間にわたって表面での科学観測を行った。

 「MASCOT(Mobile Asteroid Surface Scout)」はドイツ航空宇宙センター(DLR)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)によって開発された小型の着陸機で、機体のサイズは 27×29×19cm、重量は9.8kgと、9月21日にリュウグウに着陸した「MINERVA-II1」よりやや大きい。

 微小重力天体に着陸して移動探査する技術の実証を主な目的としている「MINERVA-II」とは異なり、「MASCOT」は科学観測を主目的とした着陸機だ。「はやぶさ2」プロジェクトMASCOT担当の岡田達明さんは、「「はやぶさ2」でサンプルを採取する際には弾丸でリュウグウ表面を砕いて採取し、地球に帰還するカプセルも強い振動を受けるため、採ったサンプルはどうしてもリュウグウ表面そのままの状態ではなくなる。「MASCOT」の最大の意義は、リュウグウの表面をそのままの状態で観測できることです」と述べている。

 「MASCOT」には広角カメラ「MASCAM」、分光顕微鏡「MicrOmega」、熱放射計、磁力計が搭載されている。電源は太陽電池ではなくリチウム一次電池で、約16時間の動作を想定している。リチウム電池を採用することで夜でも観測を行えるのが特徴だ。

 また、重りのついたスイングアームを機体内部に持っていて、これを回転させることで姿勢を変えたりホップしたりすることができる。

 「はやぶさ2」は10月2日11時50分(日本時間、以下同)に高度20kmのホームポジションから降下を開始し、10月3日10時57分20秒に高度51mで「MASCOT」を正常に分離した。分離後は高度3kmの位置でホバリングをしながら「MASCOT」との通信を行った。「MASCOT」が降下中に撮影した画像が公開されている。


 「MASCOT」はリュウグウ表面を調べる

 「MASCOT」に搭載されている磁力計「MASMAG」は分離前に電源が投入され、太陽風による弱い磁場と「はやぶさ2」の機体に由来する強い干渉磁場を検出した。

 「MASCOT」が分離されると干渉磁場が急激に小さくなる様子も確認されている。 分離された「MASCOT」は約20分後にリュウグウの表面に着地し、何度かバウンドして表面で静止したとみられる。

 「MASCOT」は機体の底面に分光顕微鏡があるため、顕微鏡でリュウグウ表面を調べるためには底面が下向きの姿勢になる必要がある。静止後の「MASCOT」はこの姿勢ではなかったため、一度自律制御で姿勢を変える動作が行われた。

 しかしそれでも底面が下向きにならなかったため、地上からのコマンド送信でもう一度姿勢を変え、観測可能な姿勢になった。 「MASCOT」は着陸当日にリュウグウの1昼夜にわたって観測を行った後、スイングアームを少しだけ動かしてわずかに移動し、同じ場所のステレオ画像を撮影することにも成功した。

 リュウグウでの2日目にはホッピングを行って数メートル離れた場所に移動した。リュウグウの自転周期は7.6時間なので、「MASCOT」の電池はおよそ2昼夜分の持続時間があるが、2昼夜を過ぎた時点でまだ残量があったため、リュウグウでの3日目の昼にはさらに大きくホップして移動した。

 結果として、「MASCOT」はリュウグウ上で昼を3回、夜を2回過ごし、3回目の夜を迎えて「はやぶさ2」との通信ができない領域に入った10月4日04時04分に運用を終了した。

 「MASCOT」で得られた画像や観測データは「はやぶさ2」のデータレコーダーに記録されており、これから数日かけて地上で受信され、数か月にわたって分析が行われる見込みだ。

 「「MASCOT」で得られた貴重なデータの評価がまさに始まったところです。この観測データを通じて、私たちは太陽系の過去について多くのことを知り、リュウグウのような地球接近小惑星の重要性を理解するでしょう。「はやぶさ2」は「MASCOT」の成功にとってきわめて重要な役割を果たしました。「はやぶさ2」の綿密な計画と精密な制御のおかげで、「MASCOT」との通信も最適な状況で行えました」


参考 アストロアーツ: http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10189_minerva2

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