中国の月探査機「嫦娥4号」世界で初めて月の裏側に着陸成功

 月の裏側はどうなっているだろう?月の地球とは反対側の部分はふだんは地球からは見えない。月は自転と公転が同期し常に地球に同じ側を向けているためだ。

 1959年、ソ連の月探査機ルナ3号が初めて観測した。なお、月の裏の目立つ地形は、この計画に関わったソ連の天文学者により命名されたため、ツィオルコフスキー、モスクワの海など、ソ連やロシアにちなんだものが多い。

 月の表は大きな海が多数分布するのに対し、裏は海がほとんどない。海の割合は、表30%、裏2%である。また、裏は表よりも高低の起伏が激しく、月での最高点 (10.075km) も、南極エイトケン盆地にある最低点 (-9.06km) も、裏にある。さらに地殻がやや厚い。表は60km、裏は68kmである。

 2019年1月3日、歴史上はじめて、中国の月探査機「嫦娥(じょうが)4号」が月の裏側に着陸した。

 表側の方は、1969年7月、米国のアポロ計画で人類が初めて月に降り立ったことを思い出す。あのとき、米国のアポロ11号がおよそ3日半かけて月周回軌道に到達。7月20日20:17 (UTC) に月面の「静かの海」に月着陸船「イーグル」を軟着陸させた。そいて着陸から、6時間余り後の7月21日02:56:15 (UTC) にアームストロングは月面に足を降ろし、約20分後にオルドリンがそこに加わった。

 それ以来の快挙である。月の裏側は地球からの電波が届かず、難しい問題があったが中国国家航天局(CNSA)は中継衛星を打ち上げておりそれが可能になった。

 現在、探査車「玉兎2号」は、月の裏側から画像などのデータ送信を始め、中国は歴史を塗り替えようとしている。探査機の月面着陸成功は世界で3番目。月の裏側への着陸は人類史上初という歴史的な快挙であると同時に、中国の宇宙計画の中でも大きな成功となった。

史上初、月の裏に着陸成功のインパクト

 月の世界に住むとされる仙女にちなんで名づけられた「嫦娥(じょうが)4号」は、2018年12月8日に打ち上げられた後、同12日に月周回軌道に投入され、このほど月面に到着した。

 嫦娥4号の月面着陸に関する詳細は、これまでほとんど明らかにされてこなかった。中国国家航天局(CNSA)は秘密主義で知られ、探査機が月面着陸に向けた最終的な軌道に入ったとする12月30日の発表を最後に、情報を公開していなかった。

 そのため、着陸前には世界中の科学者と愛好家がオンラインフォーラムやTwitter上に集まり、情報源をもつジャーナリストやソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」のアカウント、嫦娥4号の軌道を追跡するアマチュア天文家などから得た最新情報を交換していた。

 嫦娥4号の着陸が確認されると、不安は喜びに転じた。

 中国神話の月の女神「嫦娥」が飼っていたウサギにちなんで名付けられた探査車「玉兎2号」は、月の裏側から画像などのデータ送信を始め、歴史を塗り替えようとしている。

 同機は無人探査機「嫦娥4号」によって月面に運ばれ、2019年1月3日に地面に降ろされた。月の裏側への着陸は人類史上初という歴史的な出来事であると同時に、中国の宇宙計画でも大きな成功となった。

 中国は宇宙競争の後発国だ。初めて人工衛星を送り込んだ1970年までには、米国は既に宇宙飛行士の月面着陸を成功させていた。ただ、中国は今、速いペースで追い付こうとしている。

 2003年以来、中国は6人の宇宙飛行士、2つの実験室を軌道上に送り込み、2013年には探査車「玉兎1号」を擁する探査機を月面に着陸させた。探査機の月面着陸成功は世界で3カ国目となる。

 今月3日の着陸に対する国内の反応は1回目と比較すると穏やかだったが、「嫦娥4号」の成功と国際社会から得られた称賛は中国の宇宙計画の大きな後押しとなる。

 中国の宇宙開発とその野望

 この宇宙計画は今後数年間、得られる限り多くの支援を必要としている。なぜなら、その野望は成層圏にも届く高いものだからだ。

 習近平(シーチンピン)国家主席は2013年、有人宇宙船「神舟10号」の乗組員との交信の中で、「宇宙への夢は中国をより偉大にするという夢の一部だ」「中国人民は宇宙をより深く探査しようとさらに大きな一歩を踏み出す」と述べた。習主席の主導で、宇宙計画に数十億ドル規模の資金が投じられてきた。

 中国の夢の第一歩は、地球の周辺領域を主な対象とする。2020年には次の探査機「嫦娥5号」が月面に着陸し、サンプルを収集し地球に持ち帰る計画だ。2030年代の月への有人飛行計画の準備も進めている。もし成功すれば、米国に次いで2番目の成功国となる。

 中国は「天宮計画」にも大金を投じている。これは近い将来打ち上げが予定される永続的な宇宙ステーションの前段階と位置付けられている。天宮2号は軌道上に2年以上とどまっており、今年7月には制御された状態で地球に落下する予定だ。

 国家航天局の幹部は16年に、「我々の大きな目標は、2030年までに世界の主要な宇宙強国の仲間入りをすることだ」と述べた。だが、中国が宇宙競争に追い付くにはまだ長い道のりがある。

 嫦娥4号が月面着陸を準備していたころ、NASAの探査機は冥王星よりも外側にある小惑星などが集まるカイパーベルトで天体への接近通過に初めて成功した。その際に撮影された天体「ウルティマトゥーレ」の画像も受信した。だが、中国がたった一つの成功で米国を出し抜く可能性がある。火星への人類着陸だ。

 中国が次に狙う赤い惑星

 今月3日の着陸成功後、探査ミッションの主任計画者は国営テレビで、「未知の世界を冒険するのは人間の本性だ」と語った。

 1972年以来、探査は主にロボットが担ってきた。NASAのアポロ17号にジーン・サーナンが搭乗して以来、地球以外の天体に足跡を残した人類はいない。

 これには十分な理由がある。ロボットの方が安く、長持ちし、宇宙飛行士と同じ観察や実験を行えるからだ。そして一番重要なのは、死なないことだ。どの国も月面に死体を残す最初の国にはなりたくない。

 だからといって、月への有人ミッションに意味がないわけではない。有人ミッションは宇宙で人間がどう生き延びるか、潜在的な危険や試練は何かを探るのに重要な情報をもたらし、科学の進歩に大いに役立つ。こうした進歩は人類を火星に送り込むという、はるかに困難な課題への取り組みで重要となる。

 中国は今、同国初となる無人火星探査機の打ち上げを来年末に予定し、その後2回目のミッションでは火星からサンプルの回収も狙っている。

 進む中国の宇宙開発

 中国は最初の宇宙競争では遅れをとっていたとしても、火星や月への野望では新たな競争を開始する側に回るかもしれない。トランプ米大統領は火星に宇宙飛行士を送り込みたいと公言し、NASAに宇宙探査の中核ミッションへの集中を求めている。

 NASAのブライデンスタイン長官は3日、米海軍大学校の教授が「月から次に聞こえてくる声は中国語の可能性が高い」と発言したと報じたCNNの記事を引用し、「ふむ、我々の宇宙飛行士は英語を話すのだが」とツイッター上で反応した。

 ロシアのプーチン大統領はロシア人宇宙飛行士の火星着陸を呼び掛け、インドも2019年には月探査を計画するなど宇宙計画への投資を進めている。

 中国は別の面でもライバルを押しつつある。2016年には世界最大の電波望遠鏡を完成させ、遠くの天体からの電波の探知が可能になる。地球外生命体の兆候を探知する可能性もある。

 もっと近くの宇宙でも、中国はすぐに主導者となる可能性がある。中国の宇宙ステーションは数年以内に打ち上げが予定されているが、各国が運用する国際宇宙ステーション(ISS)は資金不足の問題に直面し、2025年には予算が打ち切られる可能性がある。

 月の鉱物資源を掘る

 中国の宇宙計画は北京政府に自慢させるためだけのものではない。月にはスマートフォンや電子製品に使われる希少金属(レアメタル)など鉱物資源が豊富に眠る。中国はレアメタル供給で既に世界で独占的な地位にあるが、月の埋蔵資源も独占的に利用できれば、極めて大きな経済的強みとなる。

 レアメタルのほかにも、月には大量のヘリウム3がある。核融合反応に利用可能なへリウム3だが、地球上では希少な存在だ。欧州宇宙機関(ESA)によると、この同位体は非放射性であり、危険な廃棄物を出さないので、核融合炉でより安全な核エネルギーを提供することが可能と考えられている。

 中国の宇宙科学者で月計画の推進者でもある人物は、ヘリウム3の獲得が月ミッションの根拠になると長年主張している。2006年には国営メディアに「年に3回のスペースシャトルのミッションで、世界中の全人類に十分な量の燃料をもたらすことができる」と語った。

 インドの防衛研究分析所のナムラタ・ゴスワミ氏によれば、中国は最終的に、宇宙での米国の独占的地位に対抗するだけでなく、中国が主導する宇宙秩序を確立するための代替的な組織、投資メカニズム、能力の確立を狙っている。