ガンマ線の発見とその正体
ガンマ線というと放射線の一種である。最初に発見されたのは放射性物質から発生するものだった。放射性物質の中には「ガンマ崩壊」と呼ばれる放射性崩壊過程がある。フランスの化学者かつ物理学者であるポール・ヴィラールが1900年にラジウムから放出される放射線を研究しているときにガンマ線を発見した。
ガンマ線の発生源はそれだけではなかった。1911年~1912年、ビクター・フランツ・ヘスは、気球を用いた放射線の計測実験を行い、地球外から飛来する放射線を発見した。当時、まさか宇宙から放射線がやってくるとは思われていなかった。彼はこの業績により1936年にノーベル物理学賞を受賞している。
では宇宙から飛来するガンマ線の正体は何であろうか。その正体は、大きな恒星が寿命を終えてブラックホールになる際や、 ブラックホールや中性子星(中性子からなる超高密度の天体)が合体する際に生じる現象だと考えられている。
観測史上最高エネルギーのガンマ線を観測
今回、東京大学宇宙線研究所をはじめとした国際的な観測グループは、観測史上最高となる1兆電子ボルトのエネルギーを持つガンマ線を含んだ、ガンマ線バーストを観測したと発表した。
電子ボルト:エネルギーの単位で、目に見える光(可視光線)のエネルギーは、数電子ボルト。このガンマ線バーストは、約45億光年先にある恒星がその生涯を終え、ブラックホールへと変貌を遂げる際に生じたものと考えられる。
11月21日にイギリスの科学誌『Nature』で発表され、ニュースとして大きく取り上げられた。一体何がそれほど重要だったのだろうか?
あらためて、専門家に研究の意味を聞いた。
宇宙空間には、無数の放射線(エネルギーの高い電磁波や粒子)が飛び交っている。その中でも、エネルギーが一定以上高い電磁波にガンマ線がある。
これまでの研究によって、宇宙ではガンマ線が大量に放射される現象「ガンマ線バースト」がたびたび生じていることが分かっている。
ガンマ線バーストは、大きな恒星が寿命を終えてブラックホールになる際や、 重力波の原因として挙げられるブラックホールや中性子星(中性子からなる超高密度の天体)が合体する際に生じる現象だと考えられているが、現象が起きる理由や周辺環境についてはよく知られていない。
「ガンマ線バースト自体は過去に何度も観測されています。しかし、1兆電子ボルトという、これまでに検出されたガンマ線よりも一桁高いエネルギーを持つガンマ線を大量に検出できたのは、非常に価値のあることです」
データ解析チームを主導した東京大学宇宙線研究所の野田浩司准教授は、今回の観測の意味をそう語る。
ガンマ線バーストの観測は、以前から人工衛星によって行われていた。これまでの観測で、検出されたエネルギーが最も高かったのは、2013年4月27日に観測されたガンマ線バースト(GRB 130427A)。そのとき記録したエネルギーは、約950億電子ボルトだった。
ただし、数百億電子ボルトというエネルギーを持つガンマ線を検出できた例は数えられるほど。その上、これまでの研究で考えらえていたメカニズムでは、ガンマ線バーストで発生するエネルギーは、主に数千電子ボルトから数百万電子ボルト程度までと想定されていた。
950億電子ボルトという高いエネルギーを持つガンマ線は従来のメカニズムで生じたものなのか、それとも既存の枠では説明できない高エネルギーのガンマ線が放出される現象が存在するのか、宇宙物理学者たちの間では議論が続いていた。
「今回は950億電子ボルトよりも高いエネルギーをもつガンマ線が、数個ではなく、数千個検出されています。つまり、非常に高いエネルギーのガンマ線を発生させる現象が起きているということが確定しました。ある意味『最後の1ピース』がはまったともいえます」(野田准教授)
MAGIC望遠鏡が瞬時に、素早くガンマ線バーストを捉える
ではなぜ、今回に限って高いエネルギーのガンマ線がこれほどたくさん検出されたのか。野田准教授は、今回の観測の流れを次のように語る。
「今回、スペイン、カナリア諸島ラ・パルマ島にある『MAGIC望遠鏡』(Major Atmospheric Gamma Imaging Cherenkov Telescope)は、人工衛星からガンマ線バーストの発生を通知された28秒後に向きの調整を完了。さらに12秒後には、解析できるレベルで、データを取得しはじめました」
宇宙から地球にやってくるガンマ線は、大気と反応して地上までほとんど届かない。そのため、地上の望遠鏡では本来宇宙からやってきたガンマ線を検出できない。
そこで、MAGIC望遠鏡では、ガンマ線と大気が反応することで生じた光(チェレンコフ光)を検出し、特定の方向からやってきたガンマ線の量やエネルギーを逆算している。このような仕組みでガンマ線を検出する望遠鏡を「大気チェレンコフ望遠鏡」という。
宇宙でガンマ線を観測するフェルミ天文衛星の検出機の大きさは、せいぜい1〜2メートル四方。広大な宇宙の四方八方からやってくるガンマ線をピンポイントで大量に捉えるには、検出器が小さすぎる。
その点、大気と反応することで生じた光をもとに地球に届いたガンマ線を逆算できれば、ある程度広い範囲にやってくるガンマ線を一気に検出できる。
「MAGICなら、10兆電子ボルト以下のエネルギーを持つガンマ線を半径約100メートル以上の範囲で検出できます」(野田准教授)
野田准教授は「高いエネルギーを持つガンマ線は、宇宙空間を遠くまで進みにくいという特徴があります。その上、地球の周りにある検出器(人工衛星)は小さいため、仮に地球の近くに到達したとしても、あまり検出されてこなかったと考えられます」と話す。
MAGICと同じような仕組みで、ガンマ線を放っている天体を観測する地上の望遠鏡はほかにもある。しかし、この仕組みの望遠鏡でガンマ線バーストを観測したのはMAGICが初めてだ。
ガンマ線バーストのように、ある瞬間から爆発的にガンマ線が放出される現象を捉えるには、ガンマ線バーストが起きたことを察知してすぐに地上の望遠鏡に知らせる迅速な宇宙との情報連携システムと、その情報を受けて、瞬時にガンマ線バーストが起きている方向を観測できる機動力を持った望遠鏡が必須となる。
MAGICでは、12カ国、約280人で国際共同研究が行われている。日本からは、野田准教授含めて31人の研究者が参加している。
「MAGICでは、ガンマ線バーストをメインの観測対象の一つとしています。そのため、ほかのガンマ線を観測できる望遠鏡にくらべて軽く、動きが速い。ガンマ線バーストはすぐ暗く(検出できるガンマ線の数が少なく)なるので、このコンセプトが必要でした」(野田准教授)
ブラックホールで生じる「ジェット」の手がかりはガンマ線にあり?
ガンマ線バーストには、「短い」ものや「長い」ものなど、ガンマ線が発生し続ける時間の長さに応じていくつか種類があることが知られている。それぞれ、ガンマ線バーストの原因となる天体やガンマ線の発生メカニズムが違うことが想定される。
「今回観測されたガンマ線バーストは、長時間ガンマ線を放出し続けるタイプでした。だから、人工衛星がガンマ線を検出してから地上の望遠鏡で観測できるまでに60秒近くの時間がかかっても、ガンマ線を検出することができました」(野田准教授)
ある程度時間が経過しても検出され続けるガンマ線は、ガンマ線バーストの原因となる現象(後述するジェットなど)の発生地点から離れた場所で、その“余波”によって生み出されたものだと考えられる。
つまり、ガンマ線バーストの検出から観測までの時間を短くすることができれば、その分、ガンマ線バーストを起こした天体の『近く』の様子を知ることができる。
例えば、ブラックホールが誕生する際には、『ジェット』と呼ばれる高速のガスや粒子が噴き出す現象が生じていると考えられている(この時、ガンマ線バーストもともなうと考えられている)。しかし、ジェットが生じる原因も、いまだによく分かっていない。
こういった、現代科学でもよく分かっていない現象についても、ガンマ線バーストの観測を積み重ねることで、理解が進むはずだ。
もちろん、ガンマ線バーストを起こしそうな天体が事前に分かっていれば、ガンマ線バーストの始まりから終わりまでをすべて観測できる。しかしそれは現実的ではない。だからこそ、ガンマ線バーストの発生を検知してから、できるだけ早く観測を開始し、その周辺で何が起きるのかを知ることが重要だといえる。
高エネルギーガンマ線天文学は、間もなくNEXTステージへ
「軽くて、速い」というMAGICのコンセプトをそのままに、より発展させた次世代のガンマ線望遠鏡「チェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)」の建設プロジェクトが進められている。
CTAプロジェクトでは、北半球、南半球に合計100台程度の望遠鏡が建設される予定。建設予定地は、北半球ではMAGICと同じスペイン、カナリア諸島ラ・パルマ島。南半球では、チリのパラナルだ。
ラ・パルマ島では、4台の「大口径望遠鏡」を中心とした観測システムを整備する予定だ。すでにMAGICの近くで建設が進められており、1台は完成している。
また、これらのプロジェクトでは、他のガンマ線望遠鏡で研究を行なっていたチームと合流し、まさに世界規模でチームを作り、観測を行う予定だ。
「高エネルギーのガンマ線天文学は、1980年代から行われてきた決して新しくはない学問ですが、最近になっても興味深い現象が次々と発見されています。さらに、挑戦的なプロジェクトも始まりますので、まさに花開いたと言えるのではないでしょうか」
ガンマ線の発見の歴史
最初に発見されたガンマ線源は「ガンマ崩壊」と呼ばれる放射性崩壊過程であった。この種の崩壊では、励起した核種が生成されると、ほとんど瞬間的にガンマ線を放出する。
フランスの化学者かつ物理学者であるポール・ヴィラールは1900年にラジウムから放出される放射線を研究しているときにガンマ線を発見した。ヴィラールは彼が見出した放射線が、それまでにラジウムから放出される放射線として記述されていたもの (これにはアンリ・ベクレルによって1896年に初めて「放射能」として言及されたベータ線やラザフォードによって1899年に発見されたほとんど透過しない種類の放射線であるアルファ線が含まれる)より強力であることに気づいた。しかしながら、ヴィラールはこれを根本的に異なる種類として名前を付けようとは考えなかった。
その後1903年に、アーネスト・ラザフォードがヴィラールの放射線はそれまでに名付けられていた放射線とは根本的に異なるものであると認知し、1899年にラザフォードが区別していたアルファ線とベータ線からの類推でヴィラールの放射線を「ガンマ線」と名付けた。
放射性元素によって放出される放射線はギリシア文字を使って様々な物質を透過する力の順に名付けられた(アルファ線が最も透過しにくく、次いでベータ線、そしてガンマ線が最も透過しやすい)。ラザフォードはもうひとつのガンマ線がアルファ線やベータ線と異なる性質として、磁場によって曲げられない(少なくとも簡単には曲げられない)ことにも注目した。
ガンマ線は最初はアルファ線やベータ線と同じように質量を持つ粒子と考えられていた。ラザフォードは初めはそれが非常に速いベータ粒子であると信じていたが、磁場で曲げられないことから電荷を持たないことが示された。
1914年にガンマ線が水晶の表面で反射されることが観測され、電磁放射線であることが証明された。ラザフォードと彼の同僚であるエドワード・アンドレードはラジウムから出るガンマ線の波長を測定し、ガンマ線はX線に似ているが、より短い波長と(それゆえ)高い周波数を持つことを発見した。
やがてこれによって光子あたりより多くのエネルギーを持っていることが認知された。そしてガンマ崩壊は通常ガンマ光子を放出すると理解された。
宇宙放射線・主要な観測の歴史
ビクター・フランツ・ヘスは、気球を用いた放射線の計測実験を1911年から1912年に行い、地球外から飛来する放射線を発見した。この業績により、彼は1936年にノーベル物理学賞を受賞している。
1931年、ベル研究所の無線技術者カール・ジャンスキーは空電現象の観測中にはじめて天体の電波を捕らえた。こうして電波を放射している天体があることがはじめて知られた。ジャンスキーが観測したのは銀河系の中心核からの波長14.6mの電波であった。
1940年、グロート・レーバーは直径9mのパラボラアンテナを自作した。これが初めての電波望遠鏡である。レーバーは波長1.85mの電波で天の川の観測を行い、電波地図を作成した。
1942年にイギリスのジェームス・ヘイはレーダーに混信する正体不明の電波を捕らえた。これは同年アメリカのジョージ・サウスウォースによって太陽フレアによる電波であることが確認された。
1944年にオランダのファン・デ・フルストは電離していない水素原子が波長21cmの電波を放射する可能性を示した。これは1951年にアメリカのハロルド・ユーエンとエドワード・パーセルによって確認された。
1964年にアーノ・ペンジアスとロバート・W・ウィルソンは通信機器のノイズの測定中に宇宙から等方的にやってくる電波を発見した。これがビッグバン理論で予測されていた宇宙背景放射であると考えられている。
1967年7月にアントニー・ヒューイッシュとジョスリン・ベル・バーネルは非常に正確な周期でやってくる電波を放射する天体を発見した。これはパルサーと名づけられ、その正体は高速で自転する中性子星であると予測されている。
参考 Business Insider:https://www.businessinsider.jp/post-204100
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