磁石の不思議

 磁石というと、鉄をひきつけるものであるが、なぜ、鉄をひきつける磁力というものがあるのだろうか?

 簡単にいうと、原子自体がスピンと呼ばれる小さい磁石の性質を持っているからである。

 細長い磁石を真中で半分に切ると、短い磁石が2つできる。この2つの磁石のそれぞれを、真中でさらに半分ずつに切ると、同じように磁石が4つできる。同じ操作を繰り返していくと、どんどん短い磁石が出来ていく。最後に物質を構成する原子までいく。原子には、スピンと呼ばれる磁気の最小単位の磁性がある。

 磁石は、そのスピンが向きを揃えて数多く集まったもの。スピンはどんな原子でも持っているものだが、それが同一方向に並べば磁力が増し、ばらばらになっていると磁力は打ち消しあい、磁石にはならない。

 近くに強い磁界があると鉄の原子のスピンは同一方向に並ぶので磁化される。しかし、近くに磁界がなければ、スピンはばらばらになり磁力はなくなる。

 それでは、鉄のように磁石になりやすい物質とガラスやプラスチックのように磁石にならない物質は何がちがうのだろうか?

 磁性体になる物質、ならない物質の違い

 原子の中の電子に不対電子が存在するかどうかの違いによる。少し難しくなるが、磁石を構成する原子やイオンは、原子の中の電子軌道のうち、3d軌道、或いは4f軌道が完全に満たされていない。

 これらの原子は、遷移金属元素(鉄、ニッケル、コバルトなど)や希土類元素(ネオジム、イットリウムなど)の特徴であり、これらの軌道中に存在する不対電子(荷電粒子)は、自転運動(スピン)をしながら軌道運動をしている。

 この運動に伴うスピン角運動量と軌道角運動量がもたらす磁気モーメント(電磁石)が、原子やイオンにおける磁石としての性質を発現する起源となっている。

 自然界に存在するほとんどの有機化合物は、磁性の起源となる不対電子をもたない反磁性物質で、顕著な磁気的性質を示さない。そのため、磁気的性質をもたせるには、磁気モーメントの起源となる不対電子をもつ分子の構築が不可欠となる。

 有機物が磁性を持たないのはこの理由による。すなわち有機化合物は共有結合でできているが、共有結合というのは「互いに スピンを逆にする2個の結合した対電子からできている」。これでは磁気モーメントは生まれない。

 ということは、有機物に対 つい(ペア)をつくらない電子、すなわち不対電子を持たせることができれば磁気モーメントが現れ、磁性が出現 することになる。現在磁性を持った有機物の実用化に向けて研究段階にある。

 電気を通すプラスチックは筑波大学の白川教授が発明して、2000年ノーベル化学賞を受賞している。将来磁石になるプラスチックも登場するかもしれない。

 磁気及び無秩序系の電子構造の基礎理論研究

 1977年の受賞研究はこのような磁性体の中の原子構造や電子のふるまいを調べた研究に贈られた。この研究は固体物理学、とりわけ現代のレーザー技術やトランジスタの改良に結びついている。

 ヴレックは「現代磁気学の父」と呼ばれ、磁性の量子論や結晶場理論のパイオニアである。結晶の中の電子振る舞いを研究、数多くの原子が規則正しく格子状に並ぶ結晶へ、粒子が外から飛び込み格子を揺らす現象を理論的に解明した。

  アンダーソンはハーバード大学でヴレックに学んだ。ガラスなど結晶ではない物質の中での電子の振る舞いを解明した。原子が無秩序に並ぶ「無秩序型」の研究を進め、無秩序型のにおける電子物性の基本的な性質である「アンダーソン局在」の存在を唱えた。

 磁気を帯ない純粋な銅や銀が、不純物を含むときに部分的に磁気を帯びる現象は、これによって説明が可能である。

 モットはアンダーソン局在に物理的な考察を加えることで、アンダーソンの理論を補完した。 全体に圧力を加えて原子間の距離を縮めたり、温度を加えたり、不純物の濃淡を上げて無秩序型にすることで、全体が導体となる「モット転移」を1949年に予言。後にアンダーソンらと共同で、この金属・非金属転移を実証した。また酸化ニッケルなどで「モット絶縁体」と呼ばれる逆の金属・金非金属転移(導体や半導体からの絶縁体への転移)も提唱した。

 アンダーソン局在 モット転移

 結晶の乱れにより,電子が空間的に局在して結晶全体を動けなくなる現象。1958年にアメリカ合衆国の物理学者フィリップ・W.アンダーソンが可能性を指摘した。金属など結晶の電気伝導は,不純物や格子欠陥の濃度などの乱れに強く影響を受け,乱れが小さい場合に電気伝導率は乱れの大きさにほぼ反比例する。

 アンダーソンは,結晶の乱れが大きくなるにつれて伝導率がしだいにゼロに近づくのではなく,乱れがある大きさになると伝導率がゼロになる,つまり金属から絶縁体へ転移すると考えた。

 この転移の原因となるのがアンダーソン局在である。1970年代末,理論研究のめざましい発展があり,実験との定量的な比較が可能となった。

 その結果,半導体表面の準2次元系や高濃度不純物半導体で観測されながら,長年解明されずにいた負の磁気抵抗効果の現象が,アンダーソン局在に基づいて解明され,固体内の電子のふるまいについて多くの新たな知見が得られた。

 モット転移は 別名を「金属‐絶縁体転移」ともいう。

 強い電子相関が存在すると、電子は各原子の位置に局在していて、絶縁体を構成しているのだが、電子相関が弱まると電子は局在状態から結晶全体への遍歴状態へと移行し、伝導帯が生じて金属への転移が起こる。酸化ニッケル(NiO)などでみられる。

 フィリップ・ウォーレン・アンダーソン

 フィリップ・ウォーレン・アンダーソン(Philip Warren Anderson、1923年12月13日 - 2020年3月29日)は、アメリカの物理学者。プリンストン大学教授。1977年、ネヴィル・モット、ヴァン・ヴレックとともにノーベル物理学賞受賞。 

 インディアナポリスで生まれ、イリノイ州のアーバナで育つ。ハーバード大学でジョン・ヴァン・ヴレックの元で学んだ。1949年から1984年まで、ニュージャージー州のベル研究所に勤務し、物性物理学を研究。1967年からケンブリッジ大学教授、1984年からプリンストン大学教授を務めた。

2006年、ホセソレルによる、論文の引用数を基にした統計的研究において、世界で最も創造的な物理学者であるとされた。2020年3月29日、死去。

 アンダーソンは固体物理学の分野で多くの重要な業績を残した。ハーバード大学時代には分光学におけるスペクトル線幅への圧力の影響を研究。スペクトルピークの形状から分子間の相互作用を推定する方法を発展させる。

 50年代後半、超交換相互作用を説明する理論を発表。さらに、BCS理論を適用し超伝導体の性質に及ぼす不純物の影響を説明。60年代前半に、金属・合金の磁気的性質に影響する原子相互間の効果を研究。

 アンダーソン摸型を使って金属中の不純物原子による効果を記す。またモットとともに無秩序固体の半導体性質を調べる。この方法はアンダーソン局在として知られている。

 この結果、それまでの高価な単結晶の材料に代わり、安価な非結晶半導体がコンピューターのメモリーやスイッチ素材、太陽エネルギー変換器などに代用できるという事がわかった。

 1977年、磁性体および無秩序系の電子構造に関する理論により、モット、バン・ブレックとともにノーベル物理学賞を授与される。

 日本棋院 名誉三段「自分はノーベル賞受賞者としては川端康成氏についで二番目に碁が強い」と週刊碁 紙に語ったとされる。

主な業績 

超交換相互作用(磁性)アンダーソン模型(磁性)アンダーソン局在 エドワーズ・アンダーソン理論(スピングラス)
RVB(超伝導)

主な受賞歴
1964年 オリバー・E・バックリー凝縮系賞
1977年 ノーベル物理学賞
1982年 アメリカ国家科学賞

 サー・ネヴィル・フランシス・モット

 サー・ネヴィル・フランシス・モット(Sir Nevill Francis Mott、1905年9月30日 - 1996年8月8日)は、イギリスの物理学者。ケンブリッジ大学教授。1977年、「磁性体と無秩序系の電子構造の理論的研究」によりフィリップ・アンダーソン、ヴァン・ヴレックとともにノーベル物理学賞を受賞。リーズ出身。 

 主な業績は写真乳剤の感光過程の理論的解明(ガーネ・モット理論 Gurney-Mott theory)、金属酸化物、金属錯体などにおける電子同士の強い相互作用による導電体から絶縁体への転移の理論的研究(モット絶縁体)など。

 1933年からブリストル大学教授、1954年から1971年まで、キャヴェンディッシュ研究所の第6代所長(Cavendish Professor of Physics)を務めた。

 1953年には国際理論物理学会・京都の議長として、来日した。1936年王立協会フェロー選出。

 モットの主な研究業績には、原子による電子散乱への相対論的効果、スピン偏極の効果についての先駆的な研究、散乱理論や原子核理論についての研究などがある。

 ブリストル大学以降には主に固体物理学の研究を行う。R.W.ガーニーと協力して写真フィルムが露光された時に生ずる過程を総括的に理論で表した。

 その基本概念は、入射光により自由電子と空孔を生じこれが結晶内で動き回ると言うものである。これらの電子は転移や不純物原子などの格子欠陥にあり、格子間の銀イオンを引き寄せ、銀の原子を遊離、潜像を作る。

 この銀原子の集団が現像液の作用のもとで触媒となりハロゲン化銀の粒子全体から銀析出反応を助長する。

 この他、金属、合金、半導体、イオン結晶などの物質の光学的性質、電気的性質等の研究を行う。第二次世界大戦後には、遷移金属の電気伝導や磁性などの理論、様々な環境条件の変化に伴う金属-絶縁体転移の機構、特にモット転移と呼ばれる電子間のクローン相関により生ずる転移機構を提唱。

 また、アモルファス半導体などの研究がある。1977年、磁気及び無秩序型の電子構造に関する議論によりノーベル物理学賞を授与される。

受賞歴

1941年 ヒューズ・メダル
1953年 ロイヤル・メダル
1972年 コプリ・メダル
1977年 ノーベル物理学賞

 ジョン・ヴァン・ヴレック

 1977年ノーベル物理学賞の受賞者。フィリップ・アンダーソンの指導教官。受賞理由は「磁性体と無秩序系の電子構造の理論的研究」である。

 ジョン・ハスブルーク・ヴァン・ヴレック(John Hasbrouck van Vleck, 1899年3月13日 - 1980年10月27日)はアメリカ合衆国の物理学者である。磁性の量子論の分野や金属錯体の結合に関する結晶場理論のパイオニアで、1977年「磁性体と無秩序系の電子構造の理論的研究」の功績によりフィリップ・アンダーソン 、ネヴィル・モットとノーベル物理学賞を受賞した。

 コネチカット州のミドルタウンに祖父のジョン・モンロー・ヴァン・ヴレック、父のエドワード・バー・ヴァン・ヴレックも数学の大学教授という家系に生まれた。

 ハーバード大学で学び1923年ミネソタ大学の助教授になり、ウィスコンシン大学をへて、1928年からハーバード大学の教授となった。磁性の量子論や金属錯体の結合理論の基礎を築いた。 1953年には、国際理論物理学会 東京&京都 で来日した。 

 ジョン・ヴァン・ヴレックの学位論文「電磁性率論」は今でも実践学会の古典的名著とされている。

 その研究生活の大部分を原子構造に磁性の起源を探ると言う研究に費やし、”近代磁気学の父”と言われている。1926年から27年にかけて電気的分曲率と磁化率の一般公式を導入。1930年以降には結晶場によるエネルギー準位の分裂の導入し、希土類及び金属イオンを含む常磁性塩類の磁化率の理論を確立。

 この理論は後の常磁性共鳴吸収の理論や配位子場理論の元になった。その後1941年に常磁性緩和における逸路の存在を予想、1948年磁気共鳴吸収線の幅のモーメント法による計算など。

 1950年に一価金属の凝集エネルギーの理論を提出。これは後の擬ポテンシャルと言う考え方の先駆である。

 ノーベル賞の受賞対象となった研究は、結晶の対象構造内に外から原子が入る場合の動き方を理論的に解明したものである。これは、現在のコンピューターの記憶装置開発の基礎になっている。その他、テープレコーダー、事務用コピー装置、レーザー、太陽熱転換装置などの開発に役立っている。

受賞歴
1965年 アーヴィング・ラングミュア賞
1966年 アメリカ国家科学賞
1974年 ローレンツメダル
1977年 ノーベル物理学賞

参考 Wikipedia: ネヴィル・モット フィリップ・アンダーソン ジョン・ヴァン・ヴレック

  

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