新型コロナウイルスの現在地
2020年12月11日現在、各国当局の発表に基づき日本時間11日午後8時にまとめた統計によると、世界の新型コロナウイルスによる死者数は158万2721人に増加した。
中国で昨年12月末に新型ウイルスが最初に発生して以降、これまでに世界で少なくとも6956万4380人の感染が確認され、少なくとも4425万6000人が回復した。
この統計は、世界保健機関(WHO)からの情報に基づいたもので、実際の感染者はこれよりも多いとみられる。多くの国では、症状がある人や重症患者にのみ検査を実施している。最も被害が大きい米国では、これまでに29万2190人が死亡、1561万7923人が感染し、少なくとも598万5047人が回復した。
次いで被害が大きい国はブラジルで、死者数は17万9765人、感染者数は678万1799人。以降はインド(死者14万2186人、感染者979万6769人)、メキシコ(死者11万2326人、感染者121万7126人)、英国(死者6万3082人、感染者178万7783人)となっている。はやく収束するのを願うばかりだ。
ところでWHOが、コロナウイルス以外にも警鐘を鳴らしている病気がある。世界では毎年これが原因で14万人もの人命が失われているという。その割にはコロナウイルスのように知られていない。その病気とは何だろう?
顧みられない熱帯病
それはヘビに咬まれる「ヘビ咬傷」である。WHOによると、全世界で毎年約14万人が、「ヘビ咬傷」で亡くなっている。最も被害の大きな地域の一つがサハラ以南のアフリカで、毎年3万人ほどが犠牲になっているという推計もある。
ヘビにかまれるアフリカ人の大半は、人里離れた畑で働く農民たちだ。彼らははだしやサンダル履きで作業をするため、特に被害に遭いやすい。ひとたび毒ヘビに襲われたら、あとは時間との闘いだ。最寄りの病院に搬送するにも何時間か、時には何日もかかることがあり、到着する頃には手遅れになっている可能性がある。
主な要因としては、ヘビ毒を中和できる抗ヘビ毒血清の著しい不足が挙げられている。WHOは2017年、ヘビ咬傷はエイズや結核などと比べて世界からの関心が低く、注意を喚起して研究や治療への投資を促すため、狂犬病やデング熱、ハンセン病などと一緒に「顧みられない熱帯病」のリストに加えた。
コブラ科の毒は、数時間で人を死に至らしめる。神経毒によって急速に呼吸筋がまひし、息ができなくなるのだ。一方、クサリヘビ科の毒は、死ぬまでに数日かかることがあり、凝血を妨げ、炎症や出血、壊死をもたらす。ヘビ咬傷による犠牲者がこれほど多い主な要因としては、危険なヘビ毒を中和できる抗ヘビ毒血清が著しく不足していることが挙げられる。
頼みのヘビ血清も数が少ない
ギニアの生物学者ママドゥ・セル・バルデは、これまでに見つけた最良の抗ヘビ毒血清として、フランスの製薬会社サノフィが作った「ファブ=アフリーク」を挙げるが、2014年に製造が中止された。血清の開発には長い年月と多くの資金がかかるが、それを必要とする人の大半が開発途上国の住民なので、大きな利益が出ないのだ。
2013年までにメキシコの血清製造会社イノサン・バイオファーマが新しい血清の販売を始めた。中和できるヘビ毒は少なくとも18種で、アフリカで入手可能なほぼすべての血清より多い。「イノサープ・パンアフリカ」と呼ばれるその血清は凍結乾燥されていて、使い勝手が良い。冷蔵保管の必要がない点は「革新的だ」と、この血清を早くから試してきたバルデは言う。
しかし有効性は折り紙付きであるにもかかわらず、イノサープは十分な量が製造されていない。さらに広く見れば、ほかの製品も含めて血清は極度に不足している。流通している薬瓶の数は、サハラ以南のアフリカで必要とされる年間100万~200万本の5%にも満たない。また、たとえイノサープが広く出回るようになったとしても、1日に数ドル(数百円)稼ぐのがせいぜいのアフリカの農民には、その代金が払えないだろう。
毒ヘビ危機への注意を喚起し、研究や治療のための投資を促すため、WHOは2017年に、ヘビによる咬傷を狂犬病やデング熱、ハンセン病などと一緒に、「顧みられない熱帯病」のリストに加えた。2019年には、1年間にヘビにかまれて死んだり障害を負ったりする人の数を、30年までに半減させるという目標を立てた。1億4000万ドル(147億円)ほどの大事業だ。
「ヘビ咬傷は貧しい人々の病気なので、政治家は関心を向けません」と、ケニアにあるワタム病院のユージン・エルル医師は言う。それでも彼は、WHOによるヘビ咬傷防止の新たな世界的取り組みに期待を寄せている。「各国政府はこれを深刻な問題と見なさざるをえなくなるでしょう。それはとても大切な一歩です」
毒蛇とは、どんなヘビか?
全世界に3000種ほど生息するとされているヘビ亜目のうち、約25%ほどの種が毒蛇と言われている。毒蛇は全て、唾液に毒性があり、毒牙を用いて獲物及び敵に毒を注入する。なお、ナミヘビ科の一部の種には天敵から攻撃を受けると総排出口から不快な分泌物を出す種がいるが、こちらは通常、毒蛇とは言われない。
ヘビ亜目は通常の分類では、ムカシヘビ上科、メクラヘビ上科、ナミヘビ上科の3つに分けられるが、ムカシヘビ上科とメクラヘビ上科には毒蛇は存在せず、ナミヘビ上科にのみ存在する。ナミヘビ上科のうち、毒蛇にあたる種は、コブラ科全種、ウミヘビ科全種(コブラ科ウミヘビ亜科とされることもある)、モールバイパー科全種、クサリヘビ科全種、及びナミヘビ科の一部。
毒蛇のうち半数ほどがコブラ科及びウミヘビ科であり、残りの半数のうちの半分がクサリヘビ科、そしてもう半分がナミヘビ科およびモールバイパー科とされる。
ヘビ毒とはどんな「毒」か?
毒蛇は主に、神経毒および出血毒を持っている。他にも溶血毒や細胞毒、心臓毒や筋肉毒などの毒素も含んでいる事もある。よく、神経毒を持つものがコブラで、出血毒を持つものがクサリヘビだといわれるが、実際にはどちらも、神経毒と出血毒の両方を含んでいる事が多い。
また、ナミヘビ科の毒蛇は、主に出血毒を持っているが、より出血性が強く、効果もクサリヘビ科とは異なる。中にはドクフキコブラのように、毒を他の動物の目にめがけて飛ばす種もいる。
神経毒は、神経系に作用し、神経の伝達を遮断します。そのため筋肉の収縮と弛緩ができなくなり、筋肉麻痺やしびれを生じて動けなくなる。重篤な場合は呼吸や心臓も停止して死に至る。
神経毒は出血毒のような激しい痛みは伴わないが、即効性があり、致死性が高くてきわめて危険である。
捕食のための武器として使われる生物毒は神経毒が中心となっていて、ヘビにおいてもコブラ科など7割を超える毒蛇が神経毒を主体に使っている。
出血毒は、毒性学では血液毒の範疇に含まれるものだが、ヘビ毒の場合は血液凝固、溶血、筋肉毒などを含めて、総称として「出血毒」という呼び方が定着している。
出血毒は主にクサリヘビ科の毒蛇が持つ毒で、プロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の作用によってフィブリン(血液凝固に関わるタンパク質)を分解して血液凝固を阻害し、さらに血管壁の細胞を破壊することで出血させる。また、血液のプロトロンビン(血液凝固の第2因子)を活性化させ、血管内に微小な凝固を発生させることで凝固因子を消費させ、逆に出血を止まらなくする作用もある。
血圧降下、体内出血、腎機能障害、多臓器不全を引き起こし、重篤な場合は死に至る。出血毒は神経毒に比べて致死率は低いが、血管や筋肉の細胞を破壊するために激しく痛み、また筋肉壊死を引き起こすため、たとえ一命を取り留めたとしても、手足切断や高度の後遺症が残るなど、悲惨な結果を迎えることが多くある。
参考 National Geographic: 命を奪うヘビの毒 | ナショナルジオグラフィック
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