地球温暖化を身近に伝える昆虫の生息地
温室効果ガスの影響による「地球温暖化」が進んでいるというが、それが動物たちにどのような影響を与えるのだろうか?
よく話題になるのは、北極海の氷が解けることによる、ホッキョクグマ(シロクマ)の絶滅の危機だ。またマラリアやデング熱などを媒介するネッタイシマ蚊の北上もある。しかし、身近な動物で自然環境の変化はないだろうか?それがあれば、小学生や中学生でも、理科や総合学習で「地球温暖化」について調べることができるかもしれない。
そういえば、南方のセミだったはずのクマゼミは大阪ではもうメジャーだし、関東で声を聞くことも珍しくなくなった。ナガサキアゲハというチョウ、昔は九州以南と中国・四国のごく一部にしかいなかった南国のチョウが温暖化の影響でどんどん北上し、今では千葉県でも見られる。日本最大級といわれるナガサキアゲハは、知らないうちにあなたのまわりでも飛び回っている。
キリギリスやスヅムシ、コオロギの仲間はどうだろうか?チンチロリンと鳴くマツムシの場合、20年ほど前までは、分布の北限は新潟県の中部だった。1990年代に新潟平野の北の端である村上市まで広がり、最近調査したところ、さらに川を越えて2.5キロほど北上していた。山形県境に到達するにはまだ時間がかかりそうだが、確実に北上している。
だが、すべての種類が同じように変化しているわけではない。温暖になっているのに、逆に分布が狭まっていく種類もある。スズムシやクツワムシがそうだ。スズムシの北限は日本海側では秋田県中部の五城目町とされ、県の天然記念物にも指定されているが、近年では減少して姿が見られなくなっている。
「年に2回発生」のコオロギが地球温暖化で北上した
今回、珍しい実例として、コオロギの「2世代型」が、北上していることを、京都大学博士課程の松田直樹(まつだ なおき)さん、沼田英治(ぬまた ひではる)教授らの研究グループがみつけた。夏のあいだに卵を産んでその子がすぐに育つ「年に2世代」のコオロギが、同じ種類だが「年に1世代」のコオロギが暮らす北方に分布を広げている。
松田さんらが注目したのは、ほぼ日本全国に分布している「シバスズ」というコオロギの仲間だ。シバスズは、日本の南半分では「年に2世代」、北半分では「年に1世代」の生活をしている。松田さんらが2015~2017年の8~10月に行った全国調査によると、シバスズの体の大きさは、九州などの南のシバスズのほうが、たとえば関東のあたりより大きかった。成長に適した暖かい期間が南のほうが長いからだ。つまり、この範囲では、北に行くほどシバスズの体は小さくなる。
ところが、関東より北の東北になると、ふたたび体の大きなシバスズが主流になっていた。それは、南のシバスズは「年に2世代」、北のシバスズは「年に1世代」だからだ。南のシバスズは、生まれて成長して卵を産んで死ぬというライフサイクルを、夏から秋にかけて2回こなさなければならない。成長に使える個々の期間が短くなり、どうしても体が小さくなる。だから、南から北に向かって急に体の大きなシバスズが増える緯度は、「年に2世代」から「年に1世代」へのちょうど変わり目になっていると考えらえる。その変わり目の緯度は、地球温暖化で移動しているのか。そこがこの研究のポイントだ。
問題は、シバスズの体の大きさに関する過去のデータだ。これがなければ、現在と過去を比較できない。それが、論文としてきちんと残っているのだという。地球温暖化が世界的な問題になるよりはるか昔、1970年代の調査記録だ。調査したのは、故正木信三(まさき しんぞう)弘前大学名誉教授。当時の調査でも、松田さんらと同様の傾向が出ていた。
基準となった1970年代の調査記録
松田さんらは、この両者を比べた。すると、1970年代には北緯34~39度のあたり、つまり四国から東北中部のあたりにあった「2世代」から「1世代」への変わり目が、今回の調査では北緯36~40度のあたりまで北上していた。この40年ほどで、緯度にして1~2度ほど北にずれたのだ。昔は「年に1世代」のシバスズしか育たなかった北の地域で、「年に2世代」のシバスズが繁殖するようになったらしい。
暖かい地域を好む生き物の分布域が北上すると、北上した原因は気温の上昇にあると考えてしまいやすい。たしかにそういう話はわかりやすいが、ほんとうの原因は別にあるかもしれない。地球温暖化が進めば降水量も変わる。原因は降水量の変化なのかもしれない。気温の観点からはその生き物は北上する必要がなかったのに、えさとなる植物や動物が北上したから、それを追っただけかもしれない。
その点を明らかにするため、松田さんらは気象庁のデータをもとに、シバスズが成長できる暖かい期間の長さを調べた。その結果、最近の北緯36度は、40年前の北緯34度くらいに相当することがわかった。その差は2度。「1世代」と「2世代」の変わり目が北上した緯度幅に、ほぼ一致する。「年に2世代」のシバスズは、やはり気温の上昇で分布を北に広げた可能性が高い。
もしこれが害虫だとすれば、変わり目が通過した地域では、夏から秋にかけての発生回数が、この40年で1回から2回に増えたことになる。発生のタイミングも変わる。
デング熱を媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカ。稲などの害虫であるカメムシの仲間。これまでは、地球温暖化の影響を考えるとき、こうした害虫が北に分布を広げることに注意が向いてきた。これからは、今回の研究にみられるような昆虫の「世代」の繰り返しにも目を向けたい。
参考 サイエンスポータル:https://news.mynavi.jp/article/20181015-707172/
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地球温暖化と南方性害虫 (環境Eco選書) |
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