月には水が存在するしかも大量に?
月に水が存在することは、最近の研究で分かっていた。だがそれは、南極や北極に当たる太陽の光のあたらない場所に限られていた。ところが今回、月の水は月面全体の表面下に存在することがNASAの発表で明らかになった。いったいどうやってその存在が分かったのだろうか?
2008年10月、月の南極点近くにあり、氷があると有望視されていた「シャックルトン・クレーター」内部の撮影に、日本の月探査機「かぐや」が世界で初めて成功した。だが、当時の宇宙航空研究開発機構(宇宙機構)などの画像分析では、氷になった水の層を確認できなかった。
シャックルトン・クレーターは月の南極点に近接し、内部は太陽光がほとんど当たらず、極低温とされる。米国が過去に打ち上げた衛星によるレーダーを使った実験では、このクレーターに水氷があるかもしれない...とされた。存在が確認できれば、人が生活するのに欠かせない水を現地調達できるため、月面基地を建設する場合の有力候補地と目されていた。
だが2018年8月、月の南極と北極には確実に氷が存在することがNASAの分析で分かった。これは、2008年にインド宇宙研究機関(ISRO)が打ち上げた月周回衛星チャンドラヤーン1号に搭載された装置が収集したデータを詳しく分析したものである。この装置はNASAのジェット推進研究所(JPL)が月に分布する鉱物地図を作るために開発した「月面鉱物マッピング装置(M3)」。
M3は氷が反射する光を観測できるだけでなく、氷とみられる物質が赤外線を吸収するかどうかを測定することにより、その物質が固体の氷か液体の水か、あるいは蒸気かが判別できるという。
研究チームはM3のデータを長い時間をかけて詳細に分析した。その結果、南極の極点近くのクレーターのほか、北極の周辺にも氷が存在することを証明するデータが得られたという。
月の回転軸の傾きは極めて小さいため極地には太陽光が当たらない。今回存在が明らかになった氷は年間最高温度でも絶対温度110度(セ氏・マイナス約163度)未満の極低温の場所に集中しているということがわかった。
NASAはこれまでも、チャンドラヤーン1号による観測データなどから、月の北極や南極には氷が存在する可能性が高い、としていた。NASAは今回、M3の詳細な分析データを研究論文としてまとめ、発表文(プレスリリース)で初めて「直接的かつ決定的な証拠を観測した」という表現を使った。月面の氷は、将来長期間の有人月探査が実現した際には貴重な水資源として使用できる可能性がある。
流星体の衝突で月面から水蒸気が噴出
流星体の月面衝突によって水蒸気が発生する様子が、探査機LADEEの観測データから明らかにされた。このことから、月面の表面下には広い範囲にわたって、水が存在することが明かになった。
NASAの探査機「LADEE」(The Lunar Atmosphere and Dust Environment Explorer)は2013年10月から2014年4月まで月を周回し、「外気圏」と呼ばれる月の薄い大気の構造や組成を調べた。NASAゴダード宇宙飛行センターのMehdi Bennaさんたちの研究チームがそのデータを分析したところ、流星体の月面衝突によって水蒸気が噴き出す現象が数十回とらえられていたことがわかった。流星体の衝突によって月面から水蒸気が発生することはモデルで予測されていたが、観測で示されたのは初めてのことだ。
水蒸気の噴出現象のほとんどは、既知の流星体の流れ(地球での流星群におけるダストストリームのようなもの)に由来するものだったが、今回さらに新たに4つの流れが見出されている。
直径5mmほどの小さな流星体が月面に衝突し、深さ8cm程度よりも深くまで到達すると、水分子やヒドロキシ基を含んだレゴリス(土壌や岩石)の層に衝撃が伝わって水蒸気が放出され、外気圏へと広がる。外気圏の水分量から見積もると、水を含む層の水分濃度は約200~500ppm(質量比で0.02~0.05%)で、これまでの研究成果と一致している。地球上で最も乾燥した土壌よりもはるかに乾いており、約500mlの水を得るために1t以上ものレゴリスが必要なほどだ。
検出された水すべてがもともと流星体にあったものだ、という可能性は否定されている。流星体内部の水の質量よりも放出された水の質量のほうが大きいため、必然的に一部は月由来ということになるからだ。
外気圏に広がった水蒸気のうち3分の2は宇宙空間へと逃げていき、残り3分の1は月面に戻ってくる。月の両極付近の低温領域「コールド・トラップ」内には、月面で知られている水のほとんどが氷として存在しているが、流星体の衝突で生じた水蒸気が、この領域で凍ったのかもしれない。
こうして失われていく水は非常に古くから月に存在していたと考えられている。形成時から月に含まれていたのかもしれないが、起源についてはわかっていない。また、水がどのくらい広く分布し、どのくらいの量存在しているのかも、はっきりとはわかっていない。月の水を調べることは将来の有人活動という観点でも重要であり、今後も探査や研究が進められていく。
月全体の表面直下に水がある、驚きの研究、NASA
荒涼とした景色が広がる月はどうやら、科学者たちが想像したよりもはるかにたくさんの水をたたえているようだ。
月の塵と大気を調査するために送り込まれたNASAの探査機LADEE(ラディ―)が、隕石が衝突する際に月面から放出される水を検出した。4月15日付けの学術誌「Nature Geoscience」に掲載された論文によると、微小な隕石が衝突する際の衝撃によって、年間最大220トンもの水が放出されているという。月面付近には、これまで考えられてきたよりもはるかに大量の水が存在することになる。
「あまりに大量の水だったため、探査機に搭載されていた機器が、大気中の水をスポンジみたいに吸収したのです」。研究を主導したNASAゴダード宇宙飛行センターの惑星科学者、メディ・ベンナ氏はそう語る。
この発見は、月がそもそもどのように形成されたかを理解する新たな手がかりになるだろう。また、今後の有人ミッションにも影響を与えるに違いない。その際には、月面の水分を水分補給や推進力の確保に活用できるかもしれない。
「これまでずっと、月は非常に静かで寂しい場所だと考えられてきました」とベンナ氏。「今回のデータによって、実際の月は非常にアクティブで刺激に敏感であることがわかりました」
月に降り注ぐ流星群
ある程度の水が月に存在することは以前から知られていた。その大半は、ずっと日が当たらないクレーターの日陰部分にある氷に閉じ込められているか、あるいは表面からずっと深いところに隠されていると考えられてきた。
月に水がもたらされる経路には2種類ある。太陽風に含まれる水素が月面にある酸素と反応し、さらに月の岩石と作用して含水鉱物となる、というものが1つ。もう1つは、月面に衝突する彗星や小惑星に水が含まれるケースだ。
しかし、NASAの探査機LADEEが収集した新たなデータによって示されたのは、意外な事実だった。LADEEが軌道をめぐる間、地球と同じように流星群が月に降り注ぐのを観測していた。
毎年決まった時期に、地球と月は、彗星の軌道と交差する。彗星の中にはたくさんの岩屑をまき散らすものがある。そうした置き土産の大半は、地球の大気圏では燃え尽きる。この現象はふたご座流星群、ペルセウス座流星群、しし座流星群などの名称で呼ばれる。一方、空気のない月では、それらの隕石は月面に衝突する。
「何百万という数の細かい岩石が、雨のように降り注ぎます」と、ベンナ氏は言う。「われわれは29回の隕石群を確認しました。そのすべてが彗星と関連していました」
こうした小さな粒子が月面に衝突する際、いちばん上にある細かい表土の層(レゴリス)を舞い上げる。そのおかげで、地表からわずか7.5センチメートルほど下の層に、予想よりもはるかに多くの水があることが判明した。
「こうして放出され、失われる水の量は、太陽風によって運ばれてくる水素や、微小隕石自体によってもたらされる水では埋め合わせることができません」と、ベンナ氏は言う。「つまり、月の土壌にはこれら2つでは補充し切れないほどの水が存在することになります。これを説明するには、月には太古の昔から蓄えられてきた水があり、それが長い時間をかけて徐々に枯渇してきたと考えるしかありません」
なぜ地球よりも水が少ないのか
ベンナ氏のチームは、月面の数センチメートル下には、水がほぼ均等に存在していると推測している。これは、月には太陽風や彗星から運ばれてきたものよりもたくさんの水があることを意味する。
太陽系ができたての頃、巨大な若い惑星同士が衝突し、宇宙空間に放たれた岩屑が2つのまとまりになり、互いの周りをバレエのようにグルグルと回り始めた。これが月と地球ができた経緯だ。結果として、月と地球は歴史の一部を共有することになったが、地球にある量と比べてなぜ月にあれほど水が少ないのかについては、これまで明確な理由はわかっていなかった。
「これは重要な論文です。なぜなら、今起きている水の放出を測定しているからです」と、米ブラウン大学の惑星科学者、カーリー・ピーターズ氏は言う。
研究チームのデータは、月の起源や、それほど大量の水をどのように獲得したかを解明しようとしている科学者たちの役に立つだろう。
「とてもワクワクしています。研究チームはすべての経緯をとらえています。水が外気圏に移動し、それが月面に戻るか、あるいは宇宙へ消えていくまでを観測しているのです。これは本当に重要な発見です」
参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/041700233/
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