あなたは既に大量のプラスチック片を食べている

 プラスチックは、身の回りのあらゆる場面で使われている。もはやプラスチックなしの生活は考えられない。しかし、環境中に広がったプラスチックは分解せずに残っていて問題になっている。

 「マイクロプラスチック」は、5mm以下になったプラスチックの破片であるが、海底やビーチの砂だけでなく、水や食品、空気中の「ほこり」として混入しており、さらには人体からも見つかっている。

 2018年10月には、人間もプラスチックを気づかずに摂取しているかを調べる予備調査で、調査に参加した8人全員の排泄物からマイクロプラスチックが見つかった。

 2019年6月5日付けで学術誌「Environmental Science and Technology」に発表された論文によれば、人は年間3万9000〜5万2000個のマイクロプラスチックを食物とともに摂取するという。呼吸で吸い込む量も考慮すれば、その数は1年で7万4000個を超えるという。

 どんな食品にもマイクロプラスチック

 今回の研究では、ビールや塩、魚介類、砂糖、酒、蜂蜜に含まれるマイクロプラスチック量を調べた既存の研究をベースにした。これらの食物を、人間1人が1年で摂取する量(米国農務省の推奨値を参照している)を基にして、私たちが知らず知らずのうちに摂取するマイクロプラスチックの量が算出された。

 ただ、これらすでに調べられている食品からわかるのは、平均的な人の消費カロリーの15%にあたる部分だけだ。食塩の中からもマイクロプラスチックは検出されている。

 研究では、さらに水道水や空気中に存在するマイクロプラスチックを調べた研究も調査した。その結果、米農務省が推奨する量の水道水を飲むと、さらに毎年4000個のマイクロプラスチックを摂取することになることが判明した。ペットボトル入りの水だけを飲んだとした場合は、さらに増え、その数は9万にも上ることになるという。

 論文の著者キーラン・コックス氏は、この値は少なく見積もった結果で、実際のマイクロプラスチック摂取量は、もっと多い可能性があるとしている。

 「調査した食物の多くは、生で食べるものです。何層ものプラスチックで包装されたような食品は、含まれていません」と同氏は話す。「これらまで加えれば、さらに多くのマイクロプラスチックを摂取することになるでしょう」

 2018年に学術誌「Environmental Pollution」に発表された論文では、貝を食べることで一緒に摂取するマイクロプラスチックの量よりも、空気中に含まれる「ほこり」から体内に吸い込むもののほうが量が多いとしている。

 とても気になる、健康への影響は?

 こうして体内に入ったプラスチックは、その後、どうなるのだろう? 血液に混入するのか? 内臓にずっと溜まるのか? それとも、害はなく、単に体外に排泄されるだけなのだろうか?

 人体が許容できるマイクロプラスチックの量がどのくらいなのか、また、健康への影響はどれくらいあるのかについては、まだ確かなことはわかっていない。2017年になってようやく、英ロンドン大キングス・カレッジの研究者が、摂取したプラスチックは徐々に蓄積され、有害な影響を及ぼす可能性があるとした論文を発表した。

 そもそも、プラスチックの種類が違うだけで毒性も異なるはずだ。塩素など有害な化学物質で作られているもの、空気中に含まれる鉛などの微量の化学物質を吸着するマイクロプラスチックもある。こうした有毒物質が長い時間をかけて体内に蓄積すると、免疫システムに影響が出る可能性は否定できない。

 米ジョンズ・ホプキンス大学の研究者は、マイクロプラスチックが混入した魚介類を食べることの影響を調べた。その結果、蓄積したプラスチックが免疫システムに悪影響を及ぼし、内臓のバランスを乱す可能性があることを明らかにした。

 科学者は、マイクロプラスチックが健康に悪影響を及ぼす量がどのくらいかなのかを研究している最中だとコックス氏は言う。マイクロプラスチックへの耐性も人によって違うだろう。大気汚染がひどい地域や、有害物質を含んだ建築資材を使った住宅に暮らすような人は、影響が大きいかもしれない。

 ただ、今回のコックス氏の研究に対しては批判もある。「たくさんの変数が関わる複雑な問題を、単純化しすぎている」。こう話すのは、カナダ、サイモンフレーザー大学の生態毒性学者レア・ベンデル氏だ。それでも「人がマイクロプラスチックを大量に摂取しているという、コックス氏らの結論は正しいです」と同氏は付け加える。

 ベンデル氏は、「マイクロプラスチックは、破片、ペレット、ビーズ、繊維、フィルムなど、様々な形態をしていることに着目すべきだ」とも指摘する。というのも、マイクロプラスチックはひとくくりにできる代物ではなく、何百もの異なる化学添加剤を含んだ材料でできているからだ。生成過程が違えば、当然「さまざまな特性」を持つマイクロプラスチックがあって当然だ、と同氏は説明する。有毒な化学物質を含むもの、あるいは細菌や寄生虫が活動するのに適した環境となるマイクロプラスチックもあるだろう。

 特に多いのは微小な繊維のマイクロプラスチック

 マイクロプラスチックを摂取した魚介類を食べる、空気中に浮遊するマイクロプラスチックを吸い込む、プラスチック包装された食品に付着したマイクロプラスチックを摂取する――人がマイクロプラスチックを摂取する経路は1つではない。

 こう考えると、マイクロプラスチックを完全に防ぐことは「不可能ではないが、非常に難しい」(コックス氏)。ボトル入りの水をやめて水道水を飲む、といったように生活のスタイルを変えれば、「マイクロプラスチックの摂取量は減らせる」と同氏。

 ところで、今回の研究チームが調査した論文に示されたなかで、一番身の回りに多いと考えられるマイクロプラスチックが微小な「繊維」だ。ナイロンやポリエステルなどの生地から抜け落ちたもので、洗濯時に衣服から抜け落ち、やがて排水を通して生態系に流れ込む。

 2番目に多かったのが、ストローなどに広く使用される、いわゆるプラスチックの破片だ。

 「今回の研究で、プラスチック汚染が海洋生物以外にも広がっていることに注目されることを願っている」とコックス氏は語る。「プラスチック汚染の影響を、人も既に受けているなど考えてもいませんでした」と同氏。「でも、すでに影響は出ているととらえるべきでしょう」

参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/060700338/

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