宇宙を芸術的にとらえた望遠鏡

 大望遠鏡がとらえた美しく神秘的な宇宙の写真。誰もが魅了されたことがあるのではないだろうか?私たちは大きな宇宙の中に生かされている小さな存在であることを教えてくれる。

 そんな写真の多くは宇宙にある大きな望遠鏡で撮影されている。これらの写真は必ずしも本物の色ではないことがある。肉眼では見えない領域の光(赤外線、紫外線など)を撮影した場合は、擬似カラーと呼ばれ、わかりやすいように波長ごとに色付けするためである。

 その望遠鏡の名は「ハッブル宇宙望遠鏡(HST)」。この望遠鏡は、グレートオブザバトリー計画の一環として1990年に打ち上げられた、地上約600km上空の軌道上を周回する宇宙望遠鏡である。名称は、宇宙の膨張を発見した天文学者エドウィン・ハッブルに因む。

 長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型で、内側に反射望遠鏡を収めており、主鏡の直径2.4メートルのいわば宇宙の天文台である。

 大気や天候による影響を受けないため、地上からでは困難な高い精度での天体観測が可能。1990年にスペースシャトル・ディスカバリー号によって幾度の打ち上げ延期を乗り越え、満を持して打ち上げられた。あれから30年以上たつ。

 すでにハッブルの運用期間15年(当初の予定)を過ぎ、何度もスペースシャトルなどの修理を受けながら運用をつづけている。今回、米航空宇宙局(NASA)はハッブル宇宙望遠鏡が故障したものの、1カ月かけ完全復旧した。

 今回、搭載された観測用コンピューターが異常停止したが、原因を特定し必要なシステムをバックアップに切り替えた。7月17日には観測を再開し、NASAは「科学機器は完全に機能する」と復活を宣言。設計寿命15年を大幅に超えた運用がさらに続くこととなった。

 宇宙望遠鏡などの人工衛星は通常、いったん打ち上げると直接手を加える修理が不可能。これに対しハッブルでは、米スペースシャトルで向かった宇宙飛行士が5回にわたり、修理や機器の交換を行っている。シャトルが2011年に廃止され、その後は遠隔作業のみ可能となっている。

 ご長寿”ハッブル宇宙望遠鏡、故障するも完全復活

 NASAの資料によるとハッブルは、搭載した科学機器を制御する「ペイロードコンピューター」が6月13日に突然停止した。「メインコンピューター」が信号を受信できなくなり、科学機器が自らを保全するための「セーフモード」に切り替わり観測が止まった。地上の望遠鏡チームは、当初に原因とみられた劣化したメモリーモジュールを遠隔操作でバックアップに切り替えたが、解決しなかった。  

 さまざまな検証の結果、ペイロードコンピューターなどに電力を安定的に送る「パワーコントロールユニット」に問題があることを特定。望遠鏡チームは7月15日、パワーコントロールユニットを含む上位のユニットをバックアップに切り替える作業を行い成功した。

 科学機器の運用が再開し、7月17日には作用し合う2つの銀河や、3本の腕を持つ珍しい渦巻き銀河などを撮影した。故障の間に中止された観測は改めて計画される。

 望遠鏡チームの技術者らは管制室のあるNASAゴダード宇宙飛行センター(米メリーランド州)のほか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による制限のためリモートで作業した。

 望遠鏡が造られたのは30年以上前。当時の設計の詳細などを知る退職者や、他のチームに異動した人などの「ハッブルの卒業生」の協力を得て作業を進めた。

 米宇宙望遠鏡科学研究所のケネス・センバッハ所長は「チームの献身に感銘を受けた。ハッブルは今後、さらに多くの科学的発見で私たちを驚かせ続けるだろう」とした。

 宇宙望遠鏡とは何か?

 宇宙望遠鏡は地上の望遠鏡と異なり大気の影響を受けないため、天体を高精度に観測できる。1990年に打ち上げられた米欧のハッブル宇宙望遠鏡は、上空約550キロを周回する主に可視光観測の反射望遠鏡。長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型で、主鏡の直径は2.4メートル。銀河や太陽系外惑星、誕生直後の宇宙などの観測などで大きな成果を上げてきた。

 ハッブルの名称は、宇宙が膨張しているとの結論を出した米天文学者、エドウィン・ハッブル(1889~1953年)に由来する。後継機として米欧とカナダが開発し、赤外線観測に特化した「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」の打ち上げが年内に予定されている。

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発を行っている赤外線観測用宇宙望遠鏡である。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるが、計画は度々延期され、打ち上げ予定日は2021年10月31日に再設定されている。

 JWSTの名称は、NASAの第2代長官ジェイムズ・E・ウェッブ にちなんで命名された。ウェッブは1961年から1968年にかけてNASAの長官を務め、のちのアポロ計画の基礎を築くなど、アメリカの宇宙開発を主導した。かつては「次世代宇宙望遠鏡」と呼ばれていたが、2002年に改名された。

参考 サイエンスポータル: “ご長寿”ハッブル宇宙望遠鏡、故障するも完全復活  (jst.go.jp)