火星探査計画
火星探査というといよいよ有人探査の段階を迎えようとしている。これまでに様々なことが調べられてきたが、最近では水が存在するらしいとうのが大きな発見だった。水さえあれば分解すれば酸素も確保できる。これが有人探査に大きな弾みをつけたのは間違いないだろう。
水の発見に活躍したのが火星の探査機である。特に自走ロボットとして贈られた「マーズ・エクスプロレーション・ローバー(Mars Exploration Rover: MER)」である「スピリット」と「オポチュニティ」の活躍は大きかった。
2004年1月、火星に到着した「オポチュニティ」は、水に関する証拠を届けてくれた。2004年3月、火星の表面の岩石に水が流れたような跡を撮影した。また、2014年1月には、水による作用でできるスメクタイトという粘土鉱物を発見した。
14年以上にわって火星の表面を走り続けたオポチュニティにも最後の時が訪れようとしている。2018年6月、火星で観測史上最大の砂嵐が発生。それ以降、オポチュニティは太陽光発電ができなくなり、地球との通信が途絶えた。それでもチームは、オポチュニティが再起動する機会を探っていた。
オポチュニティ通信途絶
昨年11月から今年の1月にかけて、火星では強い風が吹く季節だった。オポチュニティのソーラーパネルに積もった砂を、この季節風が吹き飛ばしてくれることを期待した。今となっては信じられないが、火星に送り込まれたオポチュニティの当初のミッションは3カ月ほどだった。14年以上もの長い期間、活動できたのは、季節風によるソーラーパネル部のクリーニング効果は大きいと考えられている。
しかし、今回は違った。風の季節を過ぎても、オポチュニティとの通信は途絶えたままだった。2019年1月25日、NASAのチームはオポチュニティに、アンテナの誤動作と内部時計の故障を修正するコマンドを送信する。オポチュニティが動作しない原因が、この故障と関連している可能性は低かったが、研究者たちの最後の希望だった。
しかし、この修正コマンドがオポチュニティを目覚めさせることはなかった。今回の発表で、双子の探査機オポチュニティとスピリットによるNASAの火星探査機ミッションは正式に終了した。振り返ってみると、2台の探査機のミッションは、当初、走行距離1.5キロ程度、活動期間は90~100火星日(1火星日は約24時間40分)だった。
スピリットは2004年1月4日の着陸から、でこぼこの地表を走行。2009年に立ち往生し、2010年に通信が途絶えた。そして、紹介したように、オポチュニティは他のどの火星探査機よりも長い期間(オポチュニティの活動期間は、他の火星探査機の活動時間の合計より長い)活動し、長い距離を走行した。活動時間14年以上、累計で45キロ超走行した。
ようやく火星に行けた探査機だった
そもそもオポチュニティの火星への道のり自体が、平坦ではなかった。チームは何度も計画を却下されながら10年以上もNASAに提案を続け、2000年初頭にようやく2台の探査機を使った火星探査計画が承認された。ところが、歓喜は長く続かなかい。というのも、2台の探査機の製作に最低48カ月は欲しいとした計画は認められず、34カ月に短縮されたからだ。
期限に間に合わせるため、チームの技術者たちは探査機の構造を大きく変えることにした。2台の探査機の前に火星に赴いた探査機マーズ・パスファインダーは、着陸機の中に収められていた。しかし、オポチュニティは探査機だけでなく着陸機の機能も併せ持つ仕様に変更したのだ。
休日もとらず、それこそ24時間体制で機械的なハードウエアと、制御プログラムなどソフトウエアのテストが行われた。実際には、これでも間に合わず、探査機のソフトウェアのアップデート作業は、ロケットの打ち上げ後、火星に着陸するまでに実施しなくてはならなかった。
最初に火星に着陸したのは探査機スピリットだった。ところが火星着陸から18火星日後、突然、通信できなくなった。スピリットを追うように火星に向かったオポチュニティも同様の故障が起こることが考えられたことから、スピリットの沈黙はいっそう厄介なものに思われた。チームはバグを特定して修正し、火星に向かいつつあったオポチュニティのソフトウェアのアップデートもスピリットと同時に実施した。2004年1月25日、オポチュニティは無事火星に着陸した。
予想を超える偉大な成果
すでに触れたように、そもそも計画では、2台の火星探査の期間は約3カ月――90火星日だった。これは、ソーラーパネルに砂やチリが積もってパネルで発電できなくなると予想していたためだ。実際には、パネルに積もった砂やチリは、火星の地表に吹く強い風が吹き飛ばし活動期間が延びたわけだが、科学者たちには想定外の出来事だった。季節が変わるたびに風で掃除されてきれいになるオポチュニティは、こうして誰もが想像しえなかった仕事を成し遂げ、膨大な科学的遺産を私たちに残した。
ところで、ここ数十年のNASAの火星ミッションでは、水を探すことが主眼に置かれている。このため、火星の表面を走る探査車も、火星の軌道を周回する探査機も、水を探すことに集中していた。そして、太古の火星に液体の水が長い間あったことを示す証拠を最初に見つけたのが、スピリットとオポチュニティなのだ。この2台は、火星が人類が想像していた以上に複雑で変化に富む地形や気候をもつことも明らかにしている。
オポチュニティの成果には偶然も味方した。例えば、着陸地点の調査で、火星の地下に液体の水が存在すること、水はかつては火星の表面を流れていたことの説得力ある証拠を見つけたのだ(オポチュニティの着陸地点は、穏やかな湖や池というよりは硫酸の入った瓶と形容したほうが近い場所だったのだが)。
オポチュニティが火星に到着してからというもの、最初の10年で、原始の酸の水たまりの痕跡を調べたり、クレーターに入ったり、火星着陸時に捨てた熱シールドが落下した地点を調査したり、火星表面に衝突した隕石を発見したりした。
そして2011年には、スピリットとオポチュニティの2台がエンデバー・クレーターの外縁部に到達。ここで、最初に調査をした場所よりも古い岩石を調べることができた。この古い地層(それまで火星で調べられた地層の中でも特に古いもの)には、粘土鉱物や石膏が含まれており、このことが40億年前の火星の表面に中性の水があったことの根拠となったのである。
ミッションの副プロジェクト・サイエンティストのアビゲイル・フリーマン氏は、「ほんの15年前には、火星表面にかつて液体の水があったかどうかも不明でした」と話す。「その答えを教えてくれたばかりか、スピリットとオポチュニティは大昔の火星の気候が今とは全く違っていた証拠も見つけました。数々の火星に対する疑問の答えが、探査によって明らかになったからこそ、私たちはより複雑な問題に取り組めるようになったのです」
オポチュニティを継ぐもの
スピリットとオポチュニティの成功は、無人火星探査の道を拓いただけでなく、人々の関心を火星に向かわせた。探査機から送られてきた画像に映る火星の風が刻んだ丘や谷が、地球の風景に似ていたからだ。双子の探査機のどこか人間的なデザインも心をとらえ、火星探査機はビールのコマーシャルやLEGO(ブロック玩具)にもなった。
気がつくと、このプロジェクトに携わるチームは、家族のようになっていた。スピリットが活動を停止して、探査機がオポチュニティだけになると絆はますます強くなった。研究者の子供たちは、遠縁のいとこの話を聞くようにオポチュニティの話を聞いて育った。2人1組で探査機を操作するドライバーたちは、長時間一緒に過ごす。自然と、言葉を発しなくとも、お互いの言いたいことが分かるようになった。
チームはこれから半年かけてオポチュニティのミッションが得たデータをまとめることになる。ミッションの終了で、何年も生活の中心にあったオポチュニティでの火星探査から離れる人もいる。
しかし、今回終了したのはオポチュニティのミッションで、火星の研究や探査ではない。現在、探査車キュリオシティが元気に火星の地表を走り回っているし、火星を周回する複数の周回機や、昨年火星に着陸した探査機インサイトもある。
欧州宇宙機関(ESA)とロシアが共同で進めている火星探査計画では、X線結晶学の先駆者ロザリンド・フランクリンにちなんで命名された火星探査機を開発している。
そして、スピリットとオポチュニティのミッションに携わった人々の多くが、次の火星探査機「マーズ2020」の開発に取り組んでいる。マーズ2020の目標は、火星の生命の痕跡を探すことと、将来地球に送り返すための岩石サンプルを採集することだ。
オポチュニティは、人類の「科学の記念碑」として今後何十万年も火星に残る。火星探検家が、オポチュニティを表敬訪問する時代が来るかもしれない。数十年後に有人火星探査が実現すれば、オポチュニティが着陸したメリディアニ平原に人間が降り立つ可能性もある。科学者や技術者たちが、この場所を火星有人探査ミッションの着陸地点にするよう正式に提案しているからだ。
米アリゾナ州立大学の惑星科学者で、オポチュニティのチームの一人でもあるターニャ・ハリソン氏は、「オポチュニティのような探査機は先行して現地に送り込まれた、言わば『使者』です。今後、宇宙飛行士が火星で古い探査機と顔を合わせるようなことが起きれば、最高にすばらしいと思います」と話した。
参考 National Geographic news:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/021500107/
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