CO2からエタノールを製造する技術、東大発ベンチャーが特許を取得

 世の中にはまだまだ知られていない微生物が存在する。例えば、CO2を吸収し有機物に変える微生物や、H2を生成する微生物だ。

 知っての通りCO2は地球温暖化の原因となる。H2は次世代に期待されているエネルギー源である。そんなに都合のよい微生物が存在するのだろうか?しかし、CO2を吸収するのは植物が行っていることであるし、そういう微生物もたくさん存在する。水素生産菌も決して特殊な菌ではなく、土壌やシロアリなどの体内にも普通に存在している。嫌気性の細菌だ。

 私たちは、こうした細菌をもっと知り有効に活用していきたい。2019年5月30日、東大発ベンチャーのCO2資源化研究所は、ポリエチレンの原料となるエタノールを、CO2から製造する手法の特許を取得した。

 研究所では、近年、注目されている「水に溶けにくい無機質ガスを栄養に増殖する細菌」の中でも「CO2を栄養源として増殖する水素酸化細菌(UCDI水素菌)」とバイオ技術の組み合わせによる産業活用を進めており、すでにバイオジェット燃料の原料となるイソブタノールの製造に関する特許については2018年12月に取得済みで、今回の特許取得はそれに続くものとなる。

CO2から石油を合成する細菌

 現代文明は石油の上に成り立っているといってよい。この石油というしろものは、生物が関与してできたものでありながら、現在の生態系には組み込まれていない。そのため文明が発達すればするほど、海洋汚染や二酸化炭素の増加による温暖化を引き起こし、生態系のバランスを崩すものと考えられてきた。

 しかし、人類が放出した二酸化炭素を逆に石油に変え、生態系のバランスを取り戻す微生物が、静岡の油田のまっ黒なタールの中にいた。それが、大阪大学が発見した、廃液処理などに活躍しているシュードモナス属の細菌の仲間である。

 油田に注目したのは、海洋汚染のなかでも近年クローズアップされてきた、タールボールの処理のためである。海に流出した石油は、物理的に取り除くか、界面活性剤で分散させて微生物で分解するしかない。 界面活性剤とからんだ石油は、しばらくするとダンゴ状 (タールボール) になって、酸素のない深い海の底に沈んでしまう。

 酸素があるなら石油を分解できる細菌の存在は、30年以上前に知られていた。もし、無酸素で石油を消化する細菌がいれば、海底のタールボールを分解することが可能になるだろう。

 静岡の油田は、つねに石油が土壌中にわいているが、そばの小川には油が浮いてこない。ということは、土壌のどこかに酸素なしで石油を分解する細菌が含まれているのではなかろうか。

 油田から採取したサンプルを石油培地に加え、無酸素ガス (CO2、H2、N2の混合気体) を吹き込んでみた。2週間ほどで、この培地で安定して生育する細菌が1株得られた。 シュードモナス属の新種と判断され、シュードモナス・アナエロオレオフィラHD-1株 (無酸素条件で石油を好むの意) と命名した。 その後、この細菌の生育には二酸化炭素が不可欠であることがわかり、石油以外に二酸化酸素も炭素源として利用している可能性が出てきた。

 そこで先の培地から石油を抜き、二酸化炭素と水素を主体とした無酸素ガスを吹き込んで生育させた。すると乾燥菌体から石油成分が抽出され、石油を合成する能力もあることがわかったのである。

 この細菌は、エネルギー源としての石油が豊富にあるときはそれを取り込み、石油がない環境では二酸化炭素を還元し、石油を合成してため込む。今後、遺伝子解析を進め、遺伝子操作で石油生産能力の高い新種ができれば、と考えている。

 酸素も光も必要とせず、二酸化炭素と水素を利用する生物が、進化のなかでどのような位置づけになるのか興味深い。だがそれ以上に、これからの人類にとっても、環境問題にとどまらない大きな可能性を秘めている。

 地球上でこそHD-1の性質は奇妙にうつるが、それは地球の大気には生物が40億年かかって蓄えた酸素が20.9%もあるからである。宇宙では二酸化炭素や水素のほうが一般的なのだ。

 火星の大気は95.3%が二酸化炭素であるのに対し、酸素はわずか0.3%。木星は水素が89%で、酸素はほとんどない。人類が宇宙に進出する上で、この細菌は重要なパートナーとなる資質をもっている。 (いまなか・ただゆき/大阪大学工学部応用生物工学科教授)

 水素細菌

 水素細菌(Hydrogen-oxidizing bacteria)とは、遊離の水素を酸化し、その反応によって生じるエネルギーを利用して、炭酸同化を行う化学合成細菌の総称である。水素を生成する微生物(水素生産菌)と区別して水素酸化細菌、あるいはドイツ語で酸水素ガスを意味するKnallgasにちなんでKnallgas bacteriaとも呼ばれる。

 土壌や海洋などの自然環境中に存在する。Alcaligenes属やPseudomonas属、Bacillus属、あるいは好熱性のHydrogenobacter属など、多様な分類群に属する細菌が含まれる。

 環境問題の根本的解決には、化石燃料から太陽などの 再生可能でクリーンなエネルギーへの移行が必要である。太陽エネルギーはエネルギー密度が低く使い難い ことが欠点であった。光合成細菌を用いた水素生産は、 太陽光を利用可能なこと、基質に未利用資源である有 機性廃水やバイオマスなどを利用可能なことから、環境浄化とクリーンエネルギー生産を同時に行うシステ ムの構築が可能である。

 バイオテクノロジーを用いた 水素生産技術は、炭酸ガスの排出を低減させるために も有用であり、この種の水素生産技術の開発が求めら れている。

 水素生産菌

 水素生産菌は決して特殊な菌ではなく、普遍的に存在していると考えられる。土壌やシロアリなどの体内にいる。嫌気性の細菌とされる。

 単体の菌株の分離には閉鎖された環境下で培養して純粋な培養になるまで継代を繰り返す。純粋な培養になった菌株からDNAを抽出して、ヒドロゲナーゼを作る遺伝子の有無を調べる。

 近年では遺伝子組み換えにより、適した形質を発現させる。しかし、遺伝子組換え体は20リットル以内に制限されている。一方、突然変異体であればこのような培養容量の制限は無い。

 発酵条件で鍵となるのはメタン生成菌など、他菌種の活動を抑え、水素生産菌に適したpH値、温度等の培養条件を維持することにある。

 一般的に下水消化汚泥を水素発酵の種菌として用いる場合には生成した水素は速やかに水素資化性のメタン生成菌によって消費されることから水素回収は困難であるといわれ、このような水素資化菌の活動を抑制する方法として熱処理や酸処理などの改質法による水素資化性メタン生成菌の死滅が有効であるとの知見があるが、未改質の下水消化汚泥を用いて水素発酵を行っても発酵槽内のpH値を制御することによりメタン発酵反応を抑制することで水素生成汚泥として利用できるとの知見もある。

 メタン生成菌の増殖に適するpH6.8∼7.5よりも低い4.0∼6.8が水素生産菌の活動には望ましいとされる。温度条件は他の菌種が活動しにくい50℃でも活動が確認される。

参考 マイナビニュース: https://news.mynavi.jp/article/20190530-833820/

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