シャチに4つのタイプ
シャチ(Orcinus orca)といえば、イルカの仲間である。くわしくいうと、クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属の唯一の種である。
イルカの仲間では最大の種であり、オスの体長は5.8~6.7m、メスの体長は4.9~5.8m、オスの体重は3,628~5,442kg、メスの体重は1,361~3,628kgに達する。
背面は黒、腹面は白色で、両目の上方にアイパッチと呼ばれる白い模様がある。生後間もない個体では、白色部分が薄い茶色やオレンジ色を帯びている。この体色は、群れで行動するときに仲間同士で位置を確認したり、獲物に進行方向を誤認させたりする効果があると言われている。
その体の模様や体形などから、A~Dの4つのタイプに分類することができる。
タイプAは、一般的にイメージされるシャチであり、クロミンククジラ等を主食とする。アイパッチの大きさは中間的で、サドルパッチはない。流氷の少ない沖合に棲む。タイプBは、タイプAよりやや小型であり、海生哺乳類を主食とする。クロミンククジラ・ナガスクジラ・ペンギン等も捕食する。アイパッチがAの二倍ほど大きく、サドルパッチがあるのが特徴。白色部がやや黄色い。流氷のある沿岸近くに棲む。
タイプCは、最も小さいタイプであり、タイプAと比較してオスで100cm、メスで60cmほど小さいと思われる。タラを中心とした魚食性。最も大きな群れを作る。アイパッチが他と比べ小さく、体の中心部の黒白の境界面に対して大きな角度を持つ。タイプB同様サドルパッチを持ち、白色部がやや黄色い。流氷のある沿岸近くに棲む。
タイプDは、2004年以降、提唱されるようになった種。通常よりも小さい目、短い背びれ、ゴンドウクジラに似る丸みを帯びた頭部によって認識される。活動範囲は南緯40度~60度の間の荒れる亜南極海域で、地球を回るように周回していると考えられている。主な食事については知られていない。
南洋に生息する希少な「タイプD」は、2013年1月、1955年に博物館に寄贈された骨格を用いて、ゲノム解析が実施された。それでほぼ新種である可能性が高くなっていたが、現実に生息するタイプDから直接DNAを採取する必要があった。
このほど初めて、科学者たちが野生のタイプDに接触し、調査することに成功した。米海洋大気局(NOAA)の研究者ロバート・ピットマン氏は、このシャチは新種である可能性が「非常に高い」と言う。
幻のシャチは新種となるか、調査に成功
荒れた海に暮らす「タイプD」のシャチ集団、野生下でDNAも採取 2019.03.11 幻のシャチ「タイプD」の撮影に成功、新種か?(解説は英語です)
世界屈指の荒れた海に、普通のシャチとはだいぶ違った幻のシャチがいる。「タイプD」と呼ばれるシャチだ。科学者チームがこのシャチの群れに遭遇したのは2019年1月。場所は、南米の最南端にあたるチリのホーン岬から約100kmの、ピットマン氏いわく「世界で最悪」の荒れた海域だ。
タイプDのシャチの存在はこれまでも知られていた。ただし、1955年に大量座礁が一度あったほか、アマチュアによる写真や映像、漁師の証言などがあるだけで、鯨類の専門家が野生下の個体に遭遇したことはなかった。普通のシャチとは違い、タイプDのシャチは頭部が丸く、背びれは尖って幅が狭く、アイパッチと呼ばれる目の上の白い模様が非常に小さい。体長も数十センチ小さいようだ。
世界各地で見られる「典型的」なシャチは、体もアイパッチも大きく、背びれはあまり尖っていない。調査船に乗り込んだ研究チームは、最近漁師たちがタイプDらしきシャチを見かけたという海域に投錨した。1週間以上が経過したとき、ついに25頭ほどのシャチの群れが近づいてきた。
科学者たちは水中と水上からシャチを撮影し、無害な手法で皮膚と脂肪の小さな断片を採取した。今後シャチのDNAを調べることにしていて、これによりタイプDが新種かどうかが確定する(現在は、サンプルをチリ国外に持ち出すための輸出許可証の発行を待っているところだ)。
シャチたちは人間や船に興味をもったようで、2時間ほど船のまわりに集まっていた。研究者が水中に投入した水中聴音器を熱心に探っていたが、一度も発声しなかったという。
50年ぶりのタイプDの写真
タイプDのシャチに関する最初の記録は、1955年にニュージーランドで10頭以上の群れが座礁したときのもの。それから半世紀が経過した2005年、ピットマン氏は、インド洋のはるか南にあるクローゼー諸島で調査を行っていたフランス人科学者ポール・ティキシェ氏が収集した写真を見た。
明らかに、1955年にニュージーランドに座礁したのと同じタイプのシャチだった。「写真を見て、まったく驚きました」とピットマン氏は言う。「じつに50年ぶりの確認だったのです」
これらのシャチは、クローゼー諸島やチリ近海の漁師には「魚泥棒」として知られ、漁獲の3分の1を奪ってゆくこともあるという。
2人の研究者は、写真や記録に基づいてタイプDのシャチに関する最初の論文を執筆し、2010年に学術誌「Polar Biology」に発表した。しかしピットマン氏はいつか野生の個体を見つけようと心に決めていた。
現在、オーストラリア、メルボルンのディーキン大学で研究しているティキシェ氏は我々のメール取材に対して、「今回、このタイプのシャチから初めて生検サンプルを採取できたことで、タイプDだけでなくシャチ全体の進化や食性、すみ分けについて知見を増やすことが可能になりました」と答えた。
通常のシャチと生態が異なり、別の「タイプ」とされるシャチは、南極近辺だけでタイプDのほかに3種類いる。見た目は通常のシャチと同様だが主にミンククジラを食べる「タイプA」、やや小型でアザラシを主食とするものが多い「タイプB」、魚を主食とする「タイプC」だ。
しかし、タイプDのシャチは他のシャチとは見た目がずいぶん違っている。「タイプDは、外見上の違いが最も大きいのです」とピットマン氏は言う。
深海でニシンの群れを駆り立てるシャチ(ノルウェー、アンフィヨルド)
シャチは1種なのか?
現在、公式にはシャチは「オルキヌス・オルカ(Orcinus orca)」1種のみとされているが、カナダ水産海洋省とカナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学の研究者ジョン・フォード氏は、いくつかの「タイプ」には別の学名を与えてもおかしくないほど顕著な特徴があると言う。
しかし、独立の種として認めるためには、詳細な計測やDNAの分析など正式な科学的プロセスを踏む必要がある。
「ほかのタイプのシャチについても、独立の種として考える理由は十分にあるのですが、どこで線引きをするかは非常に難しいのです」とフォード氏。
ピットマン氏は、タイプDのシャチの一般名は「subantarctic killer whale(亜南極シャチ)」が良いだろうと言う。この名前は、タイプDの生息海域(南極大陸付近の沖合で、最も低温の海域は含まない)をよく表しているからだ。
タイプDのシャチが生息する南緯40~60度の海域は、地球上で最も過酷な気候で知られ、強風と頻繁な嵐により「吠える40度」「狂う50度」などと呼ばれることもある。
タイプDのシャチに関する情報が少ないのは、彼らがこの緯度の外洋をすみかに選んだからだ。「大型動物が科学の目から逃れようとしたら、ここは絶好のすみかです」とピットマン氏は言う。文=Douglas Main/訳=三枝小夜子
参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/031000151/
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