放射線の人体への影響
原子力発電所の事故といえば、恐れられているのが放射線だ。放射線は目に見えないが存在する、エネルギーを持った粒子や電磁波の一種のことをいう。
この放射線は人命を脅かすものであり、8年前に起きた東日本大震災の津波による、福島第一原発事故では現在も浪江町、双葉町、大熊町などに帰宅困難地区が残っていて、約2万3000人が避難生活をしている。
そんな福島第一原発の原子炉内に謎の生物がいる...。にわかに信じがたい情報だが、生命科学の第一人者による徹底検証が行われている。
「何か、生物のようなモノが映っています……」こう呟くのは、東京工業大学地球生命研究所で特命教授を務める丸山茂徳氏だ。丸山教授が見ているのは、2017年3月に東京電力が撮影した福島第一原発・原子炉格納容器の映像である。
津波で非常用電源が失われ冷却不能に陥った格納容器内では、過熱した核燃料が溶け落ちて冷え固まった。原子炉を解体するためには、その燃料デブリを取り除くことが必要である。しかし格納容器内は毎時8シーベルト近い高線量のため、人が調査に入れば死んでしまう(全身に浴びると1~2週間で死亡)。そのため自走式のロボットを使い、内部を撮影し調査を続けている。
ちなみに自然界に存在する自然放射線は1年間で 2.1ミリシーベルト、レントゲンなどの医療放射線は 3.9ミリシーベルト、ここまでは大丈夫とされる許容放射線量は1年間で 50ミリシーベルト、5年間で 100ミリシーベルトとされている。
福島第一原発原子炉内“謎の生物”
東電では2017年から撮影した映像を公開。そこに映っていたモノは……。丸山教授によると、多数の生物らしき物体が確認できるというのだ。
「金属部分の表面に、緑やオレンジ色をした「バイオフィルム」と呼ばれる構造体のようなモノが見えます。河原の石などに付くぬめりと同じもので、菌などの微生物が集まって出来た物体です。水中を漂う白っぽい半透明の物体(掲載画像中央)は、恐らくこのバイオフィルムが剥がれたモノやプランクトンでしょう。原子炉内には、冷却するために注入された海水や地下水が混じっています。その中にいた微生物が、混入したのではないか。酸素がある環境なら、数百種類の生物が原子炉内で生き続けているかもしれません」
1979年に事故を起こした米スリーマイル島原発でも、原子炉から藻類などが見つかっている。人間が生きていけないほどの強烈な放射線を浴びても、死なない生物が存在するのだ。
「人は大量の放射線を全身に一度に浴びると死に至りますが、被曝でDNAが損傷しても生き続けられる生物もいます。例えば『デイノコッカス・ラディオデュランス』と呼ばれる細菌は、毎時5000グレイ(ガンマ線換算で5000シーベルト、人間なら即死)を浴びても死にません。1万5000グレイの被曝でも約4割が生き残る。こうした放射線耐性の高い生物たちが、超高線量の格納容器内にいると思われます」(丸山教授)
東電は、2021年中に1~3号機から燃料デブリを取り出す作業を始める計画。同時に「過酷な環境でも生き続ける生物の研究をすべき」と丸山教授は話す。
「原始の地球には、極めて強い自然放射線が存在しました。そうした環境の中で生物が生まれ、進化をとげてきたと考えられています。福島第一原発原子炉内の環境はそれに近い。実験では再現できない状況が現にあるのだから、東電は炉内の水を公開するなどして生物研究に協力するべきです。生命の起源を解明する手助けになる可能性があります」
事故は残念だが、原子炉内から生命の起源を解明する手掛かりが見つかるかもしれない。
福島第一原発事故の「燃料デブリ」
ところで福島第一原発事故の現状はどうなっているだろうか?まず、原発事故の処理は、いつまでかかるのか?
国と東京電力がまとめた工程表では、福島第一原発ですべての廃炉作業を終えるまでには事故から30年から40年かかり、2050年ごろまで続くとされている。
しかし、「燃料デブリ(このあと説明します)」の取り出しや、汚染水の処分など、さらに厳しい課題に取り組むのはこれからである。技術開発の成否も廃炉の行方を大きく左右する。計画通りに進められるかどうか、具体的な見通しは立っていない。
「燃料デブリ」とは、福島第一原発の事故では、1号機から3号機までの3基で核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が起き、溶けた核燃料は構造物などと混ざり合った。「燃料デブリ」は事故から8年がたった現在も、原子炉やその外側の格納容器の中で、強い放射線を出し続けている。
燃料デブリには人が近づくことができないため、遠隔操作で取り出すしかない。具体的な方法は決まっていないが、国と東京電力は、まず格納容器の横からロボットアームなどを入れて、底部にあるデブリを取り出すことを検討している。
2019年度には、内部調査の結果をもとに、最初にどの号機からどう取り出すかを決め、2年後の2021年に取り出しを始める計画となっている。
今年(2019年)2月に、2号機の格納容器の内部調査が行われた。調査では、物をつかむことができる指状のものがついた装置を、釣り糸のように格納容器の底まで垂らし、堆積物の硬さや、動かせるかどうかなどを調べた。
そのとき、小石状になった一部の燃料デブリはつかんで動かせることが確認されたが、「塊」になっていて動かせないものも見つかった。
しかも、調査が行われたのは格納容器の底の1%にも満たない面積。1号機はもちろん、3号機も含めてどのような性状のものが、どれだけあるか分かっていない。
デブリは、1号機から3号機までを合わせると880トンにのぼると推定されていて、全てを取り出す具体的な道筋はまだ見えていないのが実情である。
蓄積する汚染水の処理
そして、核燃料や放射性廃棄物を冷やした後に生じる汚染水はどうなっているだろうか?
事故で溶け落ちた核燃料は熱を出し続けているため、水を注いで冷やす必要があり、今も、汚染水は発生し続けている。これらの汚染水は、浄化処理を経て巨大なタンクに入れられ、原発の敷地内で保管されている。その量は約111万トン。タンクの数は、約1000基にのぼっている。
東京電力は、敷地内にこれ以上のタンクを増設するのは限界を迎えつつあるとしていて、最終的な処分をどうするかは、差し迫った課題となっている。
東京電力はこれまで、処理後の水には取り除くことのできないトリチウムは含まれているものの、セシウムやストロンチウムといった放射性物質は取り除くことができると説明してきた。
ところが去年8月、新たな問題が明らかになった。タンクで保管されている処理水の約8割で、トリチウム以外の放射性物質の濃度も国の基準を上回り、中には基準の2万倍近くに達しているものもあった。東京電力は、処理設備の劣化や不具合が原因としている。
法令上、トリチウムは国の基準以下に薄めれば海などに放出することができるため、原子力規制委員会の更田委員長は、海などへの放出を「現実的な唯一の選択肢」だとしていた。
ところが、トリチウム以外の放射性物質も残っていることが新たに分かったことで、8月に開かれた公聴会では市民から「議論の前提が崩れている」と厳しい批判の声が上がった。
この問題が明らかになる前の段階でも、「海などへの放出は風評被害を助長する」という地元の声は大きく、解決の見通しが立たない状況となっている。
避難生活を送る人たち
原発事故で今もどれくらいの人が避難しているのか?
福島県や復興庁のまとめによると、震災や原発事故の影響で避難生活を送っている福島県の住民は、2月末時点で4万1000人余りとなっていて、最も多かった2012年5月の16万4000人余りに比べて約4分の1になった。しかし今も多くの人たちが避難生活を続けている。(2019年2月末現在)
一方で、県や復興庁のまとめには、原発事故にともなう避難指示が出た地域の住民で、東京電力から家賃の賠償を受けながら民間の賃貸住宅で避難生活を送る人たちや、避難指示が出されていない地域から福島県内の別の地域に自主的に避難した人は、含まれていない。
このため実際に避難している人の数は多くなるが、今のところ正確な人数は把握されていない。
今の避難指示の状況はどうなのだろうか?
原発事故によって福島第一原発周辺の2市6町3村に出された避難指示は段階的に解除されている。現在は、避難指示が継続されているのは、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、南相馬市、葛尾村、飯舘村の1市4町2村である。
避難指示の対象の面積は最大時の3分の1程度に、対象の人口も約8万1000人から30%以下の約2万3000人になり、避難指示が解除された区域では、電気や水道、道路などのインフラの整備が進んだ。
福島第一原発が立地する大熊町では、4月にも、一部の地域で避難指示が解除される見通しだ。対象となる地域の住民は全体の4%程度だが、福島第一原発の立地自治体の地域で避難指示が解除されるのは初めてになる。
どれくらいの人が住んでいたところに戻っているのか?避難指示が全域または一部で解除された自治体にNHKが取材したところ、避難指示がすでに解除された地域に住民登録している人は4万7000人余りいる。
これに対して戻ったり、新たに移り住んだりして実際に住んでいると見られる人は約1万1000人と、23%程度だった。復興庁などが2018年、5町村を対象に行った住民意向調査では、「戻らないと決めている」や「判断がつかない」と答えた人が、少ない自治体でも50%以上にのぼった。(5町村は、富岡町、浪江町、双葉町、葛尾村、川俣町。ただし川俣町の結果は2019年3月5日現在で未公表)
戻らない理由として「すでに生活基盤ができている」「医療・介護環境への不安」のほか、「放射線量や原発の安全性への不安」も上位にあげられている。医療機関、福祉施設、商店、飲食店、働く場に加えて、不安の払拭が課題になっている。
福島の食べ物の安全性
福島県内でとれた農産物や水産物は、産地ごとに放射性物質の検査が行われている。このうちコメは、毎年出荷される約1000万袋のすべてが検査されている。このほかの品目は、サンプル検査と言って一部が抜き出されて検査されている。
検査で基準値を超えた品目は、産地ごとに国の出荷制限を受けたり、県の自粛要請が行われたりして、流通しないようにしている。
コメは2015年産以降、過去3年間、国の基準値を超える放射性物質は検出されていない。国の基準値は1キログラムあたり100ベクレルである。
このほかの農産物や水産物でも、国の基準値を上回る放射性物質が検出されるケースは、事故直後から大幅に減っている。2012年度は6万点余りのうち、基準値を上回ったのは1.8%にあたる1106点であった。
それが2017年度は、約2万点のうち、0.05%にあたる10点である。内訳は川魚のイワナとヤマメが4点ずつ、山菜のモミジガサとクリが1点ずつ。こうした品目については産地ごとに出荷制限や自粛が行われ、流通していない。
福島県沖では、福島第一原発から10キロ以上離れた海域で試験的な漁が行われ、検査が行われた上で出荷されている。また試験的な漁での検査に加えて、福島県の研究機関が年間5000~8000の魚介類について、モニタリング検査を続けている。
その結果、2015年の4月以降2018年末まで、国の基準値を超える放射性物質は検出されなかった。しかし2019年1月末、福島第一原発から20キロあまり離れた広野町沖で取れた、コモンカスベというエイの仲間の1匹から、1キログラムあたり161ベクレル(国の基準値は1キログラムあたり100ベクレル)の放射性セシウムが検出された。
福島県漁連は、この日水揚げされたすべてのコモンカスベの出荷をやめ、当面の間、試験的な漁の対象から外すことを決めた。また、国も2月7日付けで出荷制限を指示し、現在福島県沖で取れたこの魚は流通していない。
東京電力が原発から20キロ以内の海域で独自に行っている調査では、港湾内や港湾近くでとれた魚を中心に、基準値を超える放射性物質が検出されることがあるが、これらは流通していない。
また「コープふくしま」は、事故後毎年(2011年度~2018年度)福島県内の組合員(100家庭から200家庭)を対象に、ふだん家族で食べている2日分の食事の調査を行っている。その調査では、1キロあたり1ベクレル以上の放射性セシウムは検出されていないという。(NHK)
福島第一原子力発電所事故とは?
2011年(平成23年)3月11日の東北地方太平洋沖地震発生当時、福島第一原子力発電所(以下「原子力発電所」は「原発」と略す)では1〜3号機が運転中で、4号機〜6号機は定期検査中だった。1〜3号機の各原子炉は地震で自動停止。地震による停電で外部電源を失ったが、非常用ディーゼル発電機が起動した。
ところが地震の約50分後、遡上高14 m - 15 m(コンピュータ解析では、高さ13.1 m)の津波が発電所を襲い、地下に設置されていた非常用ディーゼル発電機が海水に浸かって機能喪失。さらに電気設備、ポンプ、燃料タンク、非常用バッテリーなど多数の設備が損傷し、または流出で失ったため、全電源喪失(ステーション・ブラックアウト、略称:SBO)に陥った。
このため、ポンプを稼働できなくなり、原子炉内部や核燃料プールへの注水が不可能となったことで、核燃料の冷却ができなくなった。核燃料は運転停止後も膨大な崩壊熱を発するため、注水し続けなければ原子炉内が空焚きとなり、核燃料が自らの熱で溶け出す。
実際、1・2・3号機ともに、核燃料収納被覆管の溶融によって核燃料ペレットが原子炉圧力容器(圧力容器)の底に落ちる炉心溶融(メルトダウン)が起き、溶融した燃料集合体の高熱で、圧力容器の底に穴が開いたか、または制御棒挿入部の穴およびシールが溶解損傷して隙間ができたことで、溶融燃料の一部が圧力容器の外側にある原子炉格納容器(格納容器)に漏れ出した(メルトスルー)。
また、燃料の高熱そのものや、格納容器内の水蒸気や水素などによる圧力の急上昇などが原因となり、一部の原子炉では格納容器の一部が損傷に至ったとみられ、うち1号機は圧力容器の配管部が損傷したとみられている。
また、1〜3号機ともメルトダウンの影響で、水素が大量発生し、原子炉建屋、タービン建屋各内部に水素ガスが充満。1・3・4号機はガス爆発を起こして原子炉建屋、タービン建屋および周辺施設が大破した(4号機は定期検査中だったが、3号機から給電停止と共に開放状態であった、非常用ガス処理系配管を通じて充満した可能性が高い)。
格納容器内の圧力を下げるために行われた排気操作(ベント)や、水素爆発、格納容器の破損、配管の繋ぎ目からの蒸気漏れ、冷却水漏れなどにより、大気中・土壌・海洋・地下水へ、大量の放射性物質が放出された。複数の原子炉(1,2,3号機)が連鎖的に炉心溶融、複数の原子炉建屋(1,3,4号機)のオペレーションフロアで水素爆発が発生し、大量に放射性物質を放出するという、史上例を見ない大規模な原発事故となった。
事故により、大気中に放出された放射性物質の量は、諸説あるが、東京電力の推計によるとヨウ素換算値で約90京ベクレル (Bq) で、チェルノブイリ原子力発電所事故での放出量520京Bqの約6分の1(17%)に当たる。
東京電力は、2011年8月時点で、半月分の平均放出量は2億 Bq (0.0002TBq) 程度と発表している。また空間放射線量が年間5ミリシーベルト (mSv) 以上の地域は約1800km2、年間20mSv以上の地域は約500km2の範囲に及んだ。
日本国政府は、福島第一原発から半径 20 km圏内を警戒区域、20km以遠の放射線量の高い地域を「計画的避難区域」として避難対象地域に指定し、10万人以上の住民が避難した。
2012年4月以降、放射線量に応じて避難指示解除準備区域・居住制限区域・帰還困難区域に再編され、帰還困難区域では立ち入りが原則禁止されている。2014年4月以降、一部地域で徐々に避難指示が解除されているが、帰還困難区域での解除は、事故発生から10年後の2021年以降となる見通しである。(Wikipedia)
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